32 無名さん
幸村改悪


わたし、名字名前は今日からなんと、憧れの一人暮らしです。

いよいよ高校生にもなるし、家事バッチリアピールをし続けた結果、転勤族だった親もそろそろ定住させてあげたいとのことで一人暮らしを許してくれたのだ。ちなみに部屋はちょいと高いけど立派なマンション。広さも十分すぎるし、友達といっぱいお泊り会とかしたいな、なんて毎日がワクワクしすぎて死にそうだった。

そんなこんなで、入学前の春休み初日になり、わたしは一人荷物を抱えドキドキしながらマンションへとやってきた。他の荷物は業者さんが後々運んできてくれるらしい。胸を弾ませながらエレベーターに乗り込み、「212」とドアに書かれた待ち望んだ愛しのマイルームの鍵を開けた、ら。


「あっ……や、ん、ああ!」


なんということでしょう。そこにはリアルAVの世界が広がっていた。
33 無名さん
>>32続き


「…………………」


ちょっと待ってくれ、頭がついていかない。部屋を間違えたかとも思ったが、手元の鍵で開いてしまったのだから間違いないはずだ。え、ちょっとどういうことなのこれ。

茫然と玄関に立ち尽くしていると、ようやく男の方がこちらに気づいたらしく、口を開いた。


「………は?誰」
「誰、って……は?ちょっと何この女!つーかなんであんた精市の部屋の鍵持ってんの?ねえ!」


こっちが聞きたいよ!ちなみにこれは精市の部屋の鍵じゃなくてわたしの部屋の鍵だよ!と言い返したかったが、とりあえず女の人がぎゃあぎゃあ喚いてて口を挟む隙もない。とりあえず服着たらどうなんだ。

まあ、冷静に考えつつ空気を読むと、彼氏の部屋?にいきなり合鍵?を持った女が入ってきたわけで、そりゃあ不審に思うのもわかる。なんて考えていた時だった。


「いった……何すんのよ!」


なんとこのタイミングでいきなり、男の人が騒ぎ散らす女の人を突き飛ばしたのだ。そして次の瞬間、彼はそれはそれは綺麗な笑顔でこう言ってのけた。


「煩いんだけど。萎えた、邪魔。お前さ、さっさと出て行ってくれない?」


鬼畜、だ。鬼。本気でびっくりした。こんな非道な人間がこの世にいたなんて知らなかった。わたしもなんだかんだ温室育ちだったようだ。

そしてわたしはようやくここで気づいてしまった。この方が我が立海大付属のアイドルことテニス部の部長の幸村精市様だということに。