22 前スレ82
「真は部室かな…?」


揚羽は足音を立てながら走っていた。その手にバスケ顧問から渡されたプリントを抱えていて頼まれたものなのだろう。早く行かなければ、大切な人を待たせている焦りからか廊下を走る足は段々速くなっていく。
走りながら揚羽はこの廊下の人気のなさに驚いた。この時間であればまだ人がいてもいいはずなのに人っ子一人見当たらない。そこにあるのは長い廊下だけだ。


何か変だな


まず揚羽はそう思った。普段この時間にどれだけの人がいるか分かっているから余計に変だと感じてしまう。

このときの彼女はまだ知らないのだ。自分が奇怪な世界に紛れ込んでいることに。この人がいない廊下が始まりであることに。


いち早く花宮のところにいこうとした揚羽の目の前に、何かが転がって来た。踏んでしまう!身の危険を感じて足を止め、視線を下に下ろすと茶色い筒のようなものが上履きにコツンと当たっていた。


「これ…」


その茶色い筒がトイレットペーパーの芯であることにすぐ気が付いた。だが同時に違和感を覚えた。何故こんなところに転がってきたのだろう。しゃがみ込んで芯を拾って眺めていると白い何かが視界に映った。


「………?」


白い何か、はトイレットペーパーだった。それは何かの道筋を表しているように思える。
何故こんなところにトイレットペーパーが?この辺りに人の気配というものを感じない分、その存在が異様さを掻き立てていた。
一体どこからこのトイレットペーパーは転がってきたのだろうか。揚羽は紙が作りだした道筋を視線で追うと女子トイレに続いていた。


「……………」


揚羽はゆっくりと足を動かす。異様さを感じていながら動いてしまうのは彼女の中にある好奇心がそうさせているのだろう。いつもの速度よりゆっくりと歩きながら揚羽は女子トイレに足を踏み入れた。見た感じ人がいるわけではなさそうだ。ただ紙が一つの個室に案内するかのように伝っていた。
揚羽はもしかしたら自分が気が付かないだけでいるのかもしれないと「誰か、いるんですか…?」と問いかける。