18 無名さん
落とした視線を元に戻すと、目の前の男は何故か妖しい笑みを浮かべていた。
「…何ですか。」
「私は君を、厄介などと思っていないぞ。」
「え…?」
「どうして世話を焼くのか?君は鈍感だな。」
マスタングの右手が伸びてくる。
緊張でサクラの身が強張った。
何を考えてるんだ…?
動けない体でそう思った時。
なんと彼はサクラの口元についたクリームを指で取り、そのまま迷うことなく自分の口へ運んでしまった。
「Σっ…!?////」
「そんなの、私が君を気に入っているからに決まっているだろう。」
「な…なっ…何すんですか大佐!!////」
「何って、魅力的な男女のデートならこれぐらい当然じゃないか。」
「Σな、何がデートですか!からかわないでください!!」
「世間では異性とこうして会うことを、デートというのだよ。」
「あ、あたしはそんなつもりじゃ…!あたしはただ息抜きがしたかっただけで、これは別にそういう意味なんかじゃなくて…、その…////」
「……フッ。」
焦って頭が回らない…!
パニックになったサクラがしどろもどろに言い訳していると、それを見ていたマスタングは耐えきれずに吹き出した。
「わ、笑わないでください!!」
「すまない、冗談だ。君の初々しい反応が可愛らしくてな、つい。」
「…本当に怒りますよ。」
「まぁ落ち着きたまえ。端からすれば、私達はそう見えてもおかしくない状況だ。…妙な噂になりたくはないだろう?」
「……っ!………////」
他の客から注目されているのに、サクラはようやく気がついた。
林檎のように真っ赤になった顔を伏せ、恥ずかしそうに小さく縮こまってしまった。
あぁ…、そんなところがまた愛おしい…。
いっそこのまま、彼女を私のものにしてしまいたい…。
まともに顔を合わせられなくて目を背けるサクラを、彼は紳士的な笑顔で見つめていた。
男は満足していた。
何故なら最高の形ではないが、本来の目的だったことが今まさに実現しているのだから。
勝負には負けても、彼女と二人きりという幸せな時間を手に入れたマスタングであった。


END...