1 無名さん

魔法晒し31

2 無名さん
いらね
3 無名さん
いちおつ
4 無名さん
いちおつポッタァァア!
5 無名さん
Harry Potter, Our new -celebrity
6 無名さん
7 無名さん
いちおつ
前スレでハルト叫んだのはもしかしてカイトなのw
8 無名さん
知らん
9 無名さん
知ってる
10 無名さん
>>7
そうだよ
11 無名さん
💩快便祈願💩
12 無名さん
あげ
13 無名さん
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   みんな〜
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L二⊃  | ∪ |    |
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(丶三 ∩、  ヘ
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キタ━━━( ゚∀゚ )━━━━━!!
       __〃`ヽ 〈_
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 (   <_ \ヘ、,, __,+、__rノ/  /
  ヽ_  \ )ゝ、__,+、_ア〃 /
    ヽ、_
バーババババーバイキングホーン
君が好きだと叫びたい
クソワロタ


花京院が、さも当たり前だというかのように隣に並ぶ。隣に座る。いの一番に声をかけてくる。名前を呼ぶ。笑う。偶に肩がぶつかる。指先が触れる。照れくさそうに瞳を逸ろらす。

距離の近さに、体温と呼吸を肌で感じる。

それは余りにも心地よい。むしろ、その熱にドロドロ溶けてしまいたくなる。それで2人混
それは余りにも心地よい。むしろ、その熱にドロドロ溶けてしまいたくなる。それで2人混じりあうことができたならば、どんなに気持ち良いだろう。想像するだけで、身体中快感で総毛立つ。

神経質でプライド高く、心の壁が厚い目の前のこの男が、全信頼を寄せている。己にだけ、全てを許している。ツンと済ました涼しげな表情が、ふとした瞬間幼くあどけないものになることを。驚くほどの幅広い知識を持っているかと思えば、ひどく純粋で無垢な一面にも驚かされたりする。あぁなんて可愛いのだろうか!それは全て自分だけが知っている。花京院典明という全てを、自分は知っているのだ!

そう、空条承太郎は花京院典明を愛している。愛している!!愛しているの
だ!!!

ハァァ…と唇から漏れるのは、感嘆の溜息。

整えられた茜色の髪の毛が揺れる。その旋毛に鼻を擦り付けて思い切り顔を埋めてしまいたい。揺れる赤いさくらんぼに似たピアスと一緒に、その薄い耳朶を食んでしまいたい。顔中余すところなく舐めまわして唾液まみれにしてしまいたい。白い首筋に歯を立てて、その喉仏に噛み付いて啼かせたい。どこもかしこも余すところなく触れれば感じる身体にしてしまいたい。身を捩りながら喘がせて容赦なく攻め立てたい。誰にも屈しない彼を、自分だけには膝を折り跪かせたい。

「……はぁあぁ…あっ」

泣きながら、啼きながら。
足元に縋り付くお前の姿はきっとこの世の何よりも美しく甘美なものに違いない!!


「…承太郎?どうしたの?顔、赤いよ」


紫苑の瞳に自分だけが映っている歓喜!!
「なんでも、ねぇ、よ」

「具合悪いの?」

「そんなんじゃ、ねぇ」

「そ。けど、何かあったら言ってね」

「あぁ。ありがとな」

寂しそうに伏せられる瞳!!あぁああなんて愛おしいんだろうか!!共に下校が出来るだけでも足取り軽いのだろう、毎日毎日鼻歌まじりに目の前を歩く愛らしさ。花京院花京院花京院花京院、俺はお前がとても可愛い。とことん甘やかして優しくしたい。飴玉のように甘くドロドロに溶かしてやりたいよ。

「…花京院っ…」


「ん?」


「…明日も、一緒…な?」


「うん!」


1人に慣れていた彼は、共に行動することが何よりも嬉しいのだ。それこそ浮足立ち、幼子のようにソワソワと。可愛い、可愛い可愛い可愛い可愛い!!その純真な眼差し!!


「ふふっ…僕君と出会ってから色々あったし、死にそうにもなったけど、今こうして君と並んで学生生活を送れて、とーっても幸せさ」


くるくる と 回る

夕陽を浴びながら

くるくる くるくる と

踊る 踊る 踊る


「………っ……はぁっ…」


早く!と俺を呼ぶお前に、思わず笑みが浮かぶ。


あぁ花京院。可愛いなぁ。
「承太郎ー、歩くの遅い」


「あぁ、悪ぃ」


今はまだ、彼の友人として隣に立っていてあげよう。しかしそれを崩し、俺のものにする日も近いだろうな。


ゆっくりと、ゆっくりと

転がり落ちておいで。


俺の可愛い人。


「………ふふっ」


「承太郎?何笑ってんの?」


「別に」


「ふーん。あっ、君自分だけガム食べてるし」


ずるいと頰を膨らます彼の唇に噛みつき、そのガムを口内に直接放り込んでやろうとしたが、やめた。


「まぁ、お前ぇのガムだわ」

「んん??」


昼休みに、お前が噛んで捨てたやつ❤︎


彼はまだ、知らない。


(狂おしいほどに可愛い!!)


(ほらまた下着を汚しちゃう!)
キモッキモッキモーッ
今更なにを言えって言うんだ」
 こんなにも愛しているってのに。ああ、そういう言葉が欲しいのか。好きだ、愛している。そういえば、一度言ったきり言っていなかったか。ただ、リヴァイの記憶が正しければ、エレンとて言葉で表現するタイプではない。して欲しいことは素直に伝えてくるが、エレンからも直接的な言葉を並べてきたことはなかったはずだ。ここは前世の上下関係も、年の差も無関係。対等に、公平にいこうではないか。
「おい、エレン」
「?」
「今から俺を喜ばせろ」
「は?」
「その分俺もお前に返してやる」
 おまえが欲しい言葉をまずおまえが先に言え。
「ひ、卑怯ですよ、先生!そんなの…言うしかないじゃないですか」
「エレン」
「あっ」
 エレンを押し倒し、大きく足を開かせた。そうしてエレンの昂ぶりに自身を擦りつける。焦らすように、ゆっくりと。
「あっ…や…っ」
「ほら、言え。軽く両手分は出てくるんだろう?」
「両手って…いきなり10個ですか!?」
「あ?なんだ、言えねぇのか。おまえの愛はそんなもんか」
「うっ…そ、そういう意味じゃないですよ!勿論いっぱいあります!だけど、すぐに言葉が出てこないっていうか…っ」
「常日頃想ってることならすらっと出てくるもんだろうが」
「そ、そんなこと言われても…っ」
 わかっている。エレンは二つのことを同時にやれるほど器用ではない。でも意地っ張りなので無理にでもやろうとするものだから、焦る。そんな余裕のないエレンの顔はひどく興奮する。いつものように包み込んでもらわなくても、気持ちが高ぶって気持ちよくなれる。
「なぁ、エレン」
「ふぁっ」
 耳元に低音と吐息を吹き込んで、追い詰める。いい意味でも悪い意味でもエレンは真っ直ぐだ。耳から受け止めた刺激はすぐに瞳を濡らし、唇をも震わせる。
「あ…やば、い…っ…おれ、リヴァイせんせいの、声…ッ」

「なぁ、エレン」
「ふぁっ」
 耳元に低音と吐息を吹き込んで、追い詰める。いい意味でも悪い意味でもエレンは真っ直ぐだ。耳から受け止めた刺激はすぐに瞳を濡らし、唇をも震わせる。
「あ…やば、い…っ…おれ、リヴァイせんせいの、声…ッ」
「そういや、おまえは昔も弱かったよな」
 ベッド内での言葉攻めに目覚めたのはエレンのせいだ。元々そういう趣味はなかったはずが、エレンがあまりにもいい声で喘ぐので、嗜虐心が興奮に上乗せされてしまうのだ。
「あぁ…んっ…やだぁ…それ…っ」
 耳の中に舌を入れて舐めまわし、わざと熱い息を吹き込み、そうして胸の突起を少しこねくり回せば、もう。
「あっあっあっ、で、でちゃ…ぅっ!」
 面白いほど簡単に、エレンは達する。だから嬉しい感情だけではなく、誰にでもこうなのか、と不安もちゃっかり寄り添ってくるものだから勘弁して欲しい。
「…エレン」
「はぁ…な、んです、か…?」
 息の整わないうちに、またエレンに刺激を加えたら、さすがに嫌がられた。それもまたリヴァイの快感となるから困ったものだ。
「ちょっ、まって…さっきから、なんなんですか!俺ばっかり言わせたりイかせたり!今度は俺がイかせる番ですから、触らないでください!」
「ほう。なら、さっさとしろよ、グズ野郎」
「んんぅっ!?」
 うるさい口を自身で塞ぎ、エレンの口内を堪能する。
「んっんぅーっふ、ぅ…っ」
 涙目で睨みつけられても、口の端が少し上がるだけだ。
「は…っ相変わらず…っ」
 いい眺めだ。思考を止めて、エレンだけに集中すれば、リヴァイもすぐにイった。
「倶利伽羅、起きて。」
「……ん……。」

体を揺すり起こすと、暗雲の中で瞬くような雷の眸が僕を映す。鮮やかな黄金の眸に映るたび、僕の体も魂も痺れてしまう。
倶利伽羅と僕は14歳以下の《性別未認定》が通う学校に通っている。
世の中は男と女に別れ、さらにα、β、Ωに別れ6種類の性別が存在していた。それらは14歳の、中学校に入る段階で分かるようになる。
14歳以前に分かるのはαの女の子くらいで、他はそのときになるまで分からない。保険の教科書には14歳から3か月後に肉体的変化が起こると記されていたけれど、僕はまだ実感が湧いていない。

「……寝てしまっていたのか。」
「僕もちょっと前まで寝てた。やっぱりオールはできないね。」
「そうだな。」

くあっと欠伸を一つして倶利伽羅は猫のようにしなやかな体で伸びをする。
僕は寝起きでしゃがれた喉を潤わせるためにサイダーを飲む。あっま。
ぐっと顔を顰めると、炭酸が抜けてただ甘いだけになった液体の入ったペットボトルを、後ろから倶利伽羅が奪って飲み下す。あっと言う間もなく、うえっと舌を出した倶利伽羅に僕は声を出して笑った。

「甘い。」
「気が抜けてるからね、そりゃあ甘いよ。」
「……水。」
「母さんと父さん起きちゃうよ。そうしたら徹夜で遊んでたのバレちゃう。」
「……。」

不満げに唇を尖らせて、倶利伽羅はペットボトルを僕に返してテレビのチャンネルを弄り出した。
幼馴染の倶利伽羅とは、毎週末こうして僕の家でお泊り会をする。
外資系企業に務める倶利伽羅の両親は家を空けがちだから、度々に倶利伽羅が僕の部屋に泊まりに来ていた。今でもその名残は消えず、こうして無防備に、来ているのだけれど。
よれたTシャツ、緩い短パンから覗くすらりとした脚。
喉をひりつかせる甘い液体の味さえも分からなくさせる、艶めいた色香に、死ぬほど欲情した。
性別が正しく決まるのは14歳から3ヵ月後だ。だけどその間に《性》が目覚めないのかと言えば、そうでもない。
誤魔化すようにがばがばサイダーを飲むけれど、僕の視線はひたすらに倶利伽羅の体を舐めまわしていた。

なんなのさっきから。僕の理性を試したいの?
目を見開くと、かけていたタオルケットを足で剥がし、倶利伽羅は流し目で僕を見て、膝を折りたたむ。体育座りになった倶利伽羅が、可愛らしい座り方とは対照的に蠱惑的な笑みをふっと浮かべた。
僕の理性を試したいの?ねえねえ。

「どうだ?」
「…〜〜僕達まだ13歳だよ?したことあるわけが、ないだろう。」
「女子は何々くんとキスをしたと騒いでいたが。」
「女の子は……、ほら、精神年齢が高いって言うし。」

大体、僕がキスしたいのは君なんだ――なんて、勿論言えずに押し黙る。
α、β、Ωはそれぞれ男性体と女性体が存在する。つまり子供は妊娠できるけど姿は男性体のΩと、妊娠させられるペニスを持つ姿は女性体のαがいるのだ。
βは特に関係はないけど、世の中ではαはΩと結婚するのが義務付けられている。そのほうが優秀なαが産れるからだ。だから男同士での結婚も、女同士での結婚も珍しいものでもなんでもない。
だから今、倶利伽羅に好きだと伝えたとしても男同士じゃないか、で断られることはないだろう。断られるならきっと単純に「友達としては好きだけど、恋人としては無理」とか……。
やばい、想像だけで泣きそう。

「そうか、てっきり光忠は済ませているものだと思っていた。」
「なにそれ。君から見た僕ってどんな感じなの?」
「マセガキ。」
「ひどい!」

憤慨する僕を見て、倶利伽羅は喉の奥でくつくつと笑う。
声を出して下品に笑わない上品なところが、倶利伽羅の高潔さを表しているようで僕は大好きだった。だけど変な誤解をされていたのが嫌で、倶利伽羅をぺてぺて叩きながら「酷い酷い」と言う。
肩を震わせながら倶利伽羅はベッドに沈み込む。普段寡黙であまり笑わない幼馴染が楽しんでくれているのが嬉しくて、僕は怒ったふりをしながら体を擽った。倶利伽羅が身を捩る。えろい。
「――俺とキス、してみないか?」

え、嘘。なにこの状況、僕寝てる?
唖然として目を瞬かせる僕が返事をしないのが気に障ったのか、倶利伽羅はぐいぐい髪を引っ張った。痛い。夢じゃない。嘘、現実?当に?リアリィ?

