1 削除済
2 無名さん
いちおつ
また立ったんだね
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私が昔住んでいた大阪S市では、奇妙な噂が流れていました。

以下がその内容ですが、何せ10年も前の話なので記憶が定かではありません。

・夕方から夜にかけてナチスの腕章をつけた少年が街を徘徊している
・その少年と目が合うと警棒を持って追いかけられる
・片足が義足であるというのにすごいスピードで、自転車で全力疾走しても追いつかれそうになった
・いつも3匹〜5匹くらいの犬を連れている

その噂の共通点は確かこんな具合だったと思います。

当時は学校の怪談ブームで口裂け女などが流行っていたので、恐らくその類の物だろうと私は内心バカにしていたのですが、この噂が一気に現実味を帯びた事件が一度ありました。

記憶力の良くない私でも、この出来事は鮮明に覚えています。

その日は中学1年生の丁度今くらいの時期で、残暑でとても蒸し暑い夕方でした。
私は部活が終わってから教室に忘れ物を取りに行ったか何かで、いつも一緒に帰るグループとは別れ1人で下校していました。

下校途中、私たちの間で大東の坂道と呼ばれていた暗く細長い坂道に差しかかった時です。
向こうから歩いて来る異様に細長い人影が見えました。

「あっ! やばい」

私は瞬間的にそう思いました。
何故なら、その人影は5匹の犬を連れているのです。

しかし、前述のとおり私には怪談の類をバカにしているところがあり、また少年時代特有の好奇心から歩みを止めず進んでいきました。
さすがに直視する勇気は無かったので俯きながら歩いていきました。

そして坂も中腹くらいに差しかかった時です。
突然前方から変な音が聞こえました。

その音は、

「サバンッ、サヴァンサヴァンッ」

とでも表現すればよいのか、とにかく奇妙な音でした。
突然そんな音がするものですから、私はついつい首を上げてしまいました。

そして見てしまったのです…。その腕章の少年を。

その少年は年のころは僕と同じくらいに見えましたが、異様に顔色が青白く、頬はこけ、露出している腕は白く枝のように細いのです。
しかしその腕にはしっかりと…例のナチスドイツのハーケンクロイツの腕章が巻かれていました。

また噂どおり足は義足の様でした。
そして何より印象的だったのは、少年の鋭く異様な光を帯びた眼光でした。

そこで私は「しまった!」と思いました。
少年の鋭く光る目を見てしまったからです。

その瞬間、彼の目が一瞬白眼になったように見え、頭上に上げた左手には警棒が握られていました。

私は振り返ると全力で大東の坂道を駆け上りました。

この坂道は全長40メートルほどの急な坂道で、腕章と目が合った位置から坂を上りきるまで20メートルほどありました。
その20メートルほどを全力で走っている間、後ろから

「サバンッ、サバンッ、サバンッ」

という音が聞こえてきます。

それはどうやら腕章の連れている犬?(今思うとそれが犬だったのかどうか定かではありません)が吼えている鳴き声のようでした。
その証拠に、音は幾つも重なって発せられ、徐々に近づいてくるのがわかります。

私は当時陸上部に所属し、学年でも3本の指に入るくらいの俊足だったのですが、「サバンッ」の音は近づいてくるばかりです。

冷汗まみれで半泣きになりながら、急な坂道をとにかく全力で走りました。
わずか20メートルほどの坂道がとても長く感じられました。
そして「サバンッ」の音が本当に間近、つい足元から聞こえてくるくらいのところで、なんとか坂を登りきったのです。

大東の坂道を登りきったすぐ横には小さな商店があって、私は半泣きになりながらそこへ駆け込みました。

その店には、いつも寝ている役立たずの番犬がいました。
しかし私が店に入った瞬間、「キャンキャンキャン」と激しく吼えまくっていたのが鮮明に聞こえてきました。

店主のおばちゃんは僕の様子を見ると、「会ってもうたんやな…」とため息混じりにつぶやくと、こう続けました。

「もう大丈夫や“あれ”は動物見るとしばらく来えへんから。兄ちゃん運動やってるやろ? あぁ…やっぱり、運動やってる子はよく狙われるんや。まあ安心し。一度会ったら明日以降はもう大丈夫やから。ただ今夜だけは気をつけて。部屋の窓は絶対閉めとくんやで。もしなんかペットを飼ってるんなら今夜だけ外に出しときや。あれは動物がおると何もしてこうへんから。それと帰るんなら今の内やで。さ、はよし」

こう言うと私を外に連れ出し、坂道の下まで一緒に来てくれました。
そして、「なるべく急いで帰りよ」と付け加えると帰っていきました。

私はまた半泣きになりながら大急ぎで家に帰りました。

そして親が止めるのも聞かず、普段座敷犬として飼っている犬のトシヒコを家の外につないでおきました。


そしてその晩。
私は部屋の戸締りをいつもより厳重にと、雨戸を閉めている時です。

すぐ近くの近所で、例の「サヴァンッ」の声が聞こえたのです。
そしてトシヒコが必死に吼えている鳴き声も聞こえました。

その夜はほとんど寝付けず、夜通し電気はつけっぱなしでした。

以上が、腕章の少年にまつわる私の体験した話です。
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T山の話。
福岡県にあり地元民だとすぐにわかると思う。

山の麓にあるS霊園はその心霊スポットの中でもかなり有名で、地元の多くの若者がそこへ行く。
自分も多分にもれずそこに行った事があるが、特に霊的な現象はなかった。

高校生の時に綺麗な場所でキャンプをしようと言う話が出てきたので、その山の頂上付近にある小屋でBBQでもしながら遊ぼうという事になった。

この小屋は誰でも使用できるようになっており、中には囲炉裏とそれを囲む椅子があるのみ。
ただし遊び半分だった為、通常のキャンプとは異なりテントも寝袋も無く、しかも食べ物だけ買い、夜中にその霊園から上っていく事に。

当日、夜の10時ぐらいに出発することに決め、それまでは皆で近くの海で釣りをして時間を潰した。
その後、釣った魚と買った肉や野菜、料理器具を持ち山に登った。

山を登り始めて30分経ちはじめた頃、「怖い話でもしながら行こっか」と言い出した友人に皆が賛同し、その後それぞれの恐怖体験、聞いた話等をはじめた。

怖さや夜に友人と遊べるという高揚感から、あまり疲れも感じずに山小屋へ到着した。
その後、火を熾す為に小屋周りの薪を集め始めた。

でも辺りは暗くあまり見えず、持ってきた懐中電灯で辺りを照らすも真っ暗闇に少しの灯り。
それが怖さを増ましてきて遠くまでは行けない。

小屋周りに薪になりそうな木も無い為、じゃんけんで負けた者が取りに行くことに。
その結果、友人2人と自分が取りに行く事になった。

小屋を少し離れて探している時に、1人が「こんなとこに社があるぞ」と呼びかけて来た。
そこへ向かうと小さな社が置いてあり、何かを祭ってる。
先ほどまで怖い話をしていた自分達にはあまり気味が良い物では無く、その辺りの木を拾いすぐに小屋へ逃げ帰る事に。

その時に後ろからキーッと音が聞こえた為、振り向いてしまったが、直ぐに目を背けた。
さっきまで何も無かったし誰も居なかった筈の社の前に、人が立ってる。ような影がある。

懐中電灯から出ている明かりがどこかに当たって影になってるのだろうが、周りには何もない。
びっくりしたのか、友人も何度か懐中電灯を移動してその影の本体を探そうとするも、周りに人は居ない。

怖くなり直ぐに小屋へ走った。

小屋の明かりが外に漏れているのを見て少し安堵したものの、後ろに何かついてきてるかもという思いは拭えないので、兎に角急いだ。
その時に中から良い匂いがしてきて、小屋から煙が出てる事に気付いた。

「お前ら、何してんの? 人が折角薪拾いにいってるのに、先にはじめるなって」

と友人のAが怒りながら中に入っていくと、中ではすでに真ん中の囲炉裏のような場所に火があり、網の上で肉を焼いていた。

「いや、お前らが遅いけん小さい枝とか集めてそこにあったボロボロのカレンダーを燃やした。最初は新しいやつかと思ったけど日付見たら10年以上も前のやつやけん良いかなと思って」

とそのうちの1人が言い、

「10年前のカレンダーって。お前ここに人があまり来んけっていっても、10年以上も人が来んとかありえんし、掃除とかも入りようって言いよったぞ?」

とAが怒りながらそのカレンダーを見に行った。

「誰かが来てキャンプみたいなんやった後に捨てていったんやろうな」

と言いながらカレンダーを捲ってた。
Aがいきなり「うわっ」と叫んだ。
皆が一斉に彼を見てどうしたのかを聞こうとした時に、すぐになんで叫んでるのかが分かった。

そのカレンダーの数十枚捲ったところに小さい黒い斑点が見える。
めくれば捲るほどその黒い斑点の大きさと量は増えていき、赤黒くなって見える。

Aは「やばすぎ!!」とそれをすぐに手から放り投げた。

そこで彼は先ほどの影の話をし始めて、「ここやばいんやね? 気持ち悪すぎる」と言い、その場全員が来るまでにした怖い話のせいもあり、固まって動けなくなった。

どうにかその内の1人のBが、

「見間違いやって。そんな影なんか。しかもこの黒いのも土やろ。10年前のやぞ? 雨降れば少しは色も変わるって」

と言いながらカレンダーを拾いに行くと、Aが「お前読んでみいや」と言い始める。
自分達にはAが何を言ってるのかわからず、拾いに行ったBが「何をよ」と笑いながらカレンダーを拾い捲っていった。

その瞬間に「ひっ」と変な声を出しながらカレンダーを落とした。

「これは、無いわ。なんちゅう悪戯をしとんやろ…」

と言いながら、何かが憑いたんじゃないかというぐらい青い顔で目を見開いていた。
さすがに誰もそれを見ようとはせずに、ただ「どうしたん?」「何があるん?」と聞くのみ。
Aは「見たらわかるって」と言うのみで、Bは固まったまま動かない。

何があるのか気になったのと、折角ここまできたのにこのまま帰るのは嫌だった俺は、そのカレンダーを拾い、見てみた。

何枚かを捲っていき、それを見た瞬間に手が震えて背筋に寒気が走り、腰がどっと落ちた。

「うゎ…。なんかこれ!」

と怖さを振り払おうと大きい声を出したら、全員がびくっとなり一斉に俺を見た。

「まじで、何が書いとんか言えや」

と怒鳴りながら言う友人に、Aが「自分で見ろって! 口にも出したくないわ」と怒鳴り返し、再度静かになる。

「み、皆でみればいいやん」

と何とか言うと、見てないAとB以外の友人が集まって来た。

あまり直に手で触りたくなかった為、拾ってきた棒でゆっくりと捲っていく。
ただ、その黒い斑点のせいでくっ付いている箇所もあるため、1枚づつ捲れるように2本の棒で開いていった。

そのカレンダーはよくある日めくりカレンダーで、大きさはA4ノートぐらいの大きさ。
小さくないため1本の棒で抑えてもう1本で開いていくと、8月の「19日」と書いてある場所から黒い斑点が始まった。
それは「20日」の場所から滲んでついたようで、「20日」を開くと、再度それを見ていなかった友人達が「うわ」と口々に悲鳴をあげた。

それは小さい字で書いており、

「20日 この日は私が初めて手首を切った日 これ見た人呪うね」

と書いていた…。
「これは、無いわ。何でこんなん書くよ…」

と泣きそうな声で言う友人。

「続きはどうなったとん?」

と言う友人が棒を取り、次の日を開こうとするもくっ付いてて開けない。

次に開いた所には、

「24日 まゆみちゃんの頭から血がでてる。カレンダーに垂らしてみたら黒くなっちゃった」

と書いていた。

「意味がわからん」と言いつつ、その友人はどんどん開いていこうとする。
次に開いたところはページがくっ付いて居た為に10月までくっ付いており、開いたところは赤黒い染みがあるだけ。

