数年前、寺内さんという方が聞かせてくれた話。

寺内さんの実家の近くにある家。仮に斎田さんとする。その斎田さんの家には夜な夜な女の霊が出るという。

その女の霊とは旦那さんの前妻で事故で亡くなったらしい。その前妻が枕元に立ち、後妻にむかって(出ていけ)と言うのだという。

気味悪がった後妻は幽霊が出始めてから何週間かののち荷物をまとめて出て行ってしまった。

それ以来旦那さんはうつ状態になり、今はふらふらと街を徘徊する姿を時々見るという。

その時は決まってまるで隣に誰かがいるように手を横に出し、見えない誰かと手を繋いでいるように歩いている。時々横を向いて何事かを話しかけている。

奥さんはどうやらこれで形はどうであれ元の鞘におさまったのであろうと思う。


二児の母、内藤さんが以前夫婦で住んでいたマンションには少し変わった決まりがあった。

「夜中、零時以降七階に住む住人は絶対に台所側の小窓を開けてはならない」

今となればその変な決まりの意味がよくわかるのだが、越してきた当時そんな事は信じず守らずに七階に住む内藤さんは夏、小窓を網戸にして開けていた。

ふすまを開けたままぼんやりと台所の隣の部屋から布団に寝転がり窓の外を眺めていると、窓の外をすぅーっと人影が通った気がした。

(え?)と思い、なんとなくもう窓の外を見てはいけない、そんな気持ちがして、目を閉じたまま手探りで小窓を閉めに台所に向かった。

小窓の縁に手をかけて閉めようとしたその瞬間。(あへあへ)というようなおかしな笑い声が急にした。

いきなりのことに薄く目を開く。そこには焼けて縮れべっとりとした髪の毛を皮膚に撫でつけ赤く爛れた顔をし、げっそりと痩せこけた女がか細い声で笑っていた。

くぼんだその目がしっかりと自分を見据えていた。そしてトロリとした皮膚が溶け落ち窓の縁に肉片が糸を引きながらこぼれた。