私のおじさんは旅行好きでいろんなところに旅行に行ってるんだが、その中にアジアのある国に行ったときに泊まったホテルでのこと。

まあどの国にも治安の悪いところはあるが、まさにそこはそれに当てはまる場所だった。だが、少しでも旅費をケチりたいおじは安い宿でいいだろうとある安宿に泊まることにした。

ものすごい汚い宿で、まるでベッドひとつとあと布で仕切られただけの洗面台とトイレ、シャワーがあるだけの貧相なホテルだった。

そのホテルはけっこう田舎にあった。だから周りはなにもない。外観は意外に乙といえば乙でアジアンテイストただよう外観だが、中は最悪だった。

まあ値段が値段だから仕方ないとおじはあきらめたが、ただ一言、注意された。

「私ら従業員は時間になると帰るからあとは勝手にやってくれ。ただ夜中に誰がたずねてきてもそれに返事をするな。私らは今日はここには帰らないから。相手にしたら連れて行かれる」

そう言われた。あとのことは保証しないってね。

で、従業員は全員帰ってしまうらしい。少し離れた従業員専用の別の場所に移るという。今日の客はあなたを入れて二人だけだから。そうも言われた。

まあやることないし、仕方ないのであとは眠るしかない。

何時間経ったかな。しばらくすると寝てしまった。ふいに「コンコン」とドアがノックされた気がして、ん?と目を覚ました。

誰ですか?そう言おうとしたとき従業員の言葉を思い出した。「たずねてきてもそれに返事をするな、相手をするな」っていう。だからしゃべってはいけない。そう思いなるべく気配を消して声を押し殺した。

と、諦めたのか。ふいに力が抜けて安心したのか、おじは「良かったなあ」とつい声に出してしまった。

するとコンコンと急ぎ足で階段を駆け上る音がして、ドアが鍵をかけたのにも関わらずギィと少しずつ開いてゆく。

それでね、暗くてよくわかんないんだけど人の倍以上の3、4メートルくらいある黒い人影みたいのが、体をくねくね揺すりながら入ってくんだよね。

もうだめか、連れて行かれると思ったがでもこっちに一向に近づいてこない。そのうち気を失ったのか、気づけば朝になっていた。