田舎の祖母から聞いた昔話の類の話だ。

ある某所にAという高校生の少年と、その家族が引っ越して来た。
新天地と言えば大袈裟だが、新しく住む土地に着いたことで、Aは期待と不安で胸を踊らせていたそうだ。

新住宅の立地はそれ程人気の多い場所じゃなかったのな、家の周辺で目立つものというか目印になりそうなものは、斜め向かいにある廃寺院だけだった。

両親は近辺に挨拶に行ったし、俺はこの辺ぶらぶらしてみようかな…Aはそう思い、辺りをぶらつこうとした時だった。

ゴォォォォ…ン

…寺だ。今、寺から鐘の音が聞こえた。
…人がいるのか?

Aはしばらく廃寺院の門を覗き込むように伺っていたが、ついに足を踏み入れ、寺の中に入り込んだ。
途端、Aは鐘を突き終えたであろう僧らしき人物を発見した。

やはり人がいたんだ。よし、挨拶ぐらいはしておくか。
ということで、Aは一瞥をくれるべくその僧に近付いたのな。

…ところが、この僧というのがどこか変だった。
そう言えばAが僧を発見する前から、この僧はAを見つめていた。まるでAが来るのを予想していたみたいだ…。

それにここは廃寺院…既に廃れた寺院でこの僧は何故鐘を突いていたのだろうか。
いやそもそもその鐘だ。何よりも鐘がおかしい。

鐘を突くには時間が明らかに不自然だったのだ。
夕暮れ時でもなければ丑三つ時でもない、今はただの午後の一時だ。なのに…

そこまで思い至った時、Aは初めて僧の表情に気付いた。
僧は……笑っていた。