1 無名さん

あらあら

あらえら
2 無名さん
糞スレ立ててるDTのサイト
http://arasi32.bbs.fc2.com/
また同盟荒らし依頼スレ立ってるね
だから荒らしにきたの?
3 無名さん
へえ
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2年ほど前のことです。
いつものようにデートのあと、付き合っているM君に下宿まで送ってもらっていました。

M君は自称霊が見える人で、当時私はあまり信じていなかったと言いますか、そのことについて深く考えたこともありませんでした。
しかし、いつもそのことを思い出してしまうのが、この帰り道です。

実は帰り道の途中には彼がどうしても通るのを嫌がる道があり、そのためいつもその道を迂回して送ってもらっていました。
彼いわく、その道には何かありえないようなものが憑いているので近づきたくもないそうです。

でも、その日のデートはかなり遠出したこともあり、私はものすごく疲れていて少しでも早く家に帰りたいと思っていました。

この道を迂回すると、ものすごい遠回りをしなければ私の家には帰れません。
だから、この道を通って帰ろうとM君に提案したんですが、彼は頑なに反対。

結果、ほとんど言い争いのようになってしまいました(というか私が一方的に怒っていて、彼が必死に止めようとしていただけかも。ごめんM!)。

最終的には、私がひとりでもこの道を通って帰ると主張すると、M君もひとりで行かせるくらいならと、ついてきてくれることになりました。

その道に入ると、M君は目に見えて怯えていて、顔は真っ青でした。

時間は23時くらいでしたが、街灯もあって真っ暗というわけでもなく、私からすると普通の道。
私もやはり気になって聞いてみても、「今はまだ大丈夫」ということでした。
少し進むとY字路になっていて、私の家に帰るには左の方の道です。
このあたりになるとM君も少し落ち着いてきていて、私も安心して何の躊躇いもなくY字路の左側の道に入りました。

左側の道に足を踏み入れた瞬間、何か急にあたりの雰囲気が変わりました。

物音が一切しなくなって、心もち明かりが暗くなりました(M君が言うには、本能的に目の前のものに集中したため視界が狭まっただけということです)。

足が寒いところにずっと立っていたあとのように痺れて引きつり、上手く歩けません。
力も入らないのでその場に座り込んでいてもおかしくなかったのですが、なぜかその引きつった足が体を支えていて、私はその場に立ち尽くしました。

いきなり、前方からゴッと突風のようなものがきました。
感覚としては、すぐ横を電車や大型車が通過したときのあの感じです。

そしてその瞬間、


「サリョ(鎖虜? 左路?)じゃ! サリョじゃ!」


という大小の声があたりに鳴り響きました。
近いものは私のすぐ耳元で聞こえました。
突風のようなものが過ぎ去ったあと、私は呆然と立ったままでした。

M君は先ほどまでとは比べ物にならないくらい血の気のない顔をしていましたが、急に私のほうにやってきたかと思うと、ものすごく必死に私の足を何度も何度も平手で叩きました。

あとで赤く腫れ上がるくらい力を入れて叩かれたのですが、このときは足の感覚がなく、全く痛みを感じませんでした。
でもすぐにやっぱり痛くなってきて、同時に足に感覚が戻って私は地面に崩れ落ちました。

横を見るとM君も地面に座り込んで、相変わらず顔色は悪いのですが「もう大丈夫だから」と息を切らせていました。

M君によると、左の道に入った瞬間、前の方から黒いモヤモヤしたものが雪崩のように流れてきて、私たちの体を包み込むように吹き抜けて行ったそうです。
私の足にはその黒いモヤモヤから出てきた無数の手が絡みついていたそうで、それを払い落としていたのだとか。

そのあとM君は泣いている私を背負って下宿まで送ってくれて、朝まで一緒にいてくれました。愛だね。


その後、私は怖くてその道に近寄ることはなかったのですが、半年ほどたって恐怖が薄れてきたころ、昼間だったら大丈夫だと思って見に行ってみました。
以前に何度か通ったことのある道だったのですが、注意して見てみると愕然としました。

まず、なんとそのたかだか50メートルほどの道(Yの字になっていますが)に、小さな祠やお地蔵さまが計7つも密集しているんです。

そして、その道に面した家の玄関のほぼ全てに盛り塩がしてありました。
中にはお酒が置いてあったり、何枚ものお札がベタベタ貼ってある家も。

そしてこの周辺ではありえないくらい、廃屋と化した空き家が目立ちました。

そういえば、最初のほうで書いた「この道を迂回すると、ものすごい遠回りをしなければならない」というのもおかしな話です。

区画整備された町並みで、この一画だけ、周囲の車道は大きく迂回するかそこで行き止まりになるかしているんです。
唯一このY字路と、そこから分かれた毛細血管のような複雑な小道だけが、そこの交通手段となっています。

気味が悪いので地元の人間である学校の先輩に聞いたところ、この一画には昔、いわゆる部落があったそうです。

それだけではなく、戦時中に何か忌まわしい事件があったらしく、部落自体は終戦前になくなったのだとか(その事件の内容はタブーとされているらしく、先輩も知りませんでした)。
しかし地元の人間も忌諱して、その後もずっとその土地には手をつけず、20年になってようやく外から来た人間が住み始めたのだとか。

いったい部落で何があったのか。「サリョ」というのは何なのか。
気になりますが、先輩やM君の忠告もあり、私はそれ以上調べることを止めました。

みなさんも、もし兵庫県の某有名暴力団本部のある都市に行かれることがあれば、気をつけてください。
何故か主な車道が途切れたり迂回しているからと言って、むやみに近道しないように。
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北海道という土地は、昔から「ヒグマ」という問題を抱えている。

本州の人間からすればピンとこないんだろうが、北海道の山を歩き回る時に熊鈴は必須、クマスプレーという武器(?)も重要なアイテム。

ヒグマはカナダなど外国の方が大量に生息しているイメージがあるが、実は世界中どこを探しても、北海道ほど密集してヒグマが生息している土地はない。
これはあまり知られていないが、データ上の事実。

この話は、そんな北海道でアウトドア系大学サークルに所属する俺が、同期の友人に聞いたもの。


その夏、十勝山系を縦走していた登山パーティがあった。

パーティはA、B、C、D、Eの5人構成。
AがリーダーでありBはサブリーダーであった。
ABCDは中級者であり、Eは今年山を登り始めた初級者。

パーティのうち何人かは、かつてヒグマと遭遇したものの怪我をすることもなくやりすごしたこともあった。

以下は、Aが手帳につけていた日記からまとめられた内容である。


山に入って一日目。

特に事故も無く、計画通り。みな景色を楽しみ、充実。
二日目。

すでに稜線上のルートを進んでいるが、昨晩の天気予報から今日の天候が思わしくないため、その日は停滞を決定。

予報の通り雨風が次第に強くなり、テント内で食事を作って腹ごしらえをしつつ、トランプをしたり話をしたりと、楽しく時間をつぶす。

天気予報を聞いた後、明日は朝、小雨なら出発しようと決めた。

二日目は特に何事も無く終了。


三日目。

朝、一番早く起きたCが外の様子を確認にテントを出た。

帰ってきたCに様子を聞くと、「少し霧が出てる。待ったほうがいいかも知れない」。

テントの口から外に首を出すと、辺りは真っ白。
出発を遅らせることにする。

朝食後、外に出るが霧が晴れる様子が無い。

メンバーは昨日停滞したこともあって、出来るなら出発したい様子だが、事故があってからでは遅い。
話し合って今日も停滞することにした。

昼、霧がさらに濃くなる。
雨こそ降っていないが、霧の中歩き回るのは危険で、テントを出るものは無い。

夜、ちょっとしたアクシデント。
Eが何の間違いか、鍋をテントの外に出し放置。
夜の動物が活動するこの時間、食べ物の臭いを外にじかに出すのは危険だ。

しばらくしてから、動物の軽い足音がテントの回りを探るように歩いている。
キツネだ。
テントから出て追い払う。先ほどの鍋のせいだろうか。

この辺りはヒグマが出る。
昼なら会ったことはあるが、夜は危険だ。

三日目はこれで終了。


四日目。

朝、外の様子を確認するが、2メートル先が見えず霧に包まれている。

本来の日程ではこの日になっても停滞するようなら計画を中止し、別ルートで山を降りることになっているが、霧が濃く、行動することは危うい。
話し合うまでも無く、また停滞。