「…な、んで、いきなり……。」
「俺とファーストキスを済ませるのは、嫌か?」
「嫌なわけないじゃないか!ぁ。」

寧ろ喜んで、と言われた言葉に被せるように言ってしまった。
でもキスしたいってことは僕のこと《友達としてだけ》好きってことじゃないよね。期待しても良いってこと?

「嫌なわけない……僕も君とキスしたい、けど、でも、ちょっと待ってくれ倶利伽羅。一つ確認してもいいかい?」
「何だ?」
「倶利伽羅って、その……僕のこと《そういう意味》で好きなの…?」

倶利伽羅は目をぱちぱち瞬かせて、心底呆れたと言わんばかりにため息をついた。え、何。
僕の腕を掴んで倶利伽羅は身を起こし、ずるんっと引いて僕の視界が回った。依然として倶利伽羅の顔だけが見えるという状況だけれど、背景が変わっている。押し倒されたのか。

「あんたは俺が《そういう意味》で好きでもない奴と恋愛映画を見ると思うのか?」
「だって何となくって…!」
「…ふー……。いいか光忠、良く、聞いておけ。」

倶利伽羅は異国感のある容貌と、簡潔に物事を言い、余計な言葉で飾らない話し方だから誤解を招くことが多い。
だけどちゃんと聞いていれば――言葉の節々に感ぜられる誠実さが含まれた物言いは、とても柔らかく優しいと気付くはずだ。相手が喋れば最後まできちんと聞き、思いやって考えながら話してくれる。そんな丁寧さがたまらなく好き。
優しく僕の頬を撫でながら、倶利伽羅は口を開いた。

「好きでないなら、光忠が口をつけたペットボトルから飲み物を飲まない。舐めまわすような視線も放って置かない。人の恋愛事情にも突っ込まないし、髪に指を絡めるなんて、こともしない。」
30 無名さん
あげ
31 無名さん
「ルイス、早く起きるんだよ。ルイス」
 ああ、温かい――包み込まれるようなぬくもりを感じながら、ルイス・ジュリアードはまどろむ意識の中で自分を呼ぶ声を聞いたような気がした。しかし、朝のこの時間とはなんと幸せな瞬間なのだろう。太陽の匂いがするシーツに頬を摺り寄せながら、夢うつつにそのようなことを考える。
「ルイス!」
「ちょっと、なぁに? せっかくいい気持ちで眠っているのに……」
 寝ぼけ眼のままのろのろとベッドの上に起き上がると、傍らには呆れ顔の兄の姿があった。彼はふてぶてしく腰に両手を当てて、まるで見下すようにルイスのことを見ている。
「もうちょっとくらい寝かせてくれてもいいでしょう?」
 そう言って再びシーツに包まろうとしたルイスだったが、それを兄が許してくれるはずもなかった。彼、ラウル・ジュリアードが心得ているように妹からシーツを剥ぎ取ると、ルイスはベッドの上でころんと転がる。
 いったい何が起こったのだろうかと上手く働かない頭で考えていると、ラウルはルイスのパジャマの首根っこを掴んでベッドの縁に座らせた。
「ほら、早く起きないと買い物の時間がどんどん短くなるよ、ルイス。人ごみが嫌だと言ったのは君だろう? 早くしないとダイアゴン横丁が混雑する」
「ふわぁ……そうだったっけ」
大倶利伽羅は悩んでいた。
 何に悩んでいるかと聞かれても、一言では答えられない。ただとにかく、今の状況から逃げ出したいという願いだけが、大倶利伽羅の頭の中を占めている。
 時刻は朝の五時四十六分。枕元の目覚まし時計に設定した時刻よりも十五分ほど早く目が覚めてしまい、しかし二度寝するほど余裕があるわけでもなく渋々起き上がった大倶利伽羅は、隣の布団に寝ている光忠の姿を目にするやいなや、ぎょっと目を剥いた。

(……また見えている)

 光忠は大倶利伽羅の方を向いて寝そべり、安らかな寝息を立てていた。その浴衣の裾からは、すらりと伸びた長い足が露わになっている。寝入ったときにはしっかりくるまっていたはずの薄手の夏掛けも、今はただの抱き枕と化して、身体を覆い隠す役目を果たしていない。
 足首からふくらはぎ、張りのある筋肉のついた太腿まで。明け方の青白い光が満ちた部屋の中で、白い肌の輪郭がくっきりと浮かび上がる。あと少し動けば下着まで見えてしまいそうな際どさに、大倶利伽羅はごくりと生唾を飲み込んだ。

「ん……」

 突然身じろいだ光忠が、もぞもぞと身体の位置を変える。
 凝視していたせいかと心臓を跳ねさせた大倶利伽羅だったが、光忠は起きる様子もなくそのまま寝返りを打った。ほっとした矢先に光忠はまたくるりと向きを変え、つられて大倶利伽羅もびくっと肩を跳ねさせる。再び大倶利伽羅の方を向いた光忠は、身体を丸めて角度を変えた末に、あろうことか片足を大倶利伽羅の方へ投げ出した。

(っ、この)

 剥き出しの足が腰のあたりに触れそうになり、慌てて避ける。
 光忠はそのままぴたりと動きを止め、再び「すー……」と気持ちよさそうに寝息を立て始めた。が、足は依然として露出したままだ。状況は何も変わっていない。それどころか、下着が丸見えになってしまったせいで悪化している。
 見たい。けれどこのままずっと見ていたら、何をしでかしてしまうかわからない。だから見たくない。でも見たい。
 胸の内で膨らむ矛盾をどうにかこうにか抑え込んで視線を移動させれば、今度は無防備に薄く開かれている唇に目が吸い寄せられた。色も厚みも薄いあの綺麗な唇が、どれだけ柔らかくて温かいかよく知っている。
見たい。けれどこのままずっと見ていたら、何をしでかしてしまうかわからない。だから見たくない。でも見たい。
 胸の内で膨らむ矛盾をどうにかこうにか抑え込んで視線を移動させれば、今度は無防備に薄く開かれている唇に目が吸い寄せられた。色も厚みも薄いあの綺麗な唇が、どれだけ柔らかくて温かいかよく知っている。
 せめて光忠が目を覆いたくなるほど醜悪な容姿をしていたら、鳴りやまない胸の鼓動も少しは大人しくなってくれるだろうに。都合の悪いことに、現実の光忠の身体の造形は、醜悪とは真逆の位置にあった。
 出来物ひとつない透き通った肌に影を落とす黒い睫毛、緩やかな曲線を描いている眉、その上にまばらにかかった艶やかな勝色の髪――光忠を構成する部位のひとつひとつを、両目が鮮明に捉え始める。
 振り切るように頭を軽く振って、大倶利伽羅は立てた膝の間に顔を埋めた。
 はあ……、と勝手に大きな溜め息が漏れる。

(本当に、勘弁してくれ)

 光忠は寝相が悪い方ではない。むしろ良すぎるくらいだった――今までは。
 雪が降る冷え冷えとした冬の夜も、爽やかな風が吹く暖かな春の朝も、死んでいるんじゃないかと見ているこちらが心配になるほど、微動だにせず静かに眠っていた。
 それがどうしてか、一ヶ月ほど前から急に横向きになったりうつ伏せになったりとしきりに体勢を変えるようになった。
 ただ寝相が悪いだけなら構わない。寝返りを打つ度に寝巻の浴衣が乱れて、その下に隠れている肌が露わになってしまうことが問題なのだ。
 いっそ、隣に寝ている大倶利伽羅を蹴飛ばす勢いで大の字になって、堂々とさらけ出してくれれば気にならないというのに。決して下品には見えない程度の絶妙な寝乱れ具合で太腿や胸を露出させるものだから、つい目が引き寄せられてしまう。
 以前、はっきりと指摘したことはあった。あんた最近寝相が悪いんじゃないのか、浴衣が肌蹴てみっともないぞ、と。光忠から返ってきた答えは単純明快なもので、「だって暑いから」。
 確かに、夜になって多少は気温が低くなるとはいえ、夏特有の蒸した熱気は時に寝苦しいほど部屋の中に充満する。虫が入ってくるから窓を全開にするわけにもいかない。夜通し電源を入れたままの扇風機も、生温い風を循環させるだけで気休め程度にしかならない。だから、寝苦しさに何度も寝返りを打ちたくなるのはわかる。暑苦しさのあまり、肌に纏わりつく布を無意識に除けてしまうのもわかる。わかるのだが――。
 大倶利伽羅が頭を抱えたそのとき、空気を裂くようにジリリリと大きな音が部屋に響き渡った。
 枕元で無機質に鳴く目覚まし時計を見れば、時刻は六時を回っていた。通常通りの起床時間だ。軽く叩いて音を止める。
 光忠はまだ起きない。仕方なく、大倶利伽羅は目の前で丸まっている身体を揺り動かした。

「おい、光忠」
「……」
「朝だ。起きろ」
「……んん」
「寝坊は格好悪いぞ」

 光忠にとって最も効果的であろう言葉を耳元で囁くと、固く閉じていた瞼が微かに震えた。

「わかってるよー……」
「なら起きろ。もう六時だ」
「はいはい……」

 くぁ、と小さな欠伸をして光忠が起き上がる。が、依然として目は閉じられたままだ。
皆の前では伊達者で通っている光忠が、まさかこんなに締まりのない朝を迎えているなど誰も思わないだろう。もっとも大倶利伽羅自身も、深い関係を結んでから数ヵ月にして初めて知った一面に困惑していた。夏を迎える前の光忠は、いつも目覚ましが鳴ると共に起きてきびきびと動いていた。
 自分の分の布団を押し入れにしまい込んでいた大倶利伽羅は、ああ眠いという光忠のぼやきに何気なく振り向いて、再び目を剥いた。
(見えっ、……)

 起床時に目にした姿の比ではなかった。
 布団の上に座り込んで頭を掻きながらぼうっと呆けている光忠の浴衣は、腰から下はもちろんのこと、上も思いきり肌蹴ていた。左の肩から袖がずり落ちて、厚みのある胸板が半分さらけ出されている。
 浮き出た鎖骨の窪みから胸元の小さな蕾、鍛えられた腹の凹凸をゆっくりと視線で辿る。かろうじて浴衣を繋ぎとめている帯を認めてほっとしたのも束の間、生理現象を起こしている下腹部が目に入り、大倶利伽羅は反射的に身体の向きを変えた。

(まずい。あれはまずいだろ)

 一体何がまずいのかもよくわからないまま、押し入れの前から箪笥が置いてある場所までそそくさと移動する。それから光忠に背を向けて、浴衣を脱ぎ捨てた。さっさと身支度を整えて部屋から出てしまいたい。
 まずいまずいと脳内で繰り返しながら着替えに夢中になっていると、突然、「ねえ」と背後から声をかけられた。

「……っ、なんだ」

 いつの間にか光忠が真後ろにいた。振り返ろうとして、いやいや今は振り返るべきじゃないと判断する。もし寝乱れたままの姿だったらどうする。
 光忠は、中途半端にシャツの袖を通したまま固まってしまった大倶利伽羅の腰に腕を回してきた。背中にぴたりと肌が合わさる感触があって、光忠もまた上半身に何も身に着けていないと知る。尻のあたりに何か硬いものを擦りつけられたような気がして、頭の中が真っ白になった。
 何を言われるのだろう、何をされるのだろう――激しく脈打っては耳に響く心臓の音に、光忠の低い声が重なった。

「うーん、別になんでもないよ」
「……なんだそれは」
「強いて言えば大倶利伽羅を補充したかった、かな」
「まだ寝ぼけているのか」
「寝ぼけてないよ?」
「俺は栄養じゃない」
「僕にとっては栄養みたいなものだけど」
 なんてね、と笑いを含んだ声で囁かれた。腰に回された腕にぎゅうと力が込められ身体が強張る。しかしその直後、大倶利伽羅はあっさりと解放された。

(は……?)

