1 無名さん

独り言1060

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これは、実話です。

数年前、私は、妹と二人で東京で二人暮らしをしていました。
元々は、二人別々に部屋を借りていたのですが、二人の家賃を合わせると一軒家が借りられるという事に気付き、都心から多少離れてはいるものの、広くて綺麗な家を借りる事にしたのです。

ある日、妹がお風呂に入り、私が二階でテレビを見ている時です。
風呂場から「ギャアアアアア」という物凄い悲鳴が聞こえました。

ゴキブリでも出たかと思って一階に下りると、妹は髪をぐっしょりと濡らして裸のままで廊下に立っていました。
何があったか知らないが、いくらなんでもその格好はないだろうと呆れながら「どうしたの?」と聞くと青ざめた顔で「……風呂場、見て来て、お願い」と言います。

言われた通り見てきましたが、特に変わった様子はありませんでした。
脱衣所までびしょ濡れで、妹が湯船から慌てて飛び出した様子が伺えた以外は。

取り敢えず服を着て、髪を乾かして一息付いてから、妹は事情を話し始めました。
いつものように、お風呂に浸かっていると、「ヒュー……ヒュー……」という、誰かの呼吸する音を聞いたというのです。

周りを見わたしたのですが、誰もいません。風の音だと解釈し、妹は深く気にせずに髪を洗い始めました。
湯船に浸かりながら、上半身だけ風呂釜の外に身を乗り出し、前かがみになって髪を洗います。手のひらでシャンプーを泡立て、地肌に指を滑らせ、髪を揉むようにして洗いました。

そのとき、ある事に気付いたのです。
髪が、長い。

妹が洗っている髪の毛は、彼女自身の髪よりも数十センチ長かったそうです。
そして、もう一つのある事実に気が付いた時、妹は思わず風呂場から飛び出してしfまったそうです。

後頭部に、誰かの鼻が当たっている事に。

それ以降、妹は極度の怖がりになってしまい、お風呂に入る時は必ずドアの外で私が待機するようになりました。

私自身は、今日に至るまで、何ら不思議な体験をしてません。
しかし、妹は確かにあの時、自分でない誰かの髪を洗ったと言います。
まとめでガリガリの男が手を振りながら走ってくる話を読んで、かなり似た体験をしたことがあったので書いてみる。
俺も「この話」の男と同じ趣味があって、夜中に家から外を眺めるのが好きだった。

俺の家はT字路の丁度交差点にあって、そこから縦線に当る道を眺めるのが趣味だった。
道には街灯が点々と続いていて、スポットライトのように路地を照らす街灯の光が切り取る光景を見てニヤニヤしていた。

こんな根暗な趣味を持つ俺は当然小心者で、自宅の2階から外を覗いている姿が周りに気取られぬよう、カーテンをしっかりと閉めた隙間から覗いていた。
もちろん俺の姿がシルエットにならないよう、部屋の電気は消した上で。客観的に書いてみると、我ながら結構不気味な姿だと思う。

その日も元気に外を見ていると、電柱の真横に女が佇んでいるのに気が付いた。
女は俺から見て横を向き、電柱に文字かなんかを書きつけているように見えた。

家から電柱までの距離は200m弱くらいだろうか、気になったので双眼鏡を持ち出し、手元に注目してみても、女が何を書いているかまでは確認できない。
何となく女の顔に双眼鏡を向けると、息が止まった。

目が合ってる。

電柱までは結構な距離があり、更に俺はカーテンの陰になっているので、外の人間が俺が覗いていることを察知することはありえない。
向こうが最初から、こっちが覗いていることを知らない限り。

内心かなり動揺しつつ、それでもやはり女はこちらに気づいていないだろうと思う気持ちがあった。
確かに目が合っているように見えるけど、女もたまたま俺ん家の窓の辺りを眺めているだけだ、目が合ってるわけじゃない、と。

ところが女は、両手を丸め、それを両目にあてがって見せた。

「見えてるぞ」

聞こえなくても口の動きで分かった。

一気にすごい鳥肌が立ち、流石にカーテンから身を引いた。
鳥肌と冷や汗が引くのを待ち、もう一度意を決してカーテンの隙間から覗いてみると、女はもういなかった。

その日以来、夜中に外を眺めることは少なくなった。
昔、実家の近所にとても小さな牛舎がありました。物珍しさから友人と連れだってよく見に行っていました。

ある日、遊ぶ相手が誰も捕まらず1人でぷらぷらしながら牛舎の方へ行きました。普段は静かな牛舎なのに、その日は遠くからでも聞こえる程牛たちが鳴き喚いていました。

不思議に思い牛舎を覗くと、いつも空室のスペースに新しい牛が入っていました。

しかしその牛は、体こそ牛だけど顔が日本猿でした。

一目で異常に気付いた私は驚きで足が止まり、それに気付いた猿顔の牛がこちらを見てニヤリと笑い(いね)と言いました。

その後あまり記憶が無いのですが三日ほど高熱が続きました。

お見舞いに来てくれた友人たちに猿顔の牛の話をすると面白がって牛舎へ見に行ったそうですが、そこに猿顔の牛はおらず、持ち主のおじさんに話を聞いても新しい牛は入ってないと言われたそうです。

それ以来牛と猿が苦手です。「参加せざるを得ない」のCMは特に苦手で、動悸が激しくなります。
以前勤めていた職場の先輩から聞いたゾッとする話。

先輩の息子さんの子どもさん…先輩のお孫さんがハイハイし始めた赤ちゃんの頃。

お出かけして帰ってきた時、お嫁さんは赤ちゃんを先に玄関に上げてから、荷物を置いたり靴を脱いだりしていたそう。

ふと赤ちゃんを見るとハイハイもせずに、おとなしくお座りしている。

イイコだ〜と思って抱っこしようとしたお嫁さん。赤ちゃんの顔を見て、絶叫。

モゴモゴ動く赤ちゃんのかわいらしい口に、カナブンが!!

あまりのことに、それからどうしたのか覚えていないとか。

それからはどこに行くにも、何かいないかチェックしてから赤ちゃんをおろすようにしているらしい。
姉から聞いた話だけど、友達4人で旅行に行った帰り、夜中にカーナビつけて走ってたら山奥に案内されたらしい。

そしてカーナビが目的地に到着しましたって言って、着いた場所が幽霊ペンションだった。

そこで姉の彼氏がビデオを回して実況してたらしい。そして姉が

「早く帰ろうよ!んで今日はみんなうちに泊まろう?」

その瞬間姉が変な違和感を感じたが、その時は幽霊ペンションに着いたってことの方が怖くて気にしなかった。

後から気づいたら、友達4人で旅行に行ったはずなのにビデオの音声には

姉「早く帰ろうよ!んで今日はみんなうちに泊まろう?」
姉彼「だな」

姉友A「そうだね!」
姉友「うん!」
不明「私も良いの?」

そこでビデオ終わり。

俺もそのビデオ見たけどめっちゃ怖かった。

その後旅行に行った友達達とお祓いに行ったら、坊さんが「姉さんに一人着いてますね」と言ってすぐにお祓いした。

今まで俺は幽霊なんて信じてなかったがこれのせいで信じるようになった。
製材業をやってたんだが、7年くらい前に神社が同じ地所の別の場所に移動するってんで、ご神木を何本か切らせてもらった。

それを作業所に運んで粗挽やってるときに若い者が左手にちょっとしたケガをした。
どうやら原材に古釘が入ってたみたいなんだ。

けど滑り止めつきの作業手袋は当然してるから、ちょっと手の甲が赤くなったくらいでたいしたことはないわけよ。
作業も止まんなかったし、こんなのはよくあることなんだ。

休憩時にその若いやつが痛そうにしてるんで、手見せてみろつったら皮膚が赤くなってるだけで血も出てない。
いちおう軟膏くらい塗っとけで終わったんだが、午後になったらすげえ腫れてる。

手の甲全体が白くむくんだようになって5センチ角くらが赤くなって、しかもなんか字が浮き出てるように見えた。
漢字とかじゃなくひらがなの崩しみたいで「なみ」か「なめ」と読めそうだ。

で、運転は危ないかもしれないから一人つけて病院に行かせた。

そいつは2時間ばかりで帰ってきて、ちょっと雑菌が入ったんだろうってことで化膿止め飲んでしばらく様子見。
手は包帯巻いて痛みは治まったが簡単な作業しかできそうもないからそのまま帰らせた。

次の日朝電話でまだ手が痛いっていうから、もう一度医者へ行ってその日は休みってことになった。
そしたら後でわかったんだが、そいつは医者にいかないでスーパーで万引きした。

で、取ったものを持って堂々と出ていこうとしたところを警備員につかまって警察呼ばれた。
警察署で調書とられたその足で、今度はバス停にいた知らない婆さんを突き飛ばした。

人の大勢見てる前でだ。婆さんは鎖骨と手首骨。
それで近くにいたやつが通報して、そのあたりをうろうろしてるとこを逮捕された。

17くらいのときからそいつを知ってるが絶対にそんなことをするやつじゃねえんだよ。
マンガばっかし読んでるが歳にしては落ち着いたやつだったんだ。

それが取り調べでも態度が悪かったってことで拘留されて、その最中に手の傷がひどくなって警察病院で左手を切断した。
そしたら急に態度が大人しくなったらしくて、裁判でも執行猶予がついた。

なんとか再雇用してやろうと思ってたがその後すぐ行方不明になっちまった。
透は山岳部所属。
友人3人と山登りに来たが、仲間たちとはぐれてしまう。

最悪なことに天気は崩れ、やがて暴風雨となった。
透は奇跡的に仲間と再会するが、下山は無理なので、途中で見つけた粗末な山小屋に避難することにした。

山小屋は12畳くらいの広さだ。
真正面にトイレのドアがあり、入り口のドアの脇に大きなガラス窓がはまっている。
部屋の真ん中にぶら下がっている大きな裸電球のほか、部屋には何もない。

やがて夜になったが、嵐はますますひどくなっているようで、とても外には出られない。
どうやらここで一晩を過ごすしかないようだ。

透の服はびしょ濡れだった。
小屋はすきま風がひどく、ひゅうひゅうと冷たい風が流れてくる。
夜が完全にふけると恐ろしいほど気温が下がった。
このまま寝たら風邪をひくだろう。
肺炎を誘発したり、最悪死んでしまうかもしれない。
透はガタガタ震えながら、必死で眠るまいと努力する。
幸一がある提案をする。
部屋の四隅に一人ずつが寝る。
一人が右隣りの隅へ歩いていき、そこに寝ている者を起こす。
起こされた者はまた右隣りの者を起こしにいく。
そうすると必ず誰かが目を覚ましていることになるのだ。

電気が消された。
だがもともと透はひどく怖がりなので、疲れているのに眠れない。
余計なことを考えているうち誰かに身体を揺らされた。
左隣の弘明だろう。透は大輔を起こしにいく。
それを二度ほど繰り返してから、透はある事実に気づいて絶叫する。

このローテーションは5人いないと無理だ。部屋の四隅に一人づついる。
一人目が二人目の場所へ移動し、二人目が三人目の場所へ移動し、三人目が四人目の場所へ移動する。
四人目が一人目の場所へ行ったときには、一人目は二人目の場所へずれているから、そこは空白でなければならない筈だ。

透は幽霊がいる!幽霊がいる!と言って大騒ぎを始める。
ところが、仲間は落ち着いたものだった。幽霊なんかはいないと相手にしようとしない。

そのうちに寒さのせいだろう「トイレに行きたい」と幸一が言うと、その言葉で尿意をもよおされたか、三人がドアをあけ、互いに譲り合いながら用を足す。
透はひとり離れて部屋の隅で考えを巡らせる。
自分を起こしたのは弘明だったのだろうか?あるいは、彼が起こしたのは本当に大輔か?
肉の感触はあった。だが幽霊はいなくてはならない。

そう考えるうち、透は、このうちの誰かが幽霊なのではないか・・・と思い始める。
実はもう死んでいて・・・。透は身を震わせる。

そういえば自分は仲間とはぐれていたのだ。ばらばらになった四人を探し出したのは大輔だ。
だがあの嵐の中、そんなことが起こりうるだろうか?
四人が再び合流するなどという可能性は・・ ・。三人ならまだしも。 