午後、少しでも晴れそうなら下山することを考えたが、霧はますます濃くなるばかりで、昼と言えど薄暗い。
トランプも飽きてきて、話題も尽きる。

夜、早めに明かりを落とし、就寝。
テントの内側が霧のためにしっとりと濡れ、テント内の強い湿気に不快感が激しい。

数時間後に、異変。
最初にBが気づき、隣に寝ていた私を起こした。

「足音がする、さっきから。キツネじゃなさそうだ」

眠ってはいなかったのか、全員が上半身を起こして耳を澄ます。

重くゆっくりとした足音。

じゃり、じゃり

時折混ざる湿気のこもった鼻息。

みな息を潜め、連想しているようだ。
ヒグマ、か。

テントの周りをぐるぐると足音が回る。
どうやら、一頭。

激しい獣臭が鼻を突く。
誰からともなくみなテントの中央に集まって、身を固める。

そのうち、クマがテントの布に鼻を押し付けては激しく臭いを嗅ぐ、という行動を始める。

嗅いではテントの周りを巡り、また嗅ぐ。
みな、恐怖で声を殺し、震えながら身を寄せて動かない。

しばらくして、全員が身体を大きく振るわせた。
クマがどしん、どしんとテントに体当たりを始めたのだ。

テントの布が内側に大きくせり出して、クマの形を作る。
とにかくそれに触れないように身を縮める。

本気を出されでもしたらクマにとってはテントなど紙切れだ。
悲鳴を上げそうなのをこらえながら、テントの振動に耐える。

クマは五分ほど追突を繰り返した後、またしばらく円を描いて歩いた。

また、追突。歩く。
Eは泣いている。私も泣きそうだった。

明け方までそれが続いたあと、静かになった。
全員が少し眠る。
五日目。

鳥の声で目が覚めるが、霧は晴れていないのだろう、薄暗い。
ヒグマの臭いは途絶えていない。

どこかで、もしくはテントのすぐ側で様子を窺っているのか。
みな、黙りこくっている。

沈黙が数時間。

昼頃、足音が復活。
しばらく歩き回った後、また消える。

夕方、Dが勇気を振り絞って、わずかにテントの口を開けて外の様子を窺う。

「霧が、少し晴れている」

わずかに太陽の光が届き、晴れる兆しが見えた。

すぐに降りるべきだ、と主張する側と、明日まで待つべきだという側に分かれた。

まだクマがすぐそこに居るかもしれないし、今から下山を開始すれば、休憩も出来ないような登山道の途中で夜を迎えることになるのは明白だった。

完璧に霧が晴れたわけでもない。
悪天候で、しかも夜に慌てて行動するのは事故の元だ。

リーダーとして、下山を許すことは出来なかった。

恐怖の中、冷静な判断だったかは分からない。
ともかくも、その日はそれで日が暮れた。

誰も会話をしない。
恐怖からだけでなく、パーティの考えが対立したことに大きな原因があった。

その晩もクマは周囲を巡り、時折追突をしてきた。
誰も眠らない。
六日目。

昨日の晴れる兆しが嘘のように、霧が濃い。

朝起きても、終始無言。
クマを刺激しないよう、誰もものを食べない。

しかし、今朝からは周囲は静か。
臭いも薄らいだように思う。

数時間後、Cが外に出る、と言い出す。
みな反対するが「様子を見るだけ、クマも今なら近くには居ない」と言って、Cは許可を求める。

すぐに帰ってくるのを条件に、私はそれを許した。
Cが霧の中へ入っていった後、Bは私を非難したが、そのうちに黙る。

しばらくして足音。
Cの帰りを期待した私達はテントを開けようとしたが、すぐに手を止めた。

獣の臭いがする。
Dがか細い声で「Cは?」と言った。

獣の鼻息が昨日に増して荒い。
すぐに追突が始まる。

私達は声にならない悲鳴を上げて身を寄せる。

しばらく周囲を巡ったのち、クマは腰を落ち着かせたか、足音は消えるも臭いは相変わらず強い。

その日一日、クマの臭いが途切れることは無く、私達は動かなかった。

Cは帰ってこない。襲われたんだろうか。


――ここから少しずつ、日記の筆跡に乱れが見え始める。
漢字も平易、ひらがなが増えていく。
七日目。

今日も、霧がこい。
はらごしらえか、クマの気配が消える。

しばらくの沈黙の後、Eが山をおりる、と言い出す。
寝不足から目が血走って、声はヒステリック。

説得をこころみるも、きかず、Eは「おりたら助けを呼んでくる、待ってろ」と荷物を持って霧の中に消えた。
5人いたパーティはA、B、Dの3人になった。

クマのいないあいだにカロリーメイトなど栄養食を食べる。
会話はなし。時間がすぎる。

昼頃、外を見るが、霧は晴れない。

日ぐれ頃、クマがやってくる。
中央に固まって、クマのしょうとつに耐える。

湿気がはげしく汗がでるが、みな震えて、なんとか声は出さずにいる。
Eは下山できただろうか。


八日目。

霧ははれない。
朝になるとクマの気配は消えていた。

だれも「下山しよう」とはいいださない。
たまっていた日記を書いて気をまぎらわす。この日記を持ってぶじにかえりたい。

十四時ごろ、Bが狂った。
はじめに笑い出して、かんだかく叫んだあと、笑いながら何ももたずにテントをとびだしていった。

きりの中に彼を見送って、しばらく笑い声をきいていたが、それもそのうち小さくなった。

Dがしずかにゆっくりとテントの口をしめ、「いったな」と、久しぶりにDの声をきいた。

そのよるもクマが来た。
私たちは二人だき合ってよるが明けるのをまった。
九日目。

今日も、きりがこい。
クマはしばらく近くにいるようだったが、ひるごろどこかへいった。

中央でかたまったまま、すこし眠る。ひどくしずかだ。

夕方、クマのあしおとでおきる。
ついとつされると泣きさけびたくなるが、どうにかたえる。

かえりたい。
クマはなぜ、おそってこないのだろう。


十日目。

きょうもきりがこい
ごご、Dがたちあがってしずかにでていった

とめなかった

きりがはれない
クマはよるおそくにきた。きがくるいそうだ


十一日目。

きょうも    きりが   
  こい

  くまは いる
十二日目。

今日は霧が濃い。


このパーティの登山届は、事前に警察に提出されていたため、異常事態は発覚していた。
しかし、まれに見る悪天候に、ふもとの警察は捜索をしあぐねていた。

天候が復活して発見されたのは、無人のテントと荒らされた荷物。日記。

最初に出て行ったCは、テントから五十メートルほどのところで遺体で発見された。
喉の傷が致命傷となり即死。

次に出て行ったEは、登山道の途中、崖から滑落。遺体で発見。

Bは一キロほど離れた場所で無残に食い散らされていた。

Dはルート途中の崖下から遺体で発見。

Aは行方不明である。


以上が、俺が友人から聞いた話。

これは、北海道で山を登る人たちの間で一時期流行った都市伝説なのだそうだが、実際にクマに襲われ壊滅したパーティはあったようだ、とも友人は言った。
その人たちは、ほぼ素人。
登山届けも提出せず、発見も遅れた。

現場の状態から、どうやらクマに荷物を奪われたところを取り返しに向かい、返り討ち? にあったらしい。

北海道のフィールドを歩く皆さん、どうか、クマにはご注意を。
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子供の頃、近くの山が遊び場で、毎日のように近所の同世代の友だちと一緒にその山で遊んでた。

この山の通常ルート(小さな山なので、登山道というよりは散歩道)とは別に、獣道や藪をつっきった先には謎の廃屋があり、俺たちにしてみれば格好の遊び場だった。

小さな山だったから、俺たちは道のあるとこ無いとこ全て知り尽くしていた。
山はある意味、俺たちがヒエラルキーのトップでいられる独壇場だった。

しかし、俺たちにも天敵がいた。
それが“けんけん婆あ”だ。

廃屋に住み着いているらしい年取った浮浪者で、名前の通り片足がなかった。

けんけん婆あは俺たちに干渉してくることはなかったが、俺たちは山で遊んでいるとき、よく視界の端で捉えては気味悪がっていた。

しかし、好奇心旺盛な子供にとっては格好のネタであったのも確かで、どれだけけんけん婆あの生態を知っているか、どれだけけんけん婆あに気付かれずに近づけるかが、一種のステータスになっていた。

俺の知る限り、どちらかがどちらかに声をかけた、なんてことは皆無だった。


その日、俺たちはかくれんぼをすることになった。
隠れることのできる範囲は山全体。

ものすごい広範囲のように聞こえるが、実はこの山でまともに隠れることのできる範囲というのはごく限られている。
どちらかというと、鬼はそれら隠れることのできる場所を巡回するだけという、隠れる側としてはほとんど運次第な遊びだった。
で、俺はその「定番の隠れ場所」のひとつである廃墟に隠れることにした。

廃墟の壁には錆付いたトタン板が立てかけてあり、俺はそのトタン板の下に隠れていた。

耳を澄ましていると、「○○ちゃんみーつけた!」という声が遠くの方でしたりして、その声の方向から今鬼がどこにいるのかを推察しながらドキドキしていた。

で、鬼のいる場所が次第に近付いてきて、あっち行け!
でもそろそろ次は俺かなとか思っていたとき

「けんけん婆あが基地ンほうに行ったぞー!!」

という鬼の叫び声が聞こえた。
基地というのは俺の隠れている廃墟のことだ(俺たちは秘密基地と呼んでいた)。

しかし、これはカマをかけて隠れている人間を燻り出す鬼の作戦かもしれないし、例え本当でも、これはけんけん婆あをすぐ近くで観察して英雄になれるチャンスだ。
そう思って、俺はそのまま隠れ続けていたんだ。

とさっ、とさっ、とさっ

まさにけんけんするような足音が聞こえてきたのは、そのときだった。
この時点でもう後悔しまくり。

とさっ、とさっ、とさっ

片足で枯葉を踏む音が、もう廃墟のすぐ前、俺から5メートルほどしか離れていない場所まで近付いている。

見つかったら殺される!
そんな考えに取り付かれて、俺はもうマジビビリだった。
そこで俺はよせばいいのに、いきなり隠れ場所から飛び出して猛ダッシュで逃げるという選択肢を選んだ。

もう飛び出すやいなや、けんけん婆あのほうは絶対に見ないようにしながら必死で友だちの所まで逃げた。
で、事情が良く分かっていないみんなを半分引きずるかたちで下山。

そこで、初めて詳しい事情をみんなに説明した。
でもやはり、あの恐怖は経験した本人にしか分からないわけで。

逆に友だちは、そんなに近くまでけんけん婆あに近付いたことをすげぇすげぇと褒め称える始末。
俺もガキだったから、すぐに乗せられて、恐怖なんて忘れて多少の誇張を交えつつ誇らしげに語りまくった(実際はけんけん婆あの姿は見ないまま逃げ帰ったわけだし)。

でも、その話をすぐそばで聞いていたのがうちの母親。
そんな危ないことは絶対にしてはだめと、めちゃくちゃ怒られた。俺号泣。


その晩、俺の母親は他の両親や近所の大人(婦人会の人たち)、それにこの山の所有者の人を集めて話し合いを開いた。

なんでも、子供の遊び場付近に浮浪者の人が寝泊りしているのは、何があるか分からないので危ない。
だからといって子供に山で遊ぶなというのは教育上良くないので、ここは浮浪者の人に出て行ってもらおうと。

大人は山に浮浪者が住み着いているということを知らなかったらしく、皆すぐに同意。
もともと私有地の山だったので話も早く、所有者の人を先頭にぞろぞろと山に出かけていった。
でも結局会えなかったらしく、1時間もすると帰ってきた。
廃墟の入り口に退去願いの張り紙だけして戻ってきたらしい。

でもここで、俺たちは訝しげな顔をした大人たちに、本当に浮浪者が居ついているのかということを質問された。
子供の俺たちにとっては考えもつかなかった疑問の数々。

まず、例の廃屋は屋根と壁の半分が腐り落ちている状態で、浮浪者といえど、とても人間の住める場所ではなかった。
暖を取ることはおろか、雨風すらしのげない。
生活の跡らしきものも見当たらなかったらしい。

それにその場所。
「獣道や藪をつっきった先」と書いたが、途中にかなりスリリングな崖や有刺鉄線で遮られた場所があって、健常者でも辿り着くのに一苦労だ(俺たちは有刺鉄線の杭の上を上っていた)。
ましてや、片足の老婆が日々行き来できる場所ではないと。

また、大人は誰もけんけん婆あを見たことがないらしい。
特に山のふもとに住んでいる人間なら必ず目撃しているはずなのに、誰1人として見た人間がいない。

断言できるが、あの山で自給自足することなんて不可能だ。


そんな、これまで考えもしなかった疑問に困惑しているとき、俺の父親が帰ってきた。

話を聞いた父、すぐに

「なんだあの婆さん、まだいたのか……」

初の俺たち以外の目撃者。
父が何人かに電話をかけると、近所のオッサン連中が2人ほどやってきた。
父を含め3人とも同世代の地元の人間で、子供の頃よくこの山で遊び、俺たちと同じようにけんけん婆あに遭遇していたらしい。

なんと“けんけん婆あ”という呼び名は、当時からあったようだ。

懐かしそうに思い出を語る3人だったが……。

ここで、山に入る前から黙りがちだった山の所有者の人が、「実は……」と口を開いた。

彼はいわゆる地主様の家系で、彼の祖父の代には家に囲われていた妾さんがいたらしい。

しかしあるとき、その女性は事故か何かで片足を失った。

それが原因で彼女が疎ましくなった地主は、女性を家から追い出して自分の持っていた山に住まわせたらしい。

それ以降ずっと山に住んでいたらしいが、そう言えば死んだというような話も聞かない、と。

ただそれが本当だとすれば、けんけん婆あは軽く150歳を超えていることになってしまう。

それに例の廃屋も、もとはなんだったのか分からないが、30年ほど前は山を整備するための道具おきとして使われていて、その時点ではすでに誰も住んでいなかったと。

さっきまではしゃいでいたオッサン3人組も婦人会の人たちも、これを聞いて絶句。

地主さんがぽつりと

「明日、宮司さんに頼んで御払いして貰うわ」

という言葉で、静かにお開き。
普段気丈な両親も、目に見えて沈んでいました。

それ以降、私たちはけんけん婆あを見ることはありませんでした。

彼女が何だったのかは未だに分からず終いです。
はたして150歳を超える老怪だったのか、それとも何かの霊だったのか。

ただ、未だにあの「かさっ かさっ」という足音を忘れることができません。

今でもあの山で耳を澄ますと、どこか遠くのほうかでこちらに向かって近付いてくる片足の足音が聞こえるようで、怖くてなりません。
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今日は私ではなく、友人から聞いたお話を書きたいと思います。
名前がSやらMやらで、少しややこしいですが、暫く御付き合い下さい。

5〜6年前の事です。
私にはSさん(女性)という友人がいます。
これはSさんの彼氏(K君とします)の身近で起こったという話です。

K君には、Mさんというお姉さんがいます。
ある日、Mさんの親友(以降Aさんとします)が男と駆け落ちをし、急にいなくなってしまったそうです。

とても仲の良かったMさんにさえ、何一つ告げずにいなくなった位ですから、何か余程の理由があったんだろうと、Mさんは思っていたそうです。

Aさんは、ちょっとその辺にはいない様な綺麗な人なのだそうです。

でも、MさんもAさんの彼氏(以降Bとします)の事は何も知らないらしく、寧ろAさんが余り話したがらなかったと言う感じだったそうです。


Aさんが姿を消してから1年半程経ったある日、Mさんは用事で出かける為にタクシーに乗りました。

ところがMさんは、そのタクシーに乗った途端、もの凄く嫌な、不穏な空気を感じたらしいのです。
何が嫌なのか釈然としませんが、とにかく不快というか、乗っていたくない様な感じだったそうです。