それ以降は何も書いておらず、「まじでなんなん」とかなりビクつきながら皆が囲炉裏の周りに集まった。

「どこまで続いたんやろ。意味がわからんし」

とAが言うと、Bが

「1枚1枚めくれるか? お前。無理やしほっとけよ」

と怒りながら言い出した。

「誰が捲れるっていったんか? お前怖いけって突っかかってくんな」

とAも言い、かなり険悪なムードに。

その時に空気と言うものを一切読めないCが「じゃんけんすれば?」と言い出し、B以外の全員が噴出した。
それが良かったのか、怖さが収まり少しづつ余裕が出てきた。
「なんか、シーンとしとったら余計に怖いし、もういいやん、皆で見ようや」

とCが言い出し、

「どうせ、これも血のように色たらして、怖がらせようと書いとるだけやろ。見よったら最後に『私、あなたの後ろにいるの』のパターンよ」

と全員を安心させて、カレンダーを素手でゆっくりと捲り始めた。

なんとか剥した21日と22日、23日には黒い斑点のみで何も書いていなかった。
次に25日は全く剥がれず、26日は何とか剥がれるも真っ黒で何も読めず。

9月2日まで開いても黒いのみで書いてある様子は無い。
ただ、9月3日に赤黒いものに混じって字が見えた。

「3日 まゆみちゃんだけ先にいった。けずったらぎゃあぎゃあさわいでた」

「4日 まゆちゃん、おかえり。帰ってきた。くっつけたらぴくぴく」

「5日 あんたまだみてる? みてくれる? そと」

と、ここで気持ち悪さもあったけど、Cが言ったとおりに書いてあった為に、皆が「これは、作ったんやね。Cの言う通りやん。たちわるいなぁ」と笑いながら見てた。

「6日 まゆみちゃん。まゆみちゃん。まゆみちゃん」

とだけ。
「7日 まだ?」

「8日 もう、いい?」

「9日 見てる人いる? ききたいの」

「10日 ねぇ、まゆみちゃんってだれ?」

と、いきなりこの文だけ大きな字で書いていた。

「こいつ精神的にいかれてるよね?」というAに、「異常すぎるやろ」と皆同意した。

「11日 いいかげんにして」

「12日 なんでわたしなの?」

「13日 今日私自殺します。首切り自殺です(←首吊りかと思ったけどこう書いてた)。神社が良いかな? 山? 霊園? どこがいいかな? まゆちゃんもつれていくね。このカレンダー見つけた人12月24日みてねー。私は死んでるけど」

と書いていた。

皆で少し笑いながら「でたでた。くるぞー。くるぞーー」と少しふざけて言いながらすぐに12月24日を開くと、そこには

「せんもんのやくはとくとるな。こはわもら かなら ろ」

と意味不明な言葉と意味不明な漢字が書かれていた。

そして12月25日に、

「まゆみちゃんも、まゆちゃんも殺したあとに囲炉裏でやいた。そこほれ。そこほれ。まゆちゃんの頭ちょん切って社の前においたよ。まゆみちゃんの足くっきって社の後ろに入れたよ。私はそこにずっといようっと。これは怖がらせるためじゃないよ、日記だもん。あなたはのらう。死んでる私がのるよ。わたしはいないからお願いも聞かない。あなたはのろお」

と小さい字で書いていた。
この字だけ、異常者が書いたような内容なのに関わらず、凄く上手な字だった。

それまでは笑ってたけど、さすがに気持ち悪さと呪うという言葉に気分も悪くなり、「もう、帰ろうか」とAが言い出す。

ただ、帰るといっても夜中の12時か1時ぐらいに懐中電灯で来た道を戻れる勇気も無く、賛同するものもいない。

「朝までまとうや」と言うも、「ここで? まじで? こんなとこで?」とBが言いだす。
BとAは「もう出た方がいいって」と言うが、他の友人は「いや、外なんか歩けんって」と拒否。

その後、結局そこで朝まで待つ事になったが、BBQをするほどの元気もなく、全員で何となく気分を紛らわせるように話をしていた。


数十分後、いきなり外から

「お〜い、お〜い、お〜い」

と聞こえ始めた。

全員が一斉にびくっとなり、身構えるように静かになった。

「お〜い、お〜い、お〜い」

としか聞こえないのだが、それがずっと続く為、「動物の鳴き声じゃね?」と言う友人に全員が同意し、又話し始めた瞬間、

バン! バン!!

と小屋の裏側が誰かに叩かれた。
「お〜い、お〜〜い。お〜〜〜い。お〜〜〜〜い」

と叫ぶ声も長さが増していき、それと同時に再度裏側からバン!! バンッ!! と誰かが叩く。

「な、なんなん? これ?? 誰かが叩きよるん?」

とBが半ば泣きながら言うと、今度は横側からバン! バン!! と音が鳴る。

そこでいきなりドアが開いた。

「おーい、こら。お前らなんしよっとか? お?」

と1人の男が立っている。

自分達は全員怖さと目の前の現状が全く理解できずに固まっている。

「おーいって、呼びよるやろうが? お? 聞いとんか? のー?」

と捲くし立てる男の手には古びたバットが握られており、それが怖すぎて一言も発せられない。

「なんとか言わんか! コラ!!」

と男がバットを扉に殴りつけながら叫ぶので、

「い、いや、BBQしようと思って。来ました…。知り合いにここの小屋は誰でも使えるって聞いたんでここに居ます」

と言うと、男は

「あほか? おー? ここは今俺が住んどるんじゃ」

と言う。

「本当にすみませんでした。知らなかったとはいえ、ここが個人の家だとは知らなかったので」

と言うと、

「個人の家やないけど、俺が先に住んどるんじゃ。誰がつこうて良いっていうたか知らんけどはよ出て行け!」
と叫びながらバットを扉にバンバンと殴りつける。
急いで荷物を纏めてその場から出ようとした時に、その男が

「食いモン持っとるんやったら、置いてけ。肉が黒こげになっとるやろうが! あん? もってぇねぇことしおってからこんボケ」

と、囲炉裏の上の焦げた肉を指差して怒鳴り散らす為、肉や魚を置いて逃げるように外に出た。

外に出る為にその男の横を通る際、男の目を見てかなり萎縮してしまった。
多分白内障なのだろうが、片目が白い。これで見えてるのか? と言うぐらいに。
外に出た後に成すすべなく立ち尽くしていたが、真っ暗闇の怖さで不安になり、皆急いで懐中電灯をつけた。

懐中電灯をどこに照らすべきか分からず、足元に照らし「どうする?」と話をしていると、小屋から再度怒鳴り声が聞こえた。

「おい、こら! おぉ? お前ら出て行けって言ったやろうが! 聞いとるんか? おい!」

と叫んでいる。

何が起きたか分からずに他に足りてない友人が居ないか、誰か小屋に残ってないかを確認するも、その場には友人全員がいる。

「おっまえら、人様をなめとるんか!? あ〜!?」

と怒鳴る声は続く。

「女やけって、容赦せんぞ!!」

と男が叫んだ瞬間に、俺を含めてその場に居た友人数人は腰を落とした。
Aが「え? 今なんて言った??」と誰に聞くわけでもなくボソボソと言う。

その瞬間に又男の怒鳴り声。

「あー?? 知らんわー。てめー誰に口答えしよるんか! こら! 『女でも俺は殴るぞ!』」

と再度はっきりと言った。

俺達は男同士で行っていた。女は1人も連れてきてない。
それにも関わらず、あの小屋では男が『女』に向かって怒鳴ってる…。

二重の恐怖に足がガクガク震えて、どうすれば良いのかと考える余裕もなく、動けずにただただその場で友人と目を見合わせてるのみ。
多分1人が逃げればそれに続けるのだが、誰も先頭に立って逃げる勇気も無い。

少なくとも、俺はさすがに真っ暗闇を先頭に立って照らしながら逃げる勇気は無かった…。
ただ、次の言葉が聞こえてさすがに全員一斉に逃げた。
「まゆみぃー!? だれじゃ、ぼけ! しらんわ!!」

と男が言ったから。

最初、名前と思わずに何を言ったか全く分からなかったが、言葉の端や流れから、頭でゆっくりと『まゆみ』と言ってるのでは? と理解した瞬間に体がビクッとなり、「まゆみぃや、いうのは知らんっち言うとろうが!」と再度はっきりと聞こえた瞬間に、全員ほぼ同時に逃げた。

Bは「ありえん…ありえんやろ…」と泣き声を上げながら逃げていた。
小屋からかなり離れたところで足が遅いAを待つ為に全員が止まり、Aが「はぁ、はぁ。ちょっと、ちょっとまって」と言いながら追いついた。

そこで全員が再度息を整える為に少し休んで居ると、Bだけがボソボソと「まゆみって誰なん、誰なん。まゆみって何なん」と繰り返す。
さすがに俺も怖い為に「おい、今はそんなん言うなよ。後で話し聞くけん。頼むけ、今は言うなよ」と言うも、Bはずっとボソボソと独り言を続けていた。

その後、息も整い少しずつ落ち着きを取り戻し、山を下る事に。
下りながらも後ろが気になり、少しの音にも敏感になっていた。

さらに下って行くと道の端に地蔵があり、下の街の光も見え始めた。
下の街の光が見えてかなり安心感を取り戻した俺達は、地蔵に「呪われませんように」という願掛けの為に皆で立ち止まり手を合わせていると、

「それ、地蔵じゃないんやね?」

と友人のDが言った。

「それ、地蔵やけど、守護系じゃないんじゃね?」

とオドオドしながら言い出す。
「え? 知らんけど、地蔵って何かを守ってくれたり厄除けになるんやないん?」

と聞くと、

「たぶん、厄除けとかにはなるかも知れんけど、これ身代わり地蔵なんかね? 大丈夫なんか?」

と言いながらDは少しずつ後ずさる。

「なんか、怖がらすなや。十分びびったやないか」

とAがDに怒鳴ると、Dが

「それ、足切り地蔵やん。足の付け根から切られとるやん」

と言ったときに、全員が一斉に地蔵の足を見る。
確かに右足の付け根が不自然になくなっている。

その横に立っていた数本の風車がいきなり吹いてきた風に反応し、カラカラと回りはじめた。
そのカラカラと音が鳴りながら回り始めた風車に、目がすーっと引き込まれる。

その風車の下に『まゆみちゃん』と文字が見えて、一瞬にして背筋に寒気が戻った。


その後、直ぐに走りだして下の道路まで逃げてきた。
山から抜け出し、アスファルトの道路を見て安心を取り戻した。

息を整えて全員で一番近いAの家に向かおうと決めて、道路沿いを歩き始めた。

時間は夜中の2時で、辺りはかなり静かで車も通ってないのにも関わらず、反対側の霊園の歩道を俺らとは反対に向かってくる人影を見てビクっとし、再度走り始めた。

その歩いてる人影をはっきり見たわけではないけど、何故か女の子の様な錯覚をした為、鳥肌がざわざわと立ち、「見るな、見るな」と怖さから呟きながら逃げた。
その後Aの家につき、その時起こった恐怖体験を皆で話し朝まで過ごした。


次の日からBが耳鳴りが止まらないと病院に通院した以外は、特に今のところ変な事はないけど、Bはそれ以降慢性の耳鳴りになってしまい、本人曰く「金縛りが酷い」と、多分怖がらせようと繰り返し言っています。