四人は電球をつけて、車座になって座る。黄色い明かりが四人の顔を照らし出す。
しばらくの沈黙を破って幸一が口を開く。

「この中に・・・死んだ人間がいるな?」

弘明が大笑いを始める。
馬鹿げた話だと一蹴して相手にしようとしない。
だが幸一は平然として、そう言うのはお前が死人だからだろう、と言う。

弘明が腹を立てる。
温厚な大輔がまあまあと二人をなだめる。
嵐の中、自分が見つけたのは、間違いなく生きている三人だったと断言する。

透がはっと顔を上げる。
三人を見つけたのは必ず大輔だった・・・あの状況で?
そんなことが普通の人間にできるだろうか。
可能だったのは、大輔がもう死んでいるからではないのか・・・?
そう考え出すと、誰もが怪しい。

冷笑的な弘明は怪しい。
変に落ち着いている幸一も怪しい。
大輔も怪しい。透は言う。

何とか幽霊であることを――あるいは、ないことを――証明する手段はないものかと。

幽霊は手が冷たい筈だ、と大輔が言う。幸一は鼻で笑う。 
全員の手足が冷え切っているさ、と。
お互いに触りあったがみな氷のように冷たい。

顔色を見ようにも、黄色い光の下だし、だいいち光がもっと強くても、全員の顔色は決まって青白いだろう。
肉の感触は当てにならない。
いま握った手は明らかに弾力があったし、それはさっきゆり起こしたとき、あるいはゆり起こされたときに明白な筈だった。

それ以外に証明の方法は?大輔がぼそりと言う。

「そう言えば、死んだ人間は、鏡に写らないっていうよね?」

それを聞いて弘明がけたけた笑う。幸一が彼をにらみつける。

「たしか、トイレに小さな鏡があったな」

と幸一。
「いいぜ俺は。写るかどうか確かめても」

苛立った口調で弘明が言う。

「だいたい、お前らはみんな怪しいんだ。俺は、俺が生身の人間だってことを知ってる。俺は幽霊じゃない。確かなのはそれだけだ」

幸一が鼻で笑う。

「どうだか」

二人がつかみあいの喧嘩を始める。
仲介に入った透を、弘明が弾き飛ばす。

「大体な!お前が一番怪しいんだよ!」

透はぞっとする。三人の視線が、いっせいに透の身に注がれる。

「そうだ」

幸一が落ち着いた声で言う。

「一番怪しいのは透だ」

「何で?」

声が震える。

「何でそんなことを?」

「さっきみんながトイレに行った・・・遅れて一人で入ったのはお前だ」 

「それが・・・?」

唾を飲み込む。
「お前は誰とも一緒に入ろうとしなかった。何故だ・・・?トイレには鏡があるからだ。お前は、お前の姿が鏡に写らないことを、他の誰にも知られたくなかったんだ」

「そんな馬鹿な!」

透は笑おうとしたが、うまくいかなかった。

「じゃあ何で、一緒に行かなかった?」

「・・・狭いし、考えごとを・・・」

「怖くなかったのか?俺だって怖かったのに」

と弘明。

「そうだ・・・人一倍怖がりの君がね」

と大輔。

三人の目が、透に注がれていた。
嘘だ、と透は思った。

自分は生きてる・・・
それは自分が知っている。・・・だが本当か・・・?
本当に自分は生きているのだろうか・・・?

仲間とはぐれたときのことを考えた。
大輔が見つけてくれるまで自分は何をしていたのか?覚えがない。
自分は死ぬのだ、と絶望にかられなかったか?
その時、本当に死んでいたのではないか?
自分では気づかないだけで・・・

崖から落ちるか、あるいは雷に打たれて、死んでいるのではないか?
この手の冷たさは、気温のせいか?
ずっと肌寒いのは何故だ?
お前は自分が生きていると、本当に言い切れるのか・・・?

どーんと雷がなり、後ろの窓ガラスがびりびりと震えた。
三人の凍るような視線に耐えられず、透は振り返った。
電球の明かりを反射して、窓ガラスは部屋全体を写し出していた。
鏡のように。そして透は絶叫した。

三人の目線の意味に気づいたから。
凍るような視線・・・

ガラスに写っていたのは、透だけだった。
これは学校にまつわるっていうか俺の体験談なんだけど。

うちの学校(とはいっても十数年くらい前の卒業生なんだが)は、半寮制の学校で学校から遠い人は学校の近くの寮に入るっていうシステムだった。

ちなみに中高一貫教育で、大体中1〜中2、中3〜高1、高2〜高3で別の寮っていう感じに3つの寮があった。
んで俺が高1の時、つまり2番目の寮に移った時の話なんだけど。

その寮は地下1階地上3階の造りで(正確に言うと傾斜地に立てられているので見方によっては4階建て)各階がL字型をしていた。

問題の話は3階の部屋に部屋替えで移ってきた時に起こった事なんだ。
ちなみに各階にトイレは2ヶ所づつあるんだけど、なぜか3階のトイレだけは1ヶ所にしかなかった。
他の階のトイレがある位置はなぜか「あかずの間」になっていた。
俺は丁度その「あかずのトイレ」の隣の部屋に移ってきたんだ。

丁度学校は2学期を迎えるくらいの時だったから9月の上旬くらい。
まだ夏の蒸し蒸しした感じが強い頃だった。
ギイィィィィ……

(うわっやばいっ!)

俺は必死で目を閉じた(金縛りだったがどうにか目を閉じる事は出来たので)。
すると「あかずのトイレ」からは

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ

と何者かが出てくる気配がする。
そして「あかずのトイレ」の前の部屋に止まる。
この時そのモノがどこにいるのか、何故か明確に把握出来ていた。

(俺の処に来るなーーー!)

そう念じてみるものの、そのモノは俺達の部屋の前まで移動を開始した。

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ

うわぁぁーーー、心の中ではまさに半狂乱。
しかしそのモノは、俺の心が通じたのかどうか、また移動を開始した。

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ

ホッとはしたもののまだ金縛りは解けない。
でも自分の部屋を通り過ぎた安堵感で正直嬉し泣きしそうだった。

そのモノは各部屋の前で一旦停止し、また動くという事を繰り返し、結果として3階全部の部屋をまわったはずだ。L字の先のところまで辿り着いたはずだ。
相変わらず俺の金縛りは解けない。
そしてそのモノはまたこちらのほうに向かって歩き出した。

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ
ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ
ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ

今度は各部屋の前で止まらず、まっすぐ開かずのトイレに向かっている様子だ。

(はやく自分の居場所に戻ってくれーーーー)
俺はずーーーっとそう念じていた。ところが……。

そのモノは俺の部屋の前で止まった。
その上俺の部屋に入って来た!

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ

(うわぁぁぁぁ!!)

もう半狂乱どころの騒ぎではない、大泣きである。
不思議と涙は出なかったが。

そして俺のベッドの前に来てしまった。
もう、そいつが人間のようなものであるという事が、鋭敏に伝わってきていた。

なにしろ、前述の通り俺は2段ベッドの上の方。
そいつの顔が俺の真横にあるのを感じるのだから……。
そいつの鼻息のようなものまで、リアルに感じる。

その時そいつはこう言った。

「オレノベッド……」

俺はその言葉を聞いた瞬間に、遠のく意識を感じた。
ようするに気絶してしまったのだ。
ちなみに気絶したのは先にも後にもこれが初めて。2度としたくない。

<後日談>

その日の事を「どうせ信じて貰えないだろう」と舎監に話したところ

「そうか、お前も会ったのか……」

と一言。

それを話したその日に、俺の嘆願通り部屋替えをしてくれた。
舎監が言うには、大体2年か3年に1度くらいはそういう事を言ってくる輩がいるとの事。

さらにこれは卒業後に聞いた事だが、昔心臓に病をもった俺の先輩にあたる人がいて、その人はその病を苦に現在「あかずのトイレ」になっているそのトイレで自殺を図ったらしい。

そしてその自殺をした時に使っていた部屋は俺の部屋で、当然寝ていたベッドは俺の寝ていたその場所だったらしい。
友人Mが大学生だったころのお話です。
名古屋の大学に合格したMは、一人住まいをしようと市内で下宿を探していました。

ところが条件が良い物件はことごとく契約済みで、大学よりかなり離れたところにようやく一件見つけることができました。
とても古い木造アパートで台所やトイレなどすべて共同なのですが、家賃がとても安いためMは二つ返事で契約を交わしました。
引っ越しを済ませて実際住み始めてみるととても静かで、なかなか居心地のよい部屋での生活にMは次第に満足するようになったそうです。

そんなある晩のこと、Mの部屋に彼女が遊びに来ました。
2人で楽しくお酒を飲んでいると、急に彼女が「帰る」と言い出しました。
部屋を出ると、彼女は

「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど、この部屋、なにか気味が悪いわ」

とMに告げました。
彼女によると、お酒を飲んでいる間、部屋の中に嫌な気配が漂っているのをずっと感じていて、一向に酔うことができなかったというのです。

気を付けたほうがいいよ、という心配そうな彼女の言葉をMは一笑に付しました。
もともとその手の話を全く信用しないMは、そっちこそ気を付けて帰れよ、と彼女を見送ってあげたそうです。

しかし、結果的にこのときの彼女の言葉は取り越し苦労でも何でもなく、その部屋はやはりおかしかったのです。
このころから、Mは体にとてつもない疲れを覚えるようになりました。
別段アルバイトがきついというわけでもないのに、部屋に帰ると立ち上がれないぐらいに力が抜けてしまいます。
また、夜中寝ている間に誰かが首を絞めているような感覚に襲われ、突然飛び起きたりしたこともありました。
そのせいでMは食欲も落ち、げっそりと痩せてしまいました。
きっと病気だろうと医者に診てもらいましたが、原因は分からずじまいでした。

心配した彼女は、「やはりあの部屋に原因がある」とMに引っ越しを勧めましたが、あいにくそのような費用もなく、Mは取り合おうともしませんでした。

そして、そのまま2週間ほど経ったある晩のことです。
その日、Mはバイトで大失敗をしてしまい、いつにも増してぐったりとしながら夜遅く部屋に帰り、そのまま眠ってしまいました。

真夜中、ものすごい圧迫感を感じて急に目を覚ましましたが、体は金縛りのため身動き一つとれません。
ふと頭上の押入れの襖(ふすま)に目をやりました。

すると、閉まっている襖がひとりでにするする……と数センチほど開いたかと思うと、次の瞬間、ぬーっと真っ白い手が伸びてきてMの方へ伸びてきたそうです。
Mは心の中で(助けて……)と叫ぶと、その手はするするとまた隙間へと戻っていきました。
しかしほっとしたのもつかの間、今度は襖の隙間から真っ白い女の人の顔がMをじっと見つめているのを見てしまったそうです。
Mは一睡もできないまま朝を迎えました。
やがて体が動くようになり、Mは部屋を飛び出しました。
そして彼女をアパート近くのファミレスに呼び出し、どうしようか、と2人で途方に暮れていたそうです。

ちょうどそのとき、少し離れた席に一人のお坊さんが座っていました。
そのお坊さんは先ほどより2人のことをじっと見ていたのですが、いきなり近づいてきたかと思うとMに向かって

「あんた、そんなものどこで拾ってきた!」

と一喝したそうです。
Mが驚きながらも尋ねると、Mの背中に強い念が憑いておりこのままでは大変なことになると言うのです。

Mは今までの出来事をすべて話しました。
するとお坊さんは、自分をすぐにその部屋に連れて行くようにと言ったそうです。

部屋に入ると、お坊さんはすぐに押入れの前に立ち止まり、しばらくの間その前から動こうとしません。
そして突然印を切るといきなり襖を外し始め、その一枚を裏返して2人の方へ向けました。

その瞬間、Mは腰を抜かしそうになったと言います。
そこには、なんとも色鮮やかな花魁(おいらん)の絵が描かれていました。
舞を舞っているその姿はまるで生きているようで、心なしかMの方をじっと見つめているように感じたそうです。

お坊さんによれば、

「どんないきさつがあったかは私には分からないが、この絵にはとても強い怨念が込められていて、君の生気を吸って次第に実体化しつつあり、もう少しで本当に取り殺されるところだった……」

