先月のことです。Aと俺は山へ測量に入りました。
山の測量に行く時は最低三人で行くようにしていたんですけど、行くハズだった奴がインフルエンザで倒れて、他に手の空いてる人も居なかったんで、しょうがなく二人で行くことになったわけです。

でもやっぱり不安だったんで、境界を案内してくれる地元のおっさんに、ついでに測量も手伝ってくれるように頼みました。
おっさんは賃金をくれればOKということで、俺たちは3人で山に入りました。

前日からの雪で山は真っ白でした。
でもポールがよく見えるので、測量は意外にサクサク進みました。

午前中一杯かかって尾根の所まで測ったところで、おっさんの携帯が鳴りました。
おっさんはしばらく話をしていましたが、通話を終えると、急に用事ができたので下りると言い出したのです。

おいおいって思ったんですけど、「あとは小径に沿って土地の境界やから、そこを測っていけばイイから」って言われて、小径沿いだったら大丈夫かもな、まぁしゃーないかみたいなムードで、結局Aと俺の二人で続きをやることになりました。

ところがおっさんと別れてすぐ、急に空が曇ってきて天候が怪しくなってきました。
このまま雪になるとヤバイよな、なんて言いながら、Aと俺は早く済まそうと思ってペースを上げました。

ところで、俺らの会社では山の測量をするのにポケットコンパスって呼ばれている器具を使っています。
方位磁石の上に小さな望遠鏡が付いていて、それを向けた方向の方位や高低角が判るようになっています。
軽くて丈夫で扱いが簡単なので、山の測量にはもってこいなんです。

俺はコンパスを水平に据え、ポールを持って立っているAの方に望遠鏡を向けて覗きました。