1 無名さん

独り言1081

>>>10604
>>100
ずっ友〜
今住んでるマンションの前に住んでたマンションの時の話なんだけど、俺は2階の角部屋に住んでた。
そこは3DKのマンションで、学生の俺には広すぎる状態ではあった。

でも都内ではないから家賃は8万円。
バイトもしてたし、仕送りもあるし、5万くらいで1ルームに住むより全然いいわってことで、そのマンションに住んでたんだけど。

住んでから気付いた(しかも3ヵ月後くらいにw)。
…道路挟んではす向かいが、セレモニーホールだって事に。

その時はマジで「うわぁ…」って思った。

しかもリビングに小さな小さな出窓がついてて、そこからセレモニーホールが丸見え。
だから、夜通し明かりがついてる時なんかは、

「あぁ、今ここに死体あるのか…」

とか、何かちょっと怖い想像もしてしまったりしてた。

まぁ一応カーテンつけてるし、別に害はないしってことで、逆にその小さな出窓を開けて外を眺めながらタバコを吸うってのが、俺の日課みたいになってたんだよね。


そんなある夜、いつもの様に部屋の電気を落として、出窓開けてタバコ吸ってたんだ。

そしたら、ふと視界の隅で何かが動いてるのを捉えた。
何の気なしにそっちを見ると、セレモニーホールの屋上を誰かが歩いてる…。

ちょうどその時、セレモニーホールは色の塗り替えをやってたから、建物の横に足場もあったし、作業員かな? と思ったんだよね。

その時は不思議と怖いとかはまったく思わなかった。
でも、夜中も3時近いのに塗り替えやらないよな…と思って、メガネを取ってきてもう一度よく見てみた。

その瞬間、めちゃめちゃ怖くなった。
屋上を歩いてると思ったのはまず間違いで、どう考えても屋上のフェンスを乗り越えてフェンスの外を歩いてるんだ…。
そこにどれ程のスペースがあるか知らないけど、普通の精神のヤツだったらそんなとこ歩くわけない。

次に、それはワンピースというか、白衣というか…。何か青白っぽいスカートの様な服を着た女だった。
俺はマジでその瞬間、こいつ精神病患者で自殺する気だ! って本気で思った。

その女は両手を上に上げたり横に広げたりしながら、その屋上のスペースを右へ左へ行ったり来たりしてた。
横にスペースなんてないんだろうから、この時点でおかしかったんだろうけど全然気付かなかった。

俺は通報しなきゃ…って考えはまったく浮かばずに、何故かその光景に見入っちゃったんだよね。ボケーっと。

そしてタバコの2本目を付けて、もう一度そっちを見た時には女は止まってて、明らかにこっちを見てるのに気付いた。

げぇっ! バレた最悪…。って思うと同時くらいに、女が両手を前へならえの感じで俺の方にゆっくり下から上へ上げるように突き出して、地面と平行に上がりきるくらいのところで前のめりに倒れていった。

マジで声も出なかった。何か超ゆっくり女が倒れていくのが見えてた。

…と思ったのもつかの間、女がこっちに向かって両手を伸ばしたまま大きな口を開けてぶわ〜って飛んで来た。

この時の俺のとっさの行動は今思っても奇跡。
すごい速さで出窓ガラスを閉めてカーテンを引いた。
んで、後からカーテンの上からカギをかけた。
その行動が終わって2秒後くらいだったと思う。
息をつく間もなく、その窓が

ドンドンドン!!

って三回叩かれた。
しかも、音の大きさや激しさからするに両手で。

マジで半分くらい腰を抜かしながら手探りでリモコンスイッチで電気つけて、神経ピリピリさせながらしばらく震えてた。絶対にあの女入ってくる! って思って。

でも、結局10分経っても20分経っても何もなくて、気分的に落ち着いてきたから、今のは何だった? って思いだして、もう一度見てみようかな…って事になった。
それで何もなければ、何か安心して眠れるって思ったんだよね。

でも、カーテンを開けちゃうのは怖かったら、代わりにカーテンの隙間を片側押さえつつ、ほんのちょっとだけ親指分くらい開いてみた。


そしたらそこに、窓に思い切りギューッってされて白くなってる指の一部が見えた…。


後はもう、そのまま一睡もしないで朝を迎えたよ。

次の朝は思い切ってその窓を開けたけど、別に窓に何か手形が残ってるとかはなかった。

でも俺はその時以来、一年以上夜にそのカーテンは開けなかったし、出掛ける時もそのカーテンとリビングのメインのカーテンだけは閉めて出掛ける様になった。
夜に帰った時にそいつが張り付いてたら怖かったから。

結局、その後は家では一度もそういう事に出くわした事はなかったけど、あの時のあの女が何なのか、何の目的で窓にべばりついていたのかは永遠の謎…だろうね。
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今年の正月、実家に帰った私は、高校時代の後輩のKからある相談を受けた。
本人にも承諾を得たので、彼の話の内容をほぼ忠実に書き記したいと思う。

以下はKの会話である。

話の始まりは、俺が専門学校に通っていた頃になるんですけど…。

専門学校に入学して数ヶ月して、ある女の子と付き合う事になったんです。
その子は同じクラスの子で、毎日顔を合わすわけですよ。

当時ね、女の子同士とか恋人同士での交換日記が流行っていたんです。
で、俺も半ばノリで彼女と交換日記をする事になったんです。

その時はどうせ2〜3ヶ月くらいで飽きてやらなくなるだろうって思ってたんですよね。
だけどね、何だかんだで結構長く続いたんです。

日記って言ってもちゃんとした日記帳じゃなくて、どこにでもあるようなノートにお互い日記を書いて交換してたんです。
女の子チックな日記帳を持ち歩くのって何だか恥ずかしいじゃないですか。だから、俺の希望で普通のノートに日記を書いてくれって頼んだわけですよ。

で…彼女と付き合い始めて半年くらい経ったある日、突然、彼女が学校に来なくなったんです。
一人暮らしの彼女の家に行ったり電話したりして、何とか彼女と連絡を取ろうとしましたけど、結局、最後まで彼女と連絡は取れませんでした…。

それから暫くして警察から電話があって、彼女が自殺したという事を知ったんです…。

山中で彼女の遺体が見つかったんですが…その時に彼女が所有していた遺品の中に俺の日記があったんで、警察から連絡がきたんです。
交換日記って言っても、普通は日記を交換しているのは学校にいる間だけじゃないですか。
でも最後に彼女と会った日、俺の日記を家に持ち帰ってゆっくり見たいって言うんで、そのまま彼女は俺の日記を持って帰っちゃったんです。

あの日で交換日記が終わる事を分かっていた上での行動だったんでしょう。
俺の日記の最後のページには、彼女のものと思われる震えた字で「ごめんね」と書いてありました。

彼女、元々体が弱くて幼い頃からずっと病院に通っていたんです。
彼女の遺書には「苦しくて苦しくてもう耐えられない…」って内容が書いてありました。

病気の事も知っていたのに、その時一番彼女の近くに居たのに。
彼女を救えなかった自分を恨みました。

彼女の葬儀の時に、初めて彼女の両親と会いました。
その時に俺の持っていた彼女の日記を彼女の両親に見せたんです。

最初はこのまま俺が彼女の日記を持っているべきだろうかって悩みました。
でも、彼女の両親が自分達で保管したいと言うので、彼女の日記は彼女の両親に手渡しました。

そんな事があってから、すぐ俺は学校を辞めました。
アルバイトを見つけてフリーター生活を始めました。

バイト先で新しい恋人も見つけて、少しずつだけど自殺した彼女を思いだすことも減っていきました。
1年も経つと、自殺した彼女を思い出す事は殆ど無くなっていました。
で、新しい恋人と同棲する事になって、住んでいたアパートを引っ越す事になったんです。
引越しの前日、荷物整理していると、見慣れないノートが出てきたんです。

何のノートだろうってページを開いたら、彼女の日記なんです。自殺した彼女の!
間違いなく彼女の日記は彼女の両親に手渡したんですよ! なのに、それが俺の手元にある。

混乱した俺は自殺した彼女の実家に電話しました。
彼女の親に話を聞いたところ、葬儀の日、俺が日記を手渡したその日の内に、彼女の日記は行方不明になったらしいんです。

俺が無意識の内に持ち出してしまっていたのか? なんて考えましたけど、そうじゃないってすぐに分かりました。

彼女の日記をぺらぺらと捲って見てみたんです。すぐに気付いたんですけど、その日記おかしいんですよ。

ノートのほぼ全ページが日記で埋まってるんです。

最後に交換日記をした時にはせいぜいノートの半分くらいしか埋まってなかったんですよ。
日記の日付を見てみると、彼女が死んだ日以降も日記が続いてるんです。

で、彼女が死んだ日以降の日記の内容ってのが、俺の恋人とデートした内容とか、話をした内容とかそういう事が書かれているんですよ。

そういう事もあって、結局、その時に付き合っていた恋人ともすぐに別れたんです。

それ以来、誰とも付き合ってませんよ。
だって、誰かと付き合ったらまた日記が書かれちゃうと思うんで。

今でもね、自殺した彼女がどこかで俺の事を見ているんじゃないか…って思うんです。
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うちの会社の部長、若い頃『林業』やってたんだって。
正直『林業』なるものよく分からないんだけど、山で木材を調達するって感じかな?

で、部長が若い頃だから昭和40年代らしいが、山の中の作業で使い走りみたいな仕事をしていたらしいんだけど、徒歩で山越えた作業場から2〜3時間掛けて、山の入り口に有る詰め所(現場監督とか、正社員が居る事務所)まで往復する事になったんだって。

その時に木こりみたいなオッサン達にさんざん脅かされたって言う怪談を聞いた。


新人のアンちゃん子(鬼太郎のチャンチャンコの駄洒落らしい)が、山から下りて詰め所まで行く事になった。

親方がそいつに、

「もしかすると山の悪戯好きな妖怪が後を付けて来るかも知れないぞ」

って言った。
ビビッたアンちゃん子は「勘弁して下さい」と泣きを入れた。

始めは面白がってアレコレ怖い話をかましてた木こり達も、腰が抜けてしまった新人君を送り出す為に最後は励ます事になった。木こりのオッサンも自分が代わりに行くのはイヤだったんだろう。

「妖怪が後を付けてきても決して後ろを見るな。最後まで後ろを見なければお前の勝ちだ。あいつ等も諦めるから、な」

何とか出発した新人君。
すっかりビビりながら歩いていた(ああ〜妖怪が来ないでくれ〜って必死にお願いしながらね)。

しばらくして気が付いてしまったんだが、誰か後ろをついて来てる感じがし始めた。

首に力を込めて、絶対に後ろは見ないぞ! って念じながら歩いてると、その内、気配が自分の横に迫ってくる。
右へ廻って来たので、ちょい首を左に向けていると、今度は左の方へ来る。

(うわ〜見せようとしてるんだ…)

新人君はそれでも前方にしっかり首の力を込めて、両脇と後方は視界に入らない様に頑張っていた。

頑張っているんだけど、人間そう前方だけに視界を限定できるもんじゃない。
その内に横に廻った気配が見えそうになるんだけど、その度に右、左、と少しずつ首を動かして、辛うじて視界に入れるのを防いでいた。

そうすると、新人君の耳元で“かちっ”とか“かぽっ”という小さな音が聞こえる。

何なんだろう? って思っていた新人君だったが、ある瞬間にフッと気が付いてしまったんだ。

自分の顔の横に来た時、口を開けていたそいつは、オレが反対を向いた時に口を閉じているんじゃないか?
“かちっ”って音はヤツの歯の音じゃないか!

そう考えると、顔の横にそいつの生暖かい息まで感じる様になったらしい。

遂に限界に来てしまった新人君は、目を閉じて駆け出してしまった。
すると、そいつの気配は後ろの方に置いていかれた様だった。

(やった!)