と告げたそうです。
お坊さんは、襖の花魁の絵の周りに結界を張ると、

「すぐ家主に了解を得て、明日自分の寺にこの襖絵を持ってきなさい」

と言い残し、立ち去りました。

次の日、彼女とともにお寺に赴きました。
そして、その襖絵は護摩とともに焼かれ、供養されたということです。
私は今年の夏はずっとバイトをしようと決めてました。
夜は警備員のバイトをしてそのまま朝、新聞配達をして寝るという生活が続きました。
ある日、社員の人が、

「10分ほど行った所にあるビルなんだけど、ちょっと異常があったから見回ってくれない?バイト代に色付けるから」

と言ってきたので、一緒にまわる友人――まぁ、仮に友人をAとしましょう――と二つ返事で承諾しました。
その時はさほど変には思わなかったのですが、普通、時給のバイトに+?でバイト代を出すなんて今考えればやっぱり変ですよね。

異常があったのは5階建ての雑居ビルで、見た目からしてなんか出そうな所でした。
表の鍵は掛かっていました。もちろん裏もカギは掛かっていました。
鍵を開けて私とAは中に入りました。異常があったとされる1階は何もなし。

一応各フロアも回るように、と言われていたので、私と友人は各階ごとに一人が見まわり、もう一人が非常口が見えるエレベーターホールに待っていることに決めました。
そして5階は友人が見まわり4階は私が……ということになりました。

5階は普通のオフィスで、Aが見回っている間、私は非常口のドアは?とノブを回したのですが、カギが掛かっているのか開きませんでした。
Aが「異常ないよ。こりゃもうけたな」っと笑ってホールに戻ってきました。

次は4階、私が見回る番でした。階段が使えなかったのでエレベーターで4階へ。
そこは倉庫として使っているのか、ホールにも段ボールが積んでありました。
さて、行くかっと思ったその時、私の携帯に会社から電話が入りました。
アンテナが1本しか立ってなく、やばいかなーと思いながら出るとすぐに切れてしまいました。表示は圏外。
Aはここで待って、私は外に出て電話をかけ直すと言うことになり、何の気なしに非常口のノブをひねると開きました。5階で非常階段を見回ってなかったので、私は階段で行くことにしました。
5階は異常なし。4階に戻るとAが「慎重すぎる」と笑いました。

3階、ここも非常口のドアは鍵が掛かっているらしく開きませんでした。
2階も同様に鍵が掛かっていて開きませんでした。
1階に着いたとき携帯がまた鳴り、表示を見ると会社から。アンテナは3本立っていました。
「あれ?」っと思い出ると、社員の人がAの事をしきりに聞くので、

「普通ですよ。どうしたんですか?」

と聞くと、さっきから何度もAの携帯番号で会社に何回も電話がかかって来ているらしく、しかも出ると必ずザーっと言うノイズ音しか聞こえないので、何かあったのか?と言うのです。

「いや、何もないです。Aの携帯の故障じゃないんですか?」

っと笑いながら言うと、「なにも無いならいいんだ」と言って切れました。
階段で4階まで行くのは疲れるので、エレベーターで行こうと上ボタンを押したのですが、一向にエレベーターは4階から動きませんでした。
私はAが悪戯してるのだと思い、仕方なく階段で4階まで戻りました。

Aはエレベーターホールにはいませんでした。エレベーターを見ると1階に。
Aが私を驚かそうとしてどこかに隠れているのかな?と思い、一応4階を見回ったのですが、何処にもいませんでした。

先に3階を見に行ったのかな?っとエレベーターを呼び、乗り込むとAの携帯がエレベーターの中に落ちていました。
Aの奴帰ったのか?と思い、私一人で残り3フロアを見回りました。
終わったー疲れたーもう帰ろう―― このとき重要な事を思いだし脱力しました。
この場所には会社の車で来たのですが、運転はAが、私に至ってはバイクなら運転できるのですが車は運転出来ない。
これじゃあ帰れないじゃないかーっと思い外に出ると、案の定会社の車はそこにありませんでした。

仕方なく私は歩いて会社へ戻りました。
その日、Aは私を置いて会社へ帰り、そのまま仕事を辞めてしまったそうです。
会社の人は私に、もう帰っていいよと言いました。

何か釈然としないものを感じましたが、臨時収入をその場で渡されたので「まぁいいか」と結局そんなふうに思ってしまいました。

制服を仕舞うときポケットの中にAの携帯が……返すの忘れてたのを思い出しました。
忘れてたというのか会えなかったってのがホントの所なんですが……。

Aは自宅に電話を引いてないので、携帯がなきゃ大変かな?なんて思い、文句ついでに 届けてやろうと新聞配達後Aの自宅へ行きました。

Aの家はかなりボロいアパートの二階の階段前。
寝てるけどいいよねっとチャイムを押しましたが出てくる気配なし。
何回も押すと近所迷惑だろうなぁーと思ったので、夕方にでも来てみようと私は家に帰って寝ました。
――私は電子音で叩き起こされました。

時計を見ると7:30。鳴っているのはAの携帯でした。
仕方なく私が出ると、電話相手はAの母親でした。

Aが家にいないそうなので、まだ眠かったのですがAの母親に携帯を渡せばいいかと思い、またAのアパートに行きました。
チャイムを押すとすぐにAの母親が出てきました。

ドアの隙間からAの部屋の中がチラッと見えたのですが、変な柄の壁紙が張ってありました。
私は携帯を渡してそのまま帰るつもりだったのですが、誰かが階段を登ってくる音が聞こえると、Aの母親は「ここじゃなんだから」っと私を部屋に入れドアを閉めたのです。

中に入った時、私の顔は真っ青だったと思います。

それは、その変な柄の壁紙……は、壁紙だったのではなく、指から血が出ても壁紙をかきむしり続けた……そんな痕だったからです。
それが、壁一面にあったのです。

Aの母親は「ペンキでも塗らないとダメね」と雑巾でこすりながら苦笑しました。
Aの母親の話では、Aはあの仕事中人を殺してしまった、とAの母親に電話を入れたそうですが、途中で叫び声と共に電話が切れてしまったそうです。

その後何度電話しても話し中で、父親と話し合い、彼の母親が始発電車でAの所へ来たそうです。
そして管理人さんに電話を借りてAの携帯へ電話したそうなのです。
28 無名さん
それを、僕がとったというわけです。
あいにくAの部屋の両隣は留守で、中で何があったかは分からないのだと言っていました。

そして先日。
Aから電話があり、会うことになりました。
Aはまるで別人の様な顔つきになっていて、はっきり言って喋るまで本当にAなのか?とさえ疑うほどでした。

実はAから電話があった後、彼の母親から電話があり、

「Aがあなたに何を言っても、すべて『Aが疲れていたせいだ。只の幻覚』だと言ってくれ」

と言われていました。
その言葉に、Aは普通では考えられないような事を言うのだろうと、覚悟は決めていました。
彼が語った話とは……

あの日、私がAと4階で話し、階段で下に向かっているときエレベーターが1階に降りていったそうです。
Aは、私がダッシュで階段を下り、自分を驚かせる為にエレベーターで上に上がって来るのだと思い、逆に驚かせてやるつもりになったそうです。

そして、エレベーターの前で扉を背にして立っていました。
エレベーターが開く音、誰かがゆっくりAに近づく感じ……
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しかし、そのとき非常口のドアが開く音がしたんだそうです。
Aはあれ?っと思い振り返りましたが、その目には非常口が閉まったところしか見えなかったそうです。
まさか泥棒!?と思ったAは、急いで非常口のドアを開けたそうです。すると、扉が何かに当たったそうです。

懐中電灯で見ると、そこには髪の長い女が倒れていて、しかもその女の体はうつぶせであるにもかかわらず、頭はほぼ上を向いていたそうです。

Aは怖くなってエレベーターに駆け込むと、その中から、母親に電話をしたそうです。「人を殺した」と。
その時スーっとエレベーターのドアが開いたそうです。

そこには頭がいやな方向に曲がった女が、はいつくばりながらいたそうです。

エレベーターのドアは閉まる……が、女の腕に邪魔をされてまた戻る。そんなことが何回か続いたそうです。
そして女は立ち上がり、曲がった頭をAの方へ向け、

「憶えたからね」

と言ったそうです。

Aは女を突き飛ばしたそうです。
そして(私が1階でボタンを押していたので)エレベーターは1階に。
Aは無我夢中で会社へ逃げたそうです。

いきなり会社を辞め、バイクで急いで家に帰ったそうですが、部屋にいても女がやってくるのでは?
と言う考えが頭を離れず、部屋から逃げ出したそうです……鍵もかけずに。
Aが後になって下の住人から「朝までガタガタ何やってたの?」と言われたときは、あの女が来たのだと思ったそうです。
その話を聞いて私は嫌な汗が出ました。

下の住人の話からすれば、私がAの部屋に行っ たときもAの部屋にはソレがいたってことですよ?
玄関には鍵が掛かっていなかったんです。これがサスペンスドラマなら、私は必ずドア開けてますよ!
もしも、本当にそうしていたら、私はソレを見てしまったのかもしれないんです!!

……Aは今はそのアパートを出て違う所に引っ越したそうです。
臨時収入をつけてくれると言った会社が、このことを知っていたかどうか……それはわかりません。

私の結論――。

・エレベーターは必ず前を向いて待ちましょう
・ドアはゆっくり開けましょう
・人の家のドアはどんな時でも開けようとしない

けれど……ソレが人間でなかったとすれば(そうとしか考えられませんが)、結局は何をしても無駄なのかもしれません。
そこの扉を開けたとき、ソレに当たらない保証が、あなたにはありますか?
松本君の友人の話なので又聞きということになります。

その友人は当時マンションに住んでいました。
13階建てのマンションで、友人は9階に住んでいたそうです。

蒸し暑い土曜の夜、酒でも飲もうと冷蔵庫を見ましたが、つまみがありません。
友人はどうしてもつまみがほしくなり、近くのコンビにまで買いに行くことにしました。

いちいち着替えるのが面倒な友人は、深夜だったのをいいことにパジャマで、出かけました。
自分の部屋を出て、エレベーターのボタンを押しました。

そのとき、エレベーターは、ひとつ上の10階で停止していました。
にもかかわらず、なかなかエレベーターが下りてきません。

(これは誰か乗り込んでいるな...)友人はそう思いました。
しばらく友人は無人のエレベーターホールで、虫の声に耳を傾けていました。

友人の想像は正しく、上から降りてきたエレベーターには、誰かが乗っていました。
おそらく、男だと見受けられましたが、詳しくは分からなかったそうです。

なぜなら、真っ黒のコートを着て、帽子を深くかぶって目も見えません。
明らかな不審人物に友人は怖くなりましたが、止めた以上、乗らないわけにも行きません。

「こんばんわ」と挨拶をして、バツが悪そうに乗り込んだそうです。
その男は、挨拶をまったく無視でエレベーターの壁に腕組みをしてもたれ掛かっていました。

ドアの前にいた友人と男は少し距離があったのですが、男は妙に息が荒くまるで、すぐ後ろにピッタリとくっついているような錯覚を覚えます。
友人もこれ以上関わらないでおこうと、男と目を合わさないようにしました。

8、7、6、5、4、3、2
背中に鋭い寒さを感じながらも、順番にエレベーターが下りていきます。
エレベーターの中は、恐ろしいくらい静かで、張り詰めた空気が流れていました。

一階に到着すると、男は走ってドアから出ようとしました。
そのとき、友人に肩が思いきりぶつかりました。

「あっすいません」

友人は言いました。

しかし、その男はこれも無視して、マンションから出て闇の中に消えていきました。
あまりに無礼な男の態度に、内心苛立ちながらも友人は、さっさとコンビニへと向かいました。

暗い夜道を歩いて五分くらい行くと、いき付けのコンビニが見えてきました。
コンビニの光りをみるとさっきまでの緊張がほぐれたそうです。

手早くつまみをチョイスして、商品を店員に渡したとき、店員は友人のほうを見て、ぎょっとしたそうです。

友人は「どうかしましたか?」と聞きますが店員は目を逸らして「何でもありません」と言いました。
もやもやとした気持ちで、家に戻った友人は玄関でとんでもない物を目にしました。

玄関を入ったところに鏡が掛かっているのですが、その鏡に自分の肩が映りました。

それも血がべったりと付いた真っ赤な肩が...