「女が夜に枕元に立つ。んで、刻まれていく瞬間を俺の前でずっと喋り続ける」

と言ってる時もあったが、その話をしている時以外は別に以前と変わったこともないので、多分大丈夫かと…。

その山小屋の話を兄にしたところ、兄が行ったときは(自分が行ったよりも1、2年前)別にそんなものも無く、普通にBBQをしたし、兄の友人も俺達の体験後にキャンプしに行った事があるらしく、「雑誌とかはあったけど、別に人は住んでなかったぞ」との事でした。

T山自体の霊的現象の噂は一切聞いた事が無く、麓のS霊園とその奥の峠が有名だったのだけど、それ以来その山には近づかないようにしています。

別の友人が一度T山に仲間内で行った事があるらしく、その話をした事があった為、地蔵はあったのか聞くと、

「おまえら、あれは水子地蔵やろ。しかもいたずらしたのお前ら?」

と言われ、何もやってないと言ったら

「嘘付け、目のとこがくり貫かれて、足が付け根からないやねぇか」

と言っていましたが、確認には一切行ってません。
最近、その中の友人のDが10年前に何か事件があるかを調べてみたところ(図書館で新聞読んでインターネットで調べた程度ですが…)特に事件は無かったとの事です。

ただ、S霊園の奥にある峠は事故が多く、亡くなった方は何人かいたそうですが、多分関係は無いと思います。

「せんもんのやくはとくとるな。こはわもら かならろ」

の文章ははっきりと覚えてなかったのですが、友人と話してる時に覚えてることを言い出し、このような感じの文章でしたが、ちゃんと覚えて意味を知っとけば良かった…。何か性質が悪そうですので。
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俺が小学校高学年ぐらいのときに体験した話。

当時俺が通っていた小学校は4階建ての校舎で、校舎の作りは1階〜3階までは教室で、4階には教室はなく、理科室や音楽室などの授業、クラブ活動以外ではあまり使われない部屋が集まっていた。俺は高学年だったので自分の教室は3階でした。

全ての授業が終わりクラスの皆が帰ったあと、自分だけは居残りで勉強等をやっていたときの事(当時は俺は成績が悪かった為、よく居残りで勉強等をさせられていた)。

初めは自分がいる教室の上、4階の部屋から「ガガガガッ」となにか椅子を引きずるような物音が聞こえてきました。
そのときは「まだ誰か4階にいるのかな?」程度にしか思ってなく、特に気にも留めてなかったが、その日以降クラスの皆が帰ったあとになると、4階の部屋から「ガガガガッ」となにかを引きずる物音が続き、日が経つにつれて音はどんどん大きくなる。

4階の部屋は通常は理科や音楽等の授業以外ではクラブ活動ぐらいにしか使われず、そのクラブ活動も週に1回しかやらないのだが、物音は毎日続いている。
さすがに気味が悪くなり、一緒に居残りをしたクラスのA、Bに

俺「今、上の階から変な物音聞こえない? なんか気味悪いね」

A「? 何も聞こえないけど?」

俺「え? 今も『ガガガガッ』ってなっているよ?」

A「は?」
B「何も聞こえないよ。からかってんの?」

どうやら他の人には聞こえないらしい。

物音は次第に大きくなっていき、騒音と呼べるくらいの物音になっていった。

ガガガガッ

ダンダンッ

タタタタッ(誰かが走っているような足音)

ギーギーギー(机みたいな大きなものを引きずる音)

あと、これらの物音のほかに混じって小さいが話し声も聞こえてきた(話声と判るがなにを言ってるか聞き取れない)。

A、Bに放課後残ってもらっても「何も聞こえない」との反応。

ついには放課後だけでなく授業中にも聞こえてくる。
そして皆には聞こえない。聞こえるのは自分だけ。

幻聴? それとも何か変なものにとり憑かれた?
なんで自分だけ…?

毎日聞こえる不可解な物音になぜクラスの皆は誰一人疑問を持たない?
いや…皆には聞こえないんか…。

なんで何時も誰もいない4階から物音、話声が聞こえてくるのか?
椅子、机がひとりでに動いているのか…?

そこで俺はなにを血迷ったのか、選択してはいけない行動をとってしまった…。
放課後、今も聞こえる物音を確認すべく、今日4階に行き確認することを決意した。

その日は普段より皆帰るのが早かったせいか、校舎全体が静まり返っていた。誰もいないような感覚がした。
そのときは少し恐怖を感じていたが、なぜかこの日でないといけないと思っていた。

時刻は15:00ぐらい。
日も沈みかけ空はあかね色に染まっていた。

俺は何かに引き寄せられるかのように、4階へ上がる階段のところへ向かっていた。
階段に向かうにつれ、物音、話声は少しづつ大きくなっていく。

もちろんこの日はクラブ活動とかはなく、4階の各部屋には鍵が掛かっており、特に用事がない限り中には入れないようになっている。

というか、そもそも4階は幽霊が出ると全生徒で噂になっており、普段は誰も近寄らないのだ。
たしかに4階の空気は異質で、例えていうなら空気が凍っているような寒気がするそんな場所だ。

4階へ上がる階段に着いた。
この時点で既に周りの空気は凍り付いていた。

このときの恐怖感が今でも鮮明に覚えている。
恐怖感と緊張で手足が震え、冷汗をかき、意識は混乱していたが「確認する」という意志だけははっきりしていた。
恐る恐る階段を1段づつ上っていく。1段上る度に物音、話声も大きくなる。
あまりの恐怖ですぐにこの場を離れたかったが、足は勝手に動いていく。

階段の中間あたりまで来た。
全ての感覚が恐怖感で麻痺したかのように手足が重くなっていた。
物音、話声も今までになく大きく、それは直ぐ上の4階から聞こえていた。

階段を上りきり、4階の廊下に着いた直後だった。
あれだけうるさかった物音、話声が突然やんで、辺りは完全な無音に包まれた。

それと同時に辺りの空気がなにか別のものに変わっていた。
極度に冷たい空気、重圧感、極限の恐怖感、四方からくる無数の視線。

そのとき非常に後悔した。
なぜ自分はこんな時間にこんな場所に来てしまったのかを。

足はまったく動かない。
自分の足がその空間に植えつけられたかのようだ。

俺「……」

声も出ない。
いや、例え出せたとしても出す勇気なんてない。

後ろから特に強い視線を感じる(3階の方から)。
絶対に振り向いてはいけない。振り向いたら最後。

しかし体は後ろを振り向こうとする。
自分の意識に反して。
目もつぶれない。後ろには見てはいけないものがある。意識は極限状態。

この状態を上手く言葉に出来ない。
出来るとしたら、

「ここにいてはいけない」

「後ろのものは見てはいけない」

「逃げろ」


遂に後ろを振り返ってしまった。

俺(何も無い…、誰もいない…)


このとき少し安心したのか、恐怖心が少し和らいで、足も動くようになっていた。

和らいだとはいえあまりこの場所にいたくなかったので、4階のほうを振り返らずにその場を離れた。離れようとした。

右腕が後ろに引っ張られる。反射的に後ろを振り向いた。

自分と同い年くらいの子が、自分の右腕を掴んでいた。
その子の周りには無数の子供がいた。

さっきまでは誰もいなかったのに。
なぜか顔が黒くなっていて顔が見えない。

俺「ッ!!」

俺は声にならない絶叫を上げ、階段を駆け下り、全速力で校庭まで逃げていった。

腕を掴まれた感触がまだ残っている。
この世のものとは思えないもので掴まれた感覚が残っていた。
それ以降、なぜか4階からの物音、話し声が聞こえなくなっていた。

聞こえなくなったせいか、以前より4階に対する恐怖心というのがなぜか少し薄れたような気がした。

うちの校舎の4階は幽霊が出ると学校内で噂されていたが、ただの噂で、実際にあったという話も花子さん程度のもので、誰かが面白半分に噂していただけの有名な話に毛をつけたようなものばかりだ。
ちなみに後で調べたのだが、この小学校では特に生徒が自殺したとか、校舎を建てる前は墓地だったとかそうゆう話は無いそうだ。

しかし、自分が体験したあれは一体なんだったのだろうか。

4階への恐怖心は薄れ、音も聞こえなくなったが、4階の空気の冷たさは変わらなかった。
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私の体験談をお話させていただきます。

私が15歳のころです。
いつものように仲間と遊んでいました。

いつもの遊び場まで行くのに必ず共同墓地を通らなければいけないのですが、いつものように墓地の前を通ると、緑色の丸い炎のようなものが見えました。

気味が悪くて、急いでそこを通過しようと思ったので全速力で通過しているつもりだったのですが、体が重くてなかなか前に進めません。
怖くなった私はその場にうずくまり、誰かが来るのを待っていました。

時刻はちょうど12時半。
だんだん体は重くなっていき、体が完全に動かなくなってしまいました。

あれからどれだけの時間が流れたでしょう。
友達が迎えに来てくれたらしくて、気がついたら自宅のベッドの上でした。

これが悪夢の始まりとなるなんて…。


しばらくしてから、また私は仲間と遊びに行くことになりました。

嫌々ながらもいつもの墓地付近を通り過ぎました。
また、緑色の炎が浮いていました。

当時、携帯電話を持ってなかった私は連絡を取ることも出来なかったので、そこを通るしかなかったのです。
下を向きながら通過しましたが、やはり怖いのもあって、ついつい前を向いてしまいました。

すると、緑色の炎は消えていて、私は見間違いかな? と思いその場を通過していきました。


遊び終わって自宅に戻り、ベッドの上で寝ようとしているのですが、なかなか寝付けません。
背筋はゾクゾクと寒気を感じ横目ではあったのですが、白い骨の塊のようなモヤが映っていたのです。

私は恐怖のあまり震えていました。
親も兄弟もいない。たった1人でいなければいけなかったのです。

そういう日々が半年もの間続きました。
そのせいで、体に疲労とストレスを溜め込んだまま日々を過ごしていました。


そんなある日、私が眠っていると、夢の中に何もない真っ暗な場所から白い着物を着た女の人と小さな子供が、青白いモヤに囲まれながら私を見つめているのです。

しばらくすると女性のほうが私のほうに近づいてきて、何かを言い残し去っていったのです。

なぜか目が覚めた私は、あたりを見回そうとしたのですが、体が動きません。
必死に声を出そうともしているのですが、声も出ないのです。

そして、何かに首を絞められるような感覚にあい、1時間ほどでしょうか。動けなくなってました。

それから気を失ったのか、朝を迎えていました。

まさか、あれも夢なのかな? 疲れているのかな? と思い、気にせず日々を送っていました。
それからしばらくして、毎晩同じ夢を見るようになりました。

いきなり車が突っ込んできて、人がたくさんいる中で、その車に轢かれているのは私自身でした。

車に轢かれて血まみれの私…その車の下から、人とは思えないような姿をした何かがこちらのほうをすごい形相でにらみつけているのです。
周りの人はそれに気づくそぶりもなく、それは私のほうに近づいて来るのです。

危ないと思った私は、必死で走っているつもりなのですが、全然前に進めないのです。

ですが、いつも途中で目が覚め、怖い夢を見続けることになりました。


また同じ夢。
いつも見る夢なのに何かが違う。

起きても私はその夢を夢とは思わないほどしっかりと記憶していました。

何かがおかしい。

そう、毎晩その夢の中の何かが私に近づいているのです。
確実に。1歩づつ。


そんなある日、とうとう夢の中で私は追いつかれてしまい、手首をしっかり捕まれました。
あまりの恐怖に目覚めてしまい、手首を見ると紫色の痣が残っていました。

私は今までに感じたことのない恐怖に囲まれて、夜を眠ることが出来なくなりました。
1週間くらい私は眠れぬ日々を送り、体の疲れはピークまできていました。

それでも眠れなかった私は、部屋の電気、コンポ、テレビを付けっぱなしにしたまま夜を過ごしました。
すると、突然体が動かなくなり、息も出来ないくらい強い金縛りにあい、まぶたが勝手に落ちていくのです。
気がついたらまた同じ夢。
夢の中なのに夢とは思わないほど現実的なものでした。