とばかりに駆け出した新人君は、ギュッと目をつぶったまま走っていたんだけど、バーンと物凄い衝撃を顔に受けて目を開いた。

(おおっ?)
と気が付くと、目の前に看板が立っている。
そこには真っ赤なペンキでぶっとい矢印が『 ↑ 』と書かれていた。

思わず上を見上げた新人君。
真後ろに立った大木の枝が自分の上を覆っている。

その枝の更に上から、葉っぱを掻き分ける様にして覗き込んでいる真っ白な顔の女が、大きな赤い口をパッカパッカ開けたり閉じたりしていたそうだ。

“かちっ”“かぽっ”

って音がしっかり聞こえたって。


まあ、子供相手の古典的な怪談なんだけど、部長の一言が嫌なんだよなぁ。

『結構恐がるわりに、人って怪談好きだろ? 皆馬鹿にして聞いてるんだけど、なんかの拍子に昔聞いた怪談をフッと思い出す時が有るんだよな。そういう時って瞬く間に思い出すからさ、お前らも酔っ払って深夜に帰る時に思い出すかもしれないぞ』

オレ、いつも団地を抜けて帰るんだけど、深夜バスが着いて団地を抜けてる時に、後ろを振り返るのがたまらなくイヤになる時がある。

部長の話を思い出して、更に話が膨らんできてね。
3階建ての団地の屋上から、真っ白な顔の女がオレを見下ろしてたらどうしようか? って妄想が。

いや〜聞かなきゃ良かったですよ。部長。
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数年前の事、私は前々から『お声』がかかっていたラウンジで働く事になった。

母がラウンジを経営していた為、10代の頃から度々その手伝いをしていた私は、水商売の経験もそこそこ長く、人間関係もまぁ、悪くなさそうないい感じの店で、順調に勤めていた。

ある日、同僚のSが、

『なんか…最近引っ越したアパート、感じ悪くて…』

と、私に持ち掛けて来た。

店内では一番仲が良く、アフターも二人で良く飲みに行ったりしていたので、取り敢えずその日、店がハネてから行きつけの店で話そうと言う事になった。

午前1時半、お客も引いたので、私は行きつけのショットバーに足を運んだ。
Sは既に来ていた。

『Rちゃん、ごめんな……』

Sは私の顔を見るなり、申し訳無さそうに俯いた。

『えぇよ? あたしもまだ飲みたかったし(笑)』

私はいつものチンザノドライのロックを頼むと、カウンターに腰をかけた。

『で、どんな感じなん?』

私が訊くと、Sはゆっくりと話し始めた。
彼女の話はこんな感じだった。


Sは2週間くらい前、実家が嫌で、一人暮らしを始めた。
それは以前から、『近い内に実家を離れたい』と言う様な事を、本人からも聞いていた。
しかし、アパートを借りるには敷金やらがいる。
Sにはまとまったお金を用意する事は出来ない。

で、店のオーナーママに、暫くの間、寮に入れて貰えないかと頼んだのだが、生憎、寮の部屋は空きがないと言う。

だけど、とにかくすぐにでも家を出たいと思うSは、『何とかなりませんか?』と、頼み込んだ。
ママは少し考えた末、

『そこまで言うなら、知り合いの不動産屋に頼んで、特別に寮とは別のアパートの1室を、寮として借りてあげる』

と言ってくれたそうだ。
勿論、寮として借りるので、敷金などは店が支払ってくれる為、毎月の家賃のみで構わないとの事。

Sは喜んで、すぐに用意してくれる様にお願いし、数日後には引っ越しを済ませた。

しかし、その部屋と言うのは、何でもひと月くらい前に、前の住人が夜逃げをしていなくなった部屋らしかった。

その有様は酷い物で、Sが入居する際にも家財道具はまるまる残ったままで、まさに着の身着のまま出て行ったという状態。
そんな訳だから、勿論清掃業者も入っているはずは無く汚れ放題、襖は破れまくり、壁に穴が開いてるわ……と、とにかく酷い状態だったそうだ。

かと言って、ママに無理を言って寮として借りてもらった手前、文句を言うことも出来ず、それよりも早く実家を出て行きたかったSは、取り敢えず不動産屋に頼んでいらない物だけは運び出して貰い、掃除は自分でする事にし、とにかくその部屋に住み始めた。
本来ならば、前の住人が家賃を滞納した上に夜逃げしたとしても、次に入る者には関係の無い事だ。
ちゃんと敷金礼金を支払って入居するのだから、管理業者が綺麗にして明け渡すのが普通だ。

だが、前の住人からその費用を回収出来ない為、清掃業者を使う事は出来ないとか何とかだって……何ともいい加減で不親切な業者である。

でも、まあ、Sは引っ越しを済ませ、早速掃除をする事にした。

ところが、片付けていると、何故か部屋のあちらこちらからお守りやら御札やらが出て来る。
絨毯の下、押し入れの中、ありとあらゆる場所から。

しかも、極め付けは、恐ろしい程大量の写真。
ダンボール箱に、夜逃げした前住人の家族と思しき夫婦と子供の写真。

Sは、思わず手を止めて見入った。
気味が悪いと思いながらも、何故か見ずにはいられなかった。

写真に写っていたのは、そのほとんどが、30代半ばの夫婦、そして二人の子供。
子供は、女の子と男の子一人ずつで、見た所、姉弟という感じだった。

暫くは、何気なく写真を見ていたSだったが、ある事に気がついた。

途中から(女の子が小学校高学年位になった頃から)、弟の方が写真には写らなくなっているのだ。
それまで、当たり前の様に4人で写っていた家族が、男の子を抜いた3人になっている。
どの写真を見ても、小学校高学年位になった女の子が写っている物に、弟らしき子供の姿はない。
普段から頻繁に揃って写真を撮っていた家族ならば、仮に男の子が病気や怪我で入院する事になったとしても、病院などでも写真を撮るに違いないのに…。

Sは、いろんな事を想像した。
男の子が写らなくなってからの枚数も極端に減っているみたいだし、もしかしたら、男の子は病気か事故で亡くなり、それがきっかけかどうか分からないが、家族の生活が狂い始め、夜逃げせざるを得ない状態に陥ったのではないか……。

現に入居の際、一階フロアのポストや、玄関扉の郵便受けには夥しい数の請求書や督促状が詰まっていたそうだ。

息子が重い病気か何かにかかり、医療費がかさむ→仕方無く借金をする→息子が亡くなる→両親は心神喪失に→借金が返せない→夜逃げに至る……と、まあ、こういう図式になってしまったのではないか、という具合で、Sは自分を納得させる事にした。

それよりも、もうひとつの【お守りと御札】の方が気になる。
一つや二つならまだしも、ありとあらゆる場所に十数枚貼り付けられた御札、箪笥の裏などに隠す様に画鋲でぶら下げられたお守り。

それは、【家内安全】などの類いのお守りではない。何の神様かも分からない(袋に書いてあるが良く分からない)。
と言っても、はい、そうですかと捨てられはしない。

誰しもが思うだろうが、罰(バチ)や祟りなどを信じていなくとも、何となく気が進まない。
仕方無く、Sは、その御守りの類いを全て集め、写真の入ったダンボールに一緒に入れておくことにした。

Sは、幽霊を実際に目にした事はないものの、少しくらいは何かを感じる力がある様で、引っ越してからと言うもの、何だか落ち着かなくて体調も優れない。
夜も、どんなにお酒が入っていても今までの様に眠れなくなった。

いつも誰かに見られている、と言うか、何かの気配がする。
しかし、金縛りにあうといった類いの現象がある訳じゃない。

何故か、それを私に話せば少しは気が晴れるんじゃないか、と思ったのだという。

確かに、私には多少の心霊経験があるし、その類いの話も嫌いではない。
しかし、オカルトマニアと言う訳じゃないし、興味本位で曰くのあるスポットに行きたがるタイプの人間ではない。

【不思議体験】はあっても【恐怖体験】は殆どない。
はっきり言って、私がしてあげられる事など、話を聞いてあげる以外は皆無だ。

私は、Sの話をひと通り聞いてみたが、どうすればいいのかなんて分からないし、かと言って気休めや、無責任なアドバイスもしたくない。

――と、私は、一緒に働いているMの事を思い出した。

Mは、見るからに神秘的な雰囲気をしており、長い黒髪の美人だ。彼女とは色々霊的な話をした事がある。
そう言う類いの知識も経験も、下手な霊能者より豊富なのだ。
私は、Sに、

『Mちゃんに話聞いて貰ったらどうかな? あたしも一緒に行くから』

と提案してみた。

Sは少しためらっていたが、Mちゃんなら、馬鹿になんかせずにちゃんと聞いてくれると思うよ、と言うと、じゃあ明日にでも早速、と言う事になった。
次の日、私が出勤すると、Sが来ていない。
マネージャーに聞いてみると、『今日は休むと連絡があった』と言う。

私は些か心配だったが、取り敢えずMにSから聞いた話を事前に伝えておく事にした。
Mは、

『じゃあ、今日、店終わったら一緒にSちゃんのアパートに行ってみよ?』

と、彼女もSを心配している様だった。

が、その後、Mは呟く様に、とても気になる一言を言ったのだ。

『Rちゃんと一緒なら、変なのに取り憑かれる事なさそう』

えっ? と聞き返したが、

『ううん、何でもないよっ』

とMは微笑んだのだった。


仕事中、何度かSにメールを入れてみたが、返信はなかった。

私とMは、約束通り、店がハネるとすぐにSのアパートへと向かった。
Sの住むアパートは、店から徒歩2分程の所にある、年季の入った鉄筋5階建ての建物だった。

まず、目に付いたのは、アパートの真ん前に積み上げられたゴミの山。
そこは、近隣住人のゴミ置き場なのだが、分類していないゴミは回収して貰えない為、それが溜まり溜まってとてつもない量になっていた。

Mは、アパートの前まで来ると、うっ…と口を押さえた。
ゴミの悪臭に…ではない。彼女は他の【何か】の臭いに反応したのだ。
はっきり言って、私も、『ここはまずい』と感じた。
臭いまでは感じなかったものの、何か得体の知れない【気】が立ち込めている。

『Mちゃん…大丈夫? 行くのやめる?』

私がそう告げると、

『ううん、Sちゃん、此所にいるんでしょ? 行ってあげなきゃ』

と、ふぅ、と深呼吸をして、さあ、行こう、と私の手を握った。

アパートは、かなり古いが、ちゃんとエレベーターがついている。
私達は、それを無視し(二人とも何も言わなかったが乗りたくなかった)、Sの部屋のある3階まで階段を使って昇った。この時、既にMは眉間に皺を寄せ、険しい表情だった。

Sの部屋は、3階の角部屋。
私がチャイムを鳴らすと、すぐにSが出て来た。

Sは思っていたより元気そうだったが、顔色は悪く、朝からずっと頭が痛くて堪らないのだと言う。
私からのメールは見てはいたが、仕事中だから返信しなかったらしい。そのメールで、『今夜そっちに行くから』と告げてあったので、私達が突然来た事にも驚いてはいなかった。

Mは、部屋に上がると、

『件の御守りとか、出してくれる?』

と言いながら、自分の鞄から木の御札の様な物を取り出した。

『あ、びっくりした? これは私がいつも持ち歩いている物。見えるかどうか分からないけど…観てみるね』

私は、Mが何をしようとしているのかさっぱり見当がつかなかったが、相変わらず嫌な【気】を感じて落ち着かなかった。
Mは、さっき鞄から出した木の御札を握り締め、Sが出した大量の御守りを暫くじっと見つめていた。

そして、2、3分後、Mは、相変わらず険しい表情で、

『上だよ…この真上の部屋』

と言った。

『上? 4階の?』

『うん。理由は良く分からない。…でも、この部屋の前住んでた人が此処に住み始めてからずっと後の事。この上の部屋に何かあったんだよ』

と、Mはこの辺りまで話すと、Sに、

『こんな事言ったら、Sちゃんすぐに此処出て行きたくなるだろうけど、言うね? 大丈夫だね?』

Sが真剣な顔で頷くのを確認すると、Mも頷き、話を続けた。

『きっとね、此処の部屋に住んでた人(ややこしいので以後A家とする)、上の部屋に何か起こって暫くしてから、少しずつその異変に干渉されておかしくなっていったんだ。あ、先に言うけど、殺人とか自殺とかの類いじゃないよ。私にははっきりと分からない。でも、霊的な事』

『でね、A家の家族で、男の子がいたと思うんだよ。その子が一番はじめに異変に気付いて、それが次第に家族全員に伝わっていったの。で、一番干渉を受けていたのもその男の子。錯乱状態が続く様になって、病気がちになって。そのうち、家族全員が少しずつおかしくなったんだと思う』
『でね、A家のお父さんは仕事も上手く行かなくなって、もしかしたら、異変が霊的な干渉のせいかも知れないって思って、御札なんかの類いをあちこちに貼ってみたりしたんだろうね。でも、此処にある御札とお守り、適当に用意したやつだと思う。どれも寺や神社で売ってる類いのやつみたいだし。A家の家族の為に念を送って書いてもらった御札じゃなきゃ、全然意味がないよね。それで結局、生活もままならなくなって、あちらこちらからお金を借りなきゃならなくなった。男の子の具合はその頃にはもうかなり悪かったんじゃないかな』