友人は焦り急いでパジャマを脱ぎ、腕を見ましたがなんともありません。
そこで、男にぶつかられたことを思い出しました。

(多分あの男の血だろう。店員もこれを見て驚いたのだ) 

見たことのある人でないと分からないと思いますが、黒いコートに付着した血はほとんど見えません。
だから、友人はエレベーター内で血のことは、まったく気がつきませんでした。
気分が悪くなった友人は、その日せっかく買ったつまみを、冷蔵庫に入れて眠ってしまいました。
2日が過ぎ、リビングで友人がくつろいでいるとインターホンが鳴りました。

友人は覗き穴から相手を見ると、どうやら警官のようです。
友人は風呂上りでパンツ一丁だったので、ドア越しに話しかけました。

「どうかしましたか?」

すると警官は話し出しました。

「2日前にこのマンションで殺人事件がありました。不審な人物を目撃されませんでしたか?」 

友人は震え上がりました。
一緒にエレベーターに乗り込んだあの男が殺したんだとすぐ分かりました。
しかし、友人はこの頃多忙で、事情聴取などで時間を割かれたくありませんでした。

「いいえ、その日は家にいなかったので知りません」

そう聞いた警官は人懐っこそうに笑い一礼すると。

「ご協力ありがとうございます」

そう言うと、次の家に行ってしまいました。
友人はこのとき生まれて2番目に驚いたと言っていました。

今更ながら足が震えたそうです。
もしかすると、殺されていたかもしれなかったのですから。

でも本当に怖かったのはそのあとでした。
さらに数日が経ったある日、何気なくテレビをつけると、ニュースでマンションでの殺人事件のことをやっていました。

そこでやっと本当にあったんだと、確信したそうです。
恐怖を感じた反面、あまりに非現実的すぎて信じ切れなかったようです。

アナウンサーがニュースを読み上げます。

どうやら犯人が捕まったというニュースのようです。
画面に犯人の顔写真が映りました。

友人はこのとき、人生で一番驚いたといっていました。

なぜなら、その顔はあの尋ねてきた警官の顔だったそうです。

友人はあのときドアを開けていたら、今ここにいないだろうと笑っていました。
これでまっちゃんの話は終わりです。
ネットで知り合った8人の若い男女がオフ会をやる事になった。

ほとんどがリアルでの面識は無い者ばかりで多少の不安もあったが、 結局、みんなで集まって遊園地で遊ぼうという事になった。


そして当日になり、待ち合わせの場所に次々と参加者が集まってきたが、Aという名前の男がなかなかやって来ない。

仕方がないので7人で行こうかという事になった時、いつのまにか1人の若い男が近くにいるのに気づいた。
そこで、もしかしたらと思い、声をかけると、

「じゃあ、行きましょうか」

と言って彼は立ち上がった。
やけに不自然な言動だったが、その時はみんなじれていて、大して気にも止めなかった。
お互いに簡単に自己紹介をした後、みんなで遊園地へ入り、最初の内はぎこちなかった彼等も、やがてワイワイと賑やかに遊ぶようになったが、Aだけはどこか打ち解けないところがあった。

普通に話はするし、他の人に話題を振られても反応はするのだが、どうも相手を見下して馬鹿にしてるような雰囲気があった。
チャットやBBSでは、もっと積極的に話を盛り上げるキャラだったはずなのに、そのリアルでの性格のギャップにみんな不審を抱いていた。

しかし、ネット上でもAは自分の事だけはあまり語らなかったので、一体どういう人物なのか誰にもよく分からなかった。
その為、一度は盛り上がった場も、なんとなくしらけてしまい、日が暮れて、今回はこれでお開きにしようという事になった。
ところが、それぞれが別れて帰るという時になると、Aは、
「僕と同じ方向へ行く人がいたら車で送りますよ」

と言った。ほとんどの人は電車で来ていたが、Aは車で来ていて、近くに止めているらしかった。
確かにこれまでのAの冷めた調子には気に食わないところもあったが、彼の言葉に甘えれば電車賃がタダになる。

結局、Tという男と、Sという女がAの車に便乗させてもらう事になった。
こうして初対面3人の夜のドライブが始まった・・・。

Aの車は中古らしいが、かなり手入れがゆきとどいていた。
TとSは後部座席に座り、Aの運転を見守っていたが、Aは変にかっこつける事もなく、安全運転を心がけていた。

車はやがて郊外に入り、片側二車線の道に入った。
まだそんなに遅い時間でもないのに、彼等の乗った車以外はほとんど無く、窓の外には明かりがほとんど見えず、時折ガソリンスタンドや自販機の光が見えるばかりだ。
車内でTとSはたわいない雑談をしていたが、Aは自分からは何もしゃべろうとはせず、時々話を振っても軽く受け答えするだけだった。

窓の外は暗い林がずっと続いている。
よく見ると、たくさんの石の地蔵が並んでいる。ライトの光に浮き上がるそれはひどく異様だった。
頭が酷く欠けているもの、口に亀裂が入って不気味に笑ってるように見えるもの、顔が真っ二つに割れているもの、1つとしてまともなのが無いのである。
異様な光景に気づいたTとSは気分が悪くなり、さらに嫌な予感がした。

「この辺りは結構出るそうですよ」

珍しくAが自分のほうからボツリと言った。

「・・・出るってなにが?」

「出るんだそうです」

「・・・だから、何が?」
Tが尋ねてもAは何も言わない。

「あのう、この車、さっきから同じところを走ってませんか?」

窓の外を見ていたSが言った。

「ほら、あのガソリンスタンドと自販機、さっきも通りすぎましたよね」

確かに彼女が指差す先にはそれらの明かりが通りすぎてゆく。

「そんなことはないですよ」

答えたのはAだった。抑揚のない棒読み口調だった。

「この道路は一本道ですからね、曲がってもいないのに同じところは走れませんよ。郊外の道なんてみんな似てますからね。気のせいですよ」

Aは初めてと言っていいくらいペラペラとしゃべり、最後にヒヒヒッと低く笑った。
その笑い声を聞くと、TもSもそれ以上何も言えなくなった。

しばらく沈黙が続いた後、Aは手をのばして何やらゴソゴソやるとテープを取り出した。

「何かかけましょうか」

Aはテープをカーステレオに押し込んだ。
ところが、音楽が流れてこないのである。2、3分たっても、まったく何も。
沈黙と圧迫感に耐えかねたTが口を開いた。

「・・・何も聞こえないんだけど」

「・・・・・・」

「・・・ちゃんと入ってるの?」

「・・・・・・」

「・・・ねえ?」

「聞こえないでしょう? なんにも」

「・・・ああ」

「深夜にね、家の中でテープをまわしておいたんですよ。自分は外出してね。家の中の音を拾うようにテープをまわしておいたんです」
「・・・なんでそんなことしたわけ?」

「だって、留守の間に何かが会話しているのが録音できるかもしれないでしょ」

「・・・何かって・・・なんだよ?」

「・・・・・・」

Tは初めて相手が答えなくて良かったと思った。
それ以上、Aと会話してはいけないと思った。

するとSが突然悲鳴をあげた。
窓の外にはまたあの不気味な地蔵が並んでいたのだ。

「おい、とめろ!」

Tが叫んだが、Aは何も言わない。

「とめろ!」

さらにTが叫ぶと、静かに車は止まった。TとSは転がるように車から降りた。
車はすぐに再発進して遠ざかっていった。
残されたTとSが辺りを見まわすと、2人は顔を見合わせて顔面蒼白になって震えた。

そこには石の地蔵など無く、それどころか彼等が遊んだ遊園地のすぐ近くだった。
一本道をずっと走ったのに、どうやって戻ってきたのか全く分からなかった。

それだけではなかった。
あとで他の参加者に連絡を取ろうとしたら、なんとAは時間を間違えて待ち合わせの場所へ来て待ちぼうけを食らって、そのまま帰ったといういうのだ。

だとしたら、オフ会に参加したあの男は一体何者だったのか?
後日、Tはほとんど同じ道をたどる機会があったが、道路の何処にも石の地蔵など無かったという・・・。
夏のある日、2組のカップルが海水浴に出かけました。

仮にA君、A君の彼女、B君、B君の彼女とします。
A君はバイクを持っていて1人で乗って、B君は車を持っていて残りの3人が乗っていました。

日が暮れて、帰る時にふとB君が「競争しようぜ」と提案します。
そこでA君のバイクと、B君達3人の乗る車とでお互いの家まで競争することになりす。
それぞれのカップルは同棲しており、同じアパートで知り合った4人なのです。

先に着いたのはB君たちの乗る車でした。
勝ったのに喜ぶB君のカップル、A君の彼女は少し心配気味です。
A君はバイクの運転はとても上手いので、本当なら先に着いていて当たり前なのです。

その日、A君は帰りませんでした。
そして次の日、目覚めたA君の彼女は信じられないことを聞きます。

B君とB君の彼女がとても悲しげで不安げな様子で部屋にきています。
「あのさあ……」B君が口を開きます。

「今朝警察から連絡があって、Aの奴、カーブ事故で死んじまったらしいんだよ」

「ガードレールに、凄いスピードで激突して……即死だったらしい」

A君の彼女はずっと考えていましたから、万一のこともあるだろうと分かってはいましたが、やはりショックで泣き伏せてしまいます。

しかし、B君達はさらに驚くべくことを告げるのです。
先に切り出したのはB君の彼女です。
2人の体がとても震えているのをA君の彼女は感じます。
「朝……連絡があったって言ったじゃない?」

「あのね、驚かないでね、その後あたし達の部屋に誰か来たの」

「誰だろうと思って……それで誰だ? って聞いたら……」

『Aだって言うんだよ……』

B君が割って話してきます。
A君の彼女は何を言っているのか分からず只聞いています。

『悪い冗談だと思ってすぐに怒鳴りつけてやろうと思ったけど、あいつが来たの俺らが電話を受けてからすぐなんだよ。だから誰かがふざける余裕なんてねえだろうし……俺ら怖くて、それで開けらんなかったんだ。そしたら帰ってったんだ』

B君たちはA君の彼女に、もしもAが来ても決してドアは開けるなと言いました。
彼らが言うには、自分では死んだと思っていないAが、自分たちを引きずり込もうとしていると言うのです。

B君たちが帰った後に、A君の彼女はA君との思い出を巡らせ一人泣いていました。
その夜、A君の彼女はドアをノックする音で目覚めました。

「来た……」

彼女は必死でそれを無視します。A君はドアを叩きつづけます。

「おい! 俺だよ!」

「ここを開けてくれよ!」

部屋の隅で、A君の彼女は必死に耳をふさいでいますが、彼との思い出と懐かしさにたまらず、ドアの方に近寄ります。
「開けてくれよ、俺だよ!」

音はドンドン大きくなります。
そっと近づくA君の彼女。ドアごしに見えるA君の影ですら涙が出ます。

気付けばA君の彼女はドアの前に立っています。
ドアを開けそうでした。しかし、A君は死んでいるのです。
A君の彼女は必死で声を出しました。

「……なたは……んだの……!」 

ノックは大きくなります。
そしてA君の彼女はせめて成仏してほしいと思い、決死の覚悟で一気にドアを開けます。

「あなたはもう死んだの!」

『死んだのはおまえらの方だよ!』

A君の彼女は気絶していました。
そして、次に気付いた瞬間彼女は治療室のベッドの上に居ました。

目の前にはなんと、死んだはずのA君がいて、泣いて喜んでいます。
状況が全く掴めない。
彼女にA君は話しかけます。

「競争して、俺が家に着いても、お前達はぜんぜん来なかったんだよ」

「それで来た道を戻ってったら、お前達の車がめちゃめちゃでさ……」

「前の座席に座ってたB達は即死だった……」

「でもお前だけは軽傷で済んでたんだよ。でもずっと気を失ってて……」

A君の彼女は、最初はその事実だけを飲みこんでいましたが、すぐ後にとても恐ろしくなり、ずっとA君に抱き着いていました。

即死だったB君たちは、生死をさまよっているA君の彼女を引きずり込もうとして、精神の中に入りこんできていたのです。
あのままA君のよびかけをずっと無視していれば、A君の彼女も死んでいたのでしょう。
ある男が、ほんの遊びで付き合った女を孕ませてしまいました。
一応、責任をとって結婚はしたのですが、もともとそんなに愛情を感じているわけでもなかったため、男はすぐに結婚生活が嫌になりました。