 拍子抜けする大倶利伽羅をよそに、光忠は敷いたままの布団を片付け始めた。浴衣はとうに脱ぎ捨てていたようで、下着一枚のみを身に着けただけの姿だ。爪痕ひとつない綺麗な背中を焦がれるように見つめている自分に気付き、大倶利伽羅はとっさに俯いた。畳に放られたままのシャツを拾い上げて着込む。

「……先に行くぞ」
「ちょっと待ってくれ、一緒に」
「遅い方が悪い。あと今日のあんた、寝癖ひどいぞ」
「うそ、どのあたりが……」
「嘘だ」

 強制的に光忠を視界から締め出したくて、大倶利伽羅は障子をわざと強めに閉めて廊下へと出た。
手洗い場へ向かう足の動きが自然と早くなる。

(……補充? どの口が言うんだ)

 もう二ヵ月近く何もしていない。足りなくなるのも当たり前だ。
 ――大倶利伽羅の悩みの根幹は、まさにそこにあった。
 足や胸どころか陰部まで見慣れている相手だ、たかだか寝乱れている姿を目にしたくらいで変に動揺する自分の方がおかしいのは重々承知している。が、それもこれも全ては光忠との間に何もないのが原因だった。日を跨ぐ遠征や大掛かりな戦がない限り、三日と空けず情事に及んでいた日々がもはや懐かしい。
隙間なく肌を重ねたい、口付けたい、抱き締められたい、中をいっぱいに満たしてほしい。こみあげてやまない情動をあえてわかりやすい言葉にするならば、これはきっと、「好き」だと思う。光忠に触れられるのが好き。光忠に抱かれるのが好き。……光忠が好き。

「あ、あっ、みつただ……ぁ、んっ」

 胸から離した左腕に歯を立てながら、ひときわ強く擦り上げた瞬間、甘い痺れが走った。
 ぽたぽたと寂しげな音を立てて白濁色の粘液が便器の中に落ちる。

「は、あ……」

 力の抜けた身体を壁にもたせかけた大倶利伽羅は、そのまま重力に従ってずるずるとしゃがみ込んだ。お世辞にも綺麗とはいいがたい厠の床に、浴衣の裾が広がる。……汚い。下着も少し汚れてしまった。戻ったら着替えなければ。でも浴衣の替えなんて用意していない。今の状態で自分の部屋に取りに戻るなど絶対に無理だ。作業着でいいか……。

「……は」

 射精後特有の虚無感がじわじわと大倶利伽羅に襲いかかる。
 熱を放出すると共に、わずかに残っていた酔いもすっかり醒めた。
 青臭い液体で汚れた右手のひらを目の前に翳せば虚しさは一層増して、乾いた笑いが自ずと漏れた。ひとりで処理したあとは、いつも全てがどうでもよくなる。光忠と情を交わす日々を経たからこそ知った虚しさだ。

「みつただの、ばか」

 誰がそんなものを教えろと言った。
 蒸した空気の籠る個室であるにも関わらず、寒々としたものが背筋を這って大倶利伽羅はふるりと身を震わせた。
 無性にだるい。立ち上がろうとしても足腰にうまく力が入らない。
何度か試みた末に諦めて、しばらくの間、大倶利伽羅は厠の床に座り込んでいた。
 わかっているくせに。光忠がどこを触れられれば悦ぶか大倶利伽羅が知っているように、光忠だって、大倶利伽羅がどうされたいのか聞かなくてもわかるくせに。後ろ、とはっきり言葉にしてもまだ足りないらしい。どうすればと大倶利伽羅が焦る傍ら、光忠は「ここかな?」と揶揄するように膝の裏をくすぐってくる。

「ち、が……違う、そこじゃ、ないっ」

 脇目もふらず両膝を抱え上げる。胸にぴったり膝頭がつくほどに身体を折り曲げて、震える指で尻たぶを割り開いた。二ヶ月間、開くことのなかった蕾が光忠の前に晒される。
 よくできました、と光忠が太ももの裏に優しく口付けた。

「そのまま押さえててごらん」

 上唇を舐める仕草をした光忠の指がゆっくりとそこへ向かって伸ばされる。

「あ……」

 陰嚢から後孔に至るまでの細い道を撫でられた途端、自身の爪先がびくびくと震えるのが見えた。緩やかに降りた指はやがて待ち望んでいた場所に辿り着き、固く閉じた襞をなぞった。わずかに離れたかと思えば、濡れた感触と共に戻ってくる。多分、光忠が指に唾液を塗したのだろう。
 軽くつついたり揉んだりと、そこをあやしていた長い指が不意に中へ潜り込んだ。

「……んっ」
「うわ、きっついなあ……」
「う……、あ」

 ぐっ、と肉をかき分けて奥へ進もうとする指を強く締め付けてしまう。わざとではなかった。大倶利伽羅の心とは裏腹に、長らく開かれることのなかった身体が、入りこんだ異物に拒絶反応を示して抗っている。
 それでもなんとか奥へ進もうと試行錯誤していた光忠だったが、どうあっても無理だとわかると諦めて指を引き抜いた。それからおもむろに畳を這っていき、鏡台の横の引き出しから小さな容器を取り出した。
 あれは、と大倶利伽羅は目を瞠った。
 光忠は容器の蓋を開けながら再び大倶利伽羅の前に座り込む。とっさに足を抱えていた手をずらして、後孔を覆い隠した。

「やめてくれ」
「えっ?」
「それ……使うな。嫌いだ」

 光忠が怪訝そうに眉を寄せる。
39 無名さん
光忠が怪訝そうに眉を寄せる。

「どうして? 久しぶりだし、使ったほうがいいよ。傷でもついたら……」
「あんた以外、中に入れたくない」

 ぽろっと光忠の手から落ちた容器を目が辿る。流れ出た液体がじわじわと布団に染みを作るのを眺め、大倶利伽羅は鼻を鳴らした。いい気味だ。
 その傍らでは、光忠がしきりに瞬きを繰り返して視線をうろつかせている。頬がわずかに赤い。余裕綽々で大倶利伽羅を煽っていた男とは思えない姿に、胸の奥がぎゅうと強く絞られた。
 俯いて深く息をついた光忠が、「わかったよ」とそばに転がっていた容器を足で跳ねのけた。

「もう二度と使わない。本当に可愛いことを言うね、君は」
「え、あっ、光忠っ……」

 これ以上ないくらいに折り曲げていた身体を更に押されて、腰が浮き上がる。無理に曲げられた腹部に圧迫感を覚えた刹那、何か濡れたものが尻のあわいに潜り込んだ。

「あ、……っ」

 突然のことに身体がついていかず、瞼の裏が一瞬白く光った。靄が晴れると同時に尻の間に顔を埋めている光忠が見えて、後ろを濡らしたものの正体を知る。
 そこを舐められるのは初めてではない。うつ伏せになり、尻を突き出した体勢でされたことは幾度かあった。が、されているところを真正面に見据えるのは初めてだ。その手前では、濡れそぼった自身の性器が揺れ、先端から雫を散らしている。
「やっ……」
「嫌なんだ? やめる?」
「い、……やじゃな、っ、やだ、やめるなっ」

 光忠が舌を動かすたびに、身体がびくびくと痙攣する。固く閉じて光忠を拒んでいたはずのそこはいつの間にか綻びきって、進んで中に誘い込むような動きをしてみせた。その誘いに従った光忠が舌を潜り込ませる。浅い部分を出入りする舌に解されながら、両指で穴の縁をぐいと押し広げられ、また身体がびくんと跳ねた。唾液を塗すように縁を撫でた指が、不意に奥へ進む。
 代わりに役目を果たした舌が出て行き、光忠が顔をあげた。

「ねえ……まさか二ヵ月間、何もしていなかったわけじゃないだろう。ここは触らなかったのかい?」
「……は」

 いたずらに指で奥をまさぐられながら、大倶利伽羅は抱えていた両足をそっと下ろした。呼吸が随分と楽になり、思わず深呼吸を繰り返してしまう。
 胸を喘がせながら、今しがた光忠から投げかけられた問いを反芻する。言葉の意味を理解するとともに、再び頭に血が上った。

「そんなこと、聞くなっ……!」
「ひとりで抜く時、僕のことを考えてくれた?」
「考えていない! あんなもの、ただの作業だ」
「じゃあどんな風にしたのか教えてくれ」
「はっ……?」
「ほら、やって見せてごらん」
「ふ、ふざけ、……っあ」

 中で緩やかに蠢いていた指が不意に引き抜かれる。まさかと思い、大倶利伽羅は首を起こして光忠を見た。

「おい、冗談……だろ」
「冗談じゃないよ。ただの作業なんだろう? なら僕の前でもできるよね」

 求めていたものを失ったそこがひくひくと収斂して寂しがっているのに、光忠は見て見ぬ振りで大倶利伽羅のそばから離れて、胡坐をかいて座り込んでしまった。憎らしいことに、頬杖までついている。完全に観客に徹するようだ。
 本当のことを言えばよかったと後悔しても遅い。責めるような鋭い視線がじわじわと大倶利伽羅を嬲る。黙ったまま動こうとしない大倶利伽羅に、光忠は言い放った。

「教えてくれなきゃ、挿れてあげないよ」

 ひどい。
 だったら挿れてもらわなくていい、その勃ちあがったものをひとりで扱いていろと突き放してやりたいのに、身体が言うことを聞いてくれない。右手が勝手に足の間へと移動する。

「う、……」

 うまく回らない頭で、大倶利伽羅は必死にひとりでした時のことを思い返した。
 既にすっかり硬くなっている性器を擦りながら、左手は胸へ。指先で転がしながら、右手で先走りを塗り広げていく。滑りがよくなると手の動きが自然と早まり、どちらの手をどう動かしているのか段々と分からなくなってきた。
 早くイきたい。終わらせないと、挿れてもらえない。
 光忠は変わらぬ表情のまま、じっとこちらを見つめている。
「みつ、ただ、……っ」

 名前を呼んでも、縋るような眼差しを向けても、光忠は片方の眉をあげて面白がるような色をその目に浮かべるばかりで、決して腕を伸ばしてはくれない。すぐ近くにいるのに、大倶利伽羅には触れてくれない。