『…で、夜逃げした訳やね?』

『だろうね』

『でもさ…上の階の部屋、自殺とかの類いじゃないんやったら、一体何なんやろ?』

私が不思議に思って訊いてみた。
Mはうーん、と唸った。

『誰かに恨まれてた…とか?』

『そうかもね。でも、生霊じゃないよ。死んだヒトの思念だよ。最初はたった一つの霊だったんだと思う…それがいつの間にかあちこちから寄り集まって…』

Mがそこ迄言った時、私はふと思い出した。
このアパートの前に着いた時の事を。

『…あの、ゴミの山やね?』

『うん。生ゴミやらの生活ゴミの山。このアパートに着いた時、入口からゴミ山にかけて、すんごい数の霊が集まってた。なんだか良く分からない動物の霊まで、何十って。わたし、鼻が曲がるかと思ったよ』

Mはそう言いながら、苦笑いをした。
始めの内は顔面蒼白で不安そうにMの話を訊いていたSだったが、この時点ではだいぶ落ち着いている様に見えた。
『今、この部屋には何も入って来ていないよ。もし入って来ても、こちらが怯えて弱味を見せない限り、向こうも何もしては来ないと思う。でも、Sちゃん、早く此処を出た方がいい。いくら害はないって言っても、こんな所に暮らしていたら、誰だっていつかおかしくなっちゃうよ』

Sは頷いた。
良かったら寮の部屋が空くまでウチに泊まっててもいいよ、と私が言うと、

『ううん…それまで我慢して実家にいることにする。有り難うね、二人とも。こんな遅くまで……』

と、Sは泣き出した。

今晩だけでもウチに泊まりなよって言ったのだが、Sは大丈夫だと言い張ったので、心配ではあったが、私達はSの部屋を後にした。

そして、アパートの入口迄来た時、私達は上半身だけの女性と擦れ違った。

『今のヒト、見た?』

Mにも見えていたのか、そう訊いて来た。

『うん、見た。真っ黒なセミロングヘアの白い服のヒト。もしかして…』

『…そうだよ、あれが、多分、原因の大元』

その白い女性は、ちらりと目だけで私達を睨み付けて、通り過ぎていったのだが、不思議な事に恐怖感は全くなかった。


帰りのタクシーの中で、私はSのアパートに行く前、Mが私に言った一言の事をもう一度訊いてみた。

Mは、あぁ、と笑いながら、

『Sちゃんが何故、Rちゃんに相談すれば気が休まるんじゃないか、って、感じた気持ちがわたしには見えるよ。Sちゃんにしたら漠然と感じただけなんだろうけど』

『どう言う事ぉ?? 見える? 何が見えるん』

私が不審がって訊くと、Mはこう言った。
『だって、Rちゃんを守ってるの、【何が何でも悪霊なんて近付けさせない!】って感じ。二人いるよ?』

『二人?』

『うん。前にいるのが、男の子。んで、後ろに賢そうなお婆ちゃんがいるよ。これじゃぁ、気の弱い霊ならビビって逃げちゃうね』

Mはそう言ってクスッと笑った。

『…あ…そうか』

私は、自分を守っている物が何なのか、それで分かったのだ。

それは、大好きだった兄と、私が帰って来るのを待っていたかの様に息を引取った祖母だ。

ふふ、兄が【あの時】以来、夢にも出て来ない訳が分かったよ。
ずっと一緒にいたんじゃ、夢に出て来る必要、ないもんね。


<追記>

因みに【あの時】と書いたのは、以前投稿させて戴いた話の事。
不思議な事に、兄は実際私の高校受験のあの日以来、一度も夢に出て来ていません。
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異常に嫉妬深い彼女に別れ話を持ちかけた。
やさしい人だったが、妙にネガティブでさびしがり屋だった。

本格的に付き合いだしてはじめて、彼女の異常さに気付いた。

俺の携帯が鳴るたびに誰からなのか、何の話だったか執拗に問い詰める。
休日には必ず自分と一緒にいるように強制。やむをえない仕事などの理由で一緒にいられない時は、それこそ十分おきに連絡が来る。

とにかく俺の行動のすべてを管理したがった。
また、自分以外の女性と俺が会話するのを一切認めない。近所の人に挨拶もさせない。レストランとかでも店員が女性のときは必ず彼女が注文をとった。

仲のよかった姉が急に連絡してこなくなったのも、彼女がさまざまな嫌がらせをしていたからだと知った。

さすがにやばいと思って彼女の実家に相談してみたが、

「うちの子は前の男にふられてからだんだんおかしくなった。あなたと付き合うようになって(あれでも)だいぶ落ち着いた。少々変なところもあるがかわいそうだから見逃してほしい」

言外に、これ以上娘がおかしくなるようなことをするな(別れるな)と言ってきた。

警察にいる友人にも相談してみたが、警察は色恋沙汰には死人でも出ない限り関わろうとしないらしい。

しかし、さすがにこれ以上面倒も見きれない。
話し合うにも言葉が尽きた。これ以上一緒にいると俺が狂う。

彼女のマンションに行き、できる限り穏やかに遠回りに別れ話を持ち出してみた。

とたんに人とは思えぬ形相でめちゃくちゃに俺につかみかかる彼女。
必死で抑えつつ説得を試みるも、執拗に俺の眼球を引っかこうとするさまに恐怖をおぼえ突き飛ばす。
思いっきり転んだ彼女は飛び起きながら台所に走りこむ。
今までに感じたこともない悪寒を覚え、彼女が台所にいるうちに靴を残して彼女の部屋を飛び出した。

エレベーターをそわそわしながら待ってると、彼女がドアをぶち破るように部屋から出てきた。
裸足で、手には包丁を持っている。それだけ確認して、来ないエレベーターを見限り階段に走る。

マンションの階段を転がり落ちるようなスピードで駆け下りるが、追いすがる彼女の声を引き離せない。
一階正面ゲートから駐車場に着くより早く彼女が追いついてくる。

必死で走っている耳に彼女の荒い息が聞こえてくる。
逃げ切れないと判断して、ぎりぎりまで彼女が追いすがってきたところで、急にしゃがみこんで足を払った。

彼女は俺につまづく形で勢いよく顔面からアスファルトに突っ込む。
包丁を落としたので柄を蹴って遠くに飛ばした。

彼女が起き上がるより早く、自分の車に駆け寄りながらポケットを探りカギを取り出す。
カギを開けてドアを開け、中に滑り込むのをほとんど同時にやってのけエンジンをかける。

バックして方向転換、駐車場の外に向かってアクセルを踏もうとしたとき、運転席ががばっと開いた。

弾みに「ひいっ」とかぼそい情けない悲鳴がこぼれる。彼女を正視できない。
ゴミ処理用の焼却炉を稼動中にのぞいて、猛烈な熱気に顔を背けたことがあるが、今の彼女はあれに似ている。

ほとんど反射的にアクセルを踏み込んで車を走らせた。
彼女はドアにつかまって併走しながら俺の名前を絶叫していたが、スピードが上がってついに手を離した。爪がはがれたようで、運転席側のドアの内には血の線が残った。
夜の街を制限無視で走りながら俺は泣きじゃくっていた。

その日のうちに荷物をまとめて実家に逃げ込んだが、その日から二度と彼女を見ることはなかった。

彼女からも、彼女の実家からもまったく音沙汰がないので、自殺でもしたのかとおびえていたが、件の友人がさりげなく見てきたところ、何事もなく普通に暮らしていたという。


時間がたって楽観的になった俺は、また自分のアパートに帰った。

夕食でも作ろうと冷蔵庫を開けると、小包が出てきた。
いやな予感がしたがあけてみると、中からは手紙らしい封筒と、あの日マンションにおいてきた靴が短冊状にずたずたにされた物がでてきた。

それを見たとたんあの日の恐怖がよみがえった。
心臓が急に暴れだし、口の中がが干上っていやな味がしてきた。

ひゅーひゅーと荒い呼吸をなだめながら、恐る恐る同封されていた封筒を開けてみる。
予想した手紙ではなく、硬い花びらのようなものが手のひらに散らばった。

それが根元からはがれた十枚の爪だとわかったとたんに声を上げて手の平から払い落とす。

慌てて友人に連絡を取ろうとするが家の電話機が動かない。よく見ると電話線がちぎられていた。

喉から変なうめき声をもらしながら充電中の携帯を手にとるのと同時に着信。彼女から。
さっきの爪の時のように携帯を放り出してへたり込んだ。

腰が抜けて座り込んでいる俺の後ろから、玄関の鍵を開けてドアを開く音がした。


「早くでてよ」
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俺の人生で唯一の実体験です。
ここの人たちにはあまり怖くないかも知れませんが聞いて下さい。

俺が大学に入ったばかりの頃の話です。
ある日、サークルの皆と怖い話をしてたら、先輩達数人が寄ってきて、この大学にまつわる怖い話を教えてくれたんです。

怖い話はいくつかあって、先輩達は皆知ってるお馴染みの話みたいでした。
俺は怖がりだけどこういう話は好きだったんです。

その中の一人の女の先輩が、話の最中急にワッ! とか言って脅かす訳。
そんな子供騙しにビビる俺を見て面白がったのか、

「夜、見に行ってみよっか」

と、俺を誘ってきたんです。

俺はあまり行きたくなかったけど、その先輩に下心を感じたので行くことに。
夜7時に待ち合わせして、現場へ。

そこは女の子が自殺したという校舎で、その子は飛び降りる前に、壁に『さよなら』と書いたのだそうです。
そしてその文字は消そうとしても消えず、いまも残っているのだというのです。

構内にはいろんな学部の棟があって、俺にとっては縁の無いエリアも多く、そこもまた足を踏み入れた事のない場所でした。
何の建物かは分からなくて、周囲は結構草が伸びててあまり使われていない様子でした。

そして建物を少し回ってゆくと、先輩がここだよと言います。

壁の文字はありました。
まだ薄明るかったので懐中電灯無しでもよく見えました。
目線ほどの高さに、かなり大きく『さよなら』と書いてあります。
本当にそんな字があった事にちょっと驚きました。でも、正確には『さよーなら』と書かれてるんです。

俺は先輩に「なんかさよーならって伸ばしてません? 緊迫感無くないっすか?」と言うと、先輩もクスクス笑う。

さらに続けて「妙に字でかくない?」とか、「てっきり屋上のカベとかに書いてあると思ったんだけど、この人まず下で書いてから上に登ったんですかね? それにこれってスプレーでしょ。校舎のカベにスプレーで落書きってw 盗んだバイクで走りだしそうじゃないすか? これから自殺する人がしますかね?」とひとしきり冗談を言い、二人で笑い合いました。

結局、これはこの有名な噂を知っている人のいたずらではないかと思われました。

「でもあの文字消してあるよね?」

と先輩が言います。

確かに、消しても消えないの言葉通り、その文字は明らかに上から白系のペンキで塗りつぶされているのですが、下から文字がはっきり読めるくらいに浮かび上がってきているのです。

しかし、それもそんなに不思議ではなく、直接壁に塗った部分とスプレー文字の上から塗った部分とでは、風雨に晒された時のペンキの落ち方が違っていて、次第に文字が浮いてきたのではないか、と俺は自分の考えを先輩に伝えました。

あるいは、ペンキを塗ったのもいたずら書きした奴らで、わざとそれらしく見える様にしたのかも知れません(だとしたらヒマ人ですね)。

しかしそう思いながらも、近付いたり触ったりする勇気は無いへたれな俺なのでした。
そんなわけで、あまり怖くない心霊スポットということで引き上げることにしましたが、すっかり暗くなった大学構内を二人で歩いているうち、ビビリな俺はなんとなくさっきの壁がやっぱり本当は怖い様な気がしてきていました。