その夢の中の何かが、私を今まで以上の速さで追いかけてくるのです。

「もう追いつかれる!!」

右肩をしっかり捕まれ、振り返ると夢の中のそいつが首を絞めてきました。


……どこからか、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

私は目を覚まし前を見ると、私の姉が必死に私の名前を呼んでいるのです。

手首・右肩・首に痣が残っていました。なぜか足首にも。

それから、姉の知り合いの霊媒師さんにお払いをしていただき、そういう悪夢を見ることがなくなりました。

あの墓地にはなにか強い霊がいるのか…。
姉や霊媒師さんは、私には未だ何も教えてくれません。
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俺の友達にいわゆる「見える」奴がいる。
大学の新入生歓迎会で知り合った奴なんだが、外見は至って普通。でも、カンのよさというか、第六感が半端じゃない。

知らない道に迷い込んだ時、いきなり立ち止まって、「この近くで猫死んでるね」とかさらっと言い出す。
面白がって辺り探してみたら、自販機の裏についさっき轢かれたみたいな猫の死体が隠すように押し込められてた、なんてこともあった。

「いつから見えるんだ? やっぱきっかけとかあるのか?」

ある日、喫茶店で話していたときに、冗談半分で彼女に聞いてみたことがある。

初めはお茶を濁そうとしていたんだが、俺があまりにしつこいせいか、結局折れて話してくれた。
後悔しないでね、と前置きを入れて。

----以下、彼女の話----


私が小学校3年の時にね、クラスでコックリさんが流行ったの。
私は当時はまだ「見えなかった」から、そういうの信じてなくてね。

でも、私のクラスにコックリさんに夢中になってるグループがいたんだ。
霊感があるって子が中心のそのグループは、なんかあるたんびに、「コックリさんが当たった」だの「コックリさんが言う通りの事が起こった」だの言ってたのよ。私、正直嫌いだったわ、その子。

で、ある時、私とその自称・霊感少女が喧嘩になってね、コックリさんの事で。
「いる」「いない」の水掛け論だったんだけど、「証拠を見せてやる」なんて言うから、私もついのっちゃったのよ。

まぁ、本当かどうか、興味はあったし。
その霊感少女グループと私の合計4人で、コックリさんをやることにしたわけ。
放課後になるの待って、私達は屋上に向かう踊り場に行ったの。
何でもそこが校舎の中で一番いい「ポイント」らしくてね。

バカバカしいと思いながらもコックリさんの準備手伝ったわよ。
使われてない机並べたりしてね。

で、いよいよ始まった。
何回か「コックリさん、コックリさん…おいでください」って呼びかけてる内に、10円玉がすぅーっと「はい」に動いたの。

他の皆はコックリさんが来たって騒いでた。
その様子見てたらなんか馬鹿らしくなって、私はふざけて

「コックリさん、コックリさん、お願いですから私達に幽霊を見せてくださぁ〜い」

って言ったの。
10円玉は『はい』に動いた。

「真面目にやりなさい」

なんて霊感少女は言ってたけど、それ以上付き合う気になれなかったから、10円から指を離したの、私。

いや、コックリさんやってる途中で指を離しちゃダメってことくらい知ってたわよ。
でもね、その霊感少女への当てつけのつもりで、離したの。
バンッ!!

指を離した瞬間、凄い音が鳴ったわ。

屋上に通じるドア、あるじゃない。鉄製の。あれが外側から思い切り叩かれた音だった。

みんなビックリしてね。放課後だし、屋上は元々立ち入り禁止だから外に誰かいるわけないし。

バンッ! …ドンッ!

また叩かれた。というよりは、殴りつけたみたいな音だった。

それが段々激しくなっていくの。もう何人もが一斉に叩いてるみたいな感じで、

ドン! ドン! ドン!

怖かった。とにかく怖かった。

でも、あんまり怖いと、映画でよくあるみたいに泣き叫ぶってしないみたいね。
目に涙一杯溜めたまま、みんな固まってた。

「逃げよう」

誰が言ったのか分からないけど、誰も反対しなかった。

扉はもう破られそうなほど激しく叩かれててね。
ドアノブなんかも狂ったみたいにガチャガチャやられてるのよ。

片付けなんかしないで、セット一式放り出して逃げてきたわよ。
何日かして先生にばれて、むちゃくちゃ怒られたけどね。

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「…それだけ?」

拍子抜けした。

確かにドアを叩かれるシーンでの大声には驚いたが、それはあくまで驚きだ。恐怖とは違う。
話自体も中途半端のままだ。

「その話、なんか続きないのか。どうも中途半端だ。オチが弱い」

だから、正直に聞いた。元々、遠慮するような間柄じゃない。

「人がせっかく話したってのに、そんな酷評をしやがりますか、貴様は…」

そう言いながらもニヤニヤしている。どうやらまだオチは先らしい。

「次の日その場所に行ってみたら、コックリさんのセットは無かった。きっと、見つけた先生が片付けたんじゃないかな。でもね、コックリさんのルール、最後は呼び出したものを鳥居を通して帰さなきゃならないじゃない。私達はそれをやってない。だから、あの時のコックリさんはまだ続いているのよ」

ゾクッとした。

10年以上続くコックリさん。
呼び出されたものは何処に行ったのか。
「あ、だったらさ、その時の面子集めて、またコックリさんやればいいんじゃないか? それで帰ってもらえば、万事解決だろ」

…それは無理、と彼女は言った。

「だって、私以外もう死んじゃってるんだもん」

絶句した。

固まってる俺を気にもせず、彼女は続けた。

「死に方は事故だったり自殺だったり、色々だけどね。結局、一番最初に指を離した私だけが今のところは無事。さて、私はそろそろ行くけど、嫌な話させたんだからここ奢りなさい。じゃ、またね」

俺は何も言えなかった。
自分のせいで死んだかもしれないクラスメート。

思い出したくも無いだろう話を、俺は彼女にせがんだ。
激しく後悔していた。

一言謝ろう。
そう思って顔を上げると、彼女と視線がぶつかった。

店を出る準備をしていた手を止めて、彼女は俺を見ていた。

「するなって言ったのに、後悔してるみたいね」

頷く。
すまん、と言う前に彼女が続けた。

「じゃ、後悔ついでにもう一つ。私ね、小学校までは垂れ目だったのよ」

自分の眼を指差して、彼女は笑っていた。

呆気にとられて固まっていると、彼女は軽い調子で「そんじゃね」と店を出ていった。


10年以上続くコックリさん。
呼び出されたものは、目の前にいたんだろうか。

彼女は吊り目だ。
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霊能者を気取っちゃって、「ここヤバイよ」なんてあれから本当に言えなくなったよ。
それが例え冗談だとしてもね。

俺は18で都内のとある寿司屋で板前見習いとして上京したんだ。

その寿司屋ではバイト採用もしていて、俺なんかよりも年上の大学生がいて、みんな結構はじけてた感じだったから、地方から出てきた俺は正直、馴染みづらい部分があったんだ。

しばらくしてAが寿司屋にバイトと言う形で入った。
Aは大学へ通いながらバイトに度々しか来なかったけど、同い年だったって事もあったし、俺もAも地方から越してきたって事もあってすぐ仲良くなった。

話を聞くとアパートがかなり近い(チャリンコで10分くらい)って事が解って遊ぶことになったんだ。

遊ぶ約束の日、俺は仕事が終わってAM1:00頃に電話でAに連絡してAの家で遊ぶ事になった。

家にお邪魔してもらい飯をご馳走になって、たわいもない話やら、大学の話、仕事の愚痴などしていた。
だけど、どーにも、Aのアパートは上京してきて間もないからか、部屋が殺風景というか、遊び道具が無い。ゲームも無ければテレビも無いそんな状況。

さて、話だけしてるのもネタが尽きて

『ここは一つ心霊話しと行こうか!』

と俺は閃いた。
雑談が一旦終わり、一置きついてから

俺「実はさぁ、なんとなく思うんだけどさぁ」

A「え、どうしたの?」
俺「いや、ホント何となくなんだけど、この部屋なんかいるよ?」

A「え? ホント!? それって幽霊とか?」

予想とは裏腹にカナリ食いついてきたA。
俺も言い出しちゃったもんだから、もう話を続けるしかないみたいな感じ。

俺「うん。ここヤバい。特に炊飯ジャーが置いてあるとこ」

そう言って、台所の方の一角に指差してみた。

A「え〜。どうしよ〜」

Aは半泣き寸前。
そんな感じで冗談話の怖い話は終わりになった。

そうこうして、俺は自分のアパートに帰った。
Aは最後まで「勘弁してよ〜」とか怖い話の件を心配してた。

それから暫くしてだった。
同じ店で働いてる年配の板前から呼ばれた。

板「おい〇〇」

俺「はい。なんすか?」

板「この前な、Aが近くの横断歩道で同い年くらいの友達みたいなのを手で連れて歩いてたから声かけたんだよ」

俺「はぁ」

板「それが変でよぉ、声掛けるなり俺に『お祓いができる神社はどこにあるかわかりますか?』って聞いてきたんだよ」
板前の話はさらに続いた。
板前がAから聞いた話によると。

俺が怖い話をした数日後、Aは同じ大学の友達、数名を家に招き入れて飲み会をやっていたらしい。
夜も更けたからA達は寝ることになったらしいが、その内の一人が痙攣しだした後に、軍服姿の男が現れたと言った内容のもの。

俺はただ驚いてなにも言えなかった。
だってあれ、全部作り話なのに。


お決まりの、

板「ところでお前、霊感あんのか?」

の質問も来たから慌てて、

俺「他のバイトとかに絶対言っちゃダメすよ! Aも可哀想だ」

みんなに色々突っ込まれたくないから言ったが、その後、見事に広まってバイト達に『霊感体質君』と俺はしばらくイジられていました。

話を聞いた後にAに電話しようと思って掛けたが出ない。

でも、何かあれば掛けてくるだろうし、もしかしたら、俺が余計な事言ったが為にこんな事になったとAは思っているのかも知れないと思い、電話が掛かって来るのを待ったけど、それから連絡は来なかった。


板前から話を聞いて1週間くらい経った時、Aがバイトに来た。

Aは見た感じなんとも無いようで、俺を見たAは少しビクつきながらも物申したげに歩み寄ってきた。

俺「よっ! A! 話聞いたよ。大変だったんだって?」
A「本当だよ。凄い大変だったんだから;O;」

Aの話に寄ればその後、飲み会のメンバーを連れて神社に行ったらしい。
痙攣していた大学の友人は結局憑かれてしまっていたらしく、祓って無事に治ったとの事。

軍服姿の霊は俺が指差した場所から出て来たって話を聞いた時は驚いたけど、一応一安心でAの話を聞いていたらAが

A「それにしても〇〇凄いね、霊感あるんだね。あんな体験自分がしちゃうんだもん」

と言ってきたから、

俺「ごめん。実は作り話だったんだけど、まさか本当に起こっちゃうとは」

とネタばらし。

Aは「酷すぎる」って嘆いてた。


世の中常識じゃ考えられない事を冗談半分に言ったがばっかりに、常識じゃ考えられない事が起こったってそんなケースもあるって事を忘れないで欲しい。
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友人の話をさせて頂きます<(_ _)>

