53 無名さん
普段と変わりない、余裕を含んだ穏やかな声音でそう紡 ぎながら、nameは手に持った鍵をふわりと宙に投げて、 それを再び手でキャッチする。それを数回、繰り返す。 平子は何気無しに鍵の行方をぼんやりと眺めていた。大 抵の場合、口にした事は易々とやり遂げてみせる彼女の 事だ。今の言葉も明日には有言実行とばかりに遂行さ れ、今はふわりと宙に踊っている鍵も無事に監視員の鍵 束の中へ帰って行くのだろう。そして平子とnameがこう して無断でヘリポートに立ち入って悠々夜の空気を吸っ ていた事は、誰もが知らぬ二人だけの秘密となるのだ。
思い返せば、共有する秘密は数知れない。そのどれも がnameの思い付きによるくだらない悪戯遊びや、冒険と いう名の立入禁止区域への侵入だったりするのだが、い つも決まって平子が巻き込まれる羽目となるのだ。互い に上等捜査官として立場は同じだが、年齢と経験で言え ば平子の方が先輩であると言うのに、nameは敬語こそ使 うものの勤務時間外の平子への態度はまるで"友人"のそ れと言っていいだろう。更に砕けた表現をするならば、 兄の扱いが上手い妹、といったところだろうか。
しかし何にせよ、こうして同じ職場で共に過ごす内に随 分と自分に懐いてしまった年下の同僚である彼女に、 散々巻き込まれては好き勝手に振り回される日々も、 中々どうして面白いものだと感じていたりもするのだか ら困りものだ。平子は珍しく口許を緩めながら、一歩、 また一歩とnameの元へ歩み寄る。そして、彼女の手元か ら宙へと放り出された鍵を空中で奪うように手の平に収 めれば、意表を突かれたようにnameは短い息を零した。
「あ…っ取られた」
「…無邪気だな、familyは」
「それを言うなら、平子さんだって十分に無邪気な人で すよ」
思い返せば、共有する秘密は数知れない。そのどれも がnameの思い付きによるくだらない悪戯遊びや、冒険と いう名の立入禁止区域への侵入だったりするのだが、い つも決まって平子が巻き込まれる羽目となるのだ。互い に上等捜査官として立場は同じだが、年齢と経験で言え ば平子の方が先輩であると言うのに、nameは敬語こそ使 うものの勤務時間外の平子への態度はまるで"友人"のそ れと言っていいだろう。更に砕けた表現をするならば、 兄の扱いが上手い妹、といったところだろうか。
しかし何にせよ、こうして同じ職場で共に過ごす内に随 分と自分に懐いてしまった年下の同僚である彼女に、 散々巻き込まれては好き勝手に振り回される日々も、 中々どうして面白いものだと感じていたりもするのだか ら困りものだ。平子は珍しく口許を緩めながら、一歩、 また一歩とnameの元へ歩み寄る。そして、彼女の手元か ら宙へと放り出された鍵を空中で奪うように手の平に収 めれば、意表を突かれたようにnameは短い息を零した。
「あ…っ取られた」
「…無邪気だな、familyは」
「それを言うなら、平子さんだって十分に無邪気な人で すよ」