先輩も俺のそんな様子を察知してか、「ねぇやっぱりあの壁へんだよ」などと煽ってくる。

そんな時、電話のベルの音がするのに気付きました。

構内にはいくつか電話ボックスがあったのですが、前方に見える電話ボックスが鳴っているらしかったのです。

俺と先輩は、おー凄いタイミング! 怖わー! などと言いながら、まだふざけた気持ちで近付いて行きました。

電話はまだ鳴っています。

先輩は出てみよっかと言って、ボックスのドアを開けました。
俺が強がっているのを面白がっているみたいでした。

次の瞬間。先輩は本当に受話器を取って電話に出てしまったんです。
みるみる内に先輩の表情が強張ってゆきます。

あぁ俺をかつごうとしているのだなあと思い、「なに? なに? 貸して」と言いながら、俺は先輩の手から受話器を奪って耳に当てました。


「…でしょ」

くぐもった音で聴き取れないのです。
?? と思いながら、しっかり耳を当てて聴いてみます。
「わらった、でしょ…」

と聴こえた時、俺は受話器を叩きつけるように電話を切り、先輩と走って逃げました。


後で先輩とこの話をした時、先輩は、「あなたでしょ」と言われたと言います。

電話の相手が何と言ってたのか、もう俺には自信がありません。
ただ、テープを遅回しした様な、女の声とも男の声ともつかない低くこもった声だという点は、先輩も言っていました。
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知り合いの警察関係者に聞いた話です。

去年、この近くであったバラバラ殺人事件、覚えてますか?
若い女性の部屋で、男のバラバラ死体が見つかったってやつ。その話です。

ああ、別にスプラッタな話しようってわけじゃありません。状況はそうですけど(笑)。

その女性、仮に英子さんとしておきます。男の人は、一樹さんということで話を進めますね。

2人はそれぞれの母親が幼なじみだったので、やっぱり幼なじみってことになりますかね。
小中高と学校が同じで、高校1年の時、一樹さんの友人の坂木さんと彼女が付き合い始めました。

そうして、3人そろって同じ大学に進学して半年目に、坂木さんが亡くなりました。
デート中に、ダムに落ちたんです。

2人きりの時で、落ちた目撃者もいなかったんですが、それは結局事故として扱われました。
英子さんがショックでかなり精神的にやられてしまって、事情聴取とかできなかったせいもあったようですけど。

彼女は家から1歩も出なくなって、大学も退学。
風呂とかトイレとか食事とか、最低限の日常生活に支障はないけど、会話は成り立たないし、無理に何かさせようとすると大声をあげて暴れ出したりする。

父親は病院にかかることを許さず、それでいて英子さんのいる2階へは近づこうとしない。
出歩かないせいか、太って体格の良くなっていく英子さんに母親の手だけでは負えない時が出てきて、一樹さんが世話を手伝うようになったんです。
英子さんは、以前から手先が器用で細かい手芸を得意としていたそうで、家に閉じこもるようになってからは、いつも卵細工を作っていたそうです。
卵に穴をあけて中身を抜いてよく洗って、細かい布きれをボンドで張り付ける。それに紐をつけて、カーテンレールに吊す。

カーテンが閉められなくなるので、それをお母さんが毎日、部屋の天井に移して画鋲で留める。
部屋の天井が、いろんな柄の卵に埋め尽くされていきました。

そんなある日、お母さんは英子さんの妊娠に気づきました。
そして、一樹さんのお母さんに真っ先に相談しました。

お母さんから話を聞いた一樹さんは、家を飛び出して友人の家を泊まり歩くようになりました。
英子さんを妊娠させたのは、一樹さんだったんです。

ある日、友人の1人がたびたび泊まりに来る一樹さんからその話を聞き出しました。
彼は、その話をしてすぐ、やっぱりちゃんと責任をとらなくてはいけない、けじめをつける、と言い置いて友人宅を出て行きました。

けれど、それが生きている彼を見た最後の証言となったのです。

翌日、彼は英子さんの部屋でバラバラにされて見つかりました。

見つけたのは、英子さんのお母さんでした。
はじめ、それが何かわからなかったそうです。

部屋の隅では英子さんが眠っていました。
そして部屋中に、天井にぶら下げていたはずの卵の殻が落ちていたんです。
ひどい臭いがしていたそうです。
けれど、英子さんはすやすやと眠っていたし、臭いの元も見あたらなかった。

お母さんは、英子さんに女性の毎月の行事が始まったためだろうと見当をつけました。血の臭いに似ていたからです。
妊娠じゃなかったんだとほっとして、とりあえず空気を入れ替えようと思っても、床には一面、割れて崩れた丸い殻。布にくるまれた何百もの卵。

お母さんは窓への道を作ろうと足で卵をよけようとして、その異様な重さに驚きました。
動かしたひょうしに強くなった異臭。その重さの妙な感じ。

恐る恐るしゃがみこんで近くのそれらを観察して、彼女は布切れの間からのぞく赤黒いモノに気づきました。
昔、大怪我をした時に見た開いた傷口そっくりの色。

お母さんは悲鳴を上げて、でも、お父さんは1階にいたけれど、声もかけてきませんでした。

お母さんは気持ち悪いのを我慢して足で重たい卵をよけて英子さんのところまで行き、無理矢理起こして部屋から連れ出しました。
英子さんは嫌がって卵を踏みつぶしたりしましたが、火事場の馬鹿力が作用したのか、小柄なお母さんが英子さんを部屋から引きずり出し、1階へ下ろしました。

英子さんの姿に、お父さんはそっぽを向いて寝室に引っ込んでしまいました。
お母さんは1人でやっとのこと英子さんを居間に落ち着かせ、それから、警察に電話をかけました。
もちろん、お母さんは卵の中身が何かわかっていませんでした。
けれど、近所の人が蛇が出たと行って110番してお巡りさんを呼んだことがあったので、それよりは重大時だと思ってかけたのだそうです。

やってきたお巡りさんは、英子さんに踏みつぶされた卵の中に、人間の目玉を見つけました。
そこから、大騒ぎになったのです。


もうお解りだと思いますが、卵の中身は一樹さんでした。
彼が、何百、千に近いくらい細かくバラバラにされて、卵の殻の中に納められていたのです。

DNA鑑定で、彼だと確認されました。
遺体の多くに生体反応が認められました。彼は、生きたままバラバラにされたのです。

しかも、刃物を使われた痕跡は見あたらない。引きちぎられ、折られ粉々にされていたんです。
そのバラバラのかけらが、ご丁寧にも卵の殻の中に納められ、布切れで飾られていたんです。

英子さんからはなんの証言も得られませんでした。
ご両親もなんの物音も聞いていませんでした。

結局、英子さんが無理矢理妊娠させられたことを恨んで一樹さんを殺したのだろう、ということになりました。

けれど、不可解な点が多くあります。
警察も未だその謎を解いていません。というより、解く気もありません。
・卵の殻にあけられた穴より大きな骨片が、どうやって中に納められたのか

・どれも穴を布でふさがれていたのに、前日の晩に彼が目撃されている。たった一晩の作業とはとても思えないこと

・そして、粉々に引き裂かれた現場が、どこにも見つからなかったこと

・何より、道具なしに人力で人を引き裂くことができるのか。それも粉々に。できるわけがない

英子さんは、今は精神病院にいるそうです。
おなかの子供がその後どうなったのかは聞いていません。

一樹さんが何にどのようにして殺され、いかなる方法で卵の中に入れられたのか。解答はありません。
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小学生の頃、夏休みに家族で旅館に泊まりにいった。
日程は3泊4日で、すぐ近くに海がある場所だった。

俺はその間、海ばっかり行っていた。
水泳習ってたし、もう5年生だったから、親も俺が一人で行く事には特に文句を言わなかった。
ずっと一人で泳ぐのはちょっと寂しいものもあったけどね。

何日目だったかな。夕方、日が沈む直前まで泳いでた。

で、そろそろ帰ろうと思ったら、海から見えるはずの旅館がない。
本当に建物がごそっと消えていたんだ。

なんだか嫌な予感のまま、荷物を持って旅館へと戻った。
場所は間違えるはずもない。何回も往復しているのだから。

旅館があった場所は、もはや残骸と化したグチャグチャの建物。
木片や石がそこらじゅうに散らばっていた。

俺は最初、何が起きたか全くわからなかった。
そして、ふと、あるおかしなことに気付いた。

海からここに戻ってくる間、誰かとすれ違ったっけ? 否。

そしてこんな状況、こんな状態の建物の周りに…それどころか、近くの道に人一人居ない。車も走っていない。誰もいない。

「!!」
意味不明の恐怖で高鳴る心臓。
荷物を手に取ると、一直線に海まで駆け出した。

周りはもう暗い。何度も転びそうになった。
昔から変に冷静な子供だった俺。あの場所に留まるよりかは、開けた場所に行ったほうがいいと判断したのだ。

本気で走ったため、海に着いたときは本気で息が切れていた。両膝に手を当て、息を整える。

何で何も無い? 今まで俺が居た場所は? 父は? 母は? これからどうすればいいの?

色々な事を考えながら、何気なく後ろを振り向いた。
真っ黒な海の中が、明るく煌くのが見えた。

旅館の光が反射していた。
もう一度振り向くと、自分が泊まっていた旅館があった。

(よかった!)

安心が一気に押し寄せてきたと同時に、後ろの真っ黒い海が騒ぎ始めた。

はっとして、反射的に後ろを振り向いた。
自分から数メートルもない場所に、何か居る。

旅館の光が多少なりとも海を照らしているため、そこにいる何かは案外すぐに判別することが出来た。


人間だった。

ジーパンをはき、シャツを着た女が、濡れた長い髪を振り乱しながら、それはもう必死に両手で海を殴っていたのだ。
静かな海の静寂は、バチャン、バチャン、という海を殴る音でかき消されていた。

大抵、そこで気絶なんかするもんだろうけど、俺はそんな事出来なかった。さっきとは別の恐怖。

ただ、体が固まって動けずに…とはならずに、荷物を手に取り、一目散に旅館へと走った。砂のせいで走りにくいのが鬱陶しかったけど…。

海を殴る水音は、消える事は無かった。


肺が潰れるんじゃないかと思うほど、俺の息は切れていた。
それもそのはず、さっきも本気で走ったんだから。

恐る恐る旅館に入ると、フロントに両親が居て、俺を見つけるなり頭を殴ってきた。
今まで何処に居たのか、と。探したんだぞ、と。それは俺の台詞だ。

事は、俺が一人でうろついていたという事で収められた。

今しがた体験した事など、誰にも話す気にもなれずに、結局俺は残りの一日、海に行く事は無かった。
両親は、海に行かない俺を見て怪訝な顔をしていた。

後から考えても、海で見たあれは幽霊の類などではなく、確実に生きている人間だったと俺は思っている。
ただ、旅館の消失については、納得のいく答えが出ていない…。

俺と一緒に全てを見たはずの、あの荷物一式。
その「最後の生き残り」だった水中メガネも、先日、親戚の子供へと譲られてしまった。
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これは、俺が小学二年生の頃の話。
お盆も近いというのに母親が出張の為、俺はおばあちゃんの家に預けられていた。

おばあちゃんの家は木造だが、かなり大きい。
こういうことにも慣れっこだった俺は、特に遠慮することもなく家の中を自由に走り回ったりして、おばあちゃんにもそれなりに迷惑を掛けていた。

最初の内はそれで満足していたが、ファミコンで遊ぶことに慣れ切っていた当時の俺は、どうしても退屈を感じずにはいられなかったんだと思う。

俺は、おばあちゃんに何の断りも入れず、一人で裏山に入ってしまった。

裏山に入ったはいいが、何もない上に虫が多い。
俺はすぐに飽きてしまったが、不思議と「帰ろう」と言う気にはならなかった。

俺は腰の辺りまで伸びた雑草を掻き分けながら、どんどん奥に入った。

暫くすると、木もなく、草の丈も低い、ちょっとした広場のような場所に辿り着いた。
木で光を閉ざされた森は小気味悪かったが、そこだけは光が注がれたようになっていて、俺は秘密基地を見つけたような気分になり、得意になって走り回った。

そうしている内に、俺はあるものを見つけた。

無縁仏と言うのだろうか、何も彫られていない墓石が十数個あった。
線香を備える場所には団子虫が住家を作り、石にはコケが沢山生えていた。

急に背中の寒気を感じた俺は、一目散におばあちゃんの家に戻った。


おばあちゃんは俺の顔を見て「どうしたの?」と驚きながら聞いてきた。
俺は「裏山に行ってきた」と言うのにどうしても気後れしてしまい、「なんでもない」と言って茶の間で横になった。