「ん、んっ……あっ、ん」

 とにかく早く達しなければと、それだけで頭がいっぱいだった。普段なら決して出さないような嬌声を大きくあげていることには思い至らないまま、迫りくる射精感に従って強く扱きあげる。

「あ、ああっ……」

 胸から離した左腕に歯を立ててからほどなくして、ようやく求めていた絶頂に辿り着いた。瞼の裏がちかちかと瞬いて明滅する。視界がはっきりした頃には離れて座っていたはずの光忠がいつの間にかそばにいた。
 大倶利伽羅の腹に点々と散った精を指で掬いあげ、軽く舐めてから「あれ?」と首を傾げる。

「思ったより薄いね。もしかして結構ひとりでして……」
「……っ」

 鼻の奥がつんと痛んだ。瞼と喉も、それから胸の奥も焼けるように痛い。
 大きく息を吸い込んだ途端にそれは一気に目縁から溢れだして、瞬きと共に零れ落ちた。

「え、えっ? なんで泣いて」
「う、……っうー……」

 どんなに強く目を閉じても、一度溢れたものは止まるどころか堰を切ったように流れ出た。こんな情けないところを見られたくない。しゃくり上げながら、両腕で目元を覆い隠す。
44 無名さん
 慌てて顔を覗き込んできた光忠が、腕を除けようとしてくる。自分でもどこからこんな力が出るんだと思うくらい強く抵抗していたら、沸々と怒りが込み上げてきた。

「ごめんね、意地悪しすぎたかな」
「な、んでこんな、あ、あんたとしてるのに、ひとりでさせるんだ。馬鹿、阿呆、このほでなすが!」
「あー、ごめんって、もう……参ったな。ほら、おいで」

 頑として腕をどかさないと分かると、光忠は諦めて大倶利伽羅を身体ごと抱え上げた。ふわりと浮いた身体はすぐに光忠の膝の上に乗せられ、そのまま抱き留められる。

「見ないから、隠さなくてもいいよ」

 肩にぐっと顔を押さえつけられて、大倶利伽羅はようやく腕を離した。
 行き場をなくした手は光忠の首に回し、嗚咽が漏れないようにそのまま肩に噛みついた。「痛い……」と光忠が呟く。が、光忠は大倶利伽羅を引き離すことはせず、汗の滲んだ背中をゆっくりと撫でた。
 何度も何度も歯を立てながら荒く呼吸を繰り返す。光忠の首筋から香る、麝香と汗の混じった匂いを吸い込んでいるうちに次第に高ぶった気分が落ち着いてきた。

「もう大丈夫?」
「ん……」
「顔、見てもいいかい?」
「……」

 いいとも悪いとも言えずに黙り込んだ大倶利伽羅の髪を、光忠は軽く引っ張った。自然と上げさせられた顔を覗き込まれる。
 頬に残った幾筋もの痕に、光忠が口付けた。落ちないまま、目尻に溜まっていた雫も舐めとられる。
 優しく柔らかな感触に浸るなかで、大倶利伽羅は腹にあたっている光忠のものが熱く脈打っていることに気付いた。一度強く意識してしまうと、達したばかりで敏感になっている身体が即座に反応して、大倶利伽羅のそこもまた緩やかに勃ちあがり始める。
 腰を少しだけ揺らし、擦りあわせるようにして訴えても、光忠は執拗に大倶利伽羅の目元を舐めるばかりだ。気付いていないのか、それともまた気付かないふりをしているのか。

「……ちゃんと、あんたの言う通りにしてやっただろ」
「うん?」
「だから……早く挿れてくれ」

 そう言った途端、目元を辿っていた唇が離れ、光忠は大倶利伽羅の腰を持ち上げた。その行動の早さに、気付かないふりをしていたのだと確信する。やはり今日の光忠はどこまでも意地が悪い。

「久しぶりだから、ゆっくりするね」
「ん、……っ?」

 もう一度、光忠の肩にしがみついて大倶利伽羅はその時を待った。
 尻のあわいを、ぬめりのあるものが行き来する。もう十分に慣らされているはずの場所が更に濡らされ、「ゆっくりする」の意味を理解した。
 意地が悪いと恨めしく思った直後にこれは卑怯だ。泣かせられたかと思えばあやされるし、放置されたかと思えば優しく気遣われる。

「……あ、」

 腰を掴んでいた光忠の手に強く力が籠められたかと思うと、先端がぴたりと後孔に当てられた。そのまま重力に従って、大倶利伽羅は少しずつ腰を落としていった。
46 無名さん
魔法なの?とうらぶなの?
 痛みはなかった。隙間なく満たされる感覚に大倶利伽羅の中は悦んで、進んで光忠のものに絡みついていく。やがて尻のあたりに柔らかな下生えが触れ、全て銜え込んだのだと分かった。

「ああ、やっぱりたまらないな、君の中……」

 光忠が小さな声で呟いたのを、大倶利伽羅は聞き逃さなかった。
 思わず漏れてしまったというようなその独り言が、どれほど大倶利伽羅が抱えていた不安を癒したのか、きっと光忠には分からない。
 光忠はまだ抱きたいと思ってくれている。大倶利伽羅の身体に快感を覚えてくれる。恍惚感を漂わせた、かすれた声色でたまらないとまで言ってくれる。……よかった。
 自然と深い溜め息が漏れる。
 するとすぐに背中を撫でられた。ごめんね、つらいよね、馴染むまで待ってるから、と優しく宥める言葉が、耳をくすぐる。

(……違う)

 苦しいから息を吐いているんじゃない。
 身体の奥だけでなく心までいっぱいに満たされて、際限なく湧き出てくる幸福感にどうにかなってしまいそうだから。呼吸に変えて少しでも外に逃がしてやらないと、溺れ死んでしまいそうだから。
 大きく息を吸い込むと同時に、また光忠の匂いが香った。
 八つ当たりに噛みついたときよりも汗の匂いが少しだけ強くなっている。くらりと目眩がした。視界が次第に狭くなり、全身が重く沈み込んでいく。
 どこに? わからない。まるで泥に足を取られたようだ。でも、すごく心地がいい。無理を強いるのではなく、やんわりと誘い込むような引力にどこかへ引きずり込まれる。
 抗うより、大倶利伽羅は身を任せることを選んだ。せめて光忠から離れることのないようにと、回した腕に強く力を籠めながら。
あの一瞬、世界が真っ赤に染まった。僕は彼を抱いて、深い深い夜のふちに駆け込んだんだ。


彼は分かりやすく舌打ちをした。唾液をたっぷりと絡めているようで、存外大きい音が埠頭に響いた。
今夜は新月で、星さえ一つも見えない。それでいて、真っ白い蛍光灯が地面をこうこうと照らしている。
彼の足元には肢体がいくつか転がっていた。かすかに胸が上下しているが、意識はなさそうだった。

「……汚い」

そう呟いて、彼は眉をしかめ、また舌打ちしてみせる。
すっきりしないのか、ポケットからタバコのパッケージを取って、一本咥えた。すかさずライターの火を向けてやる。彼はそれが当然というように顔を向ける。

「運送屋には連絡しておいたけど、それ、どうしようか」

車から引きずり出した段ボールを指して問いかける。その頃には、転がっていた肢体はぴくりとも動かなくなっていた。

「一緒に運送屋に運ばせる」

うちのシマでクスリなんて、舐められたもんだ。
49 無名さん
彼は分かりやすく舌打ちをした。唾液をたっぷりと絡めているようで、存外大きい音が埠頭に響いた。
今夜は新月で、星さえ一つも見えない。それでいて、真っ白い蛍光灯が地面をこうこうと照らしている。
彼の足元には肢体がいくつか転がっていた。かすかに胸が上下しているが、意識はなさそうだった。

「……汚い」

そう呟いて、彼は眉をしかめ、また舌打ちしてみせる。
すっきりしないのか、ポケットからタバコのパッケージを取って、一本咥えた。すかさずライターの火を向けてやる。彼はそれが当然というように顔を向ける。

「運送屋には連絡しておいたけど、それ、どうしようか」

車から引きずり出した段ボールを指して問いかける。その頃には、転がっていた肢体はぴくりとも動かなくなっていた。

「一緒に運送屋に運ばせる」

うちのシマでクスリなんて、舐められたもんだ。

彼は独りごちて紫煙を吐き出した。
手のひらを差し出してやれば、そこに灰を落とされる。「運送屋」の車が見えると、煙草の火をそこでもみ消した。手袋がじゅうと音を立て、皮膚の焦げる感覚がする。けれども彼は構わない様子で「帰る」と呟き、車に乗り込むのだった。
廣光は伊達組の若頭である。決して大柄ではなく、どちらかといえば線の細い体格だが、おおかたの武道は有段者だった。今夜のように複数でかかられても、涼しい顔で殲滅させる。いっそうっとりするほど鮮やかだ。

助手席にちまりと収まって、煙草を咥えたのが見えたので、左手だけでライターを向けてやった。信号待ちの間に少しだけ窓を開けてやる。細い紫煙がゆらゆらと外に向かっていく気配がした。
あめ色のひとみはぼんやりと前方を見つめている。時に長い睫毛がふるりと揺れた。

「……眠い?」
「いや……」

彼はさして美味くなさそうに煙を吐いて、まだ随分残っている煙草を唇から遠く離した。先ほどのように手を差し出せば、さも当然と言わんばかりにそこで火種を潰された。
信号の色が変わり、僕はアクセルを踏み込んだ。

「寝ててもいいよ。屋敷に着いたら運んであげるから」
「あと十五分だろう。起きていられる」
「コンビニ寄りたいんだけどな。煙草が切れちゃって」

アイス買ってあげるから。口の中で呟いて、手の中の煙草を握り潰して灰皿に放った。

とは言え、寄り道をしたところで、屋敷には二十分と経たずに到着した。背の高い塀に阻まれた日本家屋だ。門を開けて一歩踏み入り、石造りの道を歩んでいく。引き戸を開けるや否や、組員が左右に列をなし、びしりと礼をしてみせた。
52 無名さん
どれもそんなに文章上手くないね
みんなぴくしぶでそこそこブクマもらってるやつなんだけどなあ
萌えればいいんじゃない?
「……畏まらなくていいよ。夜も遅い。早く寝な」

無口な若頭に代わって言いながら、廣光の手をぐいと引く。

廊下を抜け、奥の奥、―――離れまでだ。

寝室の襖を開けるや否や、僕は彼を部屋に放った。布団に崩れ落ちる彼が身を起こす前に馬乗りになり、開いた足の間に身体を潜り込ませて、閉じられないようにする。何かを悟った彼が顔を上げた刹那を狙って、唇を塞いだ。

「んんっ!」

閉じた唇を舌先でなぞり、そっと押し開く、口腔をねっとりと舐めねぶって、舌を絡ませた。ぐちぐちと水音が立つ。

「んッ……、」

投げ出されてあった手は、僕の肩を掴み、やがて、頭を搔き抱いてみせた。そのせいで一層距離が近くなり、くちづけが深くなる。

「……っ、」
「ふ、っう」

幾度も角度を変えて、時に息継ぎをしながら、存分に堪能する。ようやく飽いて顔を離すと、銀の糸が引いて、ぷつりと切れた。彼の顎を伝うそれを舐め取ってやれば、とろりと濁ったひとみが宙を見つめていた。

「……いいの?」

裾を捲り上げて、薄い腹筋をなぞり、胸の突起を摘む。ひくり、と喉が震えた。
「いいも何も……」
「アイス、溶けるけど」
「……欲しいと言った覚えもない」

せっかく買ってあげたのにな。からかうように言って身体をずり下げ、胸元にくちづけを落とした。

「……光忠」

すらりとした腕が僕の頭を搔き抱いた。

「ごめん。今、外すね」

それを合図に、自分の手袋を食んで外す。焦がされた皮膚に引っかかる感じはあったものの、昨晩だって、その前の晩だって同じだったから構うこともない。脱いだそれを放って、素手で彼の肌をなぶった。

