>>16

俺は測量の道具を放り出して後を追いました。
Aはヨロヨロと木立の中を進んでいます。

「ヤバイって! マジで遭難するぞ!」

このままでは自分もヤバイ。本気でそう思いました。
逃げ出したいっていう気持ちが爆発しそうでした。

周囲は吹雪で真っ白です。
それでも、何とかAに近づきました。

「A! A! しっかりせえ! 死んでまうぞ!」

するとAがこっちを振り向きました。

Aは虚ろな目で、あらぬ方向を見ていました。
そして、全く意味のわからない言葉で叫びました。

「*******! ***!」

口が見たこともないくらい思いっきり開いていました。ホンキで下あごが胸に付くくらい。
舌が垂れ下がり、口の端が裂けて血が出ていました。
あれは完全にアゴが外れていたと思います。

そんな格好で、今度は俺の方に向かってきました。

「……****! ***!」

それが限界でした。
俺はAも測量の道具も何もかも放り出して、無我夢中で山を下りました。

車の所まで戻ると携帯の電波が届く所まで走って、会社と警察に電話しました。

やがて捜索隊が山に入り、俺は事情聴取されました。
最初はあの女のことをどう説明したらよいのか悩みましたが、結局見たままのことを話しました。
警察は淡々と調書を取っていました。
ただ、Aに女が何かを囁いていた、というところは繰り返し質問されました。