数年前の事でした。

当日、19歳の私は、入社して一年未満でした。業務内容は、車で花を届けるのですが、田舎なので色んな村へ回ります(基本は店頭販売です)。

私は、店主と共に少し離れた山に住む老夫婦の家まで配達へ向かってました。

基本は、一人で運転して配達を行うのですが、入社して一年は、道を覚えたりで店主に付き添いで行きます。

山を二つ越えた場所に、老夫婦(以後田中さん(仮)と書きます)の家があります。村人は少なく、歳よりの方しか居ない村です。

田中さんは、定期的に配達を頼んでおり、三ヶ月に一回、季節の花が欲しいと言われているので、店の選んだ夏の花を、今回は届ける予定でした。

車が村へ入って行くと、どうも様子が変で、田中さんの家の前に村人が集まって何かを喋っていて、なにやら深刻そうな様子でした。

店主と私が車を降りて近付いて行くと、人だかりの中心には、田中さんの奥さんが横たわっておりピクリとも動きません。家の中からは、旦那さんの唸り声(おそらく)が断続的に聞こえました。

店主が急いで家に入ろうとすると、村人の一人が手を抑えて止めました。

「この家は、もう終わりじゃ。行ったらあんたも巻き込まれるぞ」 

そんな事を言ってきて、周囲の村人も頷いています。店主が、「何故?」と問い掛けても明確な理由は言わず、頑なに入ることを止めます。

店主が村人と揉めていた時に、玄関がガラッと空いて、中から、田中さんがはい出てきました。上手く聞き取れなかったですが、「助けてくれ」と言っている様でした。

すると、一人の村人が何か薬のような物を飲み込ませると田中さんの体は動かなくなり、奥さんと寄り添うように、静かに横たわって居ます。

店主と二人で唖然としていたら、一台の軽トラが家の前に止まり、田中さん夫婦は担ぎ込まれ、そのまま、走っていきました。

後日談で聞いた話で、その村で昔から人が死ぬ時は、村の人間で楽にしてあげる風習があるらしく、最後の力を振り絞り家の外にいる村人の所まで来れたら、死を決意したと思われ、殺すらしいです。