「はぁ……っ、」

吸いつくような肌をなぞり、ぴんと起ち上がった突起を摘まみ、ひねり、舐め、歯を立てる。それが赤く充血する頃には、彼のモノはゆるやかに隆起していた。

「……あッ、」

ベルトを外し、下着ごと一息に剥ぎ取った。

「あ、あぁ……、」

裏筋をつつと舌先でなぞると、秘めやかな声が漏れる。ひくひくと浮いてしまう腰を片手で押さえて、僕はソレをぱくりと飲み込んだ。

「あッ、ああ……っ!」

もう片手で玉をあやし、その親指も一緒に口に含んで、じゅるじゅる吸い上げる。すぐに熱いモノが喉の奥に弾けた。ソレを手に吐き出し、指に絡めて、後腔に宛がう。ソコはたやすく二本を飲み込んだ。

「……すっごく、締まるね」
「あ、っ……」

腹の裏側のしこりを引っ掻いてやる。萎えたはずの性器も頭をもたげていた。
ココに自分のモノを突っ込んだら。考えるだけでぞくぞくする。忙しなくベルトを外し、ゆるゆる勃起していたモノを擦り上げ、ぴたりと宛がった。
56 無名さん
夢サイトよりは上手だね。
「ね、まだ中途半端だけど、入れていい?」
「ッ……、だめと言っても、入れるくせに」
「今日は働いたからね、……忠犬にご褒美くれてもいいんじゃない?」
「あッ、あ、あああっ!」

無理に押し入ったソコは、それでもねっとりと性器を包み込み、奥へ奥へといざなった。廣光は、両手両足を僕の身に絡めて、ぎゅうと抱き着いた。

「……可愛いんだから」
「あ、あぁっ、……もっ、待っ……、あぁッ」

がつがつと前立腺を抉り、熱い息を漏らすくちびるを塞いだ。甘い声が鼻から抜ける。

「ふ……ッ、ん、んんっ」

ぎりぎりまで引き抜き、ひときわ強くしこりを押し潰すと、彼は声にならない叫びを上げて、腹のあたりに熱い飛沫を散らした。ナカがうねって僕のモノを締め上げ、堪らず射精する。

「……、っ」

ずるり、とソレを引き抜くと、白濁がとろりと後を伝った。それが気持ち悪いのか、それとも逆か、廣光がくちびるをふるりと震わせた。
ぐったりと弛緩した左手を引き、うつぶせに転がす。彼はされるがまま、枕に突っ伏した。
投げたコンビニ袋から煙草を取り出し、開け放してあった襖の外を見つめながら、それに火を点けた。
「……やっぱり、アイス、溶けちゃったね」

カップは力を入れずとも、指先だけでぐにゃりとひん曲がった。返事はない。それを傍らに避けて、力の抜けきった背を見つめた。
線の細いその左上、肩から腕にかけて走る龍の姿。これを彫るとき、廣光の右手を握ってやっていたのを覚えている。聞けば、「気絶するかと思った」と言っていた。

「そんなこと言ったらさ、僕なんて、右目だよ」
「……正気の沙汰じゃない」

ぼんやりと逡巡し、その背で灰を落とす。肩がひくりと震えたが、それだけだった。

「ナカに出しちゃったから、掻き出さなきゃならないね。あとで一緒にお風呂に入ろうか」
「……もう、いい。好きにしろ」

随分短くなった煙草を、―――背に押しつけた。廣光はやはり、わずかに身を震わせただけだ。声ひとつ上げやしない。
既に皮膚の固くなった箇所がいくつもあった。刻み付けたのは僕のほかに違わない。うっとりと眺め、灰をほろってやる。

「……何が忠犬だ」

そう独りごちてみせるので、突っ伏す彼の前髪を引いて顔を上げさせた。
とび色の睫毛に覆われた、あめ色に混濁するひとみ。唇を寄せて、れろりと舐め上げる。

「っ、」

見た目とは違って甘くはない。むしろ、涙をたっぷりと孕んで塩辛いほどだ。

「だって、……君みたいな子、誰かが守ってあげなきゃいけないでしょ?」
「……一人でも十分だ」
「十分じゃないから、これ、飴玉みたいになっちゃったんじゃない」

睫毛を食み、まぶたに口づける。


廣光の目には光が差さない。生まれて元よりそうだったわけではない。ある日、―――まだ至極まっとうな暮らしを営んでいた頃、不良にふっかけられたケンカが元だった。関節を立てた拳の中指がいとも簡単にその双眸を抉ったのだ。
廣光が地面に崩れ落ちたあの一瞬、僕の世界は真っ赤に染まった。
何がどうなったかなんて覚えちゃいないが、廣光を抱いて屋敷に駆け込んだのは確かだ。そうして僕は彼を深い深い暗闇に連れ込んだのだった。

「奥さんにして屋敷に囲っておいてもいいけど、組員だってみんながみんな信用できるわけじゃない。だったら一緒に連れ出した方が安心でしょ。君を若頭にしておけば、何かあっても、用心棒の僕がどうにかすればいい。今日みたいにさ」

埠頭に転がっていた身に、彼は指一本触れていない。無論、触れさせるつもりも毛頭なかった。

「だけど、……組長の話が出たら厄介だよね。君をあまり外にはやりたくないし、いつまでも僕が用心棒というわけにもいかない」

脇の下に手を差し込み、身を起こしてやった。力の入らない様子の四肢に浴衣を羽織らせる。

「……でも、本当は、光忠が継ぐべきだ」
「長男だから?それじゃ、僕の次は僕の子になるじゃない。産んでくれるの?」
「外腹でも、光忠の子なら、大事に育てる」
「浮気しろっていうの?」

僕は君ひとすじだよ。そう囁いて肩を抱き寄せ、頬ずりをする。
廣光が身じろぎして、少しばかり距離を取った。
僕の頬を両手で挟み、ぎろりと睨まれる。見えていないはずだが、ひとみにはしっかりと僕の顔が映っていた。

「別に、光忠の妻として囲われたっていいんだ。スパイがいたって、俺ひとりで造作ない」
「……いざとなったら、長谷部くんを置くけどね」
「どうにでもできるだろう。だから、あまり俺に構いすぎるな。こんなことをして、子どもだって産んでやれないのに」
「だから、言ってるじゃない。僕は君ひとすじだって」