男は外に女を作り、家では妻に暴力をふるうようになりました。
とはいえ、幼い子供がいるということもあってか、互いに離婚話を持ち出すことはありませんでした。

そんなある夜。
いつものようにいさかいが起こり、いつものように男は妻に暴力をふるいました。
ところが打ち所が悪かったのか、妻は転倒したまま動かなくなりました。

死んでしまったのです。
男はパニック状態のまま、妻の死体を山奥に運び、雑木林の腐葉土の中に埋めました。
作業を終えて家に帰った男は、風呂で全身を洗いましたが、いくら石鹸で洗っても洗っても、腐葉土のにおいは取れませんでした。

数日が経ちました。
男の体から腐葉土のにおいは取れず、それどころか日に日に強くなっていくように感じました。
それに加え、何やら生ゴミのような甘酸っぱい異臭も混じるようになってきました。
男はノイローゼ状態になり、仕事にも出なくなりました。

不思議な事はもう一つありました。
2歳になる子供が、母親がいなくなったことに関して、何の疑問も抱いていないようなのです。
男はそれにも不気味さを感じました。
いっそ「ママはどうしたの?」と聞かれた方が安堵を得られたでしょう。
しかし子供は普段とかわりなく、一人遊びなどして過ごしているだけなのでした。
男の体から出る異臭にも、全く反応を示しませんでした。

さらに数日が経ちました。
何を食っても甘酸っぱい腐葉土の異臭しかしなくなったため、男は食事をとらなくなりました。
そして次第に衰弱していきました。

そんなある日、一人遊びをしていた子供が顔を上げて不思議そうに尋ねました。

「ねえ、パパ、ママのことなんだけどさあ」

男はついに来たか、と思いました。不意に異臭が強くなりました。
子供は小首をかしげながら、不思議そうに尋ねました。

「どうしてパパ、ずっとママをせおってるの?」

異臭は背後から漂っていました。
かんさつにっき

7がつ22にち

きょうから夏休みなので、しゅくだいのかんさつにっきをつけたいと思います。
だいきくんはカブト虫のかんさつをするというし、みさきちゃんはアサガオのかんさつをするといいます。

ぼくは、まだなにをかんさつするかきまってません。
しかたないので、ぼくのいえのにわの木のところにいたイモ虫をつかまえて、かんさつにっきをつけることにしました。

7がつ23にち

きのうつかまえたイモ虫のことをかきます。
色は白くて大きさは3センチくらい、あんまりおおきくありません。
ときどき、ちいさくヂーヂーとなきます。
ずかんでしらべたけれど、このイモ虫がなんのよう虫なのかはわかりませんでした。

7がつ24にち

イモ虫が、なにをたべるかわかりました。
つかまえたとき、にわのくさをはこの中に入れておいたけれどたべませんでした。
モンシロチョウのよう虫はキャベツをたべるので、お母さんからキャベツをもらってはこの中にいれてみると、もしゃもしゃたべだしました。
でもこのイモ虫は、モンシロチョウのよう虫ではありません。
7がつ25にち

イモ虫が、キャベツをたべなくなりました。
きのうはあんなにたべたのに。おなかがいっぱいなのかなあとおもったけれど、かおを上げてヂーヂーちいさいなきごえをあげてるので、おなかがすいているんだとおもいます。

べつのやさいだとどうかなあとおもって、れいぞうこの中のやさいをなんこか入れてみると、けっこうなんでもたべます。トマトとかキュウリとか、たべています。

7がつ26にち

イモ虫は、なんでもたべます。きょう、パンやにくをたべることもわかりました。
サンドイッチを、はこの中にまちがえておとしたら、すごい早さでモシャモシャたべだしたのです。
ソーセイジやトンカツもたべます。やさいよりもにくのがすきのようで、やさいをあんまりたべなくなりました。

7がつ27にち

にくをたべるようになって、イモ虫のせいちょうがすごいです。
きのうよりも1センチも大きくなっていました。エサをあげればあげるだけ、ぜんぶたべてしまうのでおもしろいです。

7がつ28にち

イモ虫が、また大きくなってます。見るたびにどんどん大きくなってるきがします。
きのうのよる、はこに入れてたぎょにくソーセージが、まるごとなくなってたのでびっくりしました。

7がつ29にち

イモ虫は、エサをたべたらたべたぶんだけ大きくなってるようです。
きょう、大きさをはかったら15センチにもなっていました。
このイモ虫が大きくなってなんになるのか、たのしみです。
7がつ30にち

イモ虫が大きくなると、なきごえも大きくなりました。
ヂーヂーいってたのが、ヂーキュルキュルヂーキュルキュルって、ヘンななきごえです。
イモ虫は、きのうよりも大きくなってもうすぐ20センチになりそうです。どれくらい大きくなるのかなあ。

7がつ31にち

イモ虫が、エサをあげにいくたび、キュルキュルキュルキュルなきごえをあげています。
なんかボクのほうをみて、すごいです。キュルキュルキュルキュルって。

なんかビデオの早まわししてるときのこえみたいです。
おキュルろキュルキュルれキュルキュルキュルキュルすキュル、ってきこえます。

きょうもイモ虫はエサをたくさんたべて、おおきくなりました。
はこがだいぶ小さくなってきたので、お父さんにいって大きな水そうをかってもらわないといけないかなあ。

よるねるまえに、はこの中にベーコンを一かたまりいれておきました。
あしたにはぜんぶたべてるとおもいます。
7がつ32にち

あさ、イモ虫にエサをあげようとはこのところにいくと、大きくなったイモ虫が、からだをのりあげ、大きくなったイモ虫が、手足のないからだを、ねじまげ、もたれ、のりあがって、はこのそとに、かお。

そのかおをボクにむけ、キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル、と早まわしに何かをいって。

キュルキュルキュルキュル、キュルキュルキュルキュル、聴き取れないような、でも、なんどか聴いたら耳がなれて、聴き取れるような、そんな早さの早口言葉。

キュルキュルキュルキュル、キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル、キュルキュルキュルキュル。

おキュルキュルんだキュル、キュルのキュルキュルれ、りキュルキュルキュルキュル、たキュルキュル。

イモ虫の唇の動きと、キュルキュルキュルキュル、が噛み合って、ボクの頭の中で言葉が連なり意味を成し、ああ、手足のないイモムシが云っているのは、手足のもぎ取られた人形みたいなイモ虫が喋っている言葉は。

「おまえ、日本人だろ。俺の話を聞いてくれ!俺は立教大学3回生の○○だ。助けてくれ!」

その後、立教大学の○○について調べてみると。
確かに今年立教大学の学生が中国に一人旅に行き、行方不明になっているそうだ。両親も捜索願を出しているとか。
僕の母の実家は、長野の山奥、信州新町ってとこから奥に入ってったとこなんですけど。
僕がまだ小学校3、4年だったかな?その夏休みに、母の実家へ遊びに行ったんですよ。

そこは山と田んぼと畑しかなく、民家も数軒。
交通も、村営のバスが朝と夕方の2回しか通らないようなとこです。
そんな何もないとこ、例年だったら行かないんですが、その年に限って、仲のいい友達が家族旅行でいなくて、両親について行きました。

行ってはみたものの・・・案の定、何もありません。
デパートやお店に連れて行ってとねだっても、一番近いスーパー(しょぼい・・)でも車で1時間近くかかるため、父は「せっかくのんびりしに来たんだから」と連れて行ってくれません。

唯一救いだったのは、隣の家に僕と同じ年くらいの男の子が遊びに来ていたことでした。
あの年頃は不思議とすぐに仲良くなれるもので、僕とK(仮にKくんとします)は、一緒に遊ぶようになりました。
遊ぶといっても、そんな田舎でやることは冒険ごっこ、近所の探検くらいしかありません。

1週間の予定で行って、確か3日目の夕方くらいだったと思います。
午後3時を過ぎて、日が落ち始めるころ。
夏とはいえ、西に山を背負っていることもあるのでしょうか、田舎の日暮れっていうのは早いもんです。
僕とKは、今まで入ったことのない山に入って行ってみました。
はじめは、人の通るような道を登っていたのですが、気がつくと、獣道のような細い道に入っていました。

「あれ、なんだろ?」

Kが指差す方を見ると、石碑?が建っていました。
里で見る道祖神ののような感じで、50センチくらいだったでしょうか。
だいぶ風雨にさらされた感じで、苔むしていました。

僕とKは良く見ようと、手や落ちていた枝で、苔や泥を取り除いてみました。
やはり道祖神のような感じでしたが、何か感じが違いました。

普通の道祖神って、男女2人が仲良く寄り添って彫ってあるものですよね?
でもその石碑は、4人の人物が、立ったまま絡み合い、顔は苦悶の表情?そんな感じでした。

僕とKは薄気味悪くなり、「行こう!」と立ち上がりました。
あたりも大分薄暗く、僕は早く帰りたくなっていました。

「なんかある!」

僕がKの手を引いて歩き出そうとすると、Kが石碑の足下に何かあるのを見つけました。
古びた、4センチ四方くらいの木の箱です。
半分地中に埋まって、斜め半分が出ていました。

「なんだろう?」

僕は嫌な感じがしたのですが、Kは、かまわずに木の箱を掘り出してしまいました。
取り出した木の箱はこれまた古く、あちこち腐ってボロボロになっていました。
表面には何か、布?のようなものを巻いた後があり、墨か何かで文字が書いてありました。
当然、読めはしませんでしたが、何かお経のような難しい漢字がいっぱい書いてありました。

「なんか入ってる!」

Kは箱の壊れた部分から何かが覗いているのを見つけると、引っ張り出してみました。
なんて言うんですかね。ビロードっていうんでしょうか?黒くて艶々とした縄紐みたいなので結われた、腕輪のようなものでした。

直径10センチくらいだったかな?輪になっていて、5ヶ所、石のような物で止められていました。
石のような物はまん丸で、そこにもわけのわからん漢字が彫り付けてありました。

それは、とても土の中に埋まっていたとは思えないほど艶々と光っていて、気味悪いながらもとても綺麗に見えました。
「これ、俺が先に見つけたから俺んの!」

Kはそう言うと、その腕輪をなんと腕にはめようとしました。

「やめなよ!」

僕はとても嫌な感じがして、半泣きになりながら止めたのですが、Kは止めようとはしませんでした。

「ケーーーーー!!!」

Kが腕輪をはめた瞬間、奇妙な鳥?サル?妙な鳴き声がし、山の中にこだましました。
気が付くとあたりは真っ暗で、僕とKは気味悪くなり、慌てて飛んで帰りました。

家の近くまで来ると、僕とKは手を振ってそれぞれの家に入って行きました。
もうその時には、気味の悪い腕輪のことなど忘れていてのですが・・・。

電話が鳴ったのは夜も遅くでした。
10時を過ぎても、まだだらだらと起きていて、母に「早く寝なさい!」と叱られていると。

「ジリリリーーン!」

けたたましく、昔ながらの黒電話が鳴り響きました。

「誰や、こんな夜更けに・・・」

爺ちゃんがぶつぶつ言いながら電話に出ました。
電話の相手は、どうやらKの父ちゃんのようでした。
傍から見てても、晩酌で赤く染まった爺ちゃんの顔が、サアっと青ざめていくのが分かりました。
電話を切った後、爺ちゃんがえらい勢いで、寝転がっている僕のところに飛んできました。
僕を無理やりひき起こすと、

「A(僕の名)!!おま、今日、どこぞ行きおった!!裏、行きおったんか!?山、登りよったんか?!」

爺ちゃんの剣幕にびっくりしながらも、僕は今日あったことを話しました。
騒ぎを聞きつけて、台所や風呂から飛んできた母とばあちゃんも、話を聞くと真っ青になっていました。

