49 無名さん
そして画面に表示された夥しい数の着信数を見た瞬間、一瞬で現実に引き戻された。


不在着信 黄瀬涼太 (46)


…46件って、なに?何かの間違いかとも思ったが、電池がありえないくらいに減っていて、ずっと着信が来ていたからだと悟る。部活中のはずなのに、どうして。とりあえず、なっちゃんにはトイレに行ってくると言って、携帯を握りしめてわたしはその場を離れた。

トイレの個室に入り、便器に座ったわたしは深呼吸をして再び携帯を開いた。ラインもものすごい数が来ていて、ごくりと唾を飲んでトークを開く。


『えー(´・_・`)誰とどこに行くんスか?』
『名前っち?』
『なんで電話に出ないの』
『ねえ』
『男といんの?』
『浮気?相手誰?』
『電話出て』
『お願い』

『俺が死んでもいいんだ』


こんな内容が何十件も続いていて、わたしは頭が痛くなった。この2時間弱で涼太の妄想はどこまで膨らんでしまったのだろうか。どうして、死ぬなんてワードが出て来るのかわからない。異常だ。


「…名前っち」
「もしもし、」
「本当に、なっちゃんといるんスか」
「うん、電話出れなくてごめんね。ちょっとお買い物して、ゲーセンにきてるよ。涼太、部活は?」
「部活中だけど、具合悪いって言って保健室」
「なんでそんな、」
「名前っちが、俺を不安にさせるから」


いつものトーンとは違う、怒っているような、泣いているような、そんな声。

…正直、泣きたいのはこっちの方だ。ただ普通に友達と遊んでいただけなのに、楽しい気分が台無しである。けれど、度が過ぎているとわかっていても、わたしのことを思っての行動だと思うと何も言えなくなる自分もまた嫌だった。


「…なっちゃんに、電話代わって」
「今わたしだけトイレにいるし、それにゲーセンだから音うるさくて電話できないよ」
「やっぱり男といるんスね」
「わかったから、ちょっと待ってて」


埒があかないと思ったわたしは、そう言って一度通話を切った。ふと洗面台の鏡を見れば、ひどい顔をした自分と目が合う。本当、どうしてこうなってしまうんだろう。


あんなに部活を頑張ってる黄瀬が夢主と連絡取れないことが不安で仮病使って部活をサボってる…
こんなの黄瀬じゃない