頬に両手を滑らせて引き寄せ、くちづけてやる。唇を食んで、緩んだ隙間から滑らせた舌で、相手のそれを絡め取った。

「ん……っ、」

角度を変えて、息が上がるまで、飽かずにそれを続けた。

「……将来の話はまた今度ね。どうせ、どうにでもできるんだし」
「……」
「そろそろ掻き出さないと、おなか壊すよ」

龍ののぼる手を引いて立ち上がらせる。
月あかりも差さぬ晩、ふたりで手を取って歩んだ。昨晩も、その前も。きっと明日も、それから更に明くる日の晩も。

僕たちには決して陽は似合わない。
今晩は月だって見てやしない。

彼を抱いて駆け込んだあの日から、僕たちはふたりぼっちのまま、暗闇のさなかをぐるぐると巡っているのだった。
61 削除済
62 無名さん
なんのコピペ?
「おい、カイジ。今日も月が綺麗だな」
「えっと・・・赤木さん、今は朝ですけど」
「お、そうだったな」
 神域こと赤木しげるの朝の挨拶は、このように口説き文句から始まる。誰にでもというわけではなく、俺こと伊藤カイジにだけ限定された挨拶だ。しかし、ほとんどの口説き文句が彼の友人知人から知り得た知識であるため、いかんせんマトを得ないものが数々である。先ほどのも、それは夜に使うものだと、教えてもらった時点で気づくものではないだろうか。まぁ、勝手きままな赤木さんのことだから、特に深く考えることもなく使ってみただけのことだろう。
「カイジ、お前が翼のない天使で良かったぜ。なんせ翼があったら、お前が飛んで天国に帰っちまうからな」
「はいはい」
 全て自分には向けられていない、この口説かれ地獄に陥るはめになった原因は、一週間前にあった。
「カイジ、好きな奴が出来たら、お前はどうする?」
 そう云ったのが一般人であったら、茶化して相手を聞き出そうとする。だが、云ってきたのは裏世界では知らないものがいないという、神域こと赤木しげるだ。そんなことをしたら、明日の命はない。しかし、何故そのような大人物が俺の家で、しかも恋愛相談なんかを。それはいちお、俺が赤木さんの暇つぶし相手だからといえる。
 赤木さんとの出会いは、偶然雀荘に立ち寄った俺が、そこへ遊びに来ていた赤木さんの打っているところに遭遇しただけという話。常に素寒貧の俺だから、その時は打つでもなく赤木さんの神技を背後から見つめていた。赤木さんの麻雀には惹かれるものがあり、俺は夢中で観戦していた。その間、後ろにいるにも関わらず、赤木さんと幾度も目があった。そして、赤木さんが「ロン!」で勝ちを表明したと同時に、俺も雀荘を後にしようとしたとき、赤木さんに呼びとめられた。
「兄ちゃん、名前はなんていうんだ?」
「え、伊藤カイジ、です」
「そうか、カイジか。良い名前だな。俺の名前は赤木しげるだ」
 それから、何故か誘われるままに麻雀を打つことになり、それが縁となって知り合いとなった。それから、赤木さんは三日に一度は俺の家を訪れるようになる。焼き鳥や酒をお土産に、二人麻雀を打ちに来るのだ。別に金を賭けるとか耳を賭けるような危険なものではなく、負けた方が夕飯を作るだの煙草を買ってくるといったお遊び麻雀だ。ちなみに、俺が勝てたことは、一度もない。
 だから、今日も麻雀をするのかと、麻雀牌を用意していた。だが、赤木さんはそんな俺に、先ほどの質問をあびせてきたのだ。
「え、赤木さん好きな人が出来たんですか?」
「・・・まぁな」
「どんな人ですか?俺も知ってる人ですか?」
「あぁ、うるせぇうるせぇ。それよりどうなんだ?お前はどうする?」
 あの神域と呼称される男が、たかが21歳の男に恋愛相談をするのも不思議なことだ。だが、その憧れの存在である赤木さんが自分を頼ってくれたという真実に、俺は頬を緩ませ喜んだ。俺は云われるままに考えてみたが、女性と付き合った経験がないに等しいため、参考にはならない。では、今まで好きになった相手に対して、精一杯自分がしてきたことを思い出し、そしてこの発想に至る。
「口説いたらいいんじゃないですか」
 そもそも、赤木さんは44歳という年齢が醸し出す色気を備えている。それに、裏の世界にいる者の放つ危険な雰囲気。麻雀も強いし、才能もあるし、なんか着ているスーツは似合うし。まぁ、たまに飛び出す、冗談のような気まぐれがたまに傷かもしれないが、赤木さんに口説かれて落ちない女性はいないだろう。俺だって、女ならば無条件に赤木さんに惚れていたはずだ。いや、むしろ赤木さんなら老若男女問わずにモテまくりだ。ならば、ここは押してみてはどうだろうかの考えで、口説き落してしまえという結果に至った。
「口説くか・・・例えば?」
「え?」
 そこで話を振られ、しばし黙考の後、
「き、君の瞳に乾杯?」
 云ったとたんに、赤木さんはかつてないほど爆笑して、苦しそうに床を叩き始めた。俺は恥ずかしさと怒りで顔が熱い。仕方ないではないか、赤木さん並みにモテたことなど一度もないのだから。これが俺の精一杯だ。俺は未だに笑い続ける赤木さんをも放っておいて、煙草に火をつけた。
 そして、おおよそ三分くらいは一人で笑っていた赤木さんが、ようやくいつもの皮肉な笑いに戻った。
「ククク・・・それを参考にさせていただくぜ」
「勝手にどうぞ!!」
「それじゃ、カイジ」
「はい?」
「俺に毎日味噌汁を作ってくれないか?」
「・・・・・え?」
 煙草を口から取りこぼした俺は、カーペットに大きな焼け穴を作ってしまった。煙草を落としてしまった理由は簡単、口説き文句を云った赤木さんがカッコよかったからだ。慌てて煙草を拾う俺に、赤木さんはまたも笑っている。誰のせいだと思ってるんだか。
「どうだ?」
 なんとか煙草の火を消した俺に、赤木さんはすました顔で感想を求めてきた。だが、正直にカッコよかったというのはしゃくなので、俺は「9点!」と答えた。いや、それよりも、
「赤木さん、俺をそういうのの練習台にしないでください!」
「・・・練習台?」
「そういうもんは、直接好きな相手に云えばいいでしょ!びっくりしたじゃないですか!」
 一瞬、赤木さんが泣きそうな顔になった。しかし、俺はカーペットの穴が気になって、それどころではなかった。しばらく赤木さんは黙っていたが、おもむろに立ちあがった。
「・・・おい、カイジ」
「なんです?」
 名前を呼ばれて床から顔を上げた時には、赤木さんはいつもの微笑に戻っていた。
「まだ本命に云うのは恥ずかしいからな。ちょうどいいから、しばらく口説き文句の練習相手になってくれや。頼むぜ、発案者」
「え?」
 赤木さんは云って、俺の頭をくしゃりと撫でると、その日はさっさとそのまま帰って行ってしまった。
続きは、また夜に。
堀川国広と今朝交わした約束は守れないかもしれない。
時と空間を遡り渡る門を通り、仲間と共に大阪城地下から本丸へと帰還した和泉守兼定は感じた。陽はとっくに落ちて、夕餉にも遅い時間だ。右、左と確認すれば、誰も彼も兼定と同様に疲労困憊で、頭には赤く四角い例の顔がくっついている。皆一様に傷は浅く、かすり傷か軽傷なのだが、ただひとり一期一振だけが獅子王と兼定に肩を預けている。自力で歩くのがかろうじてといった様子で、重傷だった。
「申し訳ありません、私の私情で」
「いいっていいって。兄弟のためだもんな」
疲れを滲ませていても、獅子王ははつらつとした笑みを一期一振へ向ける。おひさまのような笑顔に、一期一振はもちろん兼定含め隊の皆が癒やされる。しかし、肉の体の疲労までは行き届かない。手入れを済ませ、疲労を抜くのに一晩はかかるだろう。出迎えた粟田口たちが一期一振たちを囲み、血の気が引いた様子で労いの声をかける。律儀に応える一期一振の肩を支える役割は、鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎へ引き継がれた。
慎重なはずの一期一振が重傷を負い、部隊全員にまで赤疲労がついたのは、普段なら引き返すような時間でも、無理を押して大阪城地下へ潜ったためだ。兄弟刀の博多藤四郎を見つけ出すためと一期一振が意気込み、部隊員もまた、そんな熱意に答えようとはりきったことも要因の一つに数えられる。負傷や疲労の一番の原因は、引き上げる時期を誤り、きりのいい階まで、と惰性で進んだ審神者にある。
地下31階。疲労に疲労を重ね、少しずつ削られた刀装がついに剥げ、敵大太刀の攻撃が一期一振へ直撃してしまった。ところで、慌てて審神者は部隊を引き上げた次第だ。
己の指揮のまずさで重傷者を出した審神者は、青い顔で部隊を手入れ部屋へ先導し、かすり傷だった兼定はその最後尾につく。あの様子だと明日の出陣は見送られそうだ。少なくとも、今日と同じ顔ぶれは出さないだろう。
「アタシも兄貴が捕まってたらはりきっちゃうなー」と先を行く次郎太刀がからからと笑い、「兄弟ってそんなものかい。僕にはよく分からないな」とにっかり青江が返す。「兄弟じゃないけど、安定が捕まってたら、まあ、行っちゃうかも」と曖昧につぶやいたのは加州清光だ。
ぱたぱたと、どたどたと、廊下を行く帰還した部隊に、留守を預かっていた刀剣が夕餉か風呂かと聞いてくる。手伝い札を使うだろうから、手入れはすぐに終わる。その後だ。皆疲れ切ってはいたが、夕餉を抜きたくないもの、まず風呂に入りたいもの、なにもかもを放り投げて泥のように眠りたいものと色々に別れる。兼定は、とりあえず風呂に入って夕餉を軽くいただきたい。のだが、箸を持ちながら眠ってしまいそうなほど体が重かった。
「兼さん」
手入れをすませた兼定へ、よく知る声がかかる。
まあるくて大きい碧い目と、ぴよぴよ跳ねる襟足の小柄な脇差は、臙脂色のジャージ姿で兼定を迎えた。
「国広、ただいま」
「おかえりなさい」
相棒の国広といつものように言葉を交わし、並んで歩く。
「お風呂が先?」
「おう」
「夕餉を温め直しておくね」
「おう」
良く言えば気が利き細やかな気配りが出来る、悪く言えば過保護で先回りをする相棒に、自分ひとりで出来るのだと反発したくなるときがたまにある。しかし、眠気に負けそうな今はありがたい。国広の手を借りながらなんとか風呂に入り軽く夕餉を済ませ、明日の予定を右から左へと聞き流しながら自室へ戻った兼定は、既に敷いてあった布団へと倒れ込んだ。昼間干したのか布団はふかふかで、日向の匂いがする。思わず顔を擦りつけてしまうが、国広の目しかないし、兼定と一緒に出陣した面々もきっと同じように布団に飛びついたはずだ。そうに違いない。かっこ悪いのは自分だけじゃない。と考えるところから堕落は始まるが、今の兼定には気にしていられなかった。
「兼さん」
声をかけられ、布団にずぶずぶと沈みかけていた意識が浮上する。
「髪の毛。梳かさないと絡まっちゃう」
「ん、」
のそりと体を起こし、兼定は国広に背を向けて布団の上であぐらをかいた。背後で、国広が柘植の櫛や椿油を用意する音がすると、ほどなくして髪に触れる感触がある。
長い長い髪の先から、ゆっくりと櫛で梳かれる。たっぷりと流れる絹の黒髪を梳かされるのは心地が良かった。徐々に国広の手と櫛は頭頂部へと向かい、頭皮にあたる刺激にも気持ちがほぐれる。うつらうつらと兼定が船をこぐのも無理はなく、何度かあくびも出た。
「今日はお疲れ様だね、兼さん」
「んん……まあ、一番のお疲れ様は、一期一振だな……結局、兄弟も見つからなかったし」
重傷の一期一振は、手入れをされながら何度も明日も自分が出陣すると審神者に頼み込んでいた。珍しく重傷者を出し赤疲労をつけた審神者は、明日は丸一日休みにするつもりだったようだが、一期一振の熱意に推されて午后からの出陣を約束する。
無理もない。と思った。
同じ状況ならば、きっと兼定も探しに行く。
地の底でも。海の底でも。
「眠いのによく覚えていたね」
茶化されて、兼定はふくれる。顔は見えなくても不機嫌は察したのか、国広が誤魔化すように兼定の肩に手を置いて、ぐっと押し込んだ。髪梳きの次は按摩らしい。至れり尽くせりだ。
「ちょ、ちょっと」
が、兼定は押されるまま姿勢を崩し、再び布団へ俯せになる。帰還してすぐは疲労で体が重かったが、風呂に入って胃も満たされた今は眠気のせいで全身に力が入らない。糸の切れた人形か、夏場の猫のような液体じみた動きで崩れた兼定を、仕方ないなと国広が笑う。
「今の兼さん、すごくかっこ悪いからね」
「そんなわけ、あるか……オレは、いつでもかっこ良い」
ごろり、と寝返りをうって兼定は国広を見上げる。半ば閉じた視界に映る国広は苦笑いを浮かべ、兼定の額に触れて乱れた前髪を梳いた。まるで子供や犬猫の扱いだ。
「ほら、休むならちゃんと布団に入って。風邪ひくよ」
「ひかねえ」
「いいから。おやすみ」
兼定のそれを眠気でぐずったものと受け取った国広が、額や頬をやさしく撫でてあやす。よしよしと。ゆっくりお休みと。国広の指が触れるたびに、兼定のまぶたが下がる。何度もまばたきを繰り返して眠気に抗い、ふりほどこうとするものの、敵はあまりにも強い。
朝の約束を果たせないまま、兼定が意識を手放そうとした瞬間、国広がごく小さな声でつぶやいた。
 中途半端に脱がされ、膝のあたりでひっかかっているジーンズがうっとおしい。面倒くさがらずにちゃんと脱がせろと抗議しようとしたところで、後孔を撫でていた指がゆっくりと入ってきたので息をつめる。ローションのぬめりを借りているとはいえ、背筋をぞわりと襲う異物感だけは、何度経験しても慣れなかった。
「こら、力入れんな。息はけ」
 知らず耐えるように息を止めていたバーナビーの耳に、虎徹の低い声が届く。言われて簡単にできるものならそうしている、とわずかに首を左右に振る。
「たく、不器用ですねうさぎちゃんは、と」
「あ、うぁ・・・っ」
 萎えかけていた性器をゆっくりと扱かれ、思わず吐息とともに声があがる。裏筋を撫でられ、またゆるく立ち上がってきたそれの先端を親指の腹で刺激される。は、と呼吸のために開けた口を虎徹が塞ぎ、舌が歯列をなぞってくる。快感とキスのために頭がぼうっとして働かない、そのタイミングを狙ったように虎徹の指が根本まで埋め込まれ、バーナビーの足がシーツをひっかく。
「っ、ん、ふぅう!」
 重なる唇のあいだから悲鳴が漏れる。指はバーナビーの内側を探るようにぐるりと撫ぜながら、狭いそこを慣らしていく。気持ち悪い、と虎徹の胸を押し、下がろうとする腰を、がっちりと押さえられているので逃げ場がない。
72 無名さん
埋めても立てるだけだから落とせばいいのに頭悪いね
73 無名さん
コピペするなられんたんかもかたんにすればいいのにー
74 無名さん
もかたん残ってるの?
75 無名さん
昔のスレでコピペあったね
おまんまんのやつw
76 無名さん
懐かしいw
77 無名さん
あれは男向けだったな
78 無名さん
ふおおはミルヴォと並ぶ名言www
79 無名さん
アブラカタブラを忘れちゃだめだお
80 削除済
 やはり三日月は分かっている。鶴丸の心中を、彼は理解している。
 その上で問い掛けてくるのだから、意地が悪い。投了も同然の中で、必死に抵抗しようとする鶴丸も鶴丸だが。
 三日月はその抵抗をも受け入れるように、僅かに笑みを深めた。

「お前は俺を好いている、と思っていたのだが……違うのか?」
「……ああもう、適わないねアンタには。驚かされてばっかりだ。で、そう言ったらどうすんだ?」
「そうだな、意思が確認出来たのなら……俺はこういう事がしてみたい」

 何を、と聞き返す前に、腕を強引に引っ張られ身体が三日月に接近する。
 何故だ。何故、今そんなに艶やかな表情を見せるんだ。
 今までに見た事ない、相手を食らおうとする雄の表情に鶴丸の心臓が強く脈を打った。
 三日月の唇が鶴丸のものと重なった。柔らかく湿った感触が、鶴丸の中を犯し、乱していく。『そういう意味で』彼に触れられていると思うだけで、身体が芯から熱くなって仕様がない。
 酸素が奪われていき無意識に三日月の着物を掴むと、三日月はゆっくりと唇を離した。

