>>14

「なにやってんスかー。はよして下さいよー」

Aのその声で俺は我に返りました。

コンパスを読んで野帳に記入した後、俺は小走りでAのそばに行って尋ねました。

「今、お前の後ろに女立っとったぞ、気ぃついてたか?」

「またそんなこと言うて、止めてくださいよー」

笑いながらそんなことを言っていたAも、俺が真剣だとわかると、

「……マジっすか? イヤ、全然わかりませんでしたわ」

と、表情が強ばりました。

Aと俺は改めて木立の方を探りましたが、木と雪が見えるばかりで女の姿はありません。

「登山してるヤツとちゃうんですか?」

「いや、そんな風には見えんかった……」

そこで俺は気付きました。
あの女はこの雪山で一人で荷物も持たず、おまけに半袖の服を着ていたんです。

「それ、ほんまにヤバイじゃないっスか。気狂い女とか……」

Aはかなり怯えてました。
俺もビビってしまい、居ても立ってもいられない心持ちでした。

そんなことをしているうちに、周囲はだんだん暗くなって、とうとう雪が降ってきました。

「はよ終わらして山下ろ。こらヤバイわ」

俺たちは慌てて測量作業を再開しました。