47 無名さん
>>45
―――――――ほら、来た。
顔を赤くしたらダメ。心臓早くなるな、平静を保て。あくまでも、淡々と答えなければ。
「―――恐れ入ります」
能面に笑顔を張りつけて答えると、もう一度頭を下げて、わたしは今度こそ社長に背を向ける。
……何なんだ、何なんだもう。
何故にこうも毎日からかわれなければいけないんだ。
わたしのような、外見的にも中身的にも何の取り柄もない一般社員を捕まえて、一体何がしたいんだ、あの人は。
積もるイライラを少しだけ足音に反映させながら、わたしは、自分の職場へ戻るべく、エレベーターへと向かった
「で? 今朝はどうだったのよ?」
にやにや笑いながら聞いてくるのは、友人のナミだ。
彼女は、大学時代からの友達で、就職先も一緒だ。
もっとも、ある意味何でも屋の総務部とは違い、彼女は海外事業部に所属するエリート。
外国にいることも多いナミが、今日は一日会社にいるということなので、一緒に昼食を取っているのだけれど…。
「どうって…、いつも通り」
「愛の告白されたんだ?」
「本気度0%のね」
半ばヤケ気味に、大きなレタスを口の中に押し込む。
「でも毎日でしょう? …何考えてんのかしら、社長」
「本人に聞いて」
「イラついてるわね」
「当然でしょ」
毎日ウソ告白されるこっちの身になってみろっての。まったく。
「確かにねー…。でも、そんな事でからかうような人じゃないんだけどなー、社長」
「いや、実際からかわれてる人が、ここにいるから」
「ああ、そうね。……ところで、社長の婚約者って誰だっけ?」
「秘書課のマーシャルさん」
「ああー…、マーシャル物産のお嬢様か。政略結婚のにおいがぷんぷんするわね」
「ね」
会社の利益を重視した結婚か。…まあ、人のことだから、どうでもいいけど。
「ということはよ、もしかしたら、社長の本命は、サラかもしれないわね」
「………だから?」
だから、何だと言うのだ。
万が一、奇跡的に、本当に好かれていたとしても、結婚の決まっている相手とどうこうするなんて、考えられない。だって、幸せになんてなれっこないんだから。
「……まあ、確かに。サラからすれば、ちょっと迷惑な話よね。秘書課に嫌がらせとかされてない?」
「………多少…」
無茶な備品発注とか、入荷された直後に、やっぱり要らないとか、そういうことは度々ある。