14 無名さん
放課後、名前も知らない人に呼び出されて裏庭に向かう途中、バスケ部の使っている体育館からふらふらと出てくる影がひとつ。そのまま石段に座り、ぐったりと項垂れる。

見覚えのある黄色い髪の彼は、我が海常高校の一つ隣のクラスの同級生で、出身中学も同じ黄瀬涼太だった。

共通の知人もいるし、目が合えば会釈するレベルで、知り合いと呼べる仲ではないが、彼は色々と有名なので多少なりとも彼のことは知っていた。

余程疲れているのか、彼の肩にかけていたスポーツタオルがふわりと飛んで、通りがかったわたしの足元へと落ちた。タオルと彼を交互に見ると、友人に見せてもらった雑誌の紙面とは全く違い、汗だくで髪の毛は乱れ、顔に小さな切り傷までできている。

モデルと両立してるなんていうから、どれだけのものかと思っていたので、「真剣にやっている」であろう彼の姿はわたしが勝手に作ったイメージを払拭した。


「…黄瀬くんも、本気でバスケしてるんだね。いいじゃん、そういうの。かっこいい」
「……え、」
「やっぱり汚れて汗まみれになってる姿が一番かっこいいよ。頑張ってね」


そう言って、地面に落ちていたタオルを拾って彼に手渡すと、わたしはそのまま彼に背を向けて呼び出された場所へと向かうのだった。


まさかこれが、わたしの生活を全て変えるきっかけになるなんて知る由もない。

これが、わたしと彼の出会いだった。


これの何処で黄瀬が夢主に惚れたのか全くわからない