46 無名さん
あいのことば1
最近、とても億劫な仕事がある。
朝、郵便箱に届いた新聞を、最上階まで持って行くという、仕事。
一見、単純明快な仕事に思える。いや、確かに単純なのだ。体力的には。
問題は精神だ。毎日コレを続けた日には、いつかわたしは病むこと間違いなしだ。
さりげなく、他の人に仕事を回してはどうかと総務部長に進言したことがある。
だって、最上階はエリートの集まりだ。
うっかりドッキリな出会いを期待して、名乗りを挙げる女性は、きっと巨万といる。
それなのに、部長はわたしの話を全く取り合ってくれず、それどころか、ウチの息子可愛いだろうなんて、写真を見せてくる始末。
ええ、ええ。大変可愛いお子さまですね。鼻が長いのは、お母さま似ですか?
厭味ったらしく聞いてみたら、そうなんだ! と破顔される始末。まったく、やりにくい人だ。
しかたなく、わたしは今日も最上階を訪れる。
エレベーターで十数階登った所にあるそこは、景色だけは、まあ楽しめる。
それでも、わたしの心を癒すには、到底足りない。
最上階に着き、ドアが開く。
わたしは、ため息をついて、エレベーターを降りる。
そして向かう場所は、最上階の一番奥にある部屋。
白いドアの前に立つと、もう一度ため息をつく。
……あああ…、また来てしまった。
今日はいるかな? いないかな? ……希望的観測を含めて、いない方に一票。
僅かな期待に身を寄せながら、ドアの横にある内線電話を取る。
プル、プツッ。
部屋の主は、ワンコールもしないうちに電話を取ったようだ。
……いつもの事ながら、反応早っ。
「おはようございます、シーナです。今日の新聞をお届」
ガチャ。
「おはよう、サラ!」
ああ、今日も最後まで言わせてもらえなかったか。まあいいけど。
「おはようございます、シャンクス社長。こちらが本日の新聞でございます」
「ありがとう。今日もかわいいな、サラは」
「…恐れ入ります。それでは、失礼させていただきます」
若干押し付けるように新聞を手渡すと、一礼してさっさと来た道を戻る。
そんなわたしに、このイケメン社長は、必ず声を掛ける。
「サラ!」
「……何でしょう?」
わたしは、今持っている理性や知性や感性やらを総動員して、平静さを顔に張りつけて振り返る。
すると社長は、黙っていれば精悍な顔を、にっかりと崩して言うのだ。
「愛してる」
47 無名さん
>>45
―――――――ほら、来た。
顔を赤くしたらダメ。心臓早くなるな、平静を保て。あくまでも、淡々と答えなければ。
「―――恐れ入ります」
能面に笑顔を張りつけて答えると、もう一度頭を下げて、わたしは今度こそ社長に背を向ける。
……何なんだ、何なんだもう。
何故にこうも毎日からかわれなければいけないんだ。
わたしのような、外見的にも中身的にも何の取り柄もない一般社員を捕まえて、一体何がしたいんだ、あの人は。
積もるイライラを少しだけ足音に反映させながら、わたしは、自分の職場へ戻るべく、エレベーターへと向かった
「で? 今朝はどうだったのよ?」
にやにや笑いながら聞いてくるのは、友人のナミだ。
彼女は、大学時代からの友達で、就職先も一緒だ。
もっとも、ある意味何でも屋の総務部とは違い、彼女は海外事業部に所属するエリート。
外国にいることも多いナミが、今日は一日会社にいるということなので、一緒に昼食を取っているのだけれど…。
「どうって…、いつも通り」
「愛の告白されたんだ?」
「本気度0%のね」
半ばヤケ気味に、大きなレタスを口の中に押し込む。
「でも毎日でしょう? …何考えてんのかしら、社長」
「本人に聞いて」
「イラついてるわね」
「当然でしょ」
毎日ウソ告白されるこっちの身になってみろっての。まったく。
「確かにねー…。でも、そんな事でからかうような人じゃないんだけどなー、社長」
「いや、実際からかわれてる人が、ここにいるから」
「ああ、そうね。……ところで、社長の婚約者って誰だっけ?」
「秘書課のマーシャルさん」
「ああー…、マーシャル物産のお嬢様か。政略結婚のにおいがぷんぷんするわね」
「ね」
会社の利益を重視した結婚か。…まあ、人のことだから、どうでもいいけど。
「ということはよ、もしかしたら、社長の本命は、サラかもしれないわね」
「………だから?」
だから、何だと言うのだ。
万が一、奇跡的に、本当に好かれていたとしても、結婚の決まっている相手とどうこうするなんて、考えられない。だって、幸せになんてなれっこないんだから。
「……まあ、確かに。サラからすれば、ちょっと迷惑な話よね。秘書課に嫌がらせとかされてない?」
「………多少…」
無茶な備品発注とか、入荷された直後に、やっぱり要らないとか、そういうことは度々ある。
48 無名さん
>>47
他の部署でも使う備品なので、今のところ、実質的な損害は出てないけれど。
「ふーん。……ま、わたしも気をつけておくから、負けるんじゃないわよ」
ナミが、どーんと胸をたたいた。彼女は、基本的に面倒くさがりだけれど、やるべきところはきっちりやるし、何だかんだで姉御肌なところがある。
「ありがとう、ナミ」
「ふふ、よかった」
ナミが、安心したように笑うので、首をかしげる。
そんなわたしに、穏やかな表情でナミは言った。
「やっと笑ったから」
「…!」
そうだ、気づいてみれば。
せっかく、久しぶりに会って昼食を楽しんでいるのに、わたしは、自分の悩みのことで手いっぱいで、ナミといることを、楽しむ余裕がなかった。
「ごめんね、ナミ」
「いいわよ、愚痴のひとつやふたつ。わたしも遠慮なく聞いてもらうから」
ナミがくすくす笑う。
きれいな顔、誰もがうらやむスタイルを持ち、その上性格もいい。
さすが、会社1のモテ女。うちの男性陣、見る目があるね。
わたしは、とりあえず、暗い話は頭の隅に追いやって、友人とのひとときを楽しんだ。

