私は看護師として働いています。患者さんにも入院生活の長い方がいると情もわいてしまい、そんな方が亡くなれば悲しみも大きい物です。

これは最近の話しです。

Aさんもそんな方々の中の一人ですが、末期の癌で大変苦しんでおられました。それでも普段は穏やかで優しいお婆さんで、苦しくても笑顔を見せて下さる方でした。

ただ…亡くなられるその日だけは、いつものAさんと違って物凄い形相で、ベッドの上に立ち上がり

「死にたくない!死にたくない!死にたくない!」

と何度も叫んで、医師や私達看護師の方を向き直したAさんは、その場で倒れこみ…その日の夜にお亡くなりになられました。

ただ…確かに私達の方を向き直したAさんの視線は、あの時私の目と重なったのを覚えています。

その夜のAさんの死亡処置に私が担当で入りました。複雑な思いでした。手際よく体を清拭し、綿積めをし、着物を着せて手を組み…

お顔を整え、最後は葬儀会社の方が来られて、搬送する車にAさんを乗せて去って行くまでをお見送りした後、悲しい気持ちを切り替えて仕事につきました。

勤務が終わりアパートに戻って床につこうとしていました。疲れていたはずなのになぜか寝付けにくく、目を閉じてても、時間だけが進んでいる感覚でした。

しばらくして、突然金縛りになり…疲れのせいだと思い、目を閉じたまま解けるのを待っていました。でも疲れとは違う恐怖感を覚え、窓ガラスがきしみ始めました。

ラップ音が始まり、ドアを開け閉めするような音も聞こえました。そして何かが…入ってきた事が分かりました。ゆっくりとでしたが、床から…

ズルズルッと何かがはいずって近付いてきたのが分かりました。