婆「あああ、まさか」

爺「・・・・かもしれん」

母「迷信じゃなかったの・・・?」

僕は何がなんだかわからず、ただ呆然としていました。
父も、よく訳のわからない様子でしたが、爺、婆ちゃん、母の様子に聞くに聞けないようでした。

とりあえず、僕と爺ちゃん、婆ちゃんで、隣のKの家に行くことになりました。
爺ちゃんは、出かける前にどこかに電話していました。
何かあってはと、父も行こうとしましたが、母と一緒に留守番となりました。

Kの家に入ると、今まで嗅いだことのない嫌なにおいがしました。
埃っぽいような、すっぱいような。
今思うと、あれが死臭というやつなんでしょうか?
「おい!K!!しっかりしろ!」

奥の今からは、Kの父の怒鳴り声が聞こえていました。
爺ちゃんは、断りもせずにずかずかと、Kの家に入って行きました。
婆ちゃんと僕も続きました。

居間に入ると、さらにあの匂いが強くなりました。
そこにKが横たわっていました。

そしてその脇で、Kの父ちゃん、母ちゃん、婆ちゃんが(Kの家は爺ちゃんがすでに亡くなって、婆ちゃんだけです)必死に何かをしていました。

Kは意識があるのかないのか、目は開けていましたが、焦点が定まらず、口は半開きで、泡で白っぽいよだれをだらだらと垂らしていました。

よくよく見ると、みんなはKの右腕から何かを外そうとしているようでした。
それはまぎれもなく、あの腕輪でした。が、さっき見たときとは様子が違っていました。

綺麗な紐はほどけて、よく見ると、ほどけた1本1本が、Kの腕に刺さっているようでした。
Kの手は腕輪から先が黒くなっていました。
その黒いのは、見ていると動いているようで、まるで腕輪から刺さった糸が、Kの手の中で動いているようでした。

「かんひもじゃ!」
爺ちゃんは大きな声で叫ぶと、何を思ったかKの家の台所に走っていきました。
僕は、Kの手から目が離せません。
まるで、皮膚の下で無数の虫が這いまわっているようでした。

すぐに爺ちゃんが戻ってきました。
なんと、手には柳葉包丁を持っていました。

「何するんですか!?」

止めようとするKの父ちゃん母ちゃんを振り払って、爺ちゃんはKの婆ちゃんに叫びました。

「腕はもうダメじゃ!まだ頭まではいっちょらん!!」

Kの婆ちゃんは泣きながら頷きました。
爺ちゃんは少し躊躇した後、包丁をKの腕につきたてました!
悲鳴を上げたのはKの両親だけで、Kはなんの反応も示しませんでした。

あの光景を僕は忘れられません。
Kの腕からは、血が一滴も出ませんでした。
代わりに、無数の髪の毛がぞわぞわと、傷口から外にこぼれ出てきました。
もう、手の中の黒いのも動いていませんでした。
しばらくすると、近くの寺(といってもかなり遠い)から、坊様が駆けつけて来ました。
爺ちゃんが電話したのはこの寺のようでした。

坊様はKを寝室に移すと、一晩中読経をあげていました。
僕もKの前に読経をあげてもらい、その日は家に帰って、眠れない夜を過ごしました。

次の日、Kは顔も見せずに、朝早くから両親と一緒に帰って行きました。
地元の大きな病院に行くとのことでした。

爺ちゃんが言うには、腕はもうだめだということでした。
「頭まで行かずに良かった」と何度も言っていました。
僕は「かんひも」について爺ちゃんに聞いてみましたが、教えてはくれませんでした。

ただ、「髪被喪」と書いて「かんひも」と読むこと、あの道祖神は「阿苦(あく)」という名前だということだけは、婆ちゃんから教えてもらいました。
古くから伝わる呪い(まじない)のようなものなんでしょうか?それ以来、爺ちゃんたちに会っても、聞くに聞けずにいます。

誰か、似たような物をご存知の方がいらっしゃいましたら、教えていただけるとありがたいです。
あれが頭までいっていたらどうなるのか・・・?

以上が、僕が「かんひも」について知っているすべてです。失礼しました。
<後日談>

どうやら「かんひも」は呪い(まじない)系のようです。それも、あまり良くない系統の。

昔、まだ村が集落だけで生活していて、他との関わりがあまりない頃です。
僕はあまり歴史とかに明るくないので、何時代とかは分かりませんでした。

その頃は、集落内での婚姻が主だったようで、やはり「血が濃くなる」ということがあったようです。
良く聞くように、「血が濃くなる」と、 障害を持った子供が生まれて来ることが多くありました。

今のように科学や医学が発達していない時代。
そのような子たちは「凶子(まがご)」と呼ばれて忌まれていたようです。
そして、凶子を産んだ女性も、「凶女(まがつめ)」と呼ばれていました。

しかし、やはり昔のことで、凶子が生まれても、生まれてすぐには分からずに、ある程度成長してから、凶子と分かる例が多かったようです。
そういう子たちは、その奇行から、やはりキツネ憑きなど、禍々しいものと考えられていました。

そして、その親子共々、集落内に災いを呼ぶとして、殺されたそうです。
しかも、その殺され方が、凶女に、わが子をその手で殺させ、さらにその凶女もとてもひどい方法で殺すという、嫌な内容でした。
あまり詳しいことは分かりませんでしたが、伝わっていないということは余程ひどい内容だったのではないでしょうか?
しかし、凶女は、殺された後も集落に災いを及ぼすと考えられました。
そこで、例の「かんひも」の登場です。

「かんひも」は前にも書いたように、「髪被喪」と書きます。
つまり、「髪」のまじないで「喪(良くないこと・災い)」を「被」せるという事です。

どうやら、凶女の髪の束を使い、凶子の骨で作った珠で留め、特殊なまじないにしたようです。
そしてそれを、隣村(といっても当時はかなり離れていて交流はあまり無かったようですが)の地に埋めて、災いを他村に被せようとしたのです。

腕輪の形状をしていたものの、もともとはそういった呪詛的な意味の方が大きかったようです。
また、今回の物は腕輪でしたが、首輪などいろいろな形状があるようです。

しかし、呪いには必ず呪い返しが付き物です。
仕掛けられた「かんひも」に気がつくと、掘り返して、こちらの村に仕掛け返したそうです。
それを防ぐために生まれたのが道祖神「阿苦」です。
村人は、埋められた「かんひも」に気づくと、その上に「阿苦」を置いて封じました。

「阿苦」は本来「架苦」と呼ばれており、石碑に刻まれた人物に「苦」を「架」すことにより、村に再び災いが舞い戻ってくるのを防ごうと考えたのではないでしょうか。

そして、その隣村への道が、ちょうど裏山から続いていたそうです。
時の流れの中で、「かんひも」は穢れを失って、風化していったようですが、例の「かんひも」はまだ効力の残っていたものなのでしょうか?

最後に。
婆ちゃんに、気になっていたものの聞けなかったKのその後を聞きました。
Kは、あれから地元の大きな病院に連れて行かれました。

坊様の力か、そのころにはすでに髪は1本も残ってなく、刃物の切り口と、中身がスカスカの腕の皮だけになっていたそうです。

なんとか一命は取り留めたものの、Kは一生寝たきりとなってしまっていました。
医者の話では、脳に細かい、「髪の細さほどの無数の穴」が開いていたと・・・。

みなさんも、「かんひも」を見つけても、決して腕にはめたりなさいませんよう。
10年ほど前の夏に、家族でキャンプへ行った時の出来事です。

私は少しひねくれているタチらしく、不便を楽しむキャンプが好きで、誰にも迷惑を掛けない場所で(勝手な判断ですが・・)景色が良かったりするとテントを張って泊まります。
たまには警察の方や地元の方に叱られたり、呆れられたりしてしまいますが・・・

その時も磐越道から外れたところにある、磐梯山がスッキリ見える所で泊まることにしました。
近くの川から汲む水の確保や、子供達と目一杯遊んだこともあってかクタクタになってしまい、比較的早い時間でしたが早々に寝床につきました。

深夜(だと思います)、ザッザッザッと規律正しいリズムで、数人が遠くで歩いているような音で目を覚ましました。

不思議なことに、合戦へ出向く歩兵を遠くから眺めているような変な夢を見ていて、その音は夢の中でもしており、寝ていながらも随分とリアルだなぁと思っていたところでした。

ん?家族の誰かかな?と、テントの中を確認すると全員よく寝ています。
その間も、ザッザッザッザッと歩いて来る音は徐々に近づいて来るようでした。
何だろうかとテントの外に出て、音のする方を見ましたが何も見えませんが、音だけはちゃんと聞こえます。
と、その音は不自然で有り得ない音であることを感じました。
昼に子供達と遊んだテントの周りも含め、一帯が草原のようになっており、砂利道は無かったはずなのに・・・。
(本能的にコリャいかんと思ったら)背筋が冷たくなるのを感じて、急いでテントの中へ入りました。

ザッザッザッザッザッ・・

歩いて来る音はどんどんこちらへ近づいて来ます。

家族はよく寝ています。いっそ起そうか、いや・・むやみに怖がらせるだけだし。
でもこのままじゃ・・考えは全くまとまらず、全身から汗が吹き出してました。

ザッザッザッザッザッザッ・・

もう足音はテント近くまで来ているようでした。
どうしよう、どうしよう、何が起こるんだろう・・

目はジッと見開いたままを閉じることも出来ません。
が、具体的に何処かを見ているワケでもなく、ジッとして外の様子を追っていました。

ザッザッザッザッザッザッザッ・・

テントのすぐそこにまで近づいたようです。
握り締めたままの手は汗だくで震えていました。

もう何も考えられず、顔も上げられません、目だけでテントの入り口付近の気配を伺ってました。
心臓はバクバクしてしまい家族の耳に届くほど強く響くようでした。

ザッザッ・・

(あ・足音が止まった?・・まさか真ん前か?・・)
ザッザッザッ・・

(あれ?また歩き出したか?・・)

ザッザッザッザッ・・

(と、通り過ぎて行くのか?それなら早く行ってくれ・・)

どうやら足音は遠退くようなカンジで、少しずつ小さくなって行きました。
足音が止まった時には本当に焦りましたが、ホッとして汗だくになった顔や背中をタオルで拭いているうちに、徐々に冷静になると同時にワケの解らない体の震えが止まらなくなりました。

とりあえず体を横にして、思い出したようにタバコでも吸おうかとライターに火を点けてタバコに近づけ、何気なくテントの入り口に視線が移った時に、ちょうど風か何かで入り口が少しフワッと動いて開きました。

そこに私をジッと見ている男の顔があったのです。
ホッとした直後のことでしたから、いつから見ていたのか、足音と関係あるのか、どう対応したら良いのか何も考えられません。
一瞬のことだったのでしょうが、あまりの唐突のことに思わず叫んだのか、何かの声を発したのか憶えてません。

ただ嫁さんが私を揺すって「どうしたの?大丈夫?」と声をかけてました。
そこに鉢巻をした男が・・・と言い掛けた私に嫁さんは「随分うなされていたよ」と続けました。
嫁さんが言うには私の声で起きた・・・私を見たらうなされているようなので心配で起こした、とのこと。

えっ?はっ?ゆ、夢?あんなリアルで?それとも・・・気絶したのかな?