「それでは、サトーさんのご結婚を祝して…、乾杯!」
「「「「「「「かんぱーい」」」」」」
………。
今日は金曜日。総務部の良き先輩だったサトーさんが、結婚退職することになったので、総務部全員参加でお祝いをしているわけです。
わけなのですが。
「ん? どうしたサラ、飲まないのか?」
「……飲んでます」
「そうか。ま、ペースってもんもあるしなっ」
となりでにこにこ笑いながら、すでに2杯目の大ジョッキを空けたのは…。
わたしの勘違いでなければ、我が赤髪コーポレーションの社長様でよろしいですかね?
「社長〜、相変わらずペース早えェなァ!」
「ああ? これくらい当然だろ。おい、お前らも遠慮するなよ。ここはおれのおごりだ」
「「「「「「ごちそうさまです!!」」」」」」
………。
「それでは、サトーさんのご結婚を祝して…、乾杯!」
「「「「「「「かんぱーい」」」」」」
………。
49 無名さん
………。今日は金曜日。総務部の良き先輩だったサトーさんが、結婚退職することになったので、総務部全員参加でお祝いをしているわけです。
わけなのですが。
「ん? どうしたサラ、飲まないのか?」
「……飲んでます」
「そうか。ま、ペースってもんもあるしなっ」
となりでにこにこ笑いながら、すでに2杯目の大ジョッキを空けたのは…。
わたしの勘違いでなければ、我が赤髪コーポレーションの社長様でよろしいですかね?
「社長〜、相変わらずペース早えェなァ!」
「ああ? これくらい当然だろ。おい、お前らも遠慮するなよ。ここはおれのおごりだ」
「「「「「「ごちそうさまです!!」」」」」」
………。
部署の送別会の席に突然社長が現れたせいで、飲み会は始まったばかりなのに、みんなはすでにハイテンション。
ヤソップ部長を始め、もともとみんなお酒には強い人達なので、一杯目はすでに空だ。
到底ついて行けずに、ひとりちびりとお酒を飲む。
「うまいか?」
社長が、わたしの頭をぽふりとなでた。
「……おいしいです」
ちびちび飲むのは、お酒が苦手だからじゃない。もともとそんなに飲めない体質だからだ。
飲んでるのは、ちょっと珍しいブルーベリーのお酒。
ブルーベリー大好きなわたしとしては、うれしいメニューだ。
次々と運ばれて来る料理も、どちらかというと女性向け。
主役が女性だから、幹事くんが気を使ったのかな?
やるじゃないか、今年入社の新人くん。
そうこうしてるうちに、料理のお皿は次々と空になり、みんなのお酒もどんどん進んで行く。
女性社員も5杯以上は飲んでいるみたいだし、社長に至っては…ウォッカをストレートで飲んでいる。
「社長…」
「ん? 何だ?サラ」
「お酒…。お強いんですか?」
「ああ、まあ弱くはないな」
ん? わたし今変なこと聞いた?
だって、ウォッカのストレートを5杯軽々飲めるんだから、強いの当たり前だよね…。
やばい、お酒、回って来たかな…。
本当に酔っちゃう前に、サトーさんにごあいさつを……ん?
何? この、腰に回った太い腕は。
「どこに行くんだ?」
社長がにっこり笑って聞いてくる。
50 無名さん
「あの、サトーさんと少しお話を…」
「おお〜そうか。サトー〜、サラが話したがってるぞ〜」
は?!

―――――目が覚めるとそこは、知らない部屋だった…。
いや、そんな学生時代にちょっとだけかじった、近代文学の冒頭になぞらえてる場合じゃない。
ここどこ? どうしてわたし、ベッドの上に?
しかし大きなベッドだな、多分キングサイズ…。
いやいや、今はベッドのスプリングに心地よさを感じてる場合じゃない。
洋服は乱れてないし、体に違和感もないから、間違いは犯してなさそうだけど…。
それにしても、この部屋広い。
余裕で30帖はあるよきっと。
ベッドの傍には、これまた質のよさそうなソファとテーブル。
壁一面が、収納ボックスになってるな…。おしゃれで機能的。
ていうか、ほんとここどこ? 部屋から出たら、わかるのかな?
ええーと…。ところで、今日は何をしてたんだっけ…。
ああー…、サトーさんの送別会で。総務部内のそれだったにもかかわらず、なぜか社長がいて。
会がお開きになって帰ろうとしたら、社長が「送ってく」って、わたしの手を取って。
社長のお迎えの車に乗せてもらって……、……そこからの記憶が、ない。
ということは、ここってもしか…して。
ガチャ。
「――――お、起きたか?」

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51 無名さん