>>29

先程とは打って変わって野太いしわがれ声が部屋の中に向けて放たれました。

ガンガンガン!

ガンガンガン!


激しくドアを殴りつける音。

ガチャガチャ!


ドアノブがもげてしまいそうな勢いで激しく上下しています。
同時に部屋中の窓という窓がガタガタと音を立てて震えだしました。

「キャーーーーーーーーーーー!」

Yさんは悲鳴を上げると気を失ってしまいました。
僕とJはYさんの上に覆い被さったまま何もできずにいました。

――どのくらい時間が経ったでしょうか。
気が付くと、あたりは明るくなってきていました。音も止んでいます。

「Yさん!」

僕とJは慌ててYさんを確認しましたが、Yさんは気を失っているだけで命に別状はなさそうでした。

あれほどの騒ぎにも関わらず、1階の大家さんも隣の部屋の住人も全く夜中の事は気付いていませんでした。
Yさんはその後アパートを引き払い、別の場所に引っ越しました。それからは何もないようです。