・・と、何かに気が付いた嫁さん「ねぇ、蛍かなぁ」と、テントの外を指差してました。
その指の先の外側に、不規則な動きをする小さい灯りが、フワフワとテントの外側を足音が去った方向に飛んで行くようでした。
川の近くでもないのに?こんな深夜に?
・・・・蛍じゃ・・ないだろ・・

でも、その暢気な発言に「そうかもな・・」と思っていることと逆のことを言いつつ、今まで私に“夢”を見せていた正体が解った気がしました。

そして、無邪気な子供のようなことを言う嫁さんを不用意に怖がらせることは止めようと決めて、“夢”のことには触れず、眠そうな嫁さんには申し訳ないけど雑談で明け方まで付き合せて、次の日には遊び足りず文句を言う子供達を尻目に、そこを撤収しました。
これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。
年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。

都会とは違い空気が断然うまい。
僕は爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。
そして、日が登りきり真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。
と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。

僕は、「ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!」と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。
すると、兄はさっきから別な方向を見ている。その方向には案山子(かかし)がある。

「あの案山子がどうしたの?」

と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と言って、ますます目を凝らして見ている。
僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。

すると、確かに見える。何だ…あれは。遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。
しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。

「あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かったから、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!」

兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。
風がピタリと止んだのだ。しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。
兄は、

『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』

と驚いた口調で言い、気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り双眼鏡を持って再び現場に来た。
兄は少々ワクワクした様子で、

『最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』

と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。

すると、急に兄の顔に変化が生じた。
みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。
僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。

「何だったの?」

兄はゆっくり答えた。

『わカらナいホうガいイ……』

すでに兄の声では無かった。
兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。

僕はすぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか見る勇気が無い。
しかし気になる。
遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。
少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。
しかし、兄は…。

よし、見るしかない。
どんな物が兄に恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!
僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。

僕が「どうしたの?」と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、
『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』

と迫ってきた。僕は「いや…まだ…」と少しキョドった感じで答えたら、祖父は『よかった…』と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。
僕は、わけの分からないまま、家に戻された。

帰ると、みんな泣いている。僕の事で?いや、違う。
よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。
僕はその兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。

そして家に帰る日、祖母がこう言った。

『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…』

僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿はもう無い。
また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。
何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。僕は必死に涙を拭い、車に乗って実家を離れた。

祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬僕に手を振ったように見えた。
僕は遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと双眼鏡で覗いたら、兄は確かに泣いていた。
表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。

そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながらずっと双眼鏡を覗き続けた。

「いつか…元に戻るよね…」

そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。
そして、兄との思い出を回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。

…その時だった。
見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。


「くねくね」
小学4年生くらいのことなんだけど、親戚が水泳教室を開いていて、そこの夏季合宿みたいなのに参加させてもらった。
海辺の民宿に泊まって、海で泳いだり魚を釣ったり山に登ったりする。

小学生が十数人と、あとは引率の先生が男女あわせて4人くらいいた。
俺は同年代のいとこがいたせいで、すぐに他の生徒ともうちとけ、1週間毎日楽しく過ごした。
その最終日の前日のことだったと思う。

運悪く台風が近づいてきているということで、海でも泳げず俺たちは部屋でくさっていた。
みんなは部屋で喋ったりお菓子食べたりテレビ見たりしてたが、俺は目の前の海を、民宿の2階の窓からぼんやりと眺めてた。
強風で物凄い高さの波がバッコンバッコンやって来るグレーの海。

「なんだあれ?」

思わず声が出たのかもしれない。
気がつくと後ろにKちゃんもやってきて一緒に窓の外を見ていた。
2つ上の6年生で、虫取りが上手な奴だったと記憶している。

『え、あれ・・・』

Kちゃんも浜辺のそれに気がついたらしく、目を大きく見開いている。
荒れ狂う海のすぐそばを、白いモノが歩いてくる。

歩いてくる?というか移動してくる。
男か女かも分からない。
俺は近眼なんで良く見えない。
服とか着てるようには見えないんだけど、全身真っ白だ。

真っ白のウェットスーツ?そんなものあるのか?
動きはまるでドジョウ掬いをしているような感じで、両手を頭の上で高速で動かしている。
俺の真後ろで突然やかんが沸騰した。

『ピーーーーーーーーーー!』

いや、ちがう。Kちゃんの叫び声だった。
引率の先生が飛んできた。
Kちゃんは何回もやかんが沸騰したような音を出して、畳をザリザリとはだしの足でこすって、窓から離れようとしていた。

その後、引率の先生と他の先生とがKちゃんを病院に連れて行ったような気がする。
その日はみんな怖くなって布団をくっつけあって寝た。
Kちゃんは戻ってこなかった。

数年後、親戚の集まりでいとこと会ったので、その夏の事を聞いてみた。
いとこは何故か露骨に嫌な顔をした。

Kちゃんはストレス性のなんとかで(脳がどうとか言ってたかな)その後すぐに水泳教室をやめたらしい。
水泳教室自体も、夏季合宿の類を中止したそうだ。
Kちゃんは何を見たと言っていた?俺が聞きたいのはこれだけなんだが、どうしても聞きだせなかった。

俺は、その夏季合宿の後すぐ眼鏡をかけるようになった。
でも今でも、その夏季合宿の時に眼鏡をかけていたら・・と思う。

Kちゃんは一緒に森を探索したときに、木に擬態しているような虫も真っ先に見つけるほど目が良かった。
Kちゃんはきっと、その浜辺で踊っていたモノ(踊っていたとしか言い様がない)を、はっきりと見てしまったに違いないんだ。
私の住んでいる所はベットタウンと言われている人口密集地帯なのですが、早朝マラソンをしている人をよく見かけます。

2階のベランダからその走る姿をコーヒーを飲みながら眺めていると、1日が始まるという感じがしていました。
毎朝だいたい同じ顔ぶれなので、暮らしていくうちに顔を覚えていきましたが、怖い体験はその決まった時間にマラソンをしている1人の男性についての話です。

最初、決まった時間に走る彼を見て、「毎朝エライなぁ」と感心していたのですが、何回か彼を見かけているうち、私はその彼のおかしな部分に気づきました。
汗をかかない。呼吸をしてない。足音がしない。この3つでした。

ベランダから少し距離もあるので勘違いかと思ったのですが、他のランナーと比べることができるのでおかしいことは確かでした。
もしかして幽霊かもと思いましたが、見かけはマラソンをしている丸刈りで健康そうな青年だったので、恐怖より不思議な感じでした。
きっと、彼は走り方を研究して、そうなっているのだとも考えていました。

でも、私は気になって仕方がなくなり、近くにいって確かめようと思いました。
彼の走る決まった時間を見計らって、ゴミ捨てをするフリをして、待ち伏せしたんです。

やはり定刻に彼が向こうから走ってくるのが見えました。
かなりドキドキしました。でも、私の勘違いだろうと楽観的な部分もありました。
段々と近づいてきたときに、彼の両手首がキラキラと光っているのがわかりました。
なんだろう?と最初思いましたが、それよりも3つの気になることがあったので気にしませんでした。

目を合わしたくなかった私は、30メートルくらいに彼が近づいてきたとき、ゴミ集積所を片付けるフリをして背中を向けました。
音だけである程度確かめられると思ったからです。それにやはり怖かったし。

通り過ぎるだろうと思ったタイミングに何の気配も音をしなかったので、正直パニック状態に陥りました。
冷や汗が出て膝が震えました。
彼の通り過ぎた後の背中も見ることができないくらいでした。

しばらくその場で時間を置き、気持ちを落ち着かせ、ゆっくり辺りを見回しました。
彼はすでに走り去った後で誰もいませんでした。

が起こったか整理がつかず、しばらくその場でボーとしてしまいました。
家に帰ろうとしたとき、さっきの彼と同じ方向から走ってくるおじさんがいました。
額から汗が光り、胸を上下させて苦しそうに走っているのが見えて、少しホッとしました。

横を通り過ぎるとき、私は軽く会釈をしました。
会釈して顔を下げた瞬間、そのおじさんの両足首にキラキラと透明の糸が巻かれているのが見えたのです。
彼の手首に見えたキラキラと光ったものがフラッシュバックし、ドキッとして、反射的に走り去ったおじさんを見るために振り返りました。

首、両手首にも同じ透明の糸が見えていました。
そして何よりの恐怖は、そのおじさんの走る先、遠く路地のつき当たりで、体を奇妙にクネクネと曲げ、その糸をたぐりよせる仕草をする彼の姿が見えてしまったことでした。

それ以来、彼もそのおじさんもどうしたのかわかりません。
朝はカーテンを開けない生活を続けています。
僕ははっきり言ってコックリさんの類が嫌いです。
嫌いと言うより、はっきり言ってコックリさんをするのがものすごく怖くなった、と言ったほうが正解でしょうか。

しかし、中学生の頃は僕もコックリさんの類には興味があったのです。
ですが、ある女の子の友人の体験を聞いて怖くなりました。
今回の投稿は、この友人の実際に体験したコックリさんに関する怖い体験談です。

友人がまだ、中学2年生の頃だったそうです。
彼女の学校ではコックリさんが当時流行っていて、彼女も興味を抱く1人だったそうです。
だから、よく友人たちとコックリさんをやっていたそうです。

その日はいつものメンバーの何人かが塾などで遅くまで学校に残れないということで、残った3人でやっていたそうです。
いつもなら結構すんなり動き出す10円玉が、この日はなぜか動き出そうとせず3人の集中力は限界に近づいていました。

そして10分ぐらい経った頃でしょうか、ようやく10円玉が動き出しました。
友人たちは何か質問をしようということになって質問をはじめました。

「質問します。あなたは男の霊ですか。それとも女の霊ですか」

すると、10円玉が動き出して『女』と動いたそうです。

「あなたはどうして亡くなったんですか。事故ですか。それとも病気ですか」
『と、び、お、り、た』

「飛び降り自殺?!」

友人たちはびっくりして、10円玉から指が離れてしまいそうだったそうです。
そして、10円玉はまた動き出しました。

『う、ら、ぎ、ら、れ、た、に、く、い、あ、い、つ、う、ら、む、う、ら、む』

友人はこのままでは危険だと思い、何とかこの霊に帰ってくれるように必死に頼みましたが、帰ろうとしません。
そして、また10円玉が動き出しました。

『こ、ろ、す、こ、ろ、す、こ、ろ、す、こ、ろ、す』

と10円玉が動いたそうです。
そして友人の友達の一人が「もう、いやだ」と言って10円玉から指を離してしまったそうです。
そしてその女の子はしばらく机のところにうずくまっていたそうですが、突然

「うぉーーーーっ!!」

と彼女のものとは思えない叫び声をあげ、暴れ出したそうです。
驚いた友人たちは職員室へ行って、先生たちを呼んでその女の子を押さえつけたそうです。
すると彼女は意識を失い、その場へ倒れこんでしまったそうです。

しばらくしてからその子は目覚めたそうですが、彼女はそのときのことを覚えていないのです。
友人はコックリさんを呼び出すのに使った紙を、その日のうちにお寺に行って御払いしてもらったそうですが…。

とりつかれた女の子も友人達も、もうあの時のことはなく、今はすっかり元気になって都内の大学に通う女子大生になって元気にやっています。
友人はもうコックりさんは絶対にやらない、いや、やってはいけない物だと痛感し、コックリさんの類は2度とやらないと言っておりました。

以上のお話が僕がコックリさんをやらなくなった理由です。
この話は、霊感の強い友達の話。
その友達は中学生の時からの付き合いで、30歳手前になった今でも結構頻繁に遊んだり飲みに行くような間柄。

そいつん家は俺らの住んでるところでも大きめの神社の神主さんの仕事を代々やってて、普段は普通の仕事してるんだけど、正月とか神事がある時とか結婚式とかあると、あの神主スタイルで拝むっていうのかな?そういった副業(本業かも)をやってるようなお家。
普段は神社の近くにある住居にすんでます。

で、その日も飲みに行こうかってことで、とりあえず俺の家に集合することになったんです。
先にそいつと、そいつの彼女が到着して、ゲームしながらもう1人の女の子を待ってたんです。

その神社の子をM、遅れてくる子をS、俺のことをAとしますね。Mの彼女はKで。
しばらくゲームしながら待ってたら、Sちゃんから電話がかかってきたんです。

Sちゃん「ごめんちょっと遅れるね、面白いものが納屋から見つかって、家族で夢中になってた〜。Aってさ、クイズとかパズル得意だったよね? 面白いものもって行くね!もうちょっと待ってて〜」

ってな感じの内容でした。
で、40分くらいしたころかな、Sちゃんがやってきたんです。
その瞬間、というかSちゃんの車が俺ん家の敷地に入った瞬間かな、Mが

「やべぇ。これやべぇ。やべ、どうしよ……父ちゃん今日留守だよ」

って言ったんです。
俺「ん? Mどうしたが? また出たんか?」

K「大丈夫!? またなん?」

M「出たってレベルのもんじゃねぇかも……はは、Aやべぇよこれ、Sちゃん……まじかよ」

Mは普段は霊感あるとかオバケみるとか、神社の仕事とかあまり話題には出さないんですが、たまにこうやって怯えてるんですよ。
俺もSもKもそのことは知ってるんですが、Mが突っ込んだ話されるのを嫌がるので普段はあまり話題にしません。