暫くして、段々と眠気に誘われてきた俺は、何かの気配を感じた。
その内、気配だけではなくなってきた。

果物が腐ったような匂いと、ぺたんぺたんと言う足音。
明らかにおばあちゃんのものではなかった。

段々と近づいてくるそれは、茶の間の前の襖辺りでピタリと止まった。

「お、おばあちゃん?」

そう言っても、当然返事はない。

しかし、ソレは返事をする代わりに、ゆっくりと襖を開けた。
と同時に、先程よりも強烈な異臭が立ち込めてくる。

俺は横にしていた体を起こした。

皮の剥けた人体と言うのは、きっとこんなものなのだろうか。
襖の前に立っていたソレは、まさしくそんな格好をしていた。

片目がとれ、鼻が削がれたような顔と、内臓の見え隠れする胴体。

小学校低学年だった自分には内臓の知識など当然あるはずもなく、逃げるでも叫ぶでもなく、ただ見ているしかなかった。

俺が一通り見終わるのに合わせ、ソレは先程のリズムで、またペタンペタンと近づいてきた。

はっと我に返った俺は急いで向かいの扉から寝室に向かい、そこから更にトイレへと入り、急いで鍵を閉めた。
当時、ボットン便所だったトイレはとても臭かったが、俺は通気の為の窓も閉めた。
だが、何分待っても足音は近づいてこない。

俺は「いなくなったのかな?」と思って、ゆっくりとトイレの扉を開けた。

その瞬間、ソレと目があった。

ソレは少しかがむようにして、俺と目線を合わせた。
不意を突かれたのと、強烈な異臭のせいで、俺は再び、しかし一瞬の内だが我を失っていた。

我に返った俺は急いで扉を閉め鍵を閉めたが、ソレは不思議と強引に入ってこようという素振りは見せなかった。
俺が放心している間も、ずっと目を合わせたままだった。

俺はトイレの中でうずくまりながら、おばあちゃんかおじいちゃんが気付いてくれるのを待つ事にした。
しかし、ボットン便所の下で、何かがペタンペタンと歩いている音が聞こえる。

きっとさっきのアレだ。
トイレの中も安全じゃないと感じた俺は、泣きそうになりながら窓を開け、逃げようとした。

窓を開けた瞬間に、また異臭が立ち込める。

背の低かった俺は、窓の外を見ることが出来なかったが、直感的にアレだとわかった。
恐怖と最後の脱出路が絶たれた絶望感で、俺はとうとう泣き出してしまった。

それと同時に、視界がくるくると回り始める。


気がつくと、俺は茶の間で横になっていた。
隣では、おばあちゃんが時代劇を見ながらお茶をすすっている。
今までのことが夢だと分かり、一気に安堵するのと同時に、涙と嗚咽が込み上げてきた。
起きて早々泣き出す俺に、戸惑ったおばあちゃんは「どうしたの?」と心配そうに聞いた。

「こわい夢でも見たのかい?」

と言いながら、おばあちゃんは背中を擦ってくれた。

俺は嗚咽まじりに裏山に遊びに行ったことと、夢の内容を話した。
最初は怒られると思いながら話していたが、おばあちゃんは話を聞きながらうんうんと頷くだけだった。

一通り話し終わると、おばあちゃんはゆっくりと、こう話し始めた。

「あの山はね、そういうのが結構いるんだよ。私もおじいちゃんも狐や狸に化かされたりしてね。仏さんがついてくるってのは無かったけど。きっとお盆になっても誰も来てくれなかったから仏さんも寂しかったんだろうに」

そうして、俺とおばあちゃんは仏壇に線香を上げ、裏山に入って線香とお供え物を置いて行った。

その夜、夢の中で「怖がらせて悪かったね」と誰かが謝ってくる夢を見た。
それ以来、怖い夢を見ていない。
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この話には“呪われる”という表現が含まれています。
以下、自己責任で進んで下さい。
私は本当に怖い話が好きなのですが、本当に怖がりと言う、まぁなんという矛盾した奴なんですけれども、しかしこれといって幽霊を見たり、霊現象にあったりという体験は一度もありませんでした。

その日はいつものように怖い話を明るい内に見て、夜はあんまり怖い話を思い出さないようにしてなんなりやっていました。
そして寝ようとした時には12時近くで(いつもこんくらいだけど)、怖いから飼っている犬を部屋に入れて寝付きました。

しかし夏ですから、暑いんですね。なかなか寝れません。
しかも私は怖がりなので、夏でも厚めの重い布団を頭部以外、体全部隠すようにして被せないと安心出来ないんですよ。

部屋の温度を下げても布団の中は暑いから意味も無く、だからといって布団から出るのは嫌だというのは、夏の間はほとんど毎日でした。
しょうがなく、ちょくちょく腕や足だけを出しては引っ込めを繰り返して、多少は暑さをしのいでました。

思い出さないようにしても、やはり頭んなかはその日見た怖い話のフラッシュバック(笑)。
そういえばちょうどこの時間に、とか考えながら、犬が出した音にびっくりしたりしてました(犬意味なry)。

その日見た話ではないけど、ふと、ある話を思い出したんです。

その話は、「青木さん足元」って言いながら足元を見ると男の人が座ってて、「赤木さん枕元」って言いながら枕元を見ると女性が座ってて、先に青木さんが帰ると、次の日絶対鏡を見てはいけないらしく、赤木さんが先に帰ったら、次の日は絶対に床に物を落としてはいけないという。
両方、もしくはどちらかが先に帰るのを見たら眠りに落ちる事も思い出した。

そんな話を思い出した時、あなたはどうしますか?
その時の私はもちろん、そんな事試そうなんてみじんも思いませんでした。

が、しかし。
声に出すなんて事は出来ないけど、恐怖の意味で気になって足元を見てみたのです。


誰かいました。

数秒後に恐怖が込み上げて来ました。

しかし、声も出ないし首以外動かない。
気付けば布団の中なのに寒い感じがする。

あれは青木さん?
という事は、上には赤木さんが…?

いや、枕元には人が座れるスペースはな…


横にいました。

二人とも俯いてて顔が見えない。

声に出して言ってないのになんでいるんだ…思っただけでもだめなの!? とパニック状態。

目で犬を探すと、机の下の座布団の上に幸せそうに寝てました。
ふざけんなと心の中で一喝。

そして、この話の最悪なパターンを思い出す。


“二人とも帰らず、時間にだんだん俯いた二人の顔が上がっていき、顔が真っ正面を向いてしまう事があると言う”

“私が見たこの話を書いた人は、あと一回で正面って時に、突然さっ、と青木さんが帰って助かったと言う”


嫌な事を思い出してしまった。
目は閉じられない状態。 
二人を見る。
帰る様子はない。

お願いだから帰って…。
と必死に思いながら時が経つのを待った。


もう10分はいるなー。
恐怖心が一周回ったようでそんなに怖くなくなった。

すると突然、二人の首が同時にかくっと少し上がった。

やばい!!
瞬時に感じた。

一回でこの角度だからあと何回だ!?
ていうか何分に一回!?

バクバクと高鳴る心臓。
嫌だ嫌だと心の中で連呼。


そして、恐怖に包まれ数分が過ぎた。

二人の首がさっきと同じようにかくっと上がった。

何分後だったかはわからない。
たけど、なんとなく時間の感覚は少しだけわかった。

暗くてよく見えないが、顔はほとんど露わになっている。もしかしたらあと一回で正面を向くかもしれない。

このまま帰らなかったらどうするんだろう。

死にたくない!

それでも時間は経つのだった。


そして、時間の感覚を覚えた私は、あともう少しで二人の首が上がる時間が来る事を感じ取った。

もう後がない。
最後だったらどうしよう。もしこれが最後だったら…。

すると、二人の体が震え始めた。
機械のような動きだった。それに私はとてつもない恐怖を感じたのでした。

今までにない動き。
これはきっと最後だという事だと。

嫌だこっち向くな!!

二人の動きがピタッと止まった。

そしてゆっくりと顔を上げていく。
嫌だ…嫌だ…嫌だぁあ!

「ワン!!」


突然犬が私の体の上を飛び越え、私の横にいた赤木さんに襲い掛かった。

すると赤木さんは逃げるようにひゅぅうぅぅ〜と風みたいな声を出して、部屋のドアをすりぬけて行った。

よくやった! と私は笑顔で心の中で言った。

しかしまだ体が動かない。

ふと足元を見た時、私の笑顔は消えた。


青木さんが正面を向いていた。

その顔は青白く、無表情で、何か恐ろしいものを感じた。

赤木さんが帰っても正面を向いてしまったらだめなんだ…。

そう思った時、青木さんの顔がみるみるうちに険しくなっていった。

そしてこう言ったのです。

「足が出てれば殺せたのに…」


そう言って消えていった。


いやぁ〜なんですかね。
かけ布団被っておいて良かったですよ。

もし犬が青木さんの方を襲っていたら、私は無事ではなかったでしょうね。
だって頭は被せてなかったですからね。

でもま、私は本当の青木さん赤木さんを知ったわけですし。

もちろん、次の日は物を落とさないように気をつけましたよ。
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これは俺の小学生の時の担任の先生に聞いた話。

先生が大学生のころ、サークルの仲間数人と居酒屋で飲んでいたが、宴もたけなわになりお開きになった。
先生の友人(友)と1名の女子サークル仲間(女)と帰る方向が一緒なので、駅に向かって歩いていると、道の途中に鳥居を見かけた。

女は酔っ払いのハイテンションで、道路ではしゃぎまわりながらその鳥居の前に差し掛かると、とたんにうずくまってしまった。
あーあ、気持ち悪くなって吐くんじゃないだろうなと、そのとき先生と友は思ったそうだが、近づくと、うずくまった状態で意識が混濁しているようだった。

やべー、急逝アル中か? と焦りつつ、何度か名前を呼びかけると女は気がついた。
なんで座っているのかよく分からないようだった。

とりあえず意識が戻ったことに安堵しながら、大丈夫か? などと言いながら駅へと向かった。

駅で電車を待っている間、話のつなぎにさっきはどうしたんだよと女に話題を振ると、女もなんだかよく分からないようだった。
ただ、名前を呼ばれた気がして、その後ふっと意識がなくなったらしい。

そんな話をしていると、特急電車が滑り込んできた。
よし、帰んべーと友と女と乗り込もうとすると、なぜか女が乗り込まない。

女は異様に震えながら、「この電車はだめだ、この電車には乗りたくない」と駄々をこねる。
既に発車ベルが鳴り終わっているため、しょうがなく次の電車を待つことにした。

電車が発車していくのを見ながら、女に「何でさっきの電車はだめなんだよ」と聞くと、彼女はこう答えた。
「だって、特急の色は血の色よ…」

先生は思った。
そんなこと言ったら京急全部乗れないじゃないか。

しかし、なぜか次の特急には何も文句を言わず女は乗り込み、3人は家路へとついた。


酔いも、飲みの後の楽しい気分も女の奇行で覚めてしまった先生は、風呂に入った後、缶ビールで一杯やっていた。

時刻は既に午前。
大分眠くなってきていたので、これを飲んだら寝ようと思っていた。

その時、電話がけたたましく鳴ったのだった。女の家からだ。

果たして、電話に出たのは女の母親だった。
話を聞いてみると、帰ってきてから女の様子がおかしいというのだ。

部屋から出てこない。うなり声や動物の鳴き声などに似た声で一人騒ぐ。
部屋に近づこうとすると他人のような声色で追い払われる。
押し入った父親が腕をかみつかれた等、想像を絶する内容だった。

何か変わったことがなかったか、と涙声で語る母親の電話口からも、かすかに彼女の声だと思われる奇声が聞こえた。

先生はとりあえず、帰り間際に一回気を失ったこと、その時に頭部などを打ってはいないこと、電車の件などを伝えたが、何も原因は分からなかった。
明日まで様子を見て、病院へ連れて行くとのことだった。


