数年前の夏、バイクでG県のK川に釣りへ出かけた。

土手を走りながらポイントを探していいポイントを見つけたのだが、土手は急で鬱蒼とした薮に阻まれ、辿り着くには更に進んだところから降り戻るしかなかった。

ポイント迄、巨大な岩に阻まれ何度も後戻りしながらも、辿り着いた。絶好のポイント!僕は釣りに没頭し日暮れかけているのも気付かなかった。

辺りは真っ暗“さて帰るか”と思ったが、困った。真っ暗で何も見えない。後ろを見ると、おじさんが一人夜釣りをしてる。

“釣れますか?”と尋ねると“今日はだめやぁ。もう帰るわ”しめた!このおじさんに付いて行けば土手の上に出られる。帰り支度を素早く済ましおじさんに訳を話し、後に続いた。

しかしこのおじさん、歩くのがもの凄く早い。必死についていったがやがて見失った。おろおろしてる僕に“おーい。こっちだぁ”とおじさんの声。助かったぁと声の方へ。しかし、おじさんの姿はない。

“こっちだぁ”と再びおじさん。どうやらその声は、土手の薮の中から聞こえる。最初に降りた場所より遥かに及ばない所だ。近道なのかな。と声のする方へ僕は急な土手を上っていった。

しかしそこは道というには、あまりにお粗末な道。ふと静かなのに不安を感じ“おじさん”と、問いかけると“こっちだこっちだ。はやくしろぉ”とおじさんの声。

ほっとして進むが、あまりに道が酷いので、思わず尋ねた。

「おじさん、ここから、本当に上に出られるの?」
……?返事がない。

「おじさん?いるの?」
「ああ、こっちだぁ」

「この道で出られるんだね?」
……

「おじさん、この道でいいんだね?」
「そうだぁ。はやく来いぃ」

「もう土手の上に、いるの?」
……

「おじさん!?」
「はやく、こぉぉ〜いぃぃ」