Sちゃんが俺の部屋まで上がってきました。
Mは顔面蒼白って感じで、

M「Sちゃんよ、何持ってきたん? 出してみ」

S「え? え? もしかして私やばいの持ってきちゃった……のかな?」

M「うん」

S「これ……来週家の納屋を解体するんで掃除してたら出てきたん」

そういってSちゃんは木箱を出したんです。
20センチ四方ほどの木箱でした。電話でパズルって言ってたのはこのことだろう、小さなテトリスのブロックみたいな木が組み合わさって箱になってたと思う。

M「それ以上触んなや! 触んなや!!」

その瞬間、Mはトイレに猛ダッシュ「おぅえぇええ。ぅぇえぇうぇええええ」嘔吐の声が聞えてきました。
Kがトイレに行ってMの背中をさすってやってるようでした(良い彼女だ……)

一通り吐き終えたMが戻ってきました。
Mが携帯を取り出し電話をかけました。
M「父ちゃん、コトリバコ……コトリバコ友達が持ってきた」

M「俺怖い。じいちゃと違って俺じゃ、じいちゃみたくできんわ」

Mは泣いてました。父ちゃんに電話かけて泣いてる29歳。
それほど恐ろしいことなんでしょう。俺も泣きそうでした。

M「うん付いちょらん、箱だけしか見えん」

M「跡はあるけどのこっちょらんかもしらん」

M「うん、少しはいっちょる、友達のお腹のとこ」

M「シッポウの形だと思う……シッポウだろ? 中に三角ある。シッポウ」

M「間違いないと思う、だって分からんが! 俺は違うけん!」

なにやら専門用語色々出てたけど、繰り返していってたのはコトリバコ、シッポウ(もっと色々言ってたけど忘れました、ごめん)。

M「分かったやる。やる。ミスったら祓ってや、父ちゃん頼むけんね」

Mはここで電話を切りました。
最後にMは2分ほど思いっきり大泣きして、しゃくりあげながら

「よし」

と正座になり、自分の膝のあたりをパシっと叩きました。
もう泣いてませんでした。なにか決意したようで。
M「A……カッターか包丁貸してごせや」

(「ごせ」ってのはうちらの方言で、〜してくれとかの語尾ね)

俺「お、おい、何するん!?」

M「誰か殺そうっちゅうじゃない、Sちゃん祓わないけん」

M「Sちゃん、俺見て怯えるなっちゅうのが無理な話かもしらんが、怯えるな!」

M「KもAも怯えるな! とにかく怯えるな! 怯えるな! 負けるか! 負けるかよ!!」

M「俺が居る! 怯えるな! 怯えるな!」

M「なめんな! 俺だってやってやら! じいちゃんやってやら! 見てろよ糞! 糞ぉおおおおお!」

Mは自分の怯えを吹き飛ばすかのように咆哮をあげていました。
Sちゃん半泣きです。怯えきってました。
俺もKも泣きそうです。ほんとにちびりそうだった……。

S「分かった、分かった、がんばっでみる」

俺もSもKもなにやら分からないけど、分かった分かったって言ってました。

M「A、包丁かカッター持って来てごせや」

俺「お、おぅ」

包丁をMに手渡しました。
M「A、俺の内腿、思いっきしツネってごせや! おもいっきし!」

もう、わけ分からないけど、Mの言う通りにやるしかありません。

M「がぁあああああがあぐいうううあああ!!」

Mの内腿をツネり上げる俺。
俺に腿をつねり上げられながら、Mは自分の指先と手のひらを包丁で切りつけました。
たぶん、その痛みを消すためにツネらせたのかな?

M「Sちゃん口開けぇ!」

MはSちゃんの口の中に、自分の血だらけの指を突っ込みました。

M「Sちゃん飲みぃ、まずくても飲みぃ」

S「あぐ;kl:;っぉあr」

Sちゃん大泣きです。言葉出てなかったです。

M「◎△*の天井、ノリオ?シンメイイワト、アケマシタ、カシコミカシコミモマモウス」

なにやら祝詞か呪文か分かりませんが、5回〜6回ほど繰り返しました。
呪文というより浪曲みたいな感じでした。

そしてMがSちゃんの口から指を抜くとすぐ、SちゃんがMの血の混じったゲロを吐きました。

S「うぇええええええええええおええわええええええええ」
M「出た!出た!おし!!大丈夫!Sちゃんは大丈夫!」

M「次……!」

M「じいちゃん見ててごせや!」

Mは血まみれの手を、Sちゃんの持ってきた木箱の上にかぶせました。

M「コトリバココトリバコ、◎△*??Й……」

M「いけん、いけん、やっちょけばよかった」

Mがまた泣きそうな顔になりました。

M「Aっ! 父ちゃんに電話してごせや」

言われたとおりにMの携帯でMの父ちゃんに電話をし、Mの耳元にあてました。

M「父ちゃん、ごめん忘れた。一緒に呼んでくれ(詠んでくれかな?)」

Mは携帯を耳にあて、右手を小箱添えて、また呪文みたいなものを唱えてました。
やっぱり唄ってるみたいな感じでした。

M「終わった。終わった、おわったぁ、うぅえぇえええ」
Mはまた号泣してました。大の大人が泣き崩れたんですよ。
Kによしよしされながら、20分くらい大泣きしてました。

俺とSとKも号泣で、4人でわんわん泣いてました。
その間も、Mは小箱から決して手を離さなかったような気がします(号泣してたんであまり覚えてませんが)。

少し落ち着いてから、Mは手と箱を一緒に縛れる位のタオルか何かないか? って聞いてきたので、薄手のバスタオルでMの手と木箱を縛り付けました。

M「さて、ドコに飲みに行く?」

一同「は?」

M「って冗談じゃ。今日はさすがに無理だけん、A送ってくれよ」

(こいつどういう神経してるんだろ……ほんと強い奴だなぁ)

その日はSもMもKもなんだかへとへとで、俺が送っていくことになりました。

(飲みだったんで、もともと俺が飲まずに送る予定だったんですよ! いやホントに)

で、それから8日程Mは仕事を休んだようです。
そして昨日Mと会い、その時のことを聞いてみたんですが。

M「あ〜っとなぁ。Sちゃんところは言い方悪いかもしらんが、◎山にある部落でな」

M「ああいうところには、ああいったものがあるもんなんよ」

M「あれは父ちゃんが帰ってきてから安置しといた」

M「まぁあんまり知らんほうがええよ」
なにやら言いたくない様子でした。
それ以上は、いくら聞こうとしても教えてくれない。
ただ最後に、

M「あの中に入っちょるのはな、怨念そのものってやつなんよ」 

M「まぁ入ってる物は、結構な数の人差し指の先とへその緒だけどな……」

M「差別は絶対いけんってことだ、人の恨みってのは怖いで、あんなもの作りよるからなぁ」

M「アレが出てきたらな、俺のじいちゃんが処理してたんだ」

M「じいちゃんの代であらかた片付けた思ってたんだけど、まさか俺がやることになるなんてなぁ」

M「俺はふらふらしてて、あんまり家のことやっちょらんけぇ、まじビビリだったよ」

M「ちょっと俺も勉強するわ まぁ才能ないらしいが」

M「それとな、部落云々とか話したけど、差別とかお前すんなや。Sちゃんとも今までどおりな」

M「そんな時代じゃないしな〜あほくせぇろ」

俺「あたりめぇじゃん」

俺「それよりさ、この楽しい話誰かに話してもええの?」

M「お前好きだなぁ、幽霊すら見えんくせに」

俺「見えんからこそ好きなんよ」

M「ええよ別に、話したからって取り憑くわけじゃないし」

M「どうせ誰も信じねぇよ、うそつき呼ばわりされるだけだぞ、俺はとぼけるし」
<全貌>

昨日の経緯を書きます。嫌になるくらい長文です。
載せようかどうかかなり迷ったんですが、4人で相談しそれぞれ思うところもあり、掲載することにしました。

かなり長い話だったのでまとめも時間がかかり、また俺自身かなり衝撃的なことを偶然聞かされたので混乱してます。
また5時間近く話をしてたので、会話の細部は記憶を頼りにかなり補完して会話らしくしている、ということも了承してください。

あと主要な発言しか書いてません。伏せてる部分も多々あります。
一応MとSに見てもらい、修正いくつかしてからアップしてます。
文章ぐだぐだかもしれませんがご勘弁を。

文中、「部落」とか「集落」という言い方してますが、実際の話の中ではそう読んでいません。
あくまで便宜上の言い方です。一応ひどい言葉らしいので伏字みたいなものと思ってくださいね。

6日夜の時点では当事者4人が俺の家でSの話を聞くという予定だったのですが、Sが、Sの家族、そして納屋の解体の時に一騒動あったという隣家のおじいさんも交えて話がしたいとのことで、Sの家に行くことになりました。

M、S(箱を持ってきた女の子)、K(Mの彼女)、A(俺)、それとSの父は「S父」、母を「S母」、Sの祖母を「S婆」、Sのおじいさんを「S爺」、隣のおじいさんを「J」としましょうか。
話の内容は以下のようなものです。
それと、方言で書くのはなるべくやめます。JとS婆の話、ほとんど異国語なので。

まず、Sが事件の後、納屋の解体業者が来た時の話を。
俺の家での出来事の2日後になります。

5月23日、頼んでいた業者が来て解体用の機械を敷地に入れ作業に入ろうかという時、S父に隣家のJが話しかけてきたそうです。
S父がJに納屋を解体することを伝えると、Jは抗議してきたそうです。

S父ともめてたそうで、その声を聞いたSが「もしかしたらあの箱のことを知っているのかも」と思い、Jに聞いてみようと外に出たそうです。
この時点でSは家族にあの日のことは話してなかったそうです。

「納屋を壊すな!」

というJに対し、

「反対する理由はあの箱のことかなのか? あの箱はいったい何なのか」

という様なことを聞くと、Jは非常に驚いた顔をして

「箱を見つけたのか? あの箱はどうした? お前は大丈夫か?」

と慌てた様子で聞いてきたそうで、Sが事件の経緯を話すと、Jは自分の責任だ自分の責任だと謝ったそうです。
そして、

「聞いておかんかったからこんなことになった、話しておかんかったからこんなことになった」

「近いうちにお宅の家族に話さないけんことがある」

と言い、帰って行ったそうです。
そして、SはポカンとしてるS父に事件のことを話したそうです。
Jの話を聞いてから俺らに話そうと思ってたのですが、Jが話しに来る素振りを見せずイライラしてたところに、昨夜俺から電話があったと言うわけです。

そして昨日俺の電話を受け、Mも来るなら今日しかないと思い、その「話さないといけないこと」を今日話して欲しいということで、Jを父と一緒に説得して来ていただいたそうです。
◎次に、Mの話

S父がJに「お話いただけますか?」と言い、俺とKが居るところで話して良いものか悩んでいると(部外者ですもんね)、このあたりで

M「先に話させてもらって良いですか?」

そう言ってMが話し始めました。

M「Jさん……。本来、あの箱は今あなたの家にあるはずでは?」

M「今の時代、呪いと言っても大概はホラ話と思われるかもしれないが、この箱については別。俺は祖父や父から何度も聞かされてたし、実際、祖父と父があれを処理するのを何度か見てきた。箱の話をするときの二人は真剣そのものだった」

M「管理簿もちゃんとある。それに事故とはいえ箱でここの人が死んだこともありましたよね。今回俺が箱に関わったってことと、父が少し不審に思うことがあるということで、改めて昨夜、父と管理簿を見たんです」

M「そうしたら、今のシッポウの場所はJさんの家になってた。そうなると話がおかしい。父は『やっぱり』と言ってました。俺の家の方からは接触しないという約束ですが、今回ばかりは話が別だろうと思って来ました。俺の父が行くと言ったのですが、今回祓ったのは俺なので俺が今日来ました」

Jさん、そしてその他一同は黙って聞いてました。MとJにしか分からない内容なので。

M「それでですね。Jさん。あなたの家に箱があったのなら、Sのお父さんが箱のことを知らないのは仕方がないし、なんとか納得はできます。Sのおじいさんは◎△(以下T家としますね)さんから引き継いですぐに亡くなられてますよね。Sのおじいさんは俺らが知り合った時、つまり中学生の時にはすでにお亡くなりだそうです」