>>15

天候はドンドン悪化して、吹雪のようになってきました。

ポールを持って立っているAの姿も見にくいし、アッという間に降り積もる雪で、小径もわかり辛くなってきました。携帯も圏外になっていました。

俺は焦ってきて、一刻も早く山を下りたい一心でコンパスを据え付けました。
レベルもろくに取らずに、Aの方に望遠鏡を向けようとしてそっちを見ました。

すると、さっきの女がAのすぐ後ろに立っています。
今度は前を向いているようですが、吹雪のせいで良く見えません。
Aは気付いていないのかじっと立っていました。

「おーい!」

俺が声をかけてもAは動こうとしません。

すると、女のほうが動くのが見えました。
慌てて望遠鏡をそっちに向けてビビリながら覗くと、女は目を閉じてAの後ろ髪を掴み、後ろから耳元に口を寄せていました。
何事か囁いているような感じです。

Aは逃げようともしないで、じっと俯いていました。
女は、そんなAに囁き続けています。

俺は恐ろしくなって、ガクガク震えながらその場に立ち尽くしていました。

やがて女はAの側を離れ、雪の斜面を下り始めました。
すると、Aもその後を追うように立木の中へ入って行きます。

「おーい! A! 何してるんや! 戻れー! はよ戻ってこい!」

しかし、Aはそんな俺の声を無視して吹雪の中、女の後を追いかけて行きました。