運転手は30過ぎ位の、少し嫌な目付きの男でした。

その不快感は、この運転手の目付きのせいかとも思いましたが、取りあえず乗ってしまったものは仕方がないので、目的地まで向かうように告げました。
暫くタクシーは走り続け、]](地元ローカルな地名)と言う所に差掛かった時、Mさんは急に物凄い耳鳴りがしたそうです。
1分程経つとすぐに治まったので、何だったんだろう…と思っただけで、特に気にしなかったそうです。

そして無事タクシーは目的地に着き、Mさんは車を降りました。
降りた途端に、例の嫌〜な感じはなくなり、やっぱり運転手の目付きや雰囲気が自分に合わなかったのだろうと思いました。

その夜、Mさんは不思議な夢を見たそうです。

行方知れずになっているAさんが出て来て、Mさんに

『もうすぐやからね、もうすぐ会えるから』

と言うのだそうです。 

Mさんは、Aさんの事がずっと気になっていたので、それで夢にまで見たんだろうと思ったそうです。

しかし、その日から、Mさんは度々Aさんの夢を見るようになって、その度に

『Mに会いたいわ。会いに来て欲しい』

などと、毎回同じ様な事を言うのだそうです。

不可解に思ったらしいのですが、まぁ、夢なんだし、本来夢とは不可解なものなので、特に深刻には考えていなかった様です。

そして、また数か月が経ち、Mさんは会社帰りに寄り道をしていて、すっかり遅くなってしまい、終電に間に合わず仕方なくタクシーで帰る事になりました。
Mさんは、駅の近くに停まっていたうちの一台に乗込みました。

すると、またもや乗った途端に、先日の嫌な感じが襲って来たらしいのです。
まさかね……と思いながら、運転手の顔をちらっと見てみました。
数か月と同じ運転手だったのです。

一瞬、何だか背中がゾクッとしたのだそうです。
あの時と全く同じ、不快で嫌な感じ。

やはりこの運転手のせいだったのだと思い、思わず降りてしまおうかと思ったらしいのですが、瞬時にドアは閉められ、諦めてそのまま我慢して帰宅する事にしたのです。

Mさんは、行き先を勿論、【自宅の近くまで】と運転手に告げたのですが、暫くすると、途中で頭の中がもやもやとし始めて、急にある地名が浮かんで来たそうです。
まるで誰かがMさんの脳内に【]]へ行け】と指示しているかの様な、そんな感じだったそうです。

急にどうしてもそこに行かなくてはならない、と言う気持ちになり、運転手に

『用事を思い出したので、]]を経由して貰えますか?』

と、気が付いたらそう言っていました。

運転手の男は、低い声で

『はい』

と返事をすると、]]への路を走り始めました。

]]に差掛かったすぐ、Mさんは急に耳鳴りがしだしたのです。
そして、数か月前、この男のタクシーに乗った日の事を思い出しました。

『そういえば、あの時もこの辺走ってる時に急に耳鳴りがしたなぁ…』

Mさんは、何だかとんでもない事に足を踏み入れようとしているのではないかと、不安と恐怖でいっぱいになったそうです。

でも、不思議な事に、]]に行かなくてはならないと言う気持ちだけは萎えないのです。

と、]]の中のある地点に着いた時、それまでは軽いものだった耳鳴りが、突然頭の中で鐘を打ち鳴らされたかの様な大音量になったのです。
最早、それは耳鳴りではなく、何かの警告音のような音だったそうです。

Mさんはたまらず、

『ここで停まって下さい!』

と、運転手に怒鳴りつける様に言ってしまいました。

運転手がタクシーを停めると、Mさんは自分でドアを開け、外に飛び出しました。

すると、大音量の耳鳴りは段々と弱くなって行き、今度は次第にそれが頭の中に語りかける様な、声ではないけれど、間違いなくMさんに語りかけている何かを感じたのです。
『私はこの場所に来なくてはいけない。ここで何かをしなければならない』

Mさんは、そんな感じの事が浮かんで来たそうです。

ハッと我に返ると、タクシーの中の男は怪訝そうにMさんの方を見ていました。

Mさんは慌てて車内に戻ると、

『すみませんでした。…初めに言った所までお願いします』

と告げ、再びタクシーは走り出しました。

道中、運転手の男の嫌な目付きがミラー越しにMさんの顔を凝視していたのが気味悪くて仕方なかったそうですが、何とか無事家に帰れたそうです。


と、取りあえずここまでの話を、K君とSさんは直接Mさんから聞いたそうです。

MさんはK君に、

『K、どない思う? 私がタクシーの中で居眠りして夢でも見てたんかと思う? それともタクシーの運転手があんまりにも嫌で、思い込みしてたんやと思う?』

と、必死で訴えかける様に聞いて来たそうです。
K君は何と返事したら良いのか分からず、暫く黙り込んだ後、

『いいや、俺は姉ちゃんが嘘ついてるとも、夢見てたんやとも、頭おかしくなったとも思ってないよ。世の中には不可解なものがいっぱいあるからな』

と、Mさんの話を真面目に受けたそうです。

そして、もう一度、その場所へ行ってみた方がいいんじゃないかと提案したそうです。

Sさんも、自分も一緒に行くから、行ってみましょうと、3人で]]に行くことにしたのです。
Mさんが酷い耳鳴りに襲われた場所から少し奥に行くと、小さな公園があって、そのまた奥の方に、昔地元の領主か何かが建てたという城の跡があります。

その城跡まで行くと、Mさんはまた耳鳴りが始まったそうです。

『K! ここ! ちょっとこの城跡を調べて! ……私、ちょっと無理…』

と蹲(うずくま)ってしまいました。

『Kちゃん、お姉さんは私が見とくから! 頼むわ!』

SさんがMさんの背中を擦りながらそう言うと、K君はその城跡を調べ始めました。

地元の領主が建てたにしては、周りには小さな堀まであって、かつてはちゃんとした城が建っていたのだなと思われるような感じです(私自身は行った事がありませんので、どんな感じかは分かりませんが…)。

K君は、その堀が何となく気になって調べてみたそうです。

…が、何も不審な物は見当たらず、後は調べると言っても、むき出しになった塀の跡位しかなく、一旦Mさん達の元へ戻ったそうです。

『姉貴、何にも無いぞ? …って言うか俺には分からん』

と、K君は特に何も不審な物はなかった事を告げました。

しかし、相変わらずMさんの耳鳴りは続いています。
かと言って、自分達ではどうにもならないし、その日は一旦帰る事にしたそうです。

Mさんも気になってはいたものの、その後その場所に足を向ける事もなく、また数週間が経ちました。
Sさんがテレビを見ていると、ニュースで例の城跡の様な場所が映っていました。
Sさんは、映像を見て驚愕しました。

あの城跡の堀の跡から、半白骨化した女性の遺体が見つかったとの事だったのです。

Sさんは、直ぐさまK君達にそれを知らせました。

Mさんは、それを聞くや否や、

『Aや…それはきっとAや!』

と叫びました。

まさか…とは思っていましたが、残念ながら、後日その遺体はAさんだと判明しました。
恐らく死後1年は経っているとの事。

Aさんは、自分を見つけてくれる様、Mさんに訴えかけていたのでしょう。
が、それよりも、後日もっとSさん達を震撼させる出来事が起こるのです。

Aさん殺害の犯人として逮捕された男は、あの日Mさんが乗ったタクシーの運転手だったのです。

Mさんはそれを知った時、へなへなとそのまま倒れてしまったそうです。

Aさんを殺した犯人と一緒に、Aさんを遺棄した現場に行った事になるのです。
そう考えてみると、二度目に男のタクシーに乗った時、ミラー越しに物凄い目でMさんを凝視していた事…あれは明らかに悪意を孕んだ目だったと。

Aさんは、Mさんに自分の遺体の場所だけでなく、自分を殺めた犯人をも知らしめたかったのでしょう。

世の中には本当に理屈では語る事の出来ない不可解かつ不思議な事があるものです。
自分も少々ですが、霊的な経験はして来ましたが、これ程まで哀しい話をリアルに聞いた事がなかったので、本当に驚きでした。

駄文な上、長文ですみません。
読んで下さって有り難うございました。
<追記>

Aさんを殺した犯人のタクシー運転手は、つまり、Aさんが一緒に駆け落ちしたと言う彼氏のBだったのです。

なんだか訳ありの男だった為、MさんはAさんからBの事は本当に何も聞いていなかった様です。

駆け落ちしてから殺害されるまでの間、Aさんがどんな生活をしていたのか…などはMさんにも全く分からないそうです。
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昔俺は横浜に住んでたんだけれども、俺が厨房の時の話。

親父が教会の神父やってたの。
神父にしては結構ざっくばらんな性格で、結構人気もあったんだ。

まぁ俺なんて信心深いほうじゃないし、一家の決まり事と言えば食事の前に軽く祈るくらい。
んで、割と平穏な日々が続いてた。

ある日、姉貴がアンティークショップでファッション雑誌くらいの大きさの古書を買ってきたんだ。

この姉貴が結構なオカルトマニアで、その手の物に目がないわけ。
何か買ってくる度に親父は、

「聖職者の娘がこんな趣味に走って洒落にもならん」

的な事を愚痴ってたんだ。

中には数点、結構やばい物もあったらしく、親父が

「これは今すぐ返して来い、処分しろ」

と注意する事も度々あった。

今回買ってきた物も、どうやら洋書のオカルトめいた本らしかったんだ(姉貴は英語堪能)。

早速買ってきたその夜、俺と姉貴(俺も無理やり付き合わされた)で、「悪魔を呼び出す方法」ってのをやってたんだ。

30分くらいやってたかな。
特に何も起こらなかったので興冷めして、2人でTVでも見る事にした。

んで夜になって、家に親父が帰ってきた。
開口一番、

「何だこの獣の匂いは? 犬でも連れ込んだのか?」

そう言うと、姉貴の部屋から匂いがすると言って、部屋に入るなりその洋書を見つけた。
「○○子(←姉貴の名前)、ちょっと来い!」

親父は凄い剣幕で怒鳴り、姉貴と俺は急いで姉貴の部屋へ向かった。

「……○○子。お前これがどんな物か分かってるのか?」

「いや……ただの交霊術の本でしょう?」

「馬鹿野郎! この本のカバーは本物の人皮だし、書いてある事は全部邪悪な黒魔術だ! 良いか? ただの黒魔術の本なら対して害はないが、これは恐らくアンチキリストの教団か人物かが本気で呪いを込めて作った本だ。普通人皮なんて本当に使おうなんて思うヤツは滅多にいるもんじゃない……すぐに処分する!」

そう言うと、親父は本を取り上げて、家から少し離れた教会へと戻って行った。

1時間ほどして親父は家に戻ってきた。

「獣の匂いがまだ消えてない……お前ら、まさか本に書いてある事を何かやったか?」

姉貴が渋々白状すると、親父の平手打ちが飛んだ。
親父の暴力は初めて見た。

「オカルトにはまるのは別に良い。だが自分が実行してどうする! お前は賢い子だから、知識を得るだけで満足出来る子だと思っていたが……」

そう言うと親父は、泣く姉貴に、明日○輔(←俺の名前)と一緒に教会に来なさい、と言ってその日の話はそれで終わった。

その夜の事。
トイレに起きた俺がボーッとしてると、誰かが家の中を歩き回る音が聞こえた。
親父か姉貴だろ、と思い大して気にしなかった。
んだけど、玄関のチャイムが鳴った。3回。
夜中の3時過ぎだ。こんな時間に尋ねて来る人なんていない。

