40 無名さん
 ナルよりも少し早めに帰宅した麻衣は、急いで自分の荷物を纏めた。
 元々持っていた物など高が知れていた。
 ボストンバック一つで麻衣の荷物は纏められた。
「ふ……う……」
 ここに住んでいたのはほんの少しだけだった。
 それでも、ナルと過ごした思い出が詰まっていた。
 麻衣は、最後の希望に賭けるように、自分の耳に嵌めていたピアスを外した。
 彼が自分を想ってくれていれば、いつか追い駆けて来てくれるかもしれない。
 そんな想いを込めて──────。
「さてと、これでよし!」
 オートロックのマンションなので、鍵はリビングのテーブルの上に置いた。
 ドアを閉めると同時に施錠される音を聴いて何度も思ったことがあった。
「鍵を持ってなくても鍵が閉まるんだから、簡単に密室殺人が出来るね」
 麻衣がそう言った時、ナルは笑わずにそうかもしれないと返したことを思い出した。
「ナルを知って、あたしは強くなったのかな? 弱くなったのかな?」
 ねえ、ジーン。
 あなたはどっちだと思う?
 麻衣は中有の彼方に漂う恋人の片割れに尋ねた。

リクエスト作品「麻衣の妊娠騒動〜B〜」

よくわからないしボストンバックじゃなくてボストンバッグだし