「綺麗だぞ、鶴丸。純白に栄える仄かな赤、まるで鶴のようではないか」
「……っ、卑怯だな、三日月は」

 耳元でそっと囁かれる。降りかかる息がじれったくて、余計に三日月にしがみ付く力が強くなった。

「卑怯、か。ならば俺の心を乱してやまない鶴丸も卑怯だな」
「そういう言い方が卑怯なんだよ」

 そんな言われ方をされたら、何も言い返せなくなってしまう。
 鶴丸が黙り込んでいると、三日月はそっと鶴丸を包み込んだ。思わず三日月を見ると、愛おしげに目を細めている。無意識に「好きだ」という言葉が零れ出てしまった。三日月は一瞬意外そうに目を見張って鶴丸を見ると、「俺もお前を愛おしく思う」と優しい声で言われた。
82 削除済
>>72がいつもクソスレクソレスしてるのか
「ん、ひ、ぐ、ぁっ、あっ」
「鶴、面を上げろ」
 呼ばれ、首を振る。
 やめろ、と囁くような声で言っても聞き入れられず、あごを右手で固定され、唇を舌で割られる。
「んっ、んぐっ、ふ、んっ……っ」
 快楽でぐずぐずに緩んだ口はあっさりと開き、三日月の舌を受け入れた。ちゅ、ちゅう、口吸いをされ、くらくらと強い酩酊を覚えてしまう。
「ひ、んっ」
 左手で腿を割られ、あごから離れた右手で腰を支えられ、突き上げられる。
「ぁっ、あぅっ、ぁっ、あっ!」
 体がゆれて、布団にこすれる。鶴丸は片手で枕元を掴み、もう片手で三日月の背中に爪を立て、震える体の寄す処にした。そうでもしないと、溶けて消えてしまいそうなのだ。強い快楽に、体の形が保てずに、意図せず高く、声を上げる。
 
 ……夜明けて、鶴丸はぼんやりと目を醒ます。身を起こし、枕元の白い単衣を身にまとう。ぼりぼりと後ろ頭をかきながら、左横に眠る男を見下ろした。
「またか」
 この行為を許すことが、という話だ。
 随分前に三日月と賭けた、どちらが二十の武勲を先に重ねられるかの結果は、ここにある。僅差ではあったが、三日月が先に二十の武勲をあるじ様に捧げ、褒美とされた鶴丸は、三日月の寝所に引きずり込まれ、抱き尽くされた。
 三日月は、男に抱かれるのが初めての鶴丸を執拗なまでに解して抱いた。あまりに丁寧にふれるものだから、鶴丸は、いっそ焦らされているような気さえした。泣きを入れた鶴丸に、三日月は微笑んだものだった。「一応勉強したんだがなぁ」と、自分だって額に汗を浮かべて欲情を表しているのに、余裕の体を崩さずに、鶴丸の体に押し入ってきた。
 あの長くて太い陽物が、中を割り開いていった衝撃は、今でも生々しい。
 死んでしまう、絶対に裂ける、と、あの頃は思っていた。二度とするものかとも思っていた。
 それなのに、三日月の手練手管に乗せられて、二度、三度と関係は続いた。四度目以降は日常となってしまった。性に全く無頓着だった鶴丸も、その頃には、肌を合わせ、抱かれる悦びに目覚めてしまったが故に。
 三日月の執拗さは、鶴丸が眠らせていた官能の一つ一つを芽吹かせ、咲かせていった。あの手が頬にふれれば体温に心地よさを覚えるし、口吸いをされれば腰が震え、その腰を撫でられれば力が抜ける。
 人が、どうしてああも寝所で乱れるのか、その時になってようやく鶴丸は理解をした。そして、蛍丸が言っていた「強いんだか弱いんだか分からない」体の弱いところを理解した。一度発情してしまっては、どうにも抗いがたい、本能のようなものに支配され、戦の後は、いつも、そうでない時も時おり、鶴丸は三日月に肌を許す。
 今日もそういう日だった。鶴丸の部屋へ飲みにきた三日月と、そのまま。鶴丸は、髪飾りを取った三日月の寝乱れた髪に指を絡めて撫ですいた。
「……あー……、たく」
 この兄弟のような刀と、こんな関係になる予定はなかったものを。一体どうしてこうなったのか。今となっては考えても詮無いことだが、やはり、この人の肉がいけないのだろう。刀であったころは感じ得なかった感覚が、これまでと違った感情を呼び起こす。それが、鶴丸の戦に対する高揚であり、三日月の血を浴びた鶴丸への欲情だった。それだけのこと。
 まあ、もういいのだ、と鶴丸は思っている。最初は本意ではない関係だったが、今はもう許している。気持ちがいいし、少なくとも、これは退屈な行為ではなかったから。
「……さて」
 もう、起きるか、と思って、鶴丸は立ち上がろうとする。と、腕を引かれて布団に組み伏された。
「目覚めていたのか」
「つい先程な」
 にこり、と三日月は美しい笑みを浮かべて鶴丸に唇を寄せる。
「阿呆、よせ、もう朝だぞ」
「まだ日は登り切ってはおらん。今日は夜戦で、動き出すまでには時間はあるだろう? ほら、鶴や、楽しませてくれ」
「だから、よせと、ぁ、あ」
 折角着込んだ単衣を乱されて、つう、と太ももをなでられる。その指はそのまま湿り気を残す後孔に入り込み、くるくると中を解した。
「良い声で鳴くようになったなァ」
「く、この、ひっ」
 三日月はいたずら小僧のように笑むと、二人が被っていた布団の中にもぞもぞと入り込む。まさか、と思ったときには、もう鶴丸のゆるく立ち上がった陽物は、三日月の口に含まれていた。
「ん、んぅ、ひっ、んーっ」
 鶴丸は目を閉じて、ぴん、と足を反らせてのけぞった。ひ、ひゅ、と吐息が空を切る。体の奥から熱が湧き上がる。
 三日月のあの美しい唇が、男の陽物を含んでいる。その事実に、頭の裏がかっと熱くなる。心も体も犯されて、もうこうなっては、どうにもならなかった。鶴丸の制御を超えて熱が膨れ上がり、この男に抱かれたい、熟れた中を思い切り亀頭で擦り上げてほしい、などと、どうしようもない欲がふつふつと湧き、止まらなくなってしまうのだ。
「ぁ、く、かづき、みっ」
 もう、挿れろ。そう言葉を紡ごうとした舌が冷え固まったのは、音がしたから。コツコツ、と、ふすまが叩かれた後、開かれそうになり、鶴丸はとっさに悲鳴を上げる。
「ま、待て!」
 鶴丸はとっさに、布団から三日月が見えていないか、布団の膨らみも、膝を立てて膨らんだ、という風に見えなくもないのを確認する。大きな布団に感謝しながら、自分の肌蹴た単衣を着直して、外の声に応えた。
「……怒鳴って、悪かった。少し驚いて」
「それは。すまなかった」
「国広か。どうした?」
 その声に、声をかけた主、国広は、許されたと思ったらしく、ふすまをすっと開いた。そして鶴丸の顔を見るなり、顔をしかめる。
「朝、五虎退の虎が、どこかへ行ってな。朝餉の当番で探したから、準備が遅れそうだ、と言おうとしたが。昨夜は、三日月と一緒だったのか?」
 国広の台詞に、事実とはいえ忸怩たる思いがした。件の武勲勝負の勝敗が決して以来、三日月と鶴丸の仲は大社では周知の事実だが、やはり、それを仲間に、それも国広に指摘されると、何とも複雑な気分になる。
「……まあな」
 しょうがないことであるのも知っているから肯定し、三日月と昨夜も寝所を共にしたことは白状したが。もちろん、肝心なところは抜かした。三日月は、昨夜一緒だったどころか、今も一緒だ。布団の中にいる。
「服が乱れている」
 そんなことも知らず、国広は親切心から指摘をしてくれる。いつの間に、と鶴丸が驚く、だが、いつも通りの事実を。
「色々見えてるぞ。朝餉に出るときは、見えないようにしておけ……蛍たちの教育に悪い」
 国広は、ほの赤い顔をしつつも、律儀に鶴丸の首筋を示した。そこには三つ五つと言わず、隠すのが億劫なほどに赤いあざが、肌蹴た胸元から覗いている。鶴丸も三日月には痕をつけるなと言っているが、聞かれた試しは一度としてなかった。
「あ、すまなかっ……!」
 鶴丸は、国広に見られたことにバツが悪く答えようとして、言葉をとぎらせてしまう。……とんでもないことをされたから。
「どうした?」
「あ、いや、なんでもない」
 鶴丸は平然とした顔を取り繕いながらも、内心では、三日月への罵詈雑言をまき散らしていた。何せ、三日月ときたら、動きでバれるのを懸念しているのか、鶴丸の陽物を舐めはしないものの、中に納めたままの指をくちゅくちゅと悪戯に動かし始めたのだ。時おり、前立腺に触れるか触れないかの距離まで指を進め、去っていく。
「ちょっと熱っぽくてな」
「そうか。それは……起こして悪かった」
「いや、いいんだ」
 応えながらも、はあ、と吐き出した吐息に色が含まれる。
 三日月の指が良い所に当たりそうになっては――遠のいていく。たまらない。鶴丸はこくんと喉を動かして、腰を無意識にゆする。三日月が、忍びやかに笑う気配がした。息が太ももにあたって、ぞわぞわする。
「……なあ、国広」
「なんだ?」
「俺は、朝餉を過ぎても寝ているかもしれないから、そのときは、眠らせておいてくれるか?」
「分かった。大事にしろよ」
「ぁあ、ありがとう」
 それだけ。それだけは気力でなんとか会話を保たせた。国広が、ふすまを閉めて去っていくのを見送って、は、っと鶴丸は肩で息をする。
「あっ!?」
 その呼吸が落ち着いたら、三日月を叱りつけるつもりでいた。だが、叶わない。三日月の行動が、鶴丸の叱責より早かった。
「ぁっ、ぁぁぅっ、やっ、ぁっ!」
 何せ三日月は、国広の気配が遠のいたのと同時に、鶴丸の焦らされ熟れた中を執拗にえぐりだしたのだ。
「あ、あああっ、ぁ、ぁああっ」
 鶴丸は布団に倒れてしまう。足を跳ね上げさせ、布団を強く握りしめる。
 三日月が笑いながら、鶴丸の顔を見下ろすように布団から出てきた。
「みか、み、かぁづっ」
 鶴丸は、自分が文句を言いたいのか、先を促したいのか、最早解らなくなってしまう。さっき触れてほしいと思った前立腺が、何度もえぐられる。鶴丸は気持ち良さにびくびくと足をのけぞらせて達しそうになった。
「ぁっ! ――ぁ、ぅ」
 その直前に、指を引き抜かれてしまう。
「ぁ……あっ」
 ひくん、と後ろが惜しげに指を食いしめたが、結局、すべて抜かれた。鶴丸の空になったそこは、三日月の指の形に開いて収縮している。なのに、三日月は手を伸ばす気配がない。狂おしい、腹の奥で疼く熱に、唾液が口の端から滴り落ちた。
「鶴や」
「……あ?」
 呼ばれ、とろり、とした目を鶴丸は三日月へ向ける。
「中に、入れたくてな。足を、開いてくれ」
「あ……く、そ」
 言われた内容を理解し、鶴丸は悪態を吐いたが、形だけだ。
 熱に犯されて、もう、ままならない。
 鶴丸は、三日月に乞われるまま、足を開いた。三日月に腕を伸ばし、その体を受け入れる。
「んっ、んンッ」
 上体を倒してきた三日月と口吸いをしながら、陽物を穿たれ、その質量に、鶴丸は軽く気をやる。
 蜜のような快感に、思考が溶けていく。
 もっと、そう零してしまった鶴丸は、三日月の元へ朝餉が遅れるのを知らせるのが誰か、その人物が、三日月がいないことを見て、どんな行動に出るかも、朝から、それも国広が居るときですら熱を与えようとする三日月を怒ろうとしたことも、すっかり頭から抜け落ちていた。もう駄目なのだった。生身の感覚が強すぎて、それに不慣れな鶴丸は、呑まれるばかりになってしまう。
「ん、ゃあっ、ぁ、あぁっ」
 あられもない声を上げ、三日月の腰に足を絡めた鶴丸に、三日月は、花綻ぶように笑う。
「鶴、きもちいな」
 ささやいて、そうして、鶴丸の知らぬ感情、知らぬ感覚、見知らぬ生の一つ一つを吹き込み、自身も吹き込まれたその男は、深く、深く鶴丸の口を吸った。
。.:*ฺ✤ฺ。.:*ฺ✤ฺ。.:*ฺ✤ฺ。.:*ฺ✤ฺ。.:*ฺ✤ฺ。
神速、とでも言うのだろうか。
抱き竦められたまま、ふわ、と身体が浮き上がる感触がした。が、それは一瞬。気付けば自分の眼は天井を映し、捕えられた手首は、纏めて頭上で畳に縫い止められていた。