俺は玄関に見に行ったんだけど、誰もいない。
部屋に戻ろうとすると、今度はトイレの「内側」から3回ノックの音が。
すぐさま調べたが、誰も入ってない。

今度は台所から「ピシッ」という乾いた音が3回。
流石に怖くなってきた所、親父が2階から降りてきた。

「悪魔は3と言う数字を好んで使う。心配するな。まだ“進入段階”だから。“制圧段階”に移る前に……」

「ぎゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

親父の言葉を遮るかの様に、2階の姉貴の部屋から絶叫が聞こえた。

俺と親父は急いで姉の部屋へと駆け上がった。

ドアを開けた。姉がいた。
一瞬、何なのかよく分からなかった。

姉貴の様な姉貴の様でない物がいた。
姉貴はベッドに座ってこちらを見ていたが、何かがおかしかった。

数秒経って気がついたんだけど、目が全部黒目だった。舌を出していた。長すぎる。
わけのわからない言葉でわめき散らしていた。

「進入段階をこんなに早く終えて制圧段階に移行するなんて……○輔! ○○子を今すぐ教会に連れて行くから手を貸せ!!」

親父の命令で、俺は姉貴が暴れて傷つかない様に手足を縛り、姉貴を担いで車庫に置いてあるランクルへと急いだ。
車内でも姉貴は暴れに暴れ、取り押さえるのがやっとだった。
運転する親父に俺が「取り憑かれたの?」と聞くと、「そうだ」と言い、「叫んでるこれ、何語?」と聞くと、「正確なことは言えんが十中八九、ヘブライ語」と答えた。

教会に向かう途中、ランクルで3回黒猫を轢いた。
信号が青になったばかりなのにすぐ赤に変わったりした。
3回エンストした。

親父は冷静に運転し、何とか教会に着いた。
暴れまわる姉を教会の椅子に縛り付け、親父は奥の部屋から色々な道具を持ってきた。

「まさか映画とかでやってるような悪魔祓いやんの? やったことあんの!?」

「1度だけある」

「成功したの?」

「その時1人じゃなかったんで、上手くいったと思う……」

「俺に手伝える事は」

「人間の霊じゃないんだから、迂闊な事はするな。○○子の後ろに立ってろ。もし万が一ロープを引きちぎったりしたらすぐ押さえつけろ」

そういうと親父は、よく映画で見るような「父と子と精霊の〜」的な事を読み上げて、姉貴に聖水を振り掛けたりしていた。
聖水が顔にかかる度に、姉貴は凄い形相で吼え、

「あの女が承諾するからいけないんだ(イエスを身ごもったマリアの事? 後で親父が教えてくれた)」
とか、

「あいつが死んだりしなければ俺たちは王になれたんだ(死んだイエスの事? これも後で親父から)」

などと叫んでいたらしい(ここは何故かラテン語だったそう)。

30分ほどたっただろうか。ふと姉貴が我に返った様に

「お父さん、助けて!!」

と叫ぶようになった。
俺が姉貴に近づいて話しかけようとすると、

「エクソシズムの最中に、悪魔に話しかけるな! ○○子かも知れんし、悪魔かも知れん。無視しろ」

と親父が注意した。

そして親父は必死に悪魔の名前を聞き出そうとしていた。
名前が分かれば、悪魔の力が激減するらしい。
親父も俺もビッシリ汗をかいていた。
姉の口からは糞尿の匂いがした。

「汝の名を名乗れ!」

「lmvdじthつbhbんgfklbんk(←意味不明な言葉)」

「聖なんとかかんとか(←うろ覚えすまん)の名において命ずる、汝の名を名乗れ!!」

「い一ーーーーーーーーーーーっいっいっいーーーーっ」

親父が、聖遺物のキリストが死後包まれた布の断片(親父も本物かどうかは知らんと言ってたが、効果があったので聖なる物には間違いないかも)を姉貴の額に押し付けたとたん、黒目の姉が椅子をロープごと引きちぎって叫んだ。

「お 前 ら は 8 月 に 死 ぬ !」

それと同時に、教会の窓という窓が

コツコツコツコツ

コツコツコツコツ


コツコツコツコツ


と鳴り出した。
何かと思って見たら、窓の外にカラスがビッシリ。嘴で窓をつついていた。

この真夜中にカラスが一斉に行動するなんてありえない。
流石に限界だった俺は、多分眠るように気絶したんだと思う。
気がついたのは深夜の緊急病院。

どうやら姉は脱臼してたので、あの後すぐに親父が病院に連れて行ったらしい。
俺は軽い貧血と診断されたようだ。

「姉貴に憑いてたヤツはどっか消えたの?」

「ああ、今のところはな」

「また来る?」

「来るかもしれんし、来ないかもしれん。あっちの世界に時間軸はないから」

「8月に死ぬ、って怖くない?」

「思ったより短時間で済んだんで、そんなに強い悪魔じゃなかったんだと思う。下級なヤツのつまらん捨て台詞だ。気にすんな」

「結局の所、悪魔ってなんなの?」

「分からん……分からんが、ああいうのがいる事は確かだ。1つお前に言っておく。今回はまだ憑依の途中だったんで、○○子の人格がまだ残ってたから上手くいった。将来お前が神父になるとは思わんが、もしも“完全憑依”されたヤツに出会ったら、その時は……」

「その時は?」

「逃 げ ろ !」
その後、姉貴にも俺にも変わった様子もなく、8月に家族の誰も死ぬ事もなく、普通に暮らしていた。

3年前。出来ちゃった結婚で姉貴が結婚した。

その子供の体に666の刻印が……なんてオチはないが、3歳になった息子が先日、妙な事を言ったのだと言う。


「ママ、海に行くのは止めようね」

と。
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最初に断っときますが、長くなります。

ある夏の日の話をしようと思う。
その日は、前々から行くつもりだった近場の神社を訪ねた。

俺は少々オカルトな趣味が有り、変な話や不思議な物等が大好物だった。

この日も、知人から聞いた神社に行ったのだった。
知人の話だと、何でもその神社、大量の人形が安置されてるらしかった。

俗に言う『人形寺』と似たようなモノか。
だが、有名な神社ではなく、報道番組で取り上げられた事などは全く無い。
そんな場所だった。

近場と言っても、車で一時間半掛かった。
途中山道に入り、ガタガタ揺れる車内で一人目的地に思いを這せていた。

神社に着き、車を停めて階段を登った。
結構長い階段で、日頃の運動不足からか、息を荒げながら妙な高揚感に包まれていた。
階段が長ければ長い程に、楽しみが増す気がした。

段差で切れていた景色から、遂に神社が顔を現す。

立派な鳥居をくぐり、眼前に神社を捉えた瞬間! ……妙な耳鳴りがした。

正直、こんな気分に成ったのは初めてだった。
自慢じゃないが、俺には霊感なんてモノは無縁の沙汰だ。

だがその感覚は、本物で臆する処か、逆にヤル気が湧いて来た。
なんのヤル気かは知らないが……。

早速境内を見回す。
立派な神社だ。結構広いし、造りも綺麗だ。
だがやはり、そこには普通じゃ無い光景が広がっていた。

人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人

神社に治められた人形達は、治まりきらずに床下まで浸食している。
いくつもの『目』に見られる様な、突き刺す視線を感じた。
それだけ圧巻だった。

余りに非現実的な光景に、暫く心を奪われ……る暇は無かった。

正面の大きな建物……恐らく本殿だろう。
そこから袴姿の人間が慌てた様子で出てきた。
一人、隣の建物に走っていった。

何か有ったか!?
不謹慎にも「ラッキー」と心の中で呟き、人形が安置されてる方の、袴の男が入って行った建物に駆け寄った。

すると、本殿からまた人が二人バタバタと出てきた。
一人を捕まえ、何があったか尋ねてみた。

「忙しいから、後にして下さい」

男はそれだけ言うと、またバタバタと人形の中に消えて行った。

一体何なんだ?
釈然としない面持ちで佇んで居ると、本殿からこれまでとは違う、正装とでも言うのだろうか? そんな格好の神主と思われる人物が出てきて、俺に声を掛けてきた。
「人形を治めに参られたのかな?」

俺は「いいえ、ただ参詣しに来ただけです」と答えた。

すると神主らしき人は、悟すように

「なら帰りなさい。悪い事は言わない。今日は都合が悪い。また出直して来なさい」

と静かに言った。

「何かあったんですか?」

思い切って尋ねてみたが、神主は「関わらない方が良い」とだけ言い残し本殿に帰っていった。

引っ越しみたいに騒々しい中に、自分は凄く場違いな気がした。

どうせ人形は逃げない。
此処は神主の言う通り、改めて出直すか、と思い帰ろうとした時、ゾロゾロとさっきの三人+二人(最初から建物の中に居たのか?)が出てきた。

棺の様な大きな箱を抱えている。

奇妙な一行は本殿の裏に消え、後から神主も出てきて、またもや裏に消えて行った。


ふと気付けば、自然と本殿の方に歩みを進めている自分が居た。

警告に対する恐怖心よりも、好奇心が勝っていた。
此処まで来たら、見るしかない。

本殿の脇の道を進んでいく。
道は木が生い茂り、薄暗く、苔がむしている。

少し進むと、前方が開けた広場の様な場所に出た。

神主達は慌ただしく、なにやらキャンプファイヤーの木組みの様なものを、四方に作っていた。
真ん中には、件の箱が一番頑丈そうな木組みの上に置いてある。
神主と目が合った。
怒られるかと思ったが、別段気にも停めない様子で作業を続けていた。

何だか許可を貰った気に成ったので、木陰から広場に踏み出した。

何が始まるのだろうか?
期待と不安でソワソワしながら事の成り行きを見守って居ると、視界に人が映った。

神主でも袴姿でも無い。普通のじいさんだ。
俺の右、20メートルくらいの所に立ち、俺と同じように神主達を見ていた。

俺はおじいさんに近付き、話掛けた。

「すいません。今から何かあるんですか?」

「人型焼きだよ」

おじいさんは気さくに答えてくれた。

「今から人形を焼いて供養するのさ」

「人型焼き……ですか」

予想はしてたが、当たりだ。
今日来て正解だった。面白いモノが見れそうだ。

それにしても、何でこんな時期に?
俺はてっきり、こう言うのは年末とかの締めにやるモノだと思っていた。
だが今日は特に特別な日でも無い。

「いつも見に来るんですか?」

おじいさんに尋ねた。

「いつも人型焼きが有るわけじゃないからねぇ。いつもはこんな時期にはしないし、こんなに大きな人形を焼くのも初めてだ」

少し間を置いておじいさんが答えた。

「今日は特別なんだ」

もう一歩踏み込んでみる。

「『特別』って何かあったんですか?」

俺の問掛けに、初めて少しだが表情が曇った。
地雷を踏んだか? ……と思ったが、じいさんは暫く考えた後に口を開いた。

「信じられん話かも知れんが」

そう言う話なら大歓迎である。
「実はな、あの人形は元々、本殿の脇に在る倉庫に厳重に保管されとったものだ」

「だがしかし、今日の早朝、3日振りに神主が倉庫の点検をした時、あの人形が消えとった」

「神主と神社の者が総出で探し、日が明るく成った時にやっと見付かった」

「何処に有ったと思う?」

何なんだ? 勿体ぶらないで欲しいな。
……と思いながらも、乗ってやった。

「何処に有ったんですか?」

「明るく成るまで、だ〜れも気付かんかった」

「それもその筈、人形は誰が乗せたか本殿の屋根の上に置かれていた」

「これには神社の者も心底驚いた」

「何せ人形はマネキンだ。成人男性くらいは有るマネキンを高い本殿の上に持って行くのは、容易ではない」

「大一、悪戯にしては手が込んでるし、あんなトコにやる理由が判らん」

「兎も角、考えててもラチが明かんので、マネキンを下ろす事にした」

「だが梯を登って下ろす最中に、マネキンを抱えた男が足を滑らせ、マネキンと一緒に落下した」

「男は足を折ったらしく、すぐに病院に運ばれて行った」

「男はしきりに『人形が噛んだ』『人形に噛まれた』と訴えて居った」

「これはいかんと、神主が慌てて型焼きの準備をし、今に至る訳だ」
「随分詳しいんですね」

にわかには信じられない話だったし、完全に疑ってる訳では無いが、ちょっと意地悪してみた。

「毎朝ここを散歩していてね。マネキンを下ろす処からずっと見ていた」

成程。


おじいさんの話を聞いてる内に準備は着々と進み、さぁ火を着けようかと言った感じだった。

神主さんが突然掛け声を上げた。
それに続いて袴姿の男達も一斉に呪文? お経? の様なモノを唱えながら火を持ち、箱を囲んだ。

よく見ると、箱は針金の様な物でグルグルと巻かれていた。

一人目の袴男が、箱の四隅の木組みに火を灯した。
チリチリと煙を上げ、やがてゴウゴウと燃え出した。

それに続いて二人目、三人目と、とうとう箱を除く全ての木組みに火が灯り、激しい火柱を創った。
50〜60メートルだろうか? 結構離れているこちらにまで熱気が伝わる様だった。