彼はあるサークルで知り合った人で、年は僕より上なのですが趣味や話も合い、いつの間にか互いの家に遊びに行ったり電話し合ったりする仲になっていました。

その日も彼と電話でひとしきり話をしたあと受話器を置いたのですが(今思えばいつもと比べて元気が無かった気もします)、言い忘れた事があってすぐにかけ直しました。しかし、彼は出ませんでした。

その時はあまり気に留めなかったのですが、それから何時間経っても連絡が取れません。翌日になっても連絡は途絶えたまま…。
何より気になったのは、彼は出かける時や電話にしばらく出られない時は必ず留守電をセットするのに、その時はいつまで経っても切り換らなかった事でした。

携帯電話も通じず、妙な胸騒ぎもしたので、彼の住むマンションに向かいました。
外は暗くなり始めていました。

部屋に電気は点いておらず、呼び鈴を押しても誰も居ない様子(彼は離婚歴があり一人暮らしです)。
もしかしたら急病で、中で倒れているのでは…という考えが頭をよぎりましたが、1〜2日連絡が取れないくらいで騒ぐのもいかがなものかと思い、とりあえず翌日、彼の職場に確認をとってから考えることにして、その日は帰宅しました。

翌日、彼の職場に電話して尋ねると、

『急病で入院した。かなり重態なので詳しい事は家族にしか話せない。心配なら彼の家族から連絡させる』

…とのことでした。
そんな状態では、ご家族(彼の実家には彼のお母さんとお姉さんがいます)もさぞご心労だろうと思い、それはお断りして電話を切りました。


それから数日して、突然彼から電話がありました。

職場の人が僕から電話があった事を伝えてくれたそうで、心配をかけて申し訳ない…と謝ってくれました。
そして、手当てが早かったので、思ったより後遺症も残らないだろうし、ようやく許可が出たので是非遊びに来て欲しい…とのこと。

僕は喜んで彼の入院している病院にお見舞いに行きました。

病室に入ると、頭にネットのようなものを巻いてニコニコしている彼がいました(あまりにも急な入院だったので、もし自殺未遂でもしていて、首や手首に包帯を巻いていたらどう声を掛けたものか…と心配していましたが頭なので安心しました)。

あの日、僕との電話が終わった直後、激しい頭痛や吐き気がした為、意識があるうちに救急車を呼んだそうなのです。
病名は『くも膜下出血』だそうで、若くて体力があるのに加え、処置が早かった為、奇跡的に助かったそうなのです。

…と、ここで、彼の表情が変わり、暫く沈黙が続きました。

『どうしたんだろう? 病状が急変したのかな??』

と戸惑っていると、彼がポツンと言いました。

『実はね、まだ誰にも話してないんだが、ちょっと怖い体験をしたんだ。○○君(僕の名前です)に聞いて欲しいんだけど…』

突然の沈黙と初めて見せる彼の怯えたような表情に、こちらも怖くなりました(今でもあの顔は忘れられません)。
昼とはいえ場所は病室です。
もしかしたらここで亡くなった人が居たかも知れない…等と思うと背筋が寒くなりましたが、彼が『聞いて欲しい』と言っているからには断るわけにもいきません。

勇気を出して聞く事にしました(あまり静かだと怖いのでテレビを点けてもらいました。奥様向けのワイドショーが妙に場違いだったのを覚えています)。

彼の話はこうでした。


彼は病院で検査の仕事をしています。

主な仕事は脳波や心電図、そしてMRIという断層撮影(人体を大根の輪切りのようにスライスした形を撮影し、病気の有無を診る検査)です。

彼が発病する数日前、ある患者さんの脳の検査をしていた時のことです。
撮影の最中、突然装置が止まってしまいました。

MRIは通常、機械が自動的に写真を保存してくれるのですが、途中で止まってしまうと手動で保存しない限り写真が消えてしまいます。
彼は慌てて写真の保存を手作業で始めました。当然、綺麗に撮影出来ているかどうか一枚一枚確認しながら保存します。

…確認作業は問題なく進み、順調に写真を保存していましたが、その中の一枚を見てふと操作する手が止まりました。
(彼の言葉によると『脳の左のヒカク』のあたりに)見慣れない物が写っていました。
脳腫瘍か? と思い、モニターに顔を近付けて目を凝らした瞬間、我が目を疑いました。

輪切りの脳の中から、小さな顔がこちらをじっと見ていたのです。

先ほども描きましたが、MRIは『断層撮影』なので立体の物は切れて写り、顔など映るはずが無いのですが、それは目や口まで鮮明に写っていました(良く見ると肩辺りまで写っていたそうです)。

大きさはモニターのスケールで計って8mm位。
性別までは判りませんでしたが、『地獄の絵』に出てくる『餓鬼』のような顔で、こちら睨むように見据え、大きく丸く口を開けていました。

急いで誰かに見せようとしましたが、昼休み時間で誰もいません。

デジカメで撮影しようと立ち上がった瞬間、どこも触っていないはずなのに装置の電源が切れてしまいました。
急いで立ち上げ直してもその写真は消えており、再撮影しても先ほどの部位に異常は一切ありませんでした。

…諦めて患者さんを出すことにしました。
撮影室に入り、装置からベッドごと患者さんを出しました。
足からゆっくり出てきます。

ふと顔を覗き込んだ瞬間、患者さんの口からゲップのような音と共に、『大量の栗のような? 卵が腐ったような? 凄い臭気』がしました。

その後、その患者さんは何事も無かったかのように帰って行きましたが、彼は暫く咳とくしゃみが止まらず、そればかりか匂いも感じられなくなりました(未だに食事をしても匂いや味が判らないそうです。主治医に相談しても症状の一種だと言って取り合ってくれないそうです)。

翌日、ドクターに撮った写真を診断して貰いましたが『全く異常は無し。健康そのもの』とのことでした。

そしてその翌日、彼は発病し、入院、手術…となったわけです。

彼は、『もう、あそこで働きたくない。少なくともMRIは絶対に撮影したくない! ただ、上司に言っても信じて貰えないだろうから、最悪、転職するしかないかも…』と言っていました。


…なんとコメントしたら良いのか判りませんでしたが、彼はそういった冗談を言う人間ではありません。

少なくとも彼には『それ』が見えたし『凄い臭気』も感じたのでしょう。

彼は口に出して言いませんでしたが、『その時、病魔が乗り移った』のでしょうか?
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荷物を片付けるため、夏の暑い日に久々に母方の祖父の家を訪ねた。
といってもその家はすでに誰も住んでおらず、私一人だけでの作業であり、無駄に広い家の為、なかなかはかどらずにいた。

中でもこの家で一番広い部屋には大きな仏壇が置いてあった。
長い間手入れをしていなかった為、埃まみれであったその仏壇を移動させなければならなかったが、あまりの汚れ具合を見かね、あまり使っていなかった雑巾で周囲を丁寧に拭いていた時だった。

仏壇と壁の間には画鋲であるとか、そのほかゴミがいくつか挟まっていたのだが、その暗い隙間から一冊のノートが挟まっているのが見てとれた。
重い仏壇を一人で抱えるのは容易ではなかったが、それでもなんとか手を入れる程の隙間をつくり、手を伸ばしてノートを取るのだった。

かなりの年月が経っていたことがわかる。
土色に変色していたり、シワだらけであったり、どうみても丁寧にあつかったものではない。

目を引いたのはところどころ赤黒く変色した部分があることだった。
その染みは表紙だけでなく、表紙をめくった中にもある。

瞬間、これは長い年月によって変色した血液ではないのか…との思いがよぎった。
しかもこれは、まるで血液に浸されていたような染みのつき方であった。

ひどく不快な気分、あるいは得体の知れない気味の悪さを感じたが、興味もあり、ページをめくっていく。
中は墨で書いたと思われる、文字になりきれていない複雑な線と、意味不明な絵が書かれ、そして赤黒い染みによって塗りつぶされていた。


祖父は私が10歳の頃、亡くなっている。
祖母は90は越えたであろうが、身体も弱り、認知症もあるため、ある施設にて過ごしている。
といっても、もはや歩くこともできず、寝たきりで死を待つのみ。言葉もなく、起きているのか寝ているのかの区別も難しい程だ。
私はもはやろくに面会もしていなかった。

祖父と祖母の家は私にとってそれなりに思い出はあったが、もはや祖母もこの家に戻ってこれる訳もなく、処分しなければならないという事になり、それに先立って私が荷物の整理を任されたのであった。


ノートの事を母に尋ねるかどうか自問したが、このような気味の悪い物のことを親族に尋ねるのは躊躇した。

親族であるからこそ、知らないほうがいいことだってあるだろう。
おそらくまともな事を言いはしないだろう…そんな気がした。

話を訊けそうな人のあてはあった。
近所に面識のあるおばあさんがおり、やはり結構な高齢であったが、未だ現役で畑仕事をされており、しっかりした様子の人だ。

昔からこの土地に住んでおられ、私が子供のころはお世話になっていたものだ。
大人になった今でも会えば挨拶は必ず行っていたし、おそらく何かしら知っておられるだろう。
日は傾き、畑仕事を終えて家に戻っている頃合を見て、おばあさんの家を訪ねた。
久々に会って話をするのだが、私のこともしっかり覚えていてもらえており、祖母の近況を交え、事のいきさつを話すのだった。

ノートを見せると、やはり不気味さが先にたち、おばあさんにも心当たりはないといった様子であったが、しばらく眺めていたあとで、思い出したように話をしてくれた。

次のとおりだ。


祖父の親、つまり私の曽祖父は祖父が若い頃に両方とも亡くなっており、また、修二という弟もいた。

修二さんは生まれついての障害があり、耳が不自由であった。当然言葉にも不自由で、それに伴って先天性か後天性かは不明だが、精神的にもおかしなところがあったという。

祖父は修二さんを一人で育てていたが、コミュニケーションが通じにくいことと、奇行が目立つようになり、目を離せず仕事も満足に行えない生活で、徐々に疎ましく感じていったという。
修二さんは家に軟禁状態で、自分の意思や感情を伝えようと、一生懸命ノートに書き記していたという。

ある日、事件は起こる。
修二さんは当時飼っていた鶏を一匹残らず鎌で殺したあと、自身の両耳に箸をつっこみ、死に至ったという。
箸は耳を抜け、ハンマーで叩いたように頭蓋骨を貫通し、脳まで達していた。
耳はもちろん、目、鼻といった部位からおびただしい出血があったという。

祖父の証言によって、修二さんは自殺ということで処理されることになったが、自ら望んだ自殺であったか、狂った末の自殺であったか、あるいは他殺、つまり祖父が殺したのではないかと、当時近所では噂されていたという。

つまり、おばあさんの話では、このノートは修二さんの物で間違いないだろうということだった。


日が暮れ、祖父の家に戻った私はこのノートをどう処理するべきか思案した。
そのうちに慣れない肉体労働の疲れが出たのか、明日でもかまわないだろうと考え、そのノートを枕元に置き、床についた。

