17 無名さん
続き

腹の底にだんだんたまってくる黒いいらだちを山口にぶつける。
でもそのいらだちが薄れそうな様子はない。
目の前で日向と王様と 名前 が練習を繰り返している。

「 名前 !」

思いの外大きな声が体育館に響く。
きょとんとした顔の日向と王様。
当の 名前 は視線をこっちによこしただけだ。

「ちょっと、きて」
『?』

腕を強引につかんで引っ張りだす。

「 名前 !おい、月島!」
『先に進めといて』
「でも!」
『すぐ戻る』

腕を引いているのに 名前 は日向と会話をしている。
いらだちから、僕は歩くスピードを速めた。

『月島、痛い』

冷静な声が後ろから投げられて、ようやく僕は力任せに腕をつかんでいたことに気付いた。
でも正直、そっちまで気を回す余裕なんてない。
名前 を壁に押し付ける。
その目に一瞬動揺が浮かび、すぐ消えた。

『なんなの、つきし、ん...!』

これ以上 名前 に月島って呼ばれたくなくて、強引に口を塞いだ。
...こんなの、僕らしくない。
名前 が苦しくなるころを見計らって唇を離す。

『なん、なの』
「...名前」
『は?』

怪訝そうに眉をひそめる雪乃。

「だから、」

「日向のこと名前で呼ばないで」

ぱちくり。
そういってもいいような感じで 名前 の目が瞬く。
無言の時間が長くなるほど恥ずかしくなってきて、僕はまた強引に抱き寄せた。

『つまり、自分が名字呼びなのが気に入らないの』
「疑問符がぬけてるんだけど」
『そういうことでしょ、』

『蛍』

不意打ちにささやかれて、思わず硬直してしまう。
それを知ってか知らずか、珍しくころころ笑い声が聞こえる。

『し...、日向に嫉妬したの、珍しい。音駒の主将に言われても何も感じなかったくせに。ねぇ蛍』
「うるさい」

日向の呼び方が変わったことに少し優越感を感じつつ、ここぞとばかりに僕をからかうその口を、再び僕は塞いだ。

嫉妬したの、悪い?

(日向、影山、お待たせ)
(あれっ、呼び方...!)
(文句は嫉妬深い蛍に言って)

(ツッキー機嫌治ってる!)
(うるさいよ山口)