最後は、神主さんが真ん中の木組みに、松明を投げる様な感じで火を着けた。

四本の木組みの中には木の葉が入れてあり、白い煙をあげていたのだが、真ん中の箱の辺りからは黒い煙がモクモクと沸き上がっていた。

「うっ……!」

俺は思わず鼻を摘んだ。

いつの間にか、今までかいだ事も無い様な獣の様な異臭が辺りに立ち込めていた。

神主達の声が一層大きく成った気がした……次の瞬間!
「ぎょぇぇぇぇ〜!! ぎゃあぁぁぁぁ〜! やわなは@〇※▽@◆……」

声に成らない叫び声と言うか、今まで聞いた事も無い悲鳴が広場の静寂を引き裂いた。

と同時に、箱がガタガタと激しく揺れ出した。

情けない話だが、正直俺は腰を抜かしそうだった。
走って逃げようかとも思ったが足が動かない……完全にすくんでしまった様だった。

箱はバンバンと内側から叩かれ、炎に包まれて居る。
ひょっとして人殺しなんじゃ……とも思った。

凄惨な光景だった。
火はゴウゴウと燃え、箱はガタガタと揺れ、神主達は声を上げ、悲鳴はやがて言葉に変わって居た。

「出せ〜! 此所から出せ〜! 返せ〜返せ〜……」

しゃべってる……まさか人間……いや、そんな筈は無い。
大一、あの状況下で人間がしゃべれるのか?

最初は「返せ」だと思っていたが、後から違うと気付いた。

「かえせ〜かえせ〜! 俺を妻と子供の所に帰せ〜!」

箱は依然とガタガタ揺れ、バンバン叩かれている。
「お前は〇〇(男の名前)では無い!」

神主が突然怒鳴った。

「お前は人形だ! 人形なんだ! 有るべき姿に戻れ!!」

そう言うと、またも神主は呪文を唱え始めた。

「ちがう〜! 俺は〇〇だぁ〜! 帰せ〜!!」

箱は一層揺れだし、端の蓋が焼け落ち……と言うより弾け飛んだ。
ソコから焼けただれた手が生えて、暴れて居た。

すると、突然火が弱まり、消えてしまうのでは? と思うくらいに頼り無くなった。

神主は振り向くと、置いてあった桶を持って来た。

桶の中には水の様な物が入って居たが、すぐに酒だと思った。
と言うのも、獣の臭いに混ざって、さっきから酒の臭いが漂って居たのだ。

神主は酒を杓で掬うと箱に掛け始めた。

おいおい……いくらアルコールだと言っても、どう見たって日本酒だぞ。
気化しにくく、発火性も低い日本酒を掛けても止めを刺すだけだ……と思ったが、予想に反して火は驚く程に燃え上がった。

「ぎゃぁぁぁぁ! いぎぃぃぃぃぃ! おのれええぇぇ〜! 妻と子供に会わせろ〜! 帰せ〜! 俺を帰せ〜!!」

「お前は〇〇ではない! 人形だ! お前はお前に帰るんだ!!」
そう言うと神主は懐から手鏡を取り出し、箱に投げ入れた。
そして、周りの木組みを袴姿の男達が中心に向かって倒し始めた。

最後に神主は桶を担ぐと、残りの酒を全部ぶっ掛けた。
炎はこれまでより猛々しく燃え上がり、巨大な火柱と成った。

「ぎょぇぇぇぇ〜!!」

それが最期だった。

それからは叫び声がする事も、箱が揺れる事も無かった。


気付けば、俺は汗だくに成って居た。
神主達は、火がくすぶるまで呪文を唱えていた。

目の前で起こった出来事を否定したい自分が居た。

俺は確実に昨日までの俺とは違うだろう。
日常を一歩踏み外した……ただそれだけなのに、見える世界は色を変えていた。

その後、神主が俺に歩み寄って来た。
俺は変に身構える事も無く、神主の話を聞いた。

「一応祓って上げるから、ついてきなさい」

俺は神主を追って本殿に入った。

じいさんは神主と先を歩きながら何やら喋って居た、どうやら顔馴染みの様だ。

本殿で二人は簡単な御払いを受けた。

その後、茫然自失と言うか、府抜けた感じだった俺に、神主さんが詳しい事情を話してくれたから、少しスッキリした気がした。

「あの人形はね……長い間、人として暮らして来たんだよ」
「あのマネキンを連れて来た御婆さんが言うには、自分の娘が大事にしていたそうだ」

「娘と孫は事故に遭って死んでしまったけど、あのマネキンだけは無傷だった」

「御婆さんは遺品だけど気味が悪くて、仕方なく此所に持って来たんだよ」

「事故に遭った時も車に乗せてたくらいだから、きっと相当大事にされてたんだろう。余りに感情移入すると、次第に人間は人形が生きてると勘違いしてくるものなんだ」

……この後の言葉は、今でも頭から離れない。

「人形も同じだ」

「余りに大事にしすぎると、自分が人間だと勘違いしてしまうんだよ」

「何故なら、彼等も生きているのだから……」


忘れた時を取り戻す様に、蝉が鳴き出した。

ある夏の日の出来事だった。
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高校生時代、陸上部で短距離走をやっていた俺は、夜学校が閉まってからも練習をする、熱心なスポーツマンであった。

といっても、学校内に残って練習するわけではなく、自宅周辺の道路を走るのである。

中でも練習に好都合な場所は、100メートル程の長さのある橋の歩道であった。
住宅地では不可能な100メートルダッシュの練習が思いっきりできたのだ。

だが、その橋には縁起の悪い問題があった。

自殺である。

河を渡るために30メートル程の高さがあるその橋は、街灯も少なく、投身自殺者にとっても絶好のポイントだったのである。

実際、飛び降りポイントらしき橋の中間点には、花が添えられていることが多かった。

投身自殺者があの世へ向かう速度よりも速く突っ走ることに情熱を注いでいた当時の俺は、そんなことはお構いなしに橋を練習に使っていた。

むしろ自殺が起こらないようパトロールしてやる! くらいの意気込みであった。


ところがある日、奇妙な光景に出くわした。

白いワンピースを着た少女が、夜の橋の歩道を疾走していたのである。

(ユーレイ!? …でも、脚あるし…)

俺が訝しげに遠くから眺めていると、少女が走り終わった先に数人の人影が見えた。

四角い機材を担いだ者、槍のような棒をかざした者、照明を持った者…。

(あぁ! 映画か何かの撮影か!)

学生らしき団体の、映画製作現場だった。

しかし、そいつらの行動が眉唾モノであった。

「あれ、ジャマだよね!」

「でも触ったらヤバいって!」

「いーからw ポイしちゃお♪」

そんな旨のことを話してたと思う。
メンバーの一人が橋の中間点に歩み寄り、何かを拾い上げたかと思うと、河へと投げ捨てた。
(オイオイ、あの場所って!)

辺りが妙な静寂に包まれる…。

年上のグループに文句つける勇気もなかった俺は、彼らが立ち去った後、橋の中間点に行ってみた。

案の定、昨日まであった花が無い、花瓶ごと…。

(何てことしやがったんだ奴等は…!)

色々な意味で、愕然とした。


翌日、俺は日頃からのショバ代的な意味合いも含めて、捨てられた花の代わりに適当な野花でも置いてやろうと考え、橋へ向かった。

「何じゃこりゃっ!?」

橋に到着した瞬間、思わず声に出した。

紫の夕暮れ色に染まった橋の歩道、いつも花が添えられている場所、その場所に、大量の花束が添えられていた。

イヤ、山盛りに積み上げられていたといった方が正しい表現であろう。大型ゴミ袋2杯分くらいの量だった。

おまけにどの花束も茶色くカラッカラに枯れ果てていたが、それを束ねている真っ白な包み紙がやけに真新しく、不気味に俺の目に映った。
明らかにドライフラワーなどという爽やかな類のモノではない…。

(昨夜花が捨てられ、憤怒した遺族の異常行為であろうか?)

何にしろ恐ろしくなった俺は、集めてきた野花だけはさっとその場に置き、そそくさとその場を離れた。

しばらく歩き、遠目に橋を振り返る。

その時、異様なモノが目につく。

(…人の…手?)
橋の欄干の隙間から、橋の歩道に向かって、何か白っぽい棒状のモノが伸びている。

もしあれが人の腕だとしたら、橋の外側にぶら下がって掴まり、歩道に向かって手を伸ばし這い上がろうとしている状態である。

自殺未遂の人? …イヤ、アレは人じゃない…!

直感であった。
そう思って身構えつつ、目を凝らした次の瞬間…

「うぬぅ…おぉ〜ん…」

気だるそうな女の声が響き、水にまみれて海草のようになった長髪が、

べったん…

と音を立て、欄干の隙間から歩道にはみ出てきた。

(頭も…上がってきている…顔が…見える!!)

目を逸らそうとした矢先の、一瞬だった。

今度は長髪に覆われた青白い人間の頭部のようなモノがにゅっとはみ出てきて、俺の置いた野花を手に掴んでがつがつと口に含み、

ずりゅり…

手・髪・頭ごと、橋の裏側へ引き摺られるように一気に引っ込んでいった。

欄干の隙間は、どうやっても人間の頭部が抜けられない幅である。
その隙間を、青白い頭部が変形しながらすり抜けていた…。

次の瞬間、俺は校内最速記録を確実に更新する勢いで自宅まで突っ走った!(ヤベー、マジ脚力鍛えといて正解だったわ〜!)。


翌朝、母親から「あの橋にはもう行くな」と言われた。

母ちゃん霊感持ちか? と意外に思いつつ、理由を訊くと…
「あの橋の近所の○○さんがね、昨夜橋の上で何かが燃えてるのを見たんだって。放火魔みたいなアタマのおかしい人の仕業かもしれないから、もう一人で行くのやめなさい」

(その燃えていた「何か」って…)

俺は昨日見かけた枯れた花束のことを母親に話した(流石にバケモンのことは言わないでおいた…)。

「じゃあその花束が燃えてた…? でもそれだとハナシがおかしくなるんだよね…」

母親が付近住民のハナシを整理した限りでは、炎は昨夜数時間にわたって橋の上で燃え続けているのが目撃されていたそうだ。

枯れた花がそんなに長時間燃え続けるものだろうか?