すぐに眠りについたが、どれくらい眠ったのだろう。物音に気づき、目が覚めた。

「ガサガサ…カリカリ…」

そのような音だっただろう。何かが這うような物音だ。
そしてすぐそば、枕元でそれは聞こえるのだ。
そのあたりから生暖かな空気も感じる。

暗闇の中、ようやく目が慣れてきたころにそれを見ることができた。

修二さんのノート。
そのノートから細長い腕が一本上に向かって伸びていた。

まるで植物が自然に生えているようであり、そしてその腕は肘をまげ、畳をかきむしっている。

「ガサガサ…カリカリ…」

爪を立て、畳を掻く音であった。

「う……ああああああああああああああああああああ!!」

布団から飛び起きると、おそらく腰が抜けていたのであろう、立つに立てない。
転がるように部屋の隅へと逃げた。

感じたことのない恐怖でパニックになっていたが、その腕の行方を見ずにはいられなかった。
腕は、先ほど私が眠っていた枕まで到達していた。

そしてそのノートからは、二つの目が覗いていた。

徐々に、頭全体が見えると、

「オオ…ォ…」

口から音にならない声が低く響く。何かが口のあたりから吐き出される。

おそらく血液だったのではないだろうか。

そのあたりで私の記憶は途切れている。
気を失ったようだ。
目が覚めるとそこは身体になじんだベッド。
誰かに運ばれたのだろうか。実家に戻っていた。

「何があったの?」

母親はそこにいた。

「何が…って」

「何もなかった?」

そう聞いて母親の表情を伺ったが、その夜にあったことを証明する痕跡、血痕や畳を引っ掻く跡などを母親は見ていない様子であった。

そうだ、ノート…。

「部屋にノートはなかった?」

尋ねる。

「何もなかったわよ。連絡がないから心配で行ったら倒れているから、心配したわよ」

私は頭が混乱してきた。

夢だったのか? 真実なのか?
もう一度行って確認する必要がある。

疲れはあるものの身体に異常はみられない。
その日はそのまま朝まで自宅で休み、翌日に再度祖父の家に向かった。今度は母親と一緒だった。

自分が眠っていた、そしてあまりの恐怖に気を失ったその部屋には、ノートや血痕といったものは見つけることができなかった。
布団は母親が片付けたという。
訝しく思いながらも、母親の力を借り、片づけを終えた。


それから半年あまり経って、祖母が死んだ。
寝たきりになってからは私も母親も心のどこかで覚悟はできており、それほど悲しくもなく、葬儀は祖父の家で行われた。

あの時の奇妙な経験はすっかり忘れていたのだが、祖母の死により、祖父の家に訪れたことにより再び思い出してしまった。

ふと、ノートを見せたおばあさんの事を思い出した。

あのおばあさんにノートを見せ相談したことすっかり忘れてしまっていた私は、おばあさんにもう一度話をして真偽を確かめたい、そう思わずにはいられなかった。

古くからの付き合いがあるおばあさんだから、もちろん葬儀に来られているだろう。
もし来られていなくても近所なのだから、訪ねてみてもいい。

そう思い姿を探したのだが、どうにも見つからない。

母親に聞いてみる事にした。

「近所に畑仕事していたおばあさんがいたよね、あのおばあさん今日きてないかな?」

すると、母親から聞いた言葉は驚くべきことだった。

「ああ、あのおばあさんはもう亡くなったでしょう。何年前だったかね。5年くらい前かね。葬式には出られなかったけど、確かそうよ」
私は何がなんだかわからなくなったが、続けて聞いた言葉はさらに驚くべき事だった。

「近所の人はみんな知ってるはずなんだけど、あのおばあさんは持病があって、自殺だったらしいよ。むごい死に方したらしくてね、両方の耳から箸をつっこんで死んでたらしいわ…」


修二さんとそのおばあさんの関係はなんであったのか、そのノートはなんであったのか、それは結局わからないままになりました。

最後に、おばあさんの家にもう一度行ってみましたが、その家はすでに取り壊されていました。
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みなさんは「学校の七不思議」なるものを覚えているだろうか?
学校にまつわる怪談が七つあって、全部知ってしまうと死ぬとか、そんな類のものである。

俺の通っていた小学校にも七不思議があった。
ただ大概はまったく信憑性の無い、というより既存の話を羅列しただけのものだった。トイレの花子さんとか、理科室の人体模型とか、赤マントとかね。

しかしそんな我が母校に、一つだけ、オリジナルの七不思議があった。
それがこれから話す「暗室」の話である。

少々長くなると予想されるので、面倒な人はスルーしてくれて構わない。
今でも俺はこの事件がトラウマで、真っ暗な部屋では眠れないw

さて、その暗室の話とは、超簡潔にまとめると、

「午後3時35分にその部屋の中からノックするような音が聞こえる。これにノックを返してしまうと、『暗室』の中に引きずり込まれる」

というものなのだが、一応以下にその詳細を書いておく。
昔、まだ体罰なんかが普通に実施されていた頃、この小学校にとても厳しいTという先生がいた。

T先生は授業中にうるさくしたり、何かいけないことをした児童を罰する時、決まってある部屋に閉じ込めるということをした。
その部屋は特別な暗室で、窓は無く、ドアも小窓のついていない鉄製のもので、内側に鍵がついていなかった。

このため、児童を中に閉じ込めると、外から鍵を開けない限り外に出ることはできない。
照明のスイッチは外にあるため、完全な暗闇の中に放置されることになる。小学生にしてみればこの罰はかなり厳しく、酷なものであった。

ある時、T先生が叱った児童の中に、暗所恐怖症の男の子がいた。
T先生はいつものようにこの子を暗室に閉じ込めようとしたが、少年は狂ったように暴れてなかなかうまくいかない。

それでもなんとか無理矢理部屋に押し込んで鍵をかけると、中からドアを「ドンドン!」と激しく叩く音がした。
T先生はそのまま何事もなかったかのように仕事に戻った。

ようやくT先生が少年を開放しに行くと、部屋の中央で彼は冷たくなっていた。
少年はショックで嘔吐しており、その際に喉がつまり窒息死していたのだ。

当然子供の両親は学校とT先生を激しく糾弾し、結局先生は小学校を辞めることとなった。

T先生が辞めた後、その暗室が使われることはなくなった。
児童も他の先生達も気味悪がって近寄ることすらしない。
やがてその部屋の存在すら忘れられかけた頃、ある日を境に部屋から凄まじい腐臭が発せられるようになった。
T先生を知る何人かの教職員はまさかと思い、児童が全員帰宅した後で部屋を開けた。

案の定、そこには首を吊って天井からぶら下がる腐乱したT先生の遺体があった。
床には遺書。自殺だった。

しかし一つだけ奇妙なことがあった。
先ほど説明したように、この部屋には内側に鍵が無い。にもかかわらず、部屋の鍵は閉まっていたのである。

そんな奇妙な自殺騒動が収まらぬうちに、今度は学校中で不気味な噂が流れ出した。

「ある時刻になると、あの部屋のドアがバンバンと物凄い勢いで内側から叩かれている」

実際、児童だけでなく、先生や用務員の人達の中にもこれを体験した人はおり、特に同じ1階に休憩室のある用務員の人達はかなり怯えていた。

そしてついにある日、犠牲者が出た。
校舎内で、Aという児童が忽然と姿を消したのである。

1時間後、彼は全身を震わせながら「暗室」のドアの前に座り込んでいた。
その体からは酷い腐臭がした。
以来、

「あの部屋では死んだ少年が閉じ込められた時刻、すなわち3時35分になると、ドアを激しく叩く音がし、それに答えてしまうと中に引きずり込まれ、閉じ込められてしまう」

という噂が、児童たちの間でささやかれるようになったのである…。


さて、話を俺の小学生時代に戻そう。

実を言うとこの暗室、俺が小学校に上がった頃にはすでに「存在しない部屋」となっていた。

いや、別に取り壊されたとかそういうことじゃない。
ただ、暗室のドアがあったと思しき場所はコンクリートで完全に塞がれ、壁と同じように塗られていた。

もちろん学校の間取り図にも暗室らしき部屋の存在は記されていない。
文字通り存在しない部屋というわけだ。知らない人から見れば、ドアがあった場所などただの壁である。

ただ、後から塞いだドアの跡はよく見ればはっきりとわかったし、実際他の児童たちの間でもその場所は有名だった。

そんな存在しない部屋の正体を掴もうなどと少々無茶な提案をしてきたのは、当時の俺の友達で小学生の分際でオカルト好きという変人のHという女の子だった。
Hいわく、「何かあった時に男手があった方が心強いから」ということらしい。別に俺そんなに頑強な少年じゃなかったけどね。

俺自身は特にその話自体に興味はなかったのだが、なんとなく二つ返事でOKしてしまった。

こうして、謎の部屋の正体を掴むべく俺とHは動き出したわけである。
壁の向こうからノックのような音が聞こえてくるのが3時35分だったため、俺達は5限で授業が終わる日を選んで実行することにした。

ノックが聞こえるかどうかを確かめ、聞こえたらそれに答えてみよう。というのがHの意見だった。

「おいおいそれってマズいんじゃなかったっけ?」と俺。「そのためにアンタを呼んだんでしょ」とH。

そして、あっという間に時間は過ぎ、3時35分になった。

と同時に、俺とHが「お」と小さく呟く。

…ドン…ドンドン…ドン……

微かに壁の向こうから音がする。
ノックと形容するには激しすぎる。むしろ中に閉じ込められた少年が死に物狂いで助けを求めるかのような…。

音に聞き入ったまま動けずにいると、Hがいつの間にか壁の正面に立っていた。右手を軽く上げる。

「おい…」

という俺の制止は無視され、Hは二、三度軽く壁をノックする。

途端に、ピタッと音が止んだ。
放課後の廊下に静寂が戻る。奇妙に感じるほどの静寂が。
と、次の瞬間、壁が真っ黒になっていた。
否、コンクリートの壁が、そしてその奥にあるはずのドアが、消失していた。

真っ黒に見えたのは、中にある、いやあったかもしれない部屋が完全な闇だからだ。外からの光すら飲み込んでしまう闇。
何年も、いや何十年もの間、決して光が当たることのなかった部屋と、そこに閉じ込められていた「何か」の慟哭。

闇の奥底から響いてくる壮絶な悲鳴とHの悲鳴が聞こえてきたのは、ほぼ同じタイミングだった。


Hは部屋に引きずり込まれそうになっていた。
闇の淵からHの脚を掴んでいるのは腐乱した手。成人男性の手だ。

Hも俺も、そして闇の中の何かも悲鳴を上げ絶叫していた。
しかし他の大人たちが駆けつけてくる気配はない。

あるいは先刻の静寂の時点でおかしいと気づくべきだったのかもしれない。
しかしそんなことを考えている余裕はなかった。

何しろ目の前でHが引きずり込まれようとしているのだ。形容しがたい恐怖が俺を襲った。

とっさにHの腕を掴み、逆に引っ張った。脚と腕の引っ張り合い。
当然Hは痛そうで、そして怖そうな顔をしていた。

やがて男の腕はふくらはぎからくるぶしへと滑り、足首を掴んだかと思うと今度は靴を掴み、最後には靴が脚から抜けて闇の中へと吸い込まれていった。
慟哭が破壊的なまでに強くなった気がした。

そして気がつくと、俺とHはコンクリートで塞がれた、かつて部屋があったかもしれない場所の前で、二人して泣いていた。
時刻は3時36分。
どうやら二人とも運良く引きずり込まれずに済んだようだった。Hの靴は片方なくなっていたが。

二人して泣きまくっているのに気がついた用務員のオバサンが俺達に近づいてきた。
そして俺達から数メートルほどのところでふと立ち止まって顔をしかめたかと思うと、今度は見る見るうちに顔が青ざめていく。
そして大急ぎで職員室へと駆けていき、やがて俺達の周りは人でいっぱいになった。

その後のことは俺もよく覚えていない。
大泣きしていたし、周りの人たちはなにやら騒ぎまくってるし。

ただすぐに温かい飲み物が差し出されて、それ飲んで安心したのは覚えてる。
あと救急車で病院に運ばれたことも。


俺とHはしばらくの間入院することになった。
外傷は二人ともなかったが、精神のケアのためだ。

入院中、担任の先生と両親、それから年配の男の人が面会に来た。
担任は男を「昔小学校にいた先生だよ」と紹介した。

両親はすでに話を聞かされているらしく、男が話を始めるとそそくさと部屋から出ていった。
彼は俺とHに、俺達の見たものはおそらく現実だということ。しかしきっと夢や幻と考えた方がこの先悩んだり苦しんだりしなくて済むだろうから、そう考えなさいということ。もう面白半分であの部屋で起こったことを語ってはいけないということ。そしてあの部屋で一体何が起こったのか、その全てを話してくれた。