電話を切って床に入ると、とたんに不安になった。
本当に何もなかったか? 彼女がおかしくなり始めたのは帰り道からだ。

そんな記憶を辿っていると、また電話が鳴った。
電話に出たのは彼女だった。

先生「おい、大丈夫かよ」

女「ええ、大丈夫よ」

おかしい。明らかにいつもの女の雰囲気じゃない。
絶句していると、女は奇妙なことを言い始めた。

女「帰りにお土産をもらったの…もう持ちきれないから、友君にも送ろうと思うの」

瞬間、先生はやばいと思った。俺はもっと早く思えよと思った。

先生の脳裏にあのときの光景が蘇る。確か、あの鳥居は稲荷だった。
先生はちょこっと霊感があったそうなので、不確かながら狐に憑かれたんじゃないかと思ったそうな。

女からの電話を無理やり切った後、すぐに友へ電話したが、特に変わったことはないとの返答で安心したが、今日はなんかあるかもしれないから気をつけろ、とだけは伝えた。どうやって用心するかは先生自身も分からなかった。

そして先生は女宅へ電話をすると、両親へ、もしかしたらお寺とか神社でお払いをしてもらったほうがいいんじゃないかと伝え、床に入った。
既にうとうとしていた先生は、再度の電話で飛び起きた。
時計を見ると、30分程度は経過していた。

恐る恐る電話に出ると…彼女だった。

女「友君に送ろうとがんばったけど…だめだったのよ。だから、あなたに送るね」

それだけ言うと彼女はケケケケケケーンと奇声をあげだした。

先生は電話線を引っこ抜き、即行布団をかぶって震えてたそうな。

そんな状態でも眠れるもんで、いつの間にか朝になっていた。


あとは後日談なのだけど、翌日、彼女と彼女の両親はお払いに行ったそうです。

朝になると、彼女は昨日の夜のことは覚えてなかったようで、頭に?マークをつけながら、大人しく両親と祓え言葉かお経(神社か寺か分からないのでどっちか)を聞いていたそうですが、途中から唸る様な声を出しだし、最後には暴れだしたらしい。

その後、断末魔のような悲鳴をあげると気絶してしまったが、お坊さんか神主さんは、これでもう大丈夫だよと言ってくれたらしい。

実際、それ以来彼女の奇行はなくなったそうだ。
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私は零感だから、都内や近場の心霊スポットが好きで冷やかしに行って遊んでました。
毎回一緒に行く友達も零感だから、心霊スポットで周りがビビる様な事を平気でしたりしていました…。

私達が心霊スポットに行く事を止めるきっかけになった事件を書きます。
神奈川某所にある心霊スポットのトンネルに、男1人・女2人で行った時の話です(女友達をB・男友達をCとします)。

車で山道を進むとゲートがあり、不法投棄を注意する無機質アナウンスが流れ、真っ暗な山中で街中の心霊スポットにはない空気にBと最初は喜んでました。
有名なスポットだからかすでに車が一台止まっていたし、普段から心霊スポットに遊びに行く三人に恐怖心はありません。

暗い山中だと聞いていたため、いつもより大きなライトを持ちトンネルに向かいました。
トンネルに着くと、前のグループの明かりやふざけて騒ぐ声で怖いなんて思いませんでした。

トンネルを抜けると、Bが先にキャンプ場跡があると言い、このまま帰ってもつまらないと思い、行く事にしました。

キャンプ場までは舗装された山道をしばらく歩きます。
途中で追いついた前のグループと、お互いの自己紹介をしながら道を進んで行くと、すぐにキャンプ場跡にたどり着きました。

川があり、涼しい空気に最初は全員安心していました。

「キャンプ場だし次回はみんなでキャンプしに来たいね!」
なんて冗談を言いつつ石橋を渡ります。

突然Cが、

「静かにっ…」

て言い、みんなびっくりして黙りました。

C「…声が聞こえた気がしたから」

と言うと同時に、女性? の笑い声が微かに川の音に混じり聞こえました。

「自分達以外にも誰か他のグループがいるんじゃない?」

と、合流した男D・E・Fが言い、怖がる女の子を安心させるために、

D「おーい? 誰かいますか〜?」

と呼びかけました。

誰からも返事はなく、さらに笑い声だけは聞こえます。

E「川の音で気付いてないんだよ」

C「何人かの声がするし話してるから返事しないんじゃない?」

F「普通にキャンプしてるんじゃない? 話しかけに行こうよ」

怖いと思わない男性達は、声がする方へ歩きはじめました。


※これからそこに行きたい人の為に、声の聞こえてきた場所までの進み方を書きます。

最初の石橋(確か一ノ橋でした)を渡り道標がある所まで進みます。道が二本に別れ、左に石橋がありました。
右の道は草などが生えていますが進めます。ここを進むと道は少し険しいですが監視棟? につきます。
声はこの辺りにいます。
監視棟までの道で起きた事があります。

前から誰かの声がして、こちらに向かって来てるようでした。

合流したグループの女の子2人が怖くて歩けないと言うので、皆で声の主(全員が中年男性の声だったと言います)を待つ事にしました。

声の主は暗い山道をライトを持たず、こちらに歩いて来ます。
酔っ払い? の様な話し方で何を言ってるかは聞き取れません。

声が近くまで迫った時に、私達は気付きました。
声は確実に確実に近づいて来ています…しかし、姿は見えません。

川音はしてるので近づくまで足音は聞こえない事もあると思いますが…10メートル…5メートルと声だけが近づいて来ます。
…そして、声は何か嫌な感じと共に、私達の間を通り抜けて行きました。

ここで引き返すと声を追い掛けてしまうので、怖いですが先に進む事にしました。

監視棟に着くまでに合計4回声とすれ違いました。
最初の声は男性で、後は女性2人と子供です。みんなぶつぶつと何かを呟いてるのですが、何を言ってるかは聞き取れませんでした。

8人いて、全員無言で監視棟につきました。
声とすれ違った時間も経ってるし、すぐに戻ろうと話をしてると、最初に聞こえた女性の笑い声が川の方からしました。

E「誰かいますか〜?」

返事なんてありません。
Eが呼びかけると同時に空気が変わったのを覚えています…。
そして、いきなりキャンプ場の奥の方から声にもなってない様な叫び声が聞こえ、気付いたら私達は石橋の所まで走っていました。

8人いるのを確認して、みんなで手を取り合い車まで行き、逃げる様に東京へ帰って来ました。

最後に、私はもう二度と心霊スポットには行きたくありません。

長文乱文ですいませんでした。
どこに行ったかは書きませんが、ここの皆さんならすぐに特定できると思います。

私なりに調べたら、監視棟(正式名称ではないかもしれません)のさらに奥にバンガローがあるそうです。
叫び声はその方向からしました。

これから行く人がいたら気をつけて下さい。
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今から10年以上前、小5の時の話です。

当時私のクラスでは、廃墟を探検して結果を報告し合う「廃墟巡り遊び」なるものが流行っており、毎週月曜日は、土日の間にどんな廃墟に行ったとか、こんな体験をした、こんなものを見つけた、などという話題で持ちきりでした。

カルテを持って帰ると、その日の夜にしわがれた男の声で「カルテ返せ」と電話がかかってくるという噂で名高い廃病院や、一家全員が惨殺された、通称皆殺しの館(今はもう焼失しています)、死体埋めスポットとして有名な○○山の幽霊トンネルなど、私自身、友人と一緒に数々の廃墟や心霊スポットを巡りましたが、そのほとんどが満足の行くような代物ではなく、大した発見も出来事もありませんでした。

そんなある日、友人Aが

「駅の近くにとびっきりの廃墟を見つけた」

と私に言ってきたのです。

既に地元近辺の廃墟はほとんど行き尽くした感があり、そんな身近に廃墟があるなど思いもしなかった私は、学校が終わった後、他に友人2人も誘って、4人で探検することにしました。

そして友人Aに連れられて、私達はその廃墟に向かいました。

駅前の細い路地をずんずん進み、地蔵が置かれた四つ角を右に曲がり、更に蛇行した林道を進むと、鬱蒼と茂る草木に囲まれて、その廃墟はありました。

それは古びた二階建ての一軒家で、不気味にひっそりと佇んでいました。

私はこんな近くにこんな素敵な廃墟があったんだ! と若干感動していましたが、A以外の連れの2人は、そのビジュアルに圧倒され、「やっぱり帰ろう」とまで言い出し、かなり怖気づいていたというか、不気味がっている様子でした。

そうして私とAで半ば無理やり2人を引き連れ、中に入りました。
中は予想通り床抜け、蜘蛛の巣状態で、日本人形や蝋燭、漢字だらけの紙など色んなものが散乱していて、私としてはかなり見ごたえのある景観でした。

最初は怖気づいていた2人も、徐々にいつもの調子を取り戻しつつあり、4人でふざけ合いながら襖などを開けまくっていると、押入れ? の中に、階段を見つけたのです(となりのトトロのさつきとメイの家みたいな感じです)。

そう言えば二階建てなのに階段がない、もしかしてここから二階へ行くのかと、私達はわくわくしながらその階段を上って行ったのです。

二階もほとんど一階と変わりなかったのですが、一番奥に、やけに襖が新しい部屋があったのです。

中に入ると、他の部屋は荒れ放題で汚れ放題なのに対し、その部屋だけきちんと片付けられていて(というか中に何も無くて)畳もまだ綺麗な緑色をしているし、とにかくとても不自然な部屋でした。

そして、何故かほのかに線香の匂いがするのです。

友人の1人が「ここから匂いするで!」と押入れを指差しました。
何だかさすがに私も嫌な予感がしたのですが、思い切って4人でその押入れの襖を開けることにしたのです。

中を開けた私達は驚愕しました。
押入れの中には大きなひな壇状の仏壇があり、新鮮な果物や野菜、買ったばかりと思われる絵本などがお供えされていたのです。

そして、最上段にはおっかぱの少女の遺影が飾られており、両端には今さっき火を付けたであろう線香が煙を上げていたのです。

私はその時、生まれて初めて腰を抜かしました。
腰を抜かすという言葉は知っていましたが、まさか本当に自分が腰を抜かして動けなくなるとは夢にも思いませんでした。
友人2人は真っ先に私を置いてその廃墟から逃げ出し、友人Aは呆然と遺影を見つめながら失禁していました。

その後、何とか私と友人Aはその廃墟から脱出したのですが、今でもその時のことを思い出すと鳥肌が立ち、気分が悪くなります。

ちなみに、その廃墟は今も同じ場所に存在しています。
未だに誰かがあの女の子を供養しに行っているのでしょうか…。

それ以来、私は廃墟に出向くことはなくなりました。
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僕の地元にはまぁまぁ有名な心霊トンネルがあります。
僕は何回も行っていて、一度も出た事はないのですが、その日初めてこの世の者ではないものを見た恐怖を感じました。

去年の夏、高校3年の僕らは友達3人、僕を合わせて4人でそのトンネルに向かいました。
運転してる友達A、助手席が僕、後部座席にB、Cが座りました。

正直4人ともそのトンネルには来慣れていて、何の恐怖も感じられませんでした。

トンネルに向かう途中カーブがあり、そこにはミラーがあります。
そのミラーに映らなければヤバイという噂が流れていて、通った時には完全に映りませんでした。

『俺うつらんかったん初めてやわぁ?!』

『なんかいるんちゃうん?!』

とか騒ぎながら進み、トンネルが見えて来ました。

トンネルは一本道なので、反対から来る車と事故にならないように、トンネルの前に信号機がありました。

その信号機はいつ行っても赤なのですが、車が止まろうとしたときに青になる。そういった場合は呼ばれている。
そういう噂が流れていました。

まさに僕らはその状況でした。

『噂ばっかりで何もないやん…』

『おもんな』

とか言いながら進んで行くと、細いトンネルなのですがなぜか車が右に偏っていきます。

B『アホかA! ちゃんと運転しろや!』

A『ちゃうねん…さっきから右腕めっちゃ重いねん…』

それにもかかわらず次は車が傾きだしました。

僕『もぅええし一回とまれ!』

そしてトンネルの真ん中で止まり、なんとか腕が治りトンネルを抜けました。
C『さっきからヤバイしはよかえろ…』

僕『そやな。久々にヤバイな』

そして僕らは足早にその場を去ろうとしたのですが、帰りはそのトンネルを抜けるか、上の道の1番噂のある道を抜けるしかありませんでした。

結局トンネルは無理ってなって、上の道から帰る事になり、Aが再びエンジンをかけました。
その時、僕はサイドミラーを見てしまいました。

そこには、後部座席のBの横に座る黒髪の長い女がいました。
バッチリ目も合いました。

でも空気を読んで、見て見ぬふりをしたまま車は走りだし、上り坂にさしかかりました。 

1番上まで行き、下る時には対向車を確認する90度ミラーがあり、そこに映らなければヤバイという噂があります。

映りませんでした。
しかも、空気の読めないBが

『さっき俺の隣になんかいたよな…』

みんな顔色が悪くなりました。

その時Cが、

『俺さっきからめっちゃ足重いねんけど…てか感覚ない…』

とか言い、ヤバイ事になっていました。

C『なぁB、本気で俺の足どついて』

B『本間にええんけ?』

Bはパンチングマシーンで300キロを軽く出すラグビー部のやつでした。
C『ええし殴って』

B『わかった』

バスっ…

C『ヤバい…何も感じひん…めっちゃ重い』

その時にはもうCは立てませんでした。

その時、そのC以外には何か分かりましたが、Cには言わず山を下りました。

帰りのコンビニでCを引きずり降ろし、しばらく休憩し、Cが回復した頃に話しだしました。

僕『Cの足に抱き着きながらしゃがんでる女見た』

A『しかもたぶんCのほうずーっと見てた』

B『うん。ヤバイ形相でお前睨んどった。俺そいつどつくつもりでどついたら次こっち見たしなぁ』

なんとか僕らは無事に帰れたのですが、その後Bは手、Cは足を怪我しました。
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昔の話。
俺は夜の山道を車でよく走っていた。