疑問に思った俺は、その日の学校帰りに、もう一度橋まで行ってみることにした。

流石に一人では恐くて無理だ。
部活仲間を一人巻き添えにして、通学用の自転車を二人乗りして現場へ向かった。
橋に到着。

時間帯は前日来た時とほぼ同じで、辺りは薄暗い…。

「おっ、おい! あんまそれ以上進むな!」

運転する友人に呼びかけ、橋の中間点から20メートル程離れた所で自転車を止めさせる。
いきなり接近するのは危険だ。

「ハイハイ、言われなくたって、俺こんな自殺スポット来たくねぇよ…」

元来ビビリ屋の友人である。

「わるいねw でさ、あそこの辺で何かが燃えてたんだと思う。何か見える?」

ポイントを指差す俺。
薄暗い闇に目を凝らす友人と俺。

いつの間にか、風が吹き始めた。

「あの中間点? …モロ何か落ちてんじゃん! うわっ、キモッ! 何あの白いの!?」

雑誌くらいの大きさの、白い紙だろうか、橋の歩道に沿って何枚も並べて置かれているようだ…。

不思議である。
風に吹かれてはためいているのに、その場にとどまって飛ばされない紙の列。

思わず歩み寄っていく俺と友人。

(…真っ白な…紙…?)

昨日見た、花束の包み紙の残骸のようにも見える。

紙から数メートルの位置まで近寄ると、紙が飛ばされすにいる理由がわかった。

紙が釘で打ち付けてあった。歩道の地面に。

地味に異様な光景…俺と友人、愕然。

「…この紙、何か描いてね?」
友人が言う。
確かに、紙がはためく度に、地面に伏せてある面に何かが描いてあるのが見える。

ここまで来たら…。

俺は思い切ってその紙を釘から剥がし取り、めくって裏を見た。

真っ赤な手形がそこにあった。

真っ白な紙の中心部に、赤ん坊程の小さな手形が、紅い色でべったりと映えており、手形の中心部には釘が突き刺さっていた穴がある。

「…何これ?」

友人も既に他の何枚かの紙を釘から外して眺めていた。

「こっちも手形、あと足形…と変な絵だよ」

同じく小さな真っ赤な手形、そして足形と…鳥だろうか? 紅色の単純な線で構成された、古代壁画チックな絵であった。

その鳥の目の部分に、釘穴の跡…

「あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

足元の欄干で、女の頭部が絶叫していた。

欄干の隙間に、異様に細長く変形した青白い女の頭部が挟まって、大口開けて絶叫していた。

濡れた長髪に覆われ、口以外は見えない。
歯が異様に白かった。
胴体が欄干の外側に、だらりとぶら下がっている。

「ぅおあ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

俺達も絶叫。

女の頭部は俺と友人の間に出現したため、俺と友人はそれぞれ正反対の方向に全速力で逃げた。自転車放置で。橋の端まで。

何者かが追ってくる気配は無い。叫び声もしない。

立ち止まって友人に携帯を掛ける。

「逃げた!? お前無事逃げられた?」

息を荒げながら友人が応える。

『平気だけどさ! な、なによアレ!? どうしよ! 俺どうしよ!?』

友人は現場に自転車を放置してきてしまったこと、自宅が逃げた方向とは反対なので、また橋を渡らねば帰れない事実にテンパりまくっていた。

携帯の時計は8時を回っている。
橋の向こうは暗くて見えず、友人の様子も分からない。

更にこんな時に限って、車が一台もやって来ない…。

「わかった、じゃ助け呼ぼう! お前の自転車壊れたとでも嘘ついて、親でも友人でも呼び出して車持ってきてもらうんだ! 俺もやってみるから!」

いやだ! こっち迎えにきてくれ! と喚く友人をなだめ、携帯を一度切り、母親にダイヤルした。

ツーッ、ツーッ、ツーッ…

繋がらない…。
てか呼び出し音さえ鳴らないということは…。
画面を確認。
「圏外」の表示。

はぁ!? 

(じゃあ何でさっき俺は友人と…)

…ピリリリリリリ!! ピリリリリリリ!!

今度は友人からちゃっかり着信である。
何だこの未体験ゾーンは!?

「もしもし!?」

『あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

絶叫。友人の声ではない。

受話器から耳を離す。それでも続く女の絶叫。

常人の肺活量では続かない長さである。
友人が無事では無いことを悟る。

「くっそ!」

今すぐ友人のもとへ行かねば、取り返しのつかないことになる!
もう遅いかも知れないが…。

『あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

プツリ…

絶叫が響き続ける携帯を切り、俺は橋の反対側、友人のもとへ走った。

欄干の傍は通りたくないので、歩道ではなく車道のど真ん中を疾走する。
数少ない街頭の間と間にある、その深い闇に何かが潜んでいそうで、走りながら恐怖で気が狂いそうだった。
そして橋の中間点に差し掛かった時、正面の暗闇から黒い影がすごい勢いで接近してきた。

!!

友人を助けることなど一瞬で忘れ、来た道をダッシュで引き返す俺。
あの影ナニ!? どんだけ奇襲かけてくんだよ!!

(うおおおおおおおおおおおお…!!)

走りながら涙と鼻水と小便を垂れ流すような経験は、後にも先にもこれが最後であってほしい…。

影はまだついてきており、足音が聴こえる! が…

「お〜い! 何で逃げんだよw」

背後から友人の声である。
影の正体は友人であった。

門限をとっくに過ぎていたため、怖いながらも意を決してこちら側に走ってきたそうである。

「イヤお前…さっきの電話で来てくれ来てくれ言ってたくせに…しかも圏外で…出たら絶叫って…」

今度は俺が激しくテンパる番であった。

「電話って…自転車のカゴの、バッグの中だけど?」

コイツこんな状況で脅す気か?
とでも思ってるのか、不審そうな表情で答える友人…。

(…え? …だとすると…俺が友人だと思って通話してたのは…)


それから俺達はとぼとぼと二人で歩いて帰宅した。

自転車を失い、小便臭い俺と肩を並べて歩く友人が不憫でならなかった…。
疲れきったお互いに会話は無い。
夜道を歩きながら考える。

(もし…橋を渡りきっていたら、一体何が待っていて、俺はどうなっていたのか?)

また小便を漏らしそうになった。が、漏らす小便も既に尽きていた…。


「ねぇ、あの橋ってさ、昔から良くない噂とか歴史とかあった?」

後日、俺は地元の地理と歴史に詳しい爺ちゃんに訊ねてみた。

「あぁ、あの周辺は、コレなんだよ…」

爺ちゃんはそう言って、親指を曲げて四本指を差し出した。

四ツ、四ツ脚…

かつてそう呼ばれた身分の人々がいたのを、皆さんはご存知だろうか?
今もいるけどね…。
まともな職に就けないそういった人々が、当時どんな仕事をしていたか?

「四ツ脚」つまり食用の家畜を扱う仕事の他に、俺の地方では河原の「砂利拾い」が主だったようである。

良質の河砂利は、建設業者に高値で買取られる。
当然、骨身を削って「砂利拾い」をする輩が現れる。

だが、当時のそこはダムさえ無かった流れの荒い河原で、年間を通して水死者が多発したそうである。
その後、ダムが建設され水量が安定したのを機に、一つの橋が架けられた…。

以上が爺ちゃんから聞いたハナシ。

更に不気味だったことが一つ…。
あの日橋の上で拾った謎の紙。
それを俺も友人も、知らず知らずのうちにポケットに詰めて持って帰ってきていたのである。

紙は二人で燃やして、自宅の玄関と部屋に軽く塩を撒いておいた。

現在、特に変わったことは何も無いし、爺ちゃんの話してたことが橋の怪奇現象と関係しているのかも分からず仕舞いだが、とにかく俺も友人も、二度と車以外であの橋に行くことはなくなった。
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これは一昨年の夏、実際に体験した話。

毎年かならず家族旅行に出る俺たち一家は、その夏もG県の某旅館に泊まったんだ。

旅館に着いて仲居さんに部屋に案内される。
その途中、なんか臭ってくるんだよ。

「なんか煙草くさくない?」

俺が言うと母親も気づいたらしく、不思議そうに周りを見渡す。

俺も見たけど、そこには部屋まで続く一本道の廊下しかない。
途中にある従業員用のエレベーターがあるだけで、喫煙所もなかった。

だからその時は「どうせ旅館の社員が吸ったんだろ」ぐらいにしか考えなかった。

それから部屋に着いた俺たちは、扉を開けて客室に入ったんだ。

でもな、まだ臭うんだよ。
「あれ? 部屋の中でも吸ってたのか」ってくらい。

ちゃんと換気しとけよ、って思いながら襖を開けて部屋の中に入った。

ちなみにその部屋は扉を開けてすぐに廊下があって、左手の襖の奥に部屋。
右手にトイレと風呂・洗面台がある。

襖の奥の部屋に入ると、煙草の臭いは全くなかった。
廊下と部屋の中を区切るように突然臭いが消えたんだよ。

「ここ、出るんじゃね?」

なんて笑いながら母親に言ったら、心なしか青ざめてた。

なんとなく空気が重くなって、

「とりあえず、お札がないか探そうぜ! 俺、クローゼット」

とか言いながら、あちこち見てまわった。

母親と兄貴もそれぞれ別れてトイレや押し入れ(布団が入ってる)を見てる。

そしたら、押し入れの奥に変な古い紙切れがあったんだよ。
壁に貼りつけられてるけど、お札にしては小さすぎる感じ。
見つけた兄貴も首を傾げてた。

トイレと風呂場に行った母親に「なんかあった?」って聞いたら、母親が神妙な顔して部屋に戻ってきたんだ。
これは何かあったな、とわくわくしてたら

「洗面所には行かないほうがいい。入りたくない」

って。
何で? って思ったけど、「何となく」しか返って来なくて、それ以上は追求しなかった。

気になって、俺もトイレや洗面所がある方へ行ってみた。
その途中に通る客室の中の廊下は、相変わらず煙草臭い。

で、トイレのドアを開けてみたけど別に異常はない。
ただ、なんで照明つけてるのにこんな暗いんだろう? と疑問には思った。

トイレを確認し終えた俺は、洗面所の扉を開けようとした。

そしたら、なんとなく嫌な予感がしたんだ。なんて言うか寒気みたいなものが走った。
でも気になるし、思い切って開けてみた。

そこには、至ってシンプルな洗面所があるだけだった。
唯一気になるのは、トイレと同様に不気味に暗いところ。

大きな鏡が正面に置いてあるんだけど、凝視しなかった。
というより、薄気味悪くてできなかった。

それで、ふと風呂場の扉を見たんだ。

開いてるんだよ、扉が。
それも中途半端に十センチくらい。
「さっき見に来た時に開けたのか」と思って、母親に聞きに行くと、「洗面所には入ってないし、扉も開けてない」って。

さすがに気味悪くなって、俺もすぐに風呂場の戸を閉めに行って、洗面所に行くのはやめようと思った。

部屋の中は特に恐いとも思わなかったから、みんなでだらだら過ごしてた。
お札が少し気掛かりだったけど、そんな事も忘れてのんきに夕飯を食った。

それも終わって、さあ寝ますよ! ってことで俺たちは寝場所の陣地取り。
ビビリの俺は窓側の安全そうな所をゲット。
結局、兄貴が押し入れの傍で寝ることに。

腹一杯なせいか、すぐに睡魔がきて眠りに就いた。


夜中に急に目が覚めた。
トイレに行きたくなったんだよ。

行くのは恐いけど家族は寝てるし、我慢できないから仕方なく行く事にした。

廊下の電気を全部つけても怖いもんは怖い。
ちびりそうになりつつ、なんとか薄暗いトイレに入って用を足した。

その途中、なんか音が聞こえるんだ。
それも近い場所から聞こえるから、なんだ? と思って耳を澄ませてみた。

ジャー

……水の音みたいだ。

でも、こんなに傍で聞こえる水音といえば、今自分がいるトイレの音以外に思い浮かばなかった。
それに家族は寝てる。トイレは一つしかないのに。
だけど、俺はハッとした。
そうだ。このトイレの隣には洗面所と風呂場がある……まさか。