俺達は神妙になってその話を聞き、そして彼の言葉通り、その後学校に戻っても二度と暗室に近寄ることもしなければ、話すこともしなかった。


<追記>

これでこの話はおしまい。長文でしかも大したオチもなくマジでスマソ。
ちなみに俺は中学からは東京の方に引っ越して(たぶん親も怖かったんだろうなw)そのまま高校も大学も東京の学校に行ったので、その後あの「暗室」がどうなったかは知らない。

ただ、最近その小学校の名前でググッてみたら、校舎の様相が俺のいた頃と完全に変わっていたので、たぶん改装したか、あるいは校舎を移したかなんかしたんだと思う。

ただ、いまだに真っ暗闇な部屋は怖い。さすがに当時ほどではなくなったけどね。

あとHいわく、「アレはとにかく寒くて寒くて仕方がなかった」んだそうな。

あ、ちなみに七不思議で語られてる部屋の噂に関する真偽のほどは俺も知らん。
ただその部屋で児童が死んだってのは確かみたい。

閉じ込められた少年の恨みがT先生も巻き込んだのか、それとも元から何かよくない部屋だったのか。
あるいはその両方かもしれんね。
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「なぁ、呪いのキーホルダーってあるのか?」

ある日、大学で同じ専攻のAが俺に話しかけてきた。

俺「何? キーホルダー?」

Aは一言で言うと、嫌なヤツ。
ガタイが良く、小中高でこんなイジメをしてきた、喧嘩で負けたことがない、なんてことを自慢げに話す。頭の悪いヤツだ。

なんでそんなヤツと繋がりがあるかと言うと、Aは実は情けない程の怖がりで、自分に霊感があると信じ込んでいるらしく、ちょっとしたことがあると、オカルト好きで変わった趣味を持つ俺に相談しにくるからだ。もちろん、何か霊的なことがあったことは一度も無い。

A「そうだよ、キーホルダー。持っていると、数日後に死んでしまう、とかいう呪いがあるらしいんだ」

俺「聞いたことないなぁ。まぁ、よくある話じゃないか?」

A「知らないか…。もしかしたら、お前の趣味からして、持ってるんじゃないかと思ったんだが」

俺の趣味、オカルトグッズ集め。
物心ついた頃から始め、今では相当な数になっている。

俺「いやいや、第一、もしそんなの持ってたら俺が死ぬだろ?」

A「あぁ、まぁそりゃそうか…。でも聞いたことも無い、か」

俺「俺が知る限りじゃないなぁ。何かあったのか?」

A「実は…今、持ってるんだよ」

俺「…?」

Aはカバンの中から変な形のキーホルダーを取り出し、俺に見せてきた。
菱形の銅版の真ん中に十字架が掘られており、その上にバツ印が描かれている。
はっきり言って安物の、どこにでもあるキーホルダーだ。

俺「これが呪いの? 何か曰くがあるのか?」

A「いや、良く分からないんだが…。昨日の夜、家でカバンの中見たら、コレが入ってたんだ。メモみたいのと一緒に」

と言って、そのメモを俺に見せてくる。

俺「“これは呪いのキーホルダー。お前はもう助からない”……なんか稚拙な文章だな。誰かのイタズラだろ」

A「そうだよな。イタズラだよな。ったく、腹立つわ…。それ、やるわ」

俺「ん? いらねーよ、こんなの。俺はちゃんとしたモノしかコレクションしないんだ」

A「あぁ、そうか。じゃ捨てて帰るわ。まったく…」

ブツブツ言いながら、近くのゴミ箱にキーホルダーを捨て、Aは帰っていった。


それから2日後、またAが俺のところに来た。何かオドオドしている。

A「なぁ、この前、捨てたよな? アレ、確かに捨てたよな…!?」

俺「何言ってんだ?」

A「キーホルダーだよ。ゴミ箱に捨てたはずの! あれが、またカバンに入ってたんだよ!」

そう言って、Aはカバンからキーホルダーを取り出す。確かにあのキーホルダーだ。
俺「ほんとだ…」

Aは確かに捨てていた。俺も見ている。

A「呪われたのか? もうダメなのか? <俺>、なんとかしてくれよ! これ、やるよ! お前持ってろよ!」

俺「いや、いらないって。落ち着けよ。…うーん、だけどそれ、もう捨てない方がいいかもな」

A「何でだよ? じゃあ死ねってのか?」

俺「呪いのアイテムってのはな、捨てようとすると逆効果なんだよ。捨てれば捨てる程、力が強くなる…ってのもよくある」

A「はぁ? 先に言えよ!? ふざけんなよ! 一回捨てちまったじゃねぇか!」

もう、こいつは本当に…。

俺「あー、じゃあちょっと調べてみるからさ。ちょっと数日待ってくれよ」

A「数日? 何日だよ! 急げよ!」

騒ぐAを何とかなだめて、俺は早々にその場を退散した。


その翌日、俺が図書館で調べ物をしていると、Aがやってきた。なんだか元気が無い。

A「<俺>、ちょっと聞いてくれ…。もうヤバイかもしれん」
俺「ど、どうしたんだよ?」

A「昨日の夜さ、寝る前にトイレに行こうとしたんだよ。おれ1人暮らしだろ? でもさ、普通にトイレのドア開けようとしたら、開かないんだよ。誰もいる訳ないのに、何故か、中からカギ掛かってて…。そしたら、中から声が聞こえたんだよ。しかも1人じゃない、何人かの声が。おーい、おーい、おーい…って呼んでる声が…」

Aは思い出したのか、震えていた。

A「慌てて部屋から飛び出したよ…」

その後、朝までコンビニやらマンガ喫茶で時間潰して、朝になってから部屋に戻ったらしい。

A「なぁ、なんとかならないか? 頼むよ。そうだ。お前、今日うちに泊まりに来いよ」

こいつの家には何回か行ったことがあるが、今はちょっと事情が違う。

俺「いや、今日は無理だわ。うーん、そうだな…これ、使ってみろよ」

俺は準備してきた護符をAに渡す。

俺「これ、部屋に張っておけよ。お前のこと守ってくれるハズだから」

A「おぉ…すまんな! ってかもっと早くによこせよ!」

Aは護符で安心したのか、勝手なことを言って帰っていった。
翌日、またAが俺のところに来る。
なんだかゲッソリしている。どうやら護符は効果がなかったらしい。

A「夜中、寝ていると、何か気配を感じてさ、ふと目が覚めたんだ。そしたらさ…部屋に何か居たんだよ。黒い影が部屋の隅に。で、また聞こえたんだ。呼ぶ声が。今度は俺の名前呼んでるんだよ。○○…○○…って」

Aは頭を抱えている。

俺「あの護符でダメか…」

俺は少し考えて、これは昨日のより強力なものだ、と言って別の護符を渡した。
今できることはこれくらいしかない。Aはそれを受け取り、フラフラと帰っていった。

しかし、Aの周りには怪現象が起きつづけた。
聞こえてくる声は変わった。もっと直接的な、死ね…死ね…死ね…という声に変わった。
携帯の留守番電話にも入っていたり、部屋で寝るのが怖くて公園のベンチなんかで寝ようとしているときにも聞こえてきた、と言っていた。

Aは1人でブツブツと独り言を言ってることが増えた。
普段から近づく人は少なかったが、以前以上にAに近づく人は減った。

気が狂いかけていたか、もしくはもう狂っていたのかもしれない。
しばらくして、Aは大学に来なくなった。
今、俺の手元にはAが持っていたキーホルダーがある。

安物のキーホルダー。
俺が買った、ただのキーホルダー。

Aのおかげで、これは呪いのキーホルダーになった。

ゴミ箱を漁ったり、合鍵作って部屋に忍び込んだり、録音した声を聞かせたりと、色々努力した甲斐があった。Aが単純な男で、本当にやり易かった。

これで、俺のコレクションがまた1つ増えた訳だ。

呪いのキーホルダー。

ちゃんと曰く付きの、実際に持っていた人が死んでいる、ホンモノだ。
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私の会社の従業員(女性)の話です。
彼女を仮にM子さんとしましょう。M子さんは美人と言うより可愛い感じの外見で、なかなかしっかり者で真面目で仕事も良く出来る女性です。

M子さんには付き合って2年目の同棲中の彼氏がいました。
会社にもいずれ結婚するとの話が本人の口から出ており、傍目には良いカップルなのだと思われていたのですが…。

そんなある日、会社に突然M子さん宛に警察から電話がありました。
電話を切った後のM子さんは青い顔をして少し泣きそうに見えました。社員達は警察と聞いてざわついていました…。

一応、社長である私としては無視するわけにはいかずM子さんを応接室に連れて行き事情を聞きました。

私「警察から電話だって? 大丈夫かい?」

M子さん「大変、お恥ずかしいお話しなのですが…正直にお話ししますのでどうか偏見を持たないでお聞き願いますか?」

私「元々私の辞書には偏見なんて文字無いよ」

M子さん「…今の彼氏は普通の会社員なのですが…私とお付き合いする前はホストだった様なんです。その時の彼は守銭奴で女性客をかなり騙していたとの事でした。中でもとくに、世間知らずのお嬢さんのY子さんがのめり込んで通い詰めていたそうです。最初はY子さんも普通の大学生で、お小遣いとアルバイトのお金で遊べる範囲内で通っていましたが、お店が終了後も彼がデートのサービスをしたり深い関係になるにつれてY子さんは大学を辞めて水商売に転身しました。更に、お金があればもっとお店では彼や周りの取り巻きホスト達から素晴らしい扱いを受ける事を知ったY子さんは、更にお金を稼ぐため身を売る仕事へと転身しました。彼はY子さんに毎月3百万円ものお金を貢がせました。男と女がお酒の上で欲望まかせの怠惰な色恋ですから、Y子さんは中絶手術を繰り返しついに子供の授からない体になってしまったのです。この頃には彼とY子さんの関係はホストと客の枠を遥かに超えており、会えば喧嘩になりました。こうなったら最後に大金を絞り取ろうと考えた彼は、お店とグルになってY子さんに2千万円もの売掛金請求をふっかけたのです。全額は支払えなかったY子さんは得体の知れない怖いルートから借金をさせられました。その結果、風俗から安易に足を洗えなくなってしまったのです」
私「酷い事したね…君は彼の本性を知ってたの?」

M子さん「知りませんでした。2週間前、彼がシャワー中に彼の携帯が鳴りました。私が出ました。Y子さんでした。なんと彼は私に隠れてまだY子さんと関係を続け騙して大金を貢がせていたと言うのです」

私「凄まじい修羅場だね?」

M子さん「私が彼の婚約者だと告げるとY子さんは狂った様に今までの関係をまくし立てました。そして彼に代われと言いました…シャワーから出て来た彼は観念した様で携帯を取るとY子さんに…今までゴメン、俺はM子って女性と結婚するからサヨナラ…とこれだけ告げると携帯の電源を切ってしまいました」

私「彼を許したの?」

M子さん「悩みましたが私には優しい彼を嫌いにはなれなくて…そんな鬼みたいな彼の存在なんて信じられませんでした。ところがこのすぐ後から部屋に異変が起きました。深夜に生木を裂く様なラップ音みたいなのがしたり、同室内で大きな足音がしたり、彼の周りに白いモヤの様なモノがまとわりついているのが毎日見えました。ですが感じるのは私だけでした。彼がY子さんにした仕打ちを考えると生き霊みたいなモノが出てきても不思議じゃないかもしれないと思われました」