「誰の、部屋だ…」
「さあなぁ、まあ気にするな」
「気にするに決まっ……っんぅ!」

言葉は三日月の唇で、喉の奥に押し込まれた。ぬる、と濡れた感触が鶴丸の舌を絡めて吸い上げる。
土と、埃と……血の匂い。鼻腔を擽る軍場の空気に、鶴丸の身体が震えた。恐怖ではなく、自身にも覚えがある昂揚感に。

「ん、んんぅ…!」

ぎり、と押さえ込まれた腕に痛みが走り、鶴丸が僅かに身を捩る。三日月は漸く唇を離し、伝う唾液を追って頤へと口付けた。

「ふふ、すまんな。…まだ少々、昂っているのだ」

ぐ、と腰に押し当てられた感触。布越しとは言えその熱と硬さを如実に感じ、鶴丸はかっと頬に朱を走らせた。

「み、か…づき…」
「…流石に、こうも長くお前と離れていることになるとは思わなんだ。…もう、辛抱するのも限界でな…」

袴の裾からするりと侵入した三日月の指が、太股から付け根まで撫で上げる。

「…鎮めてくれぬか…? お前の、内で…」

甘く、それでいて否とは言わせぬ響きで囁かれ、鶴丸はこくりと小さく頷いた。
「ひっぃ、あっ…あぁ…!!」
「…これ、力を入れるなと言うに。…いつまで経っても、生娘の様だ…」

香油で僅かばかり慣らされただけで受け入れた昂りは、痛みと快楽を伴って鶴丸を追い立てる。幾度も暴かれ、形も大きさも覚えてしまう程に夜を共にしているとはいえ、あまり慣らされないまま受け入れたのは今回が初めてだった。

「ふ…っぅ、あ…ぅ…っ」

呼吸もままならず、はくはくと口が僅かに開く。眦からは幾筋もの涙がこめかみを伝って畳に零れる。力を抜くどころかぎちりと強く締め付けてしまい、その衝動で三日月が小さく呻いた。

「やれやれ…このままではいかんな。…鶴よ。暫しの辛抱だ」

ず、と三日月が腰を引いた。鶴丸の中を苛んでいた圧迫感が僅かに薄れ、小さく安堵の息を吐く。が、すぐさま最奥まで突き入れられ、びくん、と弓形に背が跳ねた。

「ぃあぁあんっ!! やっ、ま…あぁあっ!!」

否定の言葉を言わせぬ様に、三日月が腰を打ち付けてくる。消えてしまいそうな意識を保とうと、鶴丸はぎり、と唇を噛み締めた。
熱い塊が己の中を行き来する感覚はまるで責め苦の様で、いつまでこれが続くのかと考えながら、必死に耐える。時折中の凝りを掠められる度、じわりと湧き上がる快楽で頭が痺れた。
痛みの中にも感じる快楽を捉えて、鶴丸は甘い吐息で唇を解く。
94 無名さん
アブラカタブラって誰だっけ
「…っか、づき…みかづき…っ…。あ、あっ…あっ…」
「っふふ…、そのような声で…呼んでくれるな…。愛い奴だ…」

投げ出したままだった足が抱え直され、三日月は一際強く鶴丸の奥壁を穿つ。

「ふ、ぁ…あぁ……っ!」

びくりと小さく震え、互いの身体の間で熱が散った。同時に身体の奥から熱く満たされる。
ふわりと、蕩けた表情で見上げ、鶴丸はその背にそっと腕を回した。


「…も、う…やめっ…あぁっん!」
「そうは言ってもなぁ…。お前も止めて欲しくないのだろう?」
「誰も、そんなことっ…あ、あ…!そこ、は…っ」
「ふふ、こちらの方が素直だな」

二人の睦言を襖の外で聞きながら、薬研は、はぁぁと大きく溜息を吐いた。

(連中の手入を終えて戻ってみれば、これかよ…。つか、やるなら自分の部屋でやってくれ)

まだしばらくは終わらないであろう、中の様子をちらりと窺い、ごろりと横になる。
欠伸を一つ空に投げて、薬研は静かに目を閉じた。

(まあ、戦の後だし…大目に見るか)
「っ……ん、…み、みか、づきっ」
「なんだ」
「もう、それ……もう、いいからっ」


今宵が初めてという訳でもあるまい、が三日月は鶴丸の身体を丁寧過ぎるほど、最早執拗とも言える手付きで解していた。

こうして色に耽るのは久しい事ではあるが、三日月は疾うに鶴丸の身体など知り尽くしていた。
どう扱われ、何処を触られるのが好きで、何処を触ってやればおんなになるのかも、全て。

故に態とそこだけを触れず執拗に指で身体の裡を暴かれているのだから鶴丸にしてみればたまったものではない。
しかしそれも三日月の悪戯心なのは解っている。だから素直になりたくないのだ。

まこと人の心とは厄介だ。示し合わせた訳でもなかろうに、どちらが先に折れて求めるかを探りあっている。

三日月は鶴がその翼を広げ月が欲しいと鳴く処が見たいのだ。

雅な言葉で包んではみたが要するにこうして嫌になるほど焦らして鶴丸の口から三日月のものが欲しいと懇願させたいのだ。
悪趣味にほかならん、と鶴丸は唇を噛んだ。
「斯様に噛めば切れてしまうぞ。おまえも素直じゃないな」
「それも、お互い様……だろ……んっ」
「あぁ、こら、脚を閉じるな。もっとよく見せろ」
「くそっ、じじいのくせに大人気ないぞみかっ、あっ、んぁあっ……!」

ゆるゆるとした攻め手に油断してまくし立てたところで、焦らし続けた一番悦い所を抉ってやると、鶴丸は堪えることも出来ずにあられもない声をあげ、触れられず熱を吐き出す事もできなかった魔羅から僅かに白濁を零し、腹を汚した。
突然与えられた刺激と波のように押し寄せる悦楽に身体を震わせる鶴丸の耳許に三日月は吐息がかかるほどに唇を寄せた。

「ほら、何も難しい事を言わずともよい」

人の身体に慣れたとはいえその裡で未だ飼い慣らす事の出来ぬ灼けるような熱を吐き出す事も鎮めることもかなわず、理性と本能の境で揺らぐ鶴丸の耳元で、とびきり甘い声でそう囁いてやると、意地を張っていた鶴丸もとうとう陥落した。


「月が、欲しい」
「月を得て、どうしたい」
「……飛びたい。はやく、はやく……」

鶴丸が白い腕を三日月の首に絡めそう強請ると、三日月は満足げに笑みをこぼした。

「まっこと、愛い奴じゃな」

冷たい三日月の指がずる、と引き抜かれると、其処を埋めるものを求めて薄く綻ぶ蕾に先程とは比べ物にならぬ熱が宛てがわれる。
充分過ぎるほど時間をかけて慣らしたそこはすんなりとその熱を受け入れる。
冷たい三日月の指がずる、と引き抜かれると、其処を埋めるものを求めて薄く綻ぶ蕾に先程とは比べ物にならぬ熱が宛てがわれる。
充分過ぎるほど時間をかけて慣らしたそこはすんなりとその熱を受け入れる。

「刀が鞘になるとは驚きだな」
「じいさん、助平な冗談はもう少し粋に言うもんだぜ」

美しい貌でさらりと無粋な喩を口にする三日月の下で鶴丸が眉を顰めた。

「すまんな、お前があんまり素直に受け入れるものだから」
「誰の所為……んっ、あ、待てっ、急にうごく、なっ」

「待てぬ」


鶴丸はこの食えない爺に焦らされていると思っていたが、それは三日月とて同じ事だった。


まったく、自分がこんなにも欲深い生き物に成り果てるとは思いもしなかった。

縁の深い者に慕情を抱き、初めこそ穏やかであったその愛情も時と共に人という器に馴染む程にどろどろと形を変え、時に愛欲に塗れ、こうして獣のようにまぐわう様になってしまった。


「あぁ、よきかな。鶴や、もっと鳴いてみせろ」

肉を穿つ度に、鶴の白い喉は鳴き声をあげ、甘く三日月の耳をくすぐった。

「ああぁっ……!や、いやだ、それ、あぁっ」
「嫌か、なら仕方ないのう」
「あっ、ちがっ、ちがうっ!」

試すように腰を引くと、鶴丸は脚を三日月の腰に絡め、繋がった其処も離すまいと締め付ける。
そのさまがなんとも厭らしく、いじらしい。
冷たい三日月の指がずる、と引き抜かれると、其処を埋めるものを求めて薄く綻ぶ蕾に先程とは比べ物にならぬ熱が宛てがわれる。
充分過ぎるほど時間をかけて慣らしたそこはすんなりとその熱を受け入れる。

「刀が鞘になるとは驚きだな」
「じいさん、助平な冗談はもう少し粋に言うもんだぜ」

美しい貌でさらりと無粋な喩を口にする三日月の下で鶴丸が眉を顰めた。

「すまんな、お前があんまり素直に受け入れるものだから」
「誰の所為……んっ、あ、待てっ、急にうごく、なっ」

「待てぬ」


鶴丸はこの食えない爺に焦らされていると思っていたが、それは三日月とて同じ事だった。


まったく、自分がこんなにも欲深い生き物に成り果てるとは思いもしなかった。

縁の深い者に慕情を抱き、初めこそ穏やかであったその愛情も時と共に人という器に馴染む程にどろどろと形を変え、時に愛欲に塗れ、こうして獣のようにまぐわう様になってしまった。


「あぁ、よきかな。鶴や、もっと鳴いてみせろ」

肉を穿つ度に、鶴の白い喉は鳴き声をあげ、甘く三日月の耳をくすぐった。

「ああぁっ……!や、いやだ、それ、あぁっ」
「嫌か、なら仕方ないのう」
「あっ、ちがっ、ちがうっ!」

試すように腰を引くと、鶴丸は脚を三日月の腰に絡め、繋がった其処も離すまいと締め付ける。
そのさまがなんとも厭らしく、いじらしい。
「戦場でも美しいが、閨でもほんに愛らしいな、鶴よ」

「は………っ、ああっ……」

鶴丸とて本意ではなかった。
はじめは戯れのつもりだった。人間のように色恋の真似事をしてみるのも、一興であると。
もとより長い人生…いや刃生だ、一度や二度くらいなら抱かれてみるのも悪くはないと。

ところがその一度二度の交わりが己の理性の箍を外し、仮にも男の身体を与えられているのに、その快楽
けらく
に溺れ、乱れ、果ては三日月に女にして呉れと強請る様になってしまった。酔狂にも程がある。

月は人を惑わせるとは、よく云うたものだ。三日月はまこと月そのものだ。甘美な毒のように自分を狂わせる。

「日が昇れば、元に戻るだろうか」

互いに熱を吐き出し、手足を絡ませたままくたりと横になった床の中で、鶴丸がそう独りごちた。

「なんの話だ」
「こっちの話だ。……それより寒くて仕方ねえな」
「雪の所為だな。ほら、もっと近う寄れ」

ずっと肌を晒していて冷えきった鶴丸の身体に三日月の体温がじわりと染み渡る。
「子供みたいだな。けど、悪くない」


人の姿を得て初めて理解したそのぬくもりに身を任せ、二人は目を閉じた。