知り合いに無理言って譲ってもらったMGミジェット。
時代遅れのボロい車だったが、嬉しくてしょうがなく、毎晩のようにバイト終わりで山に行っていた。

その日も深夜0時過ぎにバイトが終わり、山に向かった。

6月の中旬ぐらいだったと思う。空は曇っていたが、雨が降りそうな気配は無い。
車の幌を外しバイト先の駐車場を出た。

バイト先から山道の入り口までは約20分。
今はその山道には平日・週末問わず走り屋の車で溢れているが、その頃は週末にチラホラ数台いるぐらいで、平日の深夜は貸切状態だった。

国道から山道の入り口に向けて右折する。
車は1台も見当たらない。
速い車に迷惑かけないで済みそうだ。

その山道には道路灯も無い。
ヘッドライトの灯りだけが道路を照らす。
慎重にギアチェンジをしながら走って行く。

しばらく走ると、直線と比較的緩やかなカーブのエリアになる。
そこで一息ついてスピードを落とした。

この辺りが山の一番深いところになる。
このまま進むと他県に抜けてしまう。

「そろそろ戻ろうかな」

と考えながら、タバコを咥えて直線をトロトロ走っていた。

道は50メートルぐらい先で右にカーブしている。
ヘッドライトのハイビームが白いガードレールを照らす。

そのとき、ヘッドライトの照らす先に何かが見えた。

「?」
目を凝らしながら車のスピードを落とし、ゆっくり近づく。

人だ。若い男。
20代前半ってところか。

右カーブ入口辺りのガードレールの向こう側で、下を向いて立っている。

(単車でこけて、何か落としたのかな?)

と思い、カーブ手前で車を止めて声をかけた。

「大丈夫ですかー? なにか落としました?」

結構大きな声で話しかけたのだが、その男は下を向いたままでこちらには目もくれない。

っていうか、車のヘッドライトで照らされていて、一度も顔を上げないってどういうことだ?

と、そのとき気付いた。
単車なんてどこにもない…車も無い。

徒歩でここまで来るなんて考えられない。
しかも、男は懐中電灯すら持っていなかった。

…急激に恐怖が体中を駆け巡る。

その恐怖心に気付いたかのように、急に若い男は下を向いたまま、ガードレールを越えて俺のいる車道側に出ようとしだした。

俺はビックリして車を急発進させた。
男を避けるように、反対車線のガードレールすれすれにそのカーブを抜けていく。

怖い…。

風がさっきより冷たく感じる。
寒さと恐怖で歯がガタガタいっている。

チラリとバックミラーを見たが、月の灯りも無いそこには暗闇しかない。
やはりあんなところに人がいるはずが無い。
車の幌を外したことを後悔する。怖さ倍増だ。
タイヤのスキール音を立て、ガタガタ震えながら山道を抜けていくと、やっと他県の国道が見えた。

国道への出口にはパトカーが数台止まっていて、1人の警官が山道から出てくる。
俺の車を止めた。

「おい! どこからこの山に入ったんだ!?」

と怒鳴られたが、

「変な奴が山の中に!!」

と、俺は警察の質問など無視して騒いだ。
そのまま署に任意同行。

なんでもその日の昼(日が替わっていたので正確には前日の昼)に、その山でバラバラ遺体が発見されたらしい。

俺が山に入った側の県でも山道への通行止めをしていたはずだ、と言われたが、俺が入ったときにはパトカーなんて1台もいなかった。

犯人は既に捕まっていて、犯人の自供で遺体が発見されたので、俺に容疑がかかることはなかったが、俺の「変な奴がいた」発言が面倒なことになり、なかなか帰らせてもらえなかった。

その男の特徴と目撃したところを説明すると、警察が見に行った。
でもそこには誰もいなかったし、ガードレールの向こう側を人が歩いた形跡もなかったらしい。

あれこれと調書を取られ、解放されたときにはもう空が明るくなってきていた。
帰り際、警察に亡くなった人はどんな人かと聞くと、中年の女性とのこと。

俺が見たのはその亡くなった人ではなかったようだ。少しホッとした。

…じゃあアレはなんだったんだ?

家に帰り、気絶するようにすぐ眠った。

目を覚ましたのは夕方だった。
テレビをつけると、そのバラバラ殺人事件はニュースでも大きく取り上げられていた。

俺は煙草を吸いながらボーッと見ていた。

『…昨晩、山中遺体で発見された○○○○さんの長男□□さん22歳が、自宅で首を吊っているところを遺体で発見されました。遺体は死後15時間以上たっており……』

俺が見た若い男だった。

そして、何故ずーっと下を向いたままだったのかを理解し身を震わせた。

それからもう山には行っていない。
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今回は、先日『因縁の部屋』の中で話した、元同僚の【Mちゃん】との出来事をお話しします。

私には、それほど強くはないが、霊感がある。
しかし、俗に【心霊スポット】と呼ばれる場所などに面白半分で行ったりするのは好きじゃない。

理由は、仮に本当にその場所に成仏出来ない魂が彷徨っているのならば、面白半分でそれを煽ったり騒ぎ立てたりする事は、その魂を冒涜する行為に他ならないと考えているからだ(あくまで私個人の主観です。それ自体を否定しているのではありません)。

以前、同じ職場で働いていたMも、私と同じ考えだった。

とは言え、Mの霊感は私とは比べ物にならない程に強い。

恐らく、下手な霊能者より知識も経験もあるだろう。
その外見からして、神秘的で何処か儚げな美人だ。

彼女は、日常生活の上で、当たり前の様に霊を形として見る事が出来る。
悪い物からの干渉を少しでも抑える為に、いつも自分専用の御札を持ち歩いている程である。


ある日、Mと共に働いていたラウンジ【L(店名の頭文字)】に、私の高校時代の同級生(以後Aとします)が友人と共に来店した。

久々に見る顔だったし、私が【L】で働いている事を知らなかったAは、たまたま入った店に私がいた事に驚いていた。

丁度上手い具合に、私とMの手が空いていたので、彼らの席には二人が付く事になった。
暫くは他愛の無いお喋りをしながら、呑んで、食べて、時間が過ぎた。

と、いつの間にか、どういう話の流れからか、【心霊体験】の話題になった。

『霊を信じるか、信じないか』とか、『見た事があるか』などと言う話から、

『今夜店が終わったら、心霊スポットに行ってみないか?』

と言う話に行き着いた。
当時は丁度夏で、その日は確かお盆前で、【浴衣ウィーク(笑)】なるイベント中だった為、店のホステス達は皆、浴衣を着ていた。
勿論、私とMも例外ではない。

『この格好じゃ無理だよ』

と、Mが苦笑いする。

私もMも気が進まなかったので、遠回しに断ろうと言い訳をしていたが、私の友人ではない方の客(以後B)が、やたらと乗り気で強引なのである。

『無理に誘うのやめとけよ』

と、Aが止めに入っていたが、Bは構わずに、ええやんええやん、行こうよ、と誘い続ける。

『わかったよ、じゃあ、行こう! …Rちゃん、いいかなぁ?』

Bがあまりにしつこいので、半ば諦めた様にMが言った。

『まぁ…Mちゃんがいいなら、私は構わへんけど』

(後でMちゃんに謝らなきゃ…)

と、内心思いながら、私も渋々承諾した。

まぁ、Bの方はともかく、Aは下心で何かをしでかす様な男では無い事を知っていたからと言うのもあったのだが。


そして、閉店後、外で車を停めて待っていたAとBの二人に合流し、私達4人はBの言う【心霊スポット】へと向かった。
その場所と言うのは、関西地方では割と名の知れた、山間にある、廃墟になった旅館だった。

勿論、行った事はないが、噂には聞いた事がある。
しかしMは、1年程前に他の地方から関西に来たばかりだったので、全く知らない様子だった。

Aは道中の車内で、ずっと私達二人に

『悪いな…こいつ言い出したら聞かへんねん…』

と、気の毒な程謝っていたが、そんな事はお構いなしに燥ぐB。

その廃旅館というのは、真夜中で道が空いているにも拘わらず、1時間以上かかってやっとの所にある。

車を降りてからも、まだ少し歩かなければならないと聞いて、私とMは着く前から既にゲンナリとしていた。
相変わらずBだけが一人、ハイテンションである。

5、6分歩いただろうか。漸く目的の廃旅館が見えて来た。

確かに、見た目はそれらしい雰囲気を醸し出している。

いつ頃から廃墟化しているのかは分からないが、山の麓付近にひっそりと建っているそれは、もう人が居なくなってから、何十年も経っているのではないかと思われる様な佇まいであった。

と、入口付近迄来た時、Mが私の耳元で呟いた。

『Rちゃん、何か感じる?』

確かに、佇まいは不気味だが、私的に『ヤバい時』の気配は感じられない。

とは言え、私の霊感程度では、そう毎回はっきりと霊を形として見られる訳じゃないし、自ら曰くのある場所に足を踏み入れる事も無い為、俗に言う【怨霊】の類いには余り縁がない。
『…ううん、今は何も変な物は感じへんけど…』

私がそう返事をすると、Mはコクンと頷き、

『やっぱり? 私も。少なくとも、人を恨んで彷徨っている怨みの魂は、此所にはいないみたい』

と、言った。

するとその時、Bが間に入って来た。

『なぁに、暗い顔してんの? もしかして、怖いんかぁ?』

Bがニヤニヤしながら、そう言った。

きっとこの人は、霊の類いなどは全く信じていないのだろう。
自分で誘っておきながらいい気なものだ、と私とMは半ば呆れていた。

『ううん、怖くないよ』

ニッコリと、冷ややかな微笑みを浮かべながら、そう告げたMの方が、私は怖いと思った(笑)。

『人を恨んで彷徨う霊はいない』

と言う事は、他の何かがいるのだろうか、と私はMの言い方が気になっていたが、男二人がいる手前、その続きをMに訊いてみる事もしないまま、私達は廃墟の奥へと進んで行った。
懐中電灯を持って歩いていたが、とにかく、やたらと足下が悪い。