私「…うん…怨みをかったらそんな事も有り得るかもね」

彼女「先ほど警察からY子さんが自宅で首吊り自殺体で発見されたとの事でした」

私「じゃあ、まさか、」
M子さん「はい…死後2週間程経過していたそうです。遺書がありこれまで彼がした仕打ちと私の名前が書かれていたそうで警察に来る様にとの事です」

M子さんの目から涙がこぼれ落ちました。

私「君は悪く無いだろう! しっかりしなさい。警察は自殺の経緯と辻褄を合わせる義務があるだけなんだからね。今、私に話してくれた事と同じ様に話せばいいだけだよ」

M子さん「こんな経験初めてで…」

私「今日はこのまま退社なさい、しばらく有給休暇使ってかまわないし。社員達には君の親戚が事故にあい不幸があった事にしよう! それから何かあったら遠慮しないで私で良ければいつでも相談にのるよ」

M子さん「はい…」

かくしてこの日M子さんは早めに退社しました。
ところが警察は思いのほか厳しくて、Y子さんの腐乱死体にM子さんと彼を引き合わせ、

「お前たちが荷担した事態の結果だ! 可哀想だろう! 悔い改め仏さんに線香をあげて手を合わせたらどうだ」

と叱責したのでした。

更に更に後日、遺書に目を通したY子さんのご両親にまでM子さんは彼氏共々「人殺し!」と罵られたのでした。
M子さんは相当のショックを受けたものの気を紛らわす為に休む事無く仕事に没頭していました。

幾日かが過ぎた頃…M子さんが私を呼び止めました。
「社長…昨日、私、変な夢を見たんです。元気なY子さんが花壇みたいなお花が並んだ所に座っていて、勝ち誇った様な顔で私に彼を連れて行くけどいいかな? って言うんです。でも、私が何も答えないうちに目が覚めてしまって…隣で眠っている彼に目をやったら白いモヤが彼の頭にかかっていたんですよ」

私「いやぁ、ちょっと気味悪いね、お祓いしてもらうとかした方がいいんじゃない? それまで彼を良く見張ってた方がいいよ」

と答えたものの、時すでに遅く、この日、部屋に携帯を残したまま彼は行方不明になってしまったそうです。

3年が経ちました。
彼のご両親も行方不明の彼をいまだ探しているそうですが見つかっていないとの事です。

M子さんはあれから恋をしなくなってしまいました。最近では残業も喜んでこなしお局様の風格を漂わせています。
私は陰ながらではありますが彼女がまた恋をして幸せになって欲しいと思っています。
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大学の時、ごく短期間ですが探偵事務所でアルバイトをしたことがあります。

まだパソコンが普及している時代ではなかったので、私の仕事は顧客データの書類整理と、浮気調査などでラブホテルなどに潜入する際、男一人だと怪しまれるのでサクラ役でついていく程度の仕事しかありませんでした。

バイト期間終了日が迫っていたある日、私はある調査資料を手にし、あまりの異様さに私を雇ってくれている雇い主である探偵(元刑事)の人に、「なんなんですか? この事件」と聞くと、彼は不思議な話をしてくれました。

以下、私の雇い主がしてくれた不思議な話です。もちろん実話。


彼のもとにある日、年の頃30歳前後の若い女性が現れました。

長距離トラックの運転手をしている自分の夫が、東北へ向かう途中のドライブインで行方不明になったので探してほしいと。

失踪事件の調査はよくあること。
彼はさっそく彼女の夫がいなくなったというそのドライブインへ調査へ向かいました。

そのドライブインの経営者は80以上になるおばあちゃんです。
彼女の夫がもともとそこを経営していたらしいのですが、夫が亡くなった後、そこを引き継いだのだとか。

長距離トラックの運転手御用達のようなドライブインで、デコトラが何台も入るような大きなトラック専用の駐車場がいくつもあります。
運転手はそこの屋根付扉付きの駐車場に車を止め、おばあちゃんのところに

「××番の駐車場に入った。×時になったら起こしてください」

と言いに行くと、おばあちゃんがその時間にお茶のサービスとともに起こしてくれる仕組みになっています。

そこのひとつで、依頼者の夫は忽然と姿を消したのでした。
トラックは駐車場にあり、運転していた本人だけがいなくなっていたのです。

私の依頼主の社長は、すぐ「おかしい」と思ったそうです。
場所は高速道路の真中。トラックなしで、徒歩でいったいどこへ行ったのか。

いぶかしむ彼に、おばあちゃんが

「ああ…でもこれ関係あるのかしら?」

「なんですか? なんでもいいから教えてください」

「いやね、この件とはまるきり関係ないと思うんだけど、亡くなった主人から絶対に開けてはいけないって言われている駐車場があるのよ。だから普段は鍵をかけて入れないようにしていたんだけど…」

別のトラックの運転手を起こしに行こうとしたドライブインのおばあちゃんは、その日、鍵をかけて開かずの間にしてある駐車場の扉が開いているのを不審に思ったそうです。

するとそこには見慣れぬトラックが。
そのトラックは、自分の所に「×時に起こしてくれ」と何も言ってこなかったトラックだったと言います。
鍵が開くわけがない。
他の運転手にも聞いてみたところ、そのトラックが入る何時間前は確かに閉まっていたと証言がありました。

ではなぜ開いていたのか?
運転手はどこへ行ったのか?

探偵の彼は、引き続き調査をおこなうことにしました。
元刑事という警察のコネクションも利用して…。


数日後。

失踪したトラックの運転手は見つかりました。
残念なことに亡くなっていました。

瀬戸内海の、満潮になると沈没してしまう小さな隆起した岩の上で、地元の漁師が見つけたそうです。

ターゲットが死体で見つかった以上、もう探偵のする仕事は終わりです。
しかし、彼はたった数日で、しかもアシもないのに東北から瀬戸内海へ、どうやって移動したのか? なぜいきなり失踪したのか。

原因をどうしても追求したくなり、元刑事の権限を利用し警察仲間に遺体の状況を問い合わせました。
すると、遺体は口から食道から胃から腸からびっしりと貝類が未消化の状態で詰まっていた、という情報を得ることができました。

発見時、妊婦のように腹が膨らんでいたので、発見した漁師はドザエモンだと思ったそうです。
しかし、死因は溺死ではありません。監察医の診断は「ショック死」。
彼の体にびっしりと詰まっていたおびただしい量の貝類はなんだったのでしょう?
なぜ彼はいきなり東北のドライブインから瀬戸内海の岩の上にたった数日で移動ができたのでしょう?

もうひとつ。
体中には無数のひっかき傷がついていたそうです。それは「人間、もしくは爪をもつ哺乳類につけられたらしい」傷。

何もわからずじまいで彼は調査を終え、東京に帰ってきたそうです。

「結局何もわからなかったんだよな」

彼のあの目が今でも忘れられません。
不可思議な話でした。
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中学の仲良し3人組RとAとMが、最近通学路の端の裏道に見つけた古い家に肝試しがてら行くことになった。

3人の中でMだけは霊感があった。
Mは玄関に着いた途端にブルブルと震えだし、『何か大変な事が起こりそう』と玄関で待つと言い出した。

2人は怖い物見たさに、録音のためカセットを持って入っていった。

『おじゃましまぁす』

もちろん返事はない。

真っ暗な部屋には大して家具もなく、『なんもないね』『幽霊でもでないかな?』『でるわけないぢゃん』などと他愛もない会話をしながら、階段を昇っていった。

昇りきると、タンスが一つポツンと置いてある真っ暗な部屋に出た。
この部屋は玄関の真上にあり、窓から玄関にいるMと話す事ができる。

2人が窓から下を覗くと、Mは目をつむり、手を組んで何かを必死に呟いている。
不審に思った2人は、窓を開けてMの名前を呼んだ。

『おーいMー』

Mはハッとして顔を上げ、次の瞬間顔を真っ青にして

『早く逃げて!! 絶対に目をあけないで階段をおりて早く外に出て!!』

と叫んだ。その様子は明らかに普通ではない。

恐れをなしたAは目をつぶると、Rの手を引きかけだした。
そして階段を一気にかけ降りて、Rの無事を確認するため、目を開けて後ろを振り向いた。

『きぃやあぁああぁぁあ』

掴んでいた手の人物はRではなく、髪を振り乱した恐ろしい形相の瞳孔開きっ放しの女だったのだ。

手にはハサミを持ち、不自然に肩を揺らしながら歯をガチガチ鳴らしている。

Aはその場で気を失ってしまった。


一方のRは、Aに取り残された恐怖心と、Mの異様な態度に恐怖を感じ、目をつぶって震えていた。

すると、

『…す…』

と、かすかに何かの声が聞こえてきた。
息を殺して聞いていると、

『…こん…まえを…ころ……す』

『こんどは……おまえを……ころす』

と不気味に響く女の声が聞こえてきた。

その瞬間に、何者かがものすごい力でRの首をつかんだ。

Rの意識は遠のいていった……。


『A! R!』

Mの声に2人は目を覚ました。

安堵のため息をつくMの隣には、お坊さんらしき人が険しい顔をして座っている。
よく見渡すと、寝せられていたのはお寺の一室のようだ。

AとRは、お互いが体験した事を涙ながらに話した。
すると、目をつむって黙って話を聞いていた坊さんは、語りはじめた。
『あなた方が入ったのは呪われた家じゃ。あの家は数年前、すごく凶悪な殺し屋の隠れ家として使われていた。綺麗な若い女ばかりを狙う犯行ばかりで、使われた凶器は、ハサミ、鎌、包丁、バタフライナイフ、金属バット様々。その殺し屋は臓器を売り払う裏密輸をやっていて、臓器を抜いた遺体は、あなた方が入った部屋に次々に放り込まれて、その殺し屋が捕まるまで遺体は放置され、腐って目鼻立ちが全く分からない状態で発見された。それからというもの、いろんな目撃情報が相次いだ。あの家は夜になると女の奇声が聞こえる。あの家の前を通ると、2階の窓からすごい形相の女が覗いている。って具合に。いるんじゃよ。あの家にはうじゃうじゃと。殺された女達の怨念が渦まいちょる。女達は悪霊になり、自分の命を奪った様々な凶器を握り締め、自分の命を奪った男を探し続けちょる。あんたらは女で幸いじゃ。あの家の女達は、女にはちょっと脅かす程度の危害しか加えんが、男は誰関係なく呪い殺す。あなた方が男だったら、間違なく命はなかったじゃろう。それあって、このわしもあの家にはうかつに近付けんのじゃ。いいか。ああいう家には面白半分で近付いてはならん。いつ霊達の怒りをかって、いつ何が起こるのかわからないんじゃぞ』

お坊さんは話し終えると、気を使ってか、部屋を後にした。
Mは、待ってましたといわんばかりに話し始めた。

『あたしも、A達が2階の窓からあたしに手振ったじゃん。その時あたしあんなに急いで逃げてって言ったじゃん? なんであんなに言ったと思う?』

2人は、分からないという様子で首を横に振った。

『笑って手振ってるA達の後ろで、包丁とか鎌とか持ったものすごい怒り狂った形相の女達が、目をギョロギョロさせながらいまにも2人に飛び掛かる勢いだったんだよ』
**後日談**

次の日、3人は録音したテープを聞いた。

確かに2人がテープを録音する時、2人しかいなくて、誰の声も聞こえなかった。

だが……。

『おじゃましまぁす』

「誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ」

『なんもないね』

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」

『幽霊でもでないかな??』

「お前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだお前の後ろだ」

『でるわけないぢゃん』

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
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