この話は前島さんという方に聞いた怖い話。

前島さんの家の居間には昔から鏡が置いてある。しかしその鏡は全体的に赤錆に覆われていて何も映せない鏡だ。だが、それにもかかわらずその鏡はきちんと置いてある。

なぜそんななんの役にも立たない鏡をとってあるのか変に思っていたが、母親や父親に聞くと、きまって(あれはいい)とか(ちょっと忙しい)とかでごまかされていた。

そんな時に夜寝ていたとき尿意で目が覚めた。トイレに行こうと立ったときあの鏡に目がいった。瞬間、固まってしまった。

あの何も映せないはずの鏡に黒く細長い影が、左斜め下から右斜め上へ向かってすぅーっと移動するのが見えた気がした。

ええっと思ったが怖くなりその日からなんとなく鏡がある部屋で寝るのがいやになり、別の部屋で寝ることにした。

だが、その夜喉の渇きで目が覚め台所へ水を飲みに行こうとした瞬間、何かに蹴躓いた。なんだろうと足元を見るとあの鏡が転がっていた。

さては弟が怖がっていた自分を見て面白がってここに置いたなと思って、その鏡をもとの部屋に返そうと手に持った瞬間、その鏡の向こうから声がし出した。

女とも男ともつかない声で

「ダセ、ダセ、ダセ、ダセ」

そう聞こえた。

そのまま、鏡を持って父母にそのことを説明すると、父母はパジャマのまま近くの寺へその鏡ごと前島さんを乗せて向かった。

住職さんに父母がことの次第を伝えると住職は険しい顔になり、私たちは本堂へと向かった。

その本堂で聞いたところ、所々しか覚えてないが、どうやらその鏡は悪いものを閉じ込めた鏡で

錆びているのは自然にそうなったからではなく意図的に錆びさせて、この世と向こうの世界との入り口を遮断させるためにそうしてたらしいことがわかった。

それから錆びさせるだけではダメらしい。その悪いものが力を取り戻しつつある。そう言って鏡は寺が預かると言って、私たちは帰された。

それから父母にあの夜のことを聞いたこともあったがやはりごまかされ続けた。