建物内の至る所が壊れていて、その瓦礫が散乱している上に家具などの残骸も加わって、それは酷い有様だった。

何度も躓きそうになりながら、何とか奥へと歩いて行く。

あちらこちらを散策していると、広い部屋に出た。

恐らく大広間か何かだったのだろう。
襖を開けて目の前を照らしてみると、小さな舞台の様な空間がある。

『ぎゃー――あッ!!』

突然、Bが悲鳴をあげた。

『何や!? どないしたんや!?』

Aが訊くと、Bが部屋の真ん中辺りを指差しながら、ガクガクと震えている。

Aは慌てて自分の懐中電灯で、Bが指差した場所を照らしてみた。

『うわー――ッ!! …………ん?? ………何や、これは…マネキンか??』

――そこには、上半身だけの女性型マネキンが、まるで首吊りをしているかの様に、天井からロープで吊されていた。

しかもご丁寧に、赤い色のペンキか何かで血の細工まで施してある。
誰かが面白がってやったのだろうが、まったく、質の悪い悪戯だ。

『うぇッ……えっ!? マネキン!?』

Bが発した、余りに間の抜けた声に、私達は気が弛み、思わず吹き出してしまった。
『なんやねん!? 誰や! こんな悪趣味な事した奴は!?』

Bは、迂闊にも悲鳴をあげてへたりこんでしまった自分が腹立たしかったのだろう、そう怒鳴りながら吊り下がっているマネキンを、拳でガツンと殴った。

殴られたマネキンは、暫くの間、ゆらゆらと不気味に揺れていた。

『…帰ろうか。何か、やっぱり余り気味の良いもんじゃない』

Aがそう言った事に私達も同感だったので、踵を返して大広間を出ようとした、その時だった。

背後から、ヒューっと、何か冷たい物が私の身体を通り抜けた。

Mはすぐにそれを察知した様だった。
キッ、と何かを睨み付ける様な表情で身構えたまま暫く立ち止まっていた。

『何してんねん、早く帰るぞ?』

Mがじっとしているのを見て、Bが苛立ちながらそう言った。

『…黙ってて』

Mに一喝されたBは、えッ? と掠れた様な悲鳴をあげた。

『さっきは何も感じなかったのに…あなたは…何?』

Mは小声でそう呟いた。

私が、『さっきの冷たいのは…』と言いかけると、Mは小さく頷き、相変わらず一点を見つめてじっとしている。
『ゲホッ…グフッ…なんや…急に喉が…』

と、突然Bが喉の辺りを押さえながら咳込み出した。

『ゲフッ…喉が…ガッ…』

『おい、B、大丈夫か?』

Aが心配そうにBに声をかけた。

『たっ、助けてくれ…ゲフッ…苦しい…グハッ…』

『どないしたんや! おい、何かの冗談か!? えぇ加減にせぇよ!!』

状況が飲み込めないAは、Bが苦しがるフリをして驚かせているのかと思ったのか、そう怒鳴り声をあげた。

『ちが…う…冗談ちがう…ゲホッ…』

Bは必死で弁解しながら、相変わらず苦しそうに喉を両手で押さえながら咳込む。

それはまるで、自分で自らの首を締めて苦しがっているみたいに見えて、物凄く奇妙な感じがした。

すると、Mが凄い剣幕で、

『駄目、通じる相手じゃない! 逃げよう!! 早く!!』

と、私の手を掴んだ。

Aは何が何だか分からないと言った顔で、おぅ、と返事をすると、相変わらず苦しそうにしているBの腕を無理やり掴んだ。

そして、私達は一斉に走り出した。
逃げ足や、火事場の何とやらなどと言うのは本当に不思議なもので、行きはあんなに足下が悪く、何度躓きそうになったか分からない程だったのに、あんなに慌てていたにも拘らずすんなりと玄関口まで辿り着いた。

山道を何とか下り、急いで車に乗り込み、アクセル全開で走り出した。

Mはその間、ずっと険しい表情で黙ったまま。
暫くは話しかける隙さえ与えないと言うような張り詰めた雰囲気だった。

一方、Bはというと、車に乗り込むなり、まるで気絶したかの様に眠り込んでしまっていた。


山間を抜け、市街地まで辿り着いた時、やっとMはいつもの表情に戻った。

『…Mちゃん、あれ一体何やったの…?』

私は恐る恐るMに訊いてみた。

『多分…はっきりした事は分からないけど…あの旅館自体には関係の無い霊だと思う。あの山のどこかで、亡くなったのだと思う…。私の話なんて聞こうともしない、完全に心を閉ざしてしまっているんだね…』

Mは哀しそうな表情で、そう答えた。

『俺は何も感じなかったけど…やっぱり何かおったんか?』

Aは、『俺は霊感無いから』と言いながらも、私達の話に真剣な表情で耳を傾けていた。

『私は、Bくんがおかしくなるちょっと前に気配を感じただけやから…』
私がそう言うと、Mはそれに続けた。

『Aくんが帰ろうかって言った直後、急に何かの気配を感じたと思ったら、Rちゃんの背後にそれが近付いて来たの。でも、Rちゃんに手出しするのはすぐに諦めて、一目散にBくんの方に近付いた。そして……』

『Bの首を締めてたんか?』

Aが不安気にそう言った。
Mは小さくかぶりを振りながら、

『違うよ、【締めさせた】んだよ。…あれはかなり古い魂だね…。何十年か、もしかしたら100年以上昔に亡くなった人』

と苦しそうな表情をした。

と、その時、Bが小さく唸り声をあげて目を覚ました。

『う〜ん…此所は…何処や…?』

Bは、うーん、と伸びをし、私達の顔を代わる代わる見ながら、そう言って欠伸をした。

『B、大丈夫か?』

Aが心配そうに言うと、Bは私達の心配も何のその、

『…何が?』

と、まるで何事もなかった様な顔で聞き返して来た。

『何がって…お前、覚えてないのか?』

『…急に喉の辺りが苦しくなったのは覚えてるけど…そっからは分からん…気付いたら此所におった…みたいな?』

Bは何とも呑気な顔をして、素頓狂な返事をした。

どうやら、自分の首を締めてもがき苦しんでいた事も、走って逃げた事も、Bの記憶からはすっかり抜け落ちているらしい。
私達が何を訊いても、覚えていないと言う。

『そうか…なら、大丈夫やな』

Bのあっけらかんとしている様子を見て、私達は安堵した。

『覚えていないのなら、それの方がいいわ』

Mはそう言って微笑んだ。
しかし、Bは、Mのその少し含みのある言い方が気に入らなかったのか、

『何やねん、何かあったのかよ? 知らんの俺だけって、何か気ィ悪いなぁ。って言うか、自分、霊感少女? あ、少女って歳ちゃうか。霊感オンナか!』

と、皮肉たっぷりに言った。

それを聞いたMは、数秒間、Bの顔をじっと見た後で、Bの不躾な言動を気にする事も無く静かに喋り始めた。

『ねぇ、どうして心霊スポットの様な場所にいる魂は、いつまで経っても成仏出来ないのだと思う?』

『…はぃっ?? どう言う意味?』

BはMの質問の意味が良く判らなかったのか、はぁ?? と言う顔をした。

MはBの返事になど構わずに、こう続けた。

『…答えは簡単だよ。あなたみたいな人がいるから。化け物だ、悪霊だと騒ぎ立てれば噂になるでしょ? 面白がってその場所に行く人が出てくる。…そんな事を繰り返されれば、成仏出来ないの、当たり前だよ。霊もね、元は人間だったんだから、心を持っている。虚仮にされて腹の立たない人はいないよね。…はっきり言うけどね、あなた、さっき危なかったんだよ?』

Mの冷静な口調に少し怖気付いたのか、『それはどう言う意味だ』と、Bは自信無さそうに聞き返した。

Mは、取り乱す訳でも、声を荒げる訳でもなく、ごく当たり前の様な涼しい顔で話し続けた。

『…仮にね、あの場にいたのがあなたの様な人ばかりだったなら、間違いなく戻っては来れなかったと思うよ。彷徨う魂を不浄霊だと決め付けてはいけないし、遊び半分の気持ちを持って、ああいう曰くのある場所に入ってはいけないの。どうしても行きたいのなら、真剣な気持ちで踏み入れなきゃいけない。…何なら、今からもう一度、あの旅館に戻ってみる?』

『………』

Bは、それに対しては、返す言葉もなかったらしい。
ただ、黙って俯いていた。
――次の日、私は店に出勤すると、すぐさまMに声をかけた。

『Mちゃん、昨夜はごめんな…。Aがよろしくって、今度はB以外のまともな奴連れて行くから、また遊ぼうなって言ってたよ』

『ふふっ、わかった』

Mは、特に気にする様子もなく、いつもの涼しい笑みを浮かべていた。

『でも、改めて、Rちゃんの守護霊の強さを実感したよ。…妹思いなんだね、お兄さん』

Mはそう言って、笑った。
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ここ四年くらいで体験して、おそらく現在進行形だと思われる体験。
俺には一つのキーワードでつながってるように思えてならない。

ことの発端は四年前。
当時、俺はピザの宅配のバイトをしてた。その宅配先での話。

まず現場について思ったのは、「こんなとこに人が住んでるのか?」ってことと「猫がやたらいる」ってこと。

真っ暗な小さい森の中に、ポツンと廃墟みたいなマンションが建ってた。
宅配先はそこの最上階だった。

入り口にたくさんいた猫は最上階までびっしりいた。
宅配先のお客はなんか陰気臭いじいさんだったけど、普通に応対して変な所はなかった。

帰りに階段を降りようとしたら、猫が全部俺のことを見てた。
かなり気味が悪かったんだけど、そのまま駆け下りていよいよ出口だって時、出口のすぐ外にばぁさんがいることに気づいた。

明らかにこの世の者じゃない雰囲気がして、恐る恐る通り過ぎようとしたら、ばぁさんが振り向こうとした。

ばぁさんの顔が見えるって瞬間に猫が大声で鳴いて、その瞬間ばぁさんは消えた。

ダッシュで店に戻って先輩に聞いたら、「いわゆる曰く付き」だと言われた。

これが一つ目。


二つ目はその丁度一年後。

学校の関係で引っ越しをした。
引っ越し先の近くに仲のいい友達が住んでたから、毎晩のように遊んでたんだけど、ある日の帰り道、俺は猫の集会らしきものに鉢合わせた。
面白そうだったから物陰から見てたんだけど、ケータイのバイブ音で気づかれたらしく猫が一斉にこっちを見た。
怖くなった俺はすぐに家に帰り寝た。

夢で、昨晩遊んでた友達が何者かに追われる姿を見た。
助けなきゃ、助けなきゃって思うと目が覚め、汗をビッショリかいていた。

心配になったからすぐに電話をかけた。
すると友達は開口一番に、

「マジこぇ〜。お前の電話がなかったらヤバかったかも」

と言った。

詳しく話を聞くと、同じく夢で何者かに追われていたらしい。

捕まる瞬間に目が覚めると、金縛りで老婆にのし掛かられていた。

必死で抵抗すると金縛りが徐々に解け、気がゆるんだ瞬間、猫の鳴き声が耳元で聞こえ、気づくとケータイが震えていたらしい。

これが二つ目。


三つ目は二つ目と関連した話。

たいしたことではないけど、二つ目の話の朝から約一週間ぐらい、毎日違う猫がベランダに一日中いた。

まるで見張られてるみたいだった。

それと、別の友達が俺が何者かに追われる夢を見たらしい。

これが三つ目。


四つ目は、ワールドカップの時だから去年の六月。

その日も毎晩と同じように夜更かししてワールドカップを見ていた。
中継が終わって寝ようと思い、布団に入るが興奮のためかなかなか寝付けない。
空はまだ暗かったのは覚えてる。
気づくと、夢と現実の中間くらいにいた。

いい気持ちでいると金縛りにあった。
その時は壁側を向いて寝ていたのだが、自分の背中側、つまり部屋のほうが気になる。

しばらくもがいていたら、突然背後に気配を感じた。

怖いけど無性に見たいと思った。
ゆっくり、ゆっくり体が動いて、いよいよ正体が見れるというときに猫が鳴いた。

恐らくその気配の正体と目が合ったと思うけど、俺は失神しており、さらに金縛り以降の記憶がなかった。


次の晩、昨夜の出来事も忘れてワールドカップを見ていた。

中継が終わり、前日と同じように布団についた。
その日はすぐにウトウトした。

けどすぐに目が覚めた。

外で物音、話し声がするからだった。
声の主は大人の女と子供だったと思う。

しかし時間的に不自然だとも思った。
空は暗かったから深夜の2時〜3時のはずだ。

そんなことを考えていると、ふとまた金縛りにあった。
また壁側を向いて寝ていた。

その時になって初めて前日の恐怖体験を思い出した。
デジャブとかではなく、気配のことまではっきりと。
しかし気配の正体は分からなかった。

その日もしばらくして気配を感じた。
今度は自分のすぐ後ろ、体をピッタリくっつけるようにしていた。

もう見たくないという気持ちとは裏腹に、体は背中側に勝手に寝返りをうつ。

目をつぶろうにもつぶれない。
しかし、体は仰向けで止まった。
安心した瞬間、無数の手が降ってきた。

そしてまた猫の鳴き声と共に気を失った。

次の日、ベランダを見ると一匹の猫が死んでいた。


友達に話すと解釈が二つに分かれる。

猫味方説と猫親玉説。
どっちもありえる気がする…。
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