不気味に思ってトイレから出て一目散に部屋へ駆け戻った。
その途中、なんでか知らないが気になって洗面所の方を見ちゃったんだよ俺。

そしたらさ、トイレに入るまでは開いてなかった洗面所の扉が少しだけ開いてて、中に黒っぽい人影が……。


怖くなって母親を起こしたら、「だから行かないほうがいいって言ったのに」って。

次の日の朝、家族と風呂場を覗いたら、誰も使ってないはずの浴槽が濡れてたんだ。
まるで、家族以外にも誰かがいたみたいに……。

<後日談>

兄貴も心霊体験(?)をしたらしい。

俺がトイレでその人影を見る前、寝苦しくて起きたんだって。

周りはみんな寝てるし、もう一度寝ようと思って寝返りを打とうとしたら、背中に違和感がある。
兄貴が黙ってると、背中を撫でられて手を数回叩かれたらしい。

家族の誰かがフザけてるのか、と無視しようと思って、気づいた。
今、背中を向けているのは押し入れの側だ。

急に怖くなって兄貴が振り返ろうとした時には、もうその感触はなかったという。
ただ、兄貴は「すげぇリアルだったよ。お婆さんの手みたいだった」と言ってました。

ちなみに、霊感0だった兄貴は、帰宅してから黒いもやのようなものを見るようになったらしい。
部屋で時折パキッとかパチンとか鳴るけど、まさかラップ音か? って笑ってた。

家に帰ってからも、たまに誰もいない部屋に入ると煙草の臭いがする事があった。
親父は禁煙してるから、それ以外の家族は誰も吸わないのに……。

今では臭いも無くなったけど、この話すると変な現象(例:クーラー、足音)が起こるから困る。
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これは今年の夏、地元G県の廃遊園地Kで私が体験したマジ怖かった話です…。

遊園地はつい2〜3年前閉鎖され、今ではホームレスのたまり場になっていると噂で聞いていました。
そこで友人と弟と、3人で行ってみようということになりました。

遊園地までは山道で、友人が車を出してくれました。
真夏で暑かったこともあり、車内の窓は全開でした。

山を登り始めたころから、車内に小バエのような小さな虫がいるのが気になっていましたが、次第にその数が明らかに増えていました。
耳もとで羽音がすごいし、目や口の中にも入ってくる始末。

私たちは気持ち悪くなり、一旦車を路駐して車外に出ました。

すると、子猫の鳴き声が聞こえたんです。
見ると、竹林の中に白い子猫がいました。

初めは怯えていて、こっちに寄ってはこなかったのですが、私たちが持っていたお菓子やパンをちらつかせると、徐々に道の方に出てきました。

明るいところではっきり猫を見た私たちはびっくり、その猫は右耳がなく、血が固まった跡がありました。
右目もつぶれていて、とても悲惨な姿でした。

野良にやられたのかな、かわいそう…と、持っていたパンなどを全部子猫にあげ、私たちはまた車に乗り込みました。

そのとき、パンを狙ってか子猫を狙ってか、カラスが2羽急降下でおりてきました。

細かい羽が飛び散り、私たちは一瞬固まりましたが、弟が車から飛び降りジャケットを振り回しながら声をあげて近づいていくと、カラスはパンをくわえて逃げていきました。

私と友人も車から降り様子を見に行くと、さっきの子猫はカラスにつつかれたりしたようで、お腹や顔から血を流していました。
もう息もか細く、10分後くらいに息をひきとりました。

埋めてあげようということになり、竹やぶに子猫を埋めました。
その間もずっと上空ではカラスがギャアギャア鳴いていました。

カラスが人を襲うとかよく聞くので、早く移動しようと、いざ遊園地に向かいました。


現地に着くと、従業員入口みたいなところがまたげそうだったので、そこから中に入りました。

ひとしきり散策しましたが、ガラスが割られているとかコンドームが落ちているとか、その程度でした。
持って行ったポラで写真もとりましたが、何も写りませんでした。

しかし、恐怖は帰りに起きたのです。

お化け屋敷のアトラクションの前に、中から引っ張り出されてきたと思われる、ドレスを着たマネキンが横たわっていました。
仰向けのかたちで、首を右向きに倒して(右を見て)いました。

そのとき、さっきまでうるさいくらい鳴いていたセミがバチバチ言いながら一気に飛んだのです。

それにびっくりし、きゃぁー! と3人で抱き合ってしまいました。

蝉が飛び立ったあと、急激な静けさに全員が生唾を飲み込み、冷や汗をかいていました。

そのとき、私は友人の目が一点を凝視していることに気付きました。

まばたき一つせず強張った顔の友人に、…大丈夫? と聞きました。すると

「あの人形…さっきまで右向きだったよね…?」

と、震える声で言いました。

私の真後ろにあるマネキンです。
とたんに、全身に鳥肌がたち、背骨から頭の先に圧迫感を感じました。
そして振り向くと、たしかにマネキンは左を向いていたのです!
しかも、仰向けの体制からまるで寝返りをうったかのように、体ごと左を向き、私たちのことを見ていたのです!

次の瞬間、友人が突然すごい声で「グェェェェ!」と叫びました。

驚いて友人の方に振り返ると、口からよだれを垂らし、手の指がありえない向きにばらばらに動いていました!

私は腰を抜かしそうになりましたが、弟に友人をおんぶさせ、走って入口まで逃げました。

途中、弟が「うわぁぁぁ!」と叫ぶので見ると、友人が後ろから弟の首をしめていました!

私は恐怖とパニックで「Mちゃん(友人)やめて!」と泣き叫びながら、友人の背中を強くグーで叩きました。

すると友人は「うぅ…」と呻いて、弟の首を絞めるのをやめます。

そのすきに走って、また首を、背中を叩く、…それを繰り返し、やっと入口にたどり着きました。

弟は完全に腰が抜けてしまっていて、友人はまた遊園地の中に入っていこうとします。

引き止めようと腕や肩をつかんだら、すごい力で振り飛ばされ、粉々のガラスの上に顔面からつっこみました。
パニックだったので痛みはありませんでした。

そのとき、友人のバッグから車のキーがのぞいているのに気付きました。
私は弟に友人を見張っておくように言い、キーを持って車を取りにいきました。

すると、フロントガラスの上に、埋めた子猫の死骸が土まみれで置いてありました。
私は足ガクガクで、その場に立ち尽くしました。近くでカラスの鳴き声もします。

掘り返したのか? なんて考える余裕が一瞬ありました。
完全に頭がぼーっとしてしまい、動けませんでした。

そのとき、遊園地入口の方から弟が友人をずるずる引きずりながら、「姉ちゃん! 何やってんだよ!」と叫んで出てくるのが見えました。

私は、弟の首がどす黒く変色しているのと、友人の気持ち悪い動きを見て、何かがふっきれました。
そして「わぁーっ!」と叫びながら、フロントガラスの猫の死骸を手で払いのけました。

そのときのずっしり重く、ぺちゃっとしてぬるい感触はいまだに忘れられません…。
そして車に乗り込み、弟と友人を乗せ、急いで山を下りました。
途中カラスが車に何羽もぶつかってきたり、エンジンが3回とまるなど、本当に怖かったです。

山を下りてすぐのところにA神社があり、私たちはそこに転がり込みました。

巫女さんの姿が見えたので、助けてください! と叫びながら境内の方に走りました。
顔面血まみれの私を見て、巫女さんはすぐに神主さんを呼んでくれました。

友人はふらふらと車から降りてくると、わりとちゃんとした足取りで境内の方についてきました。
しかしわけのわからない言葉をぶつぶつ言っていました。

私と弟は、友人の手をしっかり握り、神主さんに事情を話しました。

神主さんは、

「事情はわかったから、きみたちは病院へ行きなさい。この子(友人)についてきた物と話してみるから」

と言ってくれました。

私と弟は二人で病院へ行きました。弟は首にくっきりと手の跡がついていました。

私は病院の入口に着くなり、血の気が引いて倒れてしまいました。
あとで弟に聞いたら、出血がひどくて大変だったそうです。
弟に血をもらい、顔に残ったガラスを取り出し縫う手術を受けました。

病院側が連絡したらしく、警察の取り調べも受けました。


次の日、私と弟もA神社にお祓いに連れていかれました。

神主さんは怒りませんでしたが、事態の深刻さについては静かに話してくれました。

友人は、あのあと意識が戻らず1週間入院しました。

友人の車は、神主さんの助言もあり親御さんが廃車にしたようです。

弟は、首の痕はとれましたが、尻餅ついたときの打ち所が悪く、片足が不自由になってしまいました。

私はというと、ガラスが目に入ってしまったらしく、数年後には失明すると診断されました。
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何年か前のある日の夕方、俺は友人Aを乗せて車を走らせていた。

少し離れた友人Bの家で酒盛りをする為である。
プチ同窓会のような感じで、大学時代の仲の良かった10人くらいで集まって飲もうかということになったのである。

そこで、家の近かったAを拾ってからBの家に向かう予定だったが、Aが時間を勘違いしていて出発が遅れたのである。
平謝りするAを車に乗せて結構なスピードで走っていたが、間に合うかどうか微妙だった。

友人Bの家は山を越えた向こう側にあった。
山越えの道に入ったら、車は俺ら以外に走っていなかった。

曲がりくねってはいるが一本道で、信号もなく片側一車線のそれなりに走りやすい道なので、俺は調子に乗って飛ばしていた。

Aと他愛もない話をしながら車を走らせていると、前方にやたらゆっくりと走っている軽自動車のテールランプが見えた。

一本道であるために、山を越えてふもと付近に下りるまで追い越すスペースがない。
はっきり言って焦っている俺たちには邪魔な存在だった。

そうこうしているうちに軽に追いついてしまった。
俺とAは何を会話するわけでもなく、いらいらしながらその後ろを走っていた。

しばらく軽の後ろを我慢して走っていたが、やたら遅い。
カーブの度に止まりそうな位ブレーキを踏む。

いくらなんでも遅すぎる。
この焦っている時に勘弁して欲しいってくらいの嫌味な速度で走り続ける軽自動車。

俺はとうとう痺れを切らしてAに言った。

俺『いくらなんでも遅すぎるよなあ。見通しのええ所で対向車線に入って追い越すぞ』

A『……』

ん? Aから返事がない。
ちらっと見るとAは真っ青な顔をしていた。
なんだか尋常な様子ではない。
調子に乗って飛ばしすぎたから、車に酔ってしまったのだろうか…。

俺『おいA。どうした。気分悪いか?』

A『……』

俺『おい? どうした?』

Aに声をかけるが返事がない。
気分が悪いというか何かに怯えている?

