五年ほど前の出来事。宮大工を生業にしている五味さんは友達のためにいい物件がないか探していた。

どうやら友達が田舎から仕事探しのため都会に来るっていうんで、その間に住むためのまあ仮の住居を探してくれと頼まれた。

安く、住み心地の良い、風呂トイレの付いたそんなアパート。探してみるとないものでなかなか見つけられなかった。

仕方なしに2ヶ月あまり五味さんの家に厄介になっていたという。それから2ヶ月と少しの後いい物件が見つかった。

安く、住み心地は抜群、風呂トイレ付き。ここまでは揃っていたが、ちょっと安すぎるのと南向きの窓からの景色が汚いドブ川という点をのぞいて、なおかつ流れてくるドブの臭いに耐えさえすれば良い物件だった。

まあこんな物件はそうそうないし、また1から探すのもやだったから即決で住んじゃった。

1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月と半月、そのくらいだったと思う。その時に奴から電話が来た。ちょっと慌てたような感じで電話越し

「五味、ちょっとね不思議なんだ。この物件。ある部屋だけねちょっと落ち着かないんだよな」

落ち着かないという単語が少し引っかかって五味さんは彼の住む部屋に向かった。

車で一時間、間取りは2LDK。畳の部屋。洋間とキッチン。それから風呂とトイレ。一時間かけて着くと、彼が階段の下で待っていた。

「ずい分待ったな」

するとその落ち着かないという部屋に案内された。入った途端、落ち着かないという言葉の意味を知った。

壁、床、天井、とにかく部屋中黴だらけ。青いのやら黄色いのピンクっぽいの。形も粉のようなものからキノコのようなわりと固形のものまで。

ありとあらゆる種類の黴がわんさか生えていた。まるで黴の密林。もしくはジャングル。

襖で仕切られたその部屋に入った瞬間、思わず襖を閉めて洋間の部屋に戻ってきてしまった。

「おい、業者かなんでも屋に頼んで掃除くらいやってもらえよ、金あるんだろ?」

すると西崎さん(友達)は平然と言う。 

「頼んだよ、もう何度も何度も。でもだめなんだ。一週間もするとこの有り様。もとに戻っちまう。だからきりがねえからもう頼まん」