俺『おい! A! なんだ? 何があった?』

ちと怒鳴り気味に声をかけると、Aははっとしたように口を開いた。

A『あれはまずいぞ、Y(俺)! 早く追い越してくれ!』

俺『はあ? 何がまずいねん? 訳分からん。まあ、追い越すけど…』

前が遅くていらいらしている所に、Aの訳の分からんリアクションでさらにムカッと来た俺は、少し見通しの良い直線に来たところで軽を追い越した。
軽の前に入ってグッと加速すると、軽はバックミラーで確認するとあっという間にいなくなった。

追い越しをかけて軽快に車を走らせていると、少し気分が落ち着いた。
Aの方をチラッとみるとAも顔色が良くなって落ち着いているようなので、先ほどの事をたずねてみた。

俺『おいA。何があった?』

A『…あのさ見間違いかも知れんけどな。あの軽っておかしくなかった?』

俺『おかしいって…。まあ、異様に遅かったけどな。どうせ爺さんか婆さんかおばはんのとろとろ運転やろ?』

A『…あの軽の中見んかった?』
俺『…見てないけど?』

A『…まあ、ええやん。止めよ。この話』

俺『そこまで話し振っといて止めれるかいな。なんやねん、一体』

話しながらふとバックミラーに目をやると、さっきまで何もいなかった真後ろに車が一台くっついて走っていた。

というより、もろに煽られていた。
どう考えてもさっき追い越した軽が煽ってる以外に考えられない。

しかし物凄い煽りようである。
パッシングするはハイビームだわ…。

それでも俺は速度上げて頑張って走ったが、一向に振り切れない。

そして挙句の果てにクラクションまで鳴らし始めた…。
背筋に寒い物が走った。

俺『あかん。道譲るわ。さっきまであんだけとろかったくせに…』

そうAに告げるとAが物凄い剣幕で言い返してきた。

A『あかん、ぜったいあかん。譲ったら、止まったらあかん!』

俺はAの様子に少々びっくりしたが、落ち着いてAに言った。

俺『無理。こんな調子で煽られてこんな速度で走ってたら事故起こすわ。譲る』

Aが何故か涙目で俺を見ていたが、分かったと一言言うとうつむいてしまった。

俺が道を譲ろうと左ウィンカーを出し、速度をゆっくり落としながら車を左に寄せ始めると、『ゴツン』という衝撃が後ろから走った。

早く行けとバンパーでこづいているような感じだった。
相手が尋常じゃない奴だと今更ながら気付いた。

道を譲るのは無理だと判断した俺は、また速度を上げて走り始めた。

物凄く恐ろしかった。下手に減速できない。道を譲る事も出来ない。
とにかく逃げ込めるスペースのある場所まで事故を起こさないように走り続けるしかなかった。

もう少し行けば、山頂に休憩用の駐車スペースがあったはずだ。
ものすごい煽りのプレッシャーを受けながらも、なんとか道の左側に山頂駐車場の出入り口が見えた。

24時間無料なので出入り口はチェーンなど掛けられていない事は知っていたし、かなり広い場所なので、スピードを出していたがぶつけずに駐車場に入る事が出来た。

駐車場の中に入ってすぐに車がスピンしてしまった。強引な角度で入ったためスピンしたのだろう。
突然のスピンに気が動転したが、幸いにも駐車場には他に車はなく、かなり広い事もあってどこにもぶつけずにすんだ。

停止してほっとして気がついた。
あの軽自動車は行ってしまっただろうか?

ふと一つしかない出入り口を見ると、その出入り口をふさぐ形で軽自動車が停車していた。

全身総毛だった。

俺『どうしよ。なんか待ち伏せしてるみたいやで…』

Aに喋りかけたが、Aは先ほどからうつむいたままこちらを見ようともしなかった。

もともと気の強い方ではないAの事だ。かなりテンパッる事は見ても分かるとおりだった。
俺がしっかりしなきゃいけない。

それよりも先ほどぶつけられている事も気になっていた。
傷でも付けられていたら弁償してもらわなきゃいけない。立派な接触事故だ。

怯えてテンパッてるAを見ているのと、ぶつけられ煽られた事に腹が立ってきた俺は、なんであんなのにこっちがおびえなきゃいけないんだという気になってきて恐怖より怒りが前に出てきた。

俺はAに

俺『ちょっと文句言ってくる』

と、捨て台詞をはいて車から降りて軽自動車の方へ歩いていった。
もちろんAは物凄い剣幕で反対してきたが降りてしまえば関係ない。
何でも出てきやがれって感じで怒りを前面に出して相手のほうへ歩いていった。

軽に近づいて不思議に思ったが、中にどんな奴が乗っているか分からない。
前面までスモークフィルムを貼ってるのか? とか馬鹿なことを考えながら、軽自動車の運転席の窓ガラスをノックした。

すると、運転席側の窓がすーっと開いた。

中を見た俺は一瞬目を疑ったが、もう一度じっくり確認してそして…。

一目散に車のほうへ逃げ帰った。

今まで生きてきた中で一番早く走って一番大きな声を出しながら…。


車の窓が開いた時、中には…。

人が乗っていた。いやそもそも人なんだろうか。

それも何人も。4人乗りの車に5人とかそんなに生易しい物ではなかった。

もうギュウギュウ詰め。例えるなら通勤ラッシュの満員電車状態である。

隙間がないくらいびっちりと狭い軽自動車の車内が人で埋まっていたのである。
上下左右人の向きは関係なく、テトリスで隙間なく積み上げていくブロックのように…。

しかも、全員顔色が真っ青で目が空洞の様になっていた。老若男女いろんな人…。
その苦しそうな体勢の人たちが一斉に窓の外に立っている俺のほうに顔を向けているのである。
首が180度回っている奴もいた。
結局、中が見えなかったのは人で車内が埋まっていたからである。


車に戻ると慌てて車を発進させた。

Aは何も言わずうつむいてガチガチ震えていた。

恐怖でパニクってた俺はとにかくこの駐車場から出なきゃいけない、逃げなきゃいけないと思い、強引ではあるが出入り口に止まっている軽と柵の間のスペースに車を滑り込ませて無理矢理すり抜けようとした。

左の柵に当たった。
バリバリといやな音を立てて車と柵が悲鳴を上げた。

しかしそれどころじゃなかった。
隣にある軽の方を見ないようにして思いっきりアクセルを踏んだ。

車の頭が駐車場から道に入った瞬間、ついうっかり右を見てしまった。

視界に軽自動車が入った。
中の人が全員こちらを見て笑っているように見えた。

そこで、物凄い衝撃を食らって意識がなくなった。


気付いたら病院だった。

結局、駐車場から車の頭を物凄い勢いで出した俺の車に、普通に走ってきた車が俺の車のフロント部分横へぶつかったのである。

Aは頭を打ったらしいがほとんど外傷がなく、軽い打ち身があちこちにあるくらいで無事だった。

俺は開いたエアバックに思いっきりぶつかったせいなのだろうか? 鼻骨折して前歯が3本ほど折れて、足もどうやったのか分かんないけど右足の骨にヒビが入っていた。
打ち身も体のあちこちに出来ていて、熱が出てしばらく入院を余儀なくされた。

相手の方は20過ぎの女性で無傷だった。お互いに車はボコボコだったけど…。
結局警察と保険屋が入ってお互い話し合いして決着は付いた。
後日、退院できるかなといった時に事故った相手の女性が見舞いに来てくれた。

相手の女性に軽自動車の事を聞いたら、そんな車はいなかったと言われた。

先に退院したAはやはり前に走っている時からあの軽自動車の中身が分かっていたらしい。
俺が見てないのなら俺にまで変な恐怖を味合わせたくなかったから黙っていたらしい。

車は直せない事もなさそうだったけど、なんだか縁起が悪そうだから廃車にした。

退院はできたけど打ち身の痣がしばらく消えなかった。

なんだか痣の形が手のひらで叩いた後のようになっていた。
それも大きい物から小さい物までたくさんの人に叩かれたようになっていた。

ちなみにAの体に出来た打ち身もそんな感じだったらしい。

Aは財布の中に入れてあった母親から貰った身代わりお守り(そんなようなもんがあるのかな?)が粉々に割れていたとも言っていた。

結局、手の形をした痣もそれも時間はかかったけど今ではすっかり綺麗に直った。

オチも何もないけど洒落にならんかった。
怖かった。あの軽自動車もなんだったか分からない。

今でも車を運転していて後ろを煽られると、あの時の事を思い出す。
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このお話は、私がまだ今の住所に引っ越してくる前の住所で大変噂になったお話です。

その前の住所の近くの公園の裏には、「宇宙科学館」というプラネタリウム付きの科学館があるのですが、その入り口付近にある電話ボックスを夜中の2時に使うと、変な声が聞えるらしいのです。

よくある噂話だと誰もが思っていたのですが…。中にはそういった話に敏感な人もいます。

今回はそれを実際に確かめに行った、勇ましい二人の男性の体験談をお話致します。
仮にT君とS君としましょう。

待ち合わせをして彼らが現地に到着したのは、深夜2時になるちょっと前ぐらいでした。

二人とも怖いのは大好きですが、そんな噂を聞いた後では、夜中に薄暗い光を放つ電話ボックスは流石に不気味に見えてきます。

「よし、行ってみるか…」

TがSに言いました。
Sがテレホンカードを片手に、Tと並んで電話ボックスに向って歩いて行きます。

電話ボックスの前にくるなり、突然Tが「一緒に入ろうぜ」と言い、あの狭い電話ボックスの中にTとSは二人で入ったのです。
きっとTも一人じゃ怖かったのでしょう。

ギュウギュウににつまった電話ボックスの中で、Sが頑張ってテレホンカードを差込みます。

そしてSが言いました。

「どこに電話するか…?」

そうです、何処に電話をかけようがこんな真夜中に電話するなんて非常識です。
仕方なく二人はお互いの家のどちらかに電話する事にしました。
一度電話ボックスから出て、二人はじゃんけんを始めました。
負けたのはTでした。

結局Tの実家に電話をかける事になり、二人はまた電話ボックスの中に入りました。

Sがカードを入れ、素早くTが自宅の電話番号を押していきます。

プルルルルルル…

プルルルルルルルル…

プルルルルルル…

プルルルルルルルル…

プルルルルルル…

何度かコールしているのですが、誰も出ません。

「誰も出ないし、やっぱもう寝てるよ」

TがSにそう言うと、

「ちょっと貸して」

Sも確認がしたかったのでしょう。
Tから受話器を奪い取り、Sが受話器を耳にあてます。

すると…

ガチャッ…

誰かが出たのです…。

「おい、誰か出たぞ!」
SはすぐにTに受話器を返しました。
自分の家ならともかく、他人の家にこんな夜遅くに電話をかけたら非常識だと思われてしまいます。

Tが、

「もしもし…?」

きっと両親のどちらかが出たのだとTは思っていました。

しかし、受話器の向こうからは全く予想外の声が聞えて来たのです。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ」

「!!」

それは女の声で、なんだか遠くの方からこちらに近づいてくる様な声なのです!

「ぁぁぁああああああああああああああ」

明らかにTの両親の声ではありません。

その声は横にいたSの耳にも届く程、どんどん大きくなってきます。

「お、おい、なんだよそれ…?」

Sが青ざめた顔でTに聞きます。

「ぁぁああああああああああああああああああ」

ガチャン!!
ピピーッ…ピピー…

Tは慌てて受話器を置きました。
「これ、ヤバイよ…もう行こうぜ」

「い、今の声、なんだよ…?」

Sがしつこく聞いてきましたが、TはSを押しやるようにして外に出ました。

そして、ふとTとSが今出て来た電話ボックスを振り返ると、そこにはとんでもないものが映っていました。

反射した電話ボックスのガラスの向こうから、女が走ってくるのです!

反射したガラスの向こう…つまりそれはTとSの背後です。

TとSは思わず振り返りました!

が、誰もいないのです…。
走ってくる音も聞えません。

再度電話ボックスを見ると、やはりガラスにはその女が映っています。

更にその女は猛スピードでTとSに向って走ってきているのです!

そう、反射したガラスの中だけで…。


「うわぁぁーー! 逃げろー!!」

Tが言い出しましたが、Sもすでに走っていました。

二人はしばらく走り、ようやくその場から離れました。

余程怖かったのでしょう、その日SはTの家に泊まる事になり、さっき起こった事についてしばらく語っていました。
翌朝。

母が発した言葉に、Tは更に鳥肌が立ちました。

「昨日、夜中2時近くに電話があってね、突然、『ぁぁぁあああああああああああああ』っていう気味の悪い女の声が聞えてきたのよ」

「お母さん、恐くなっちゃって切っちゃった」

おかしいです、あの時電話に出たのはTの母だというのです。

しかも、Tの母もT達と同じ様にあの女の声を聞いていたというのです…。


それから、TとSの身に何が起こったという訳でもありませんが、あの場所はかなりヤバイです。
更にその電話ボックスは今でもありますので、場所をご存知の方はお気を付け下さいませ…。

昔、私がその地元に詳しいある教師に聞いた話によりますと、その「宇宙科学館」を建てる以前の建物は火葬場だったそうです(マジ)。

実際、その科学館付近での妙な噂は色々とあったのですが、これが当時一番有名でした。
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