55 無名さん
9−1

「ぷう…」
うろうろ…。
「ぷう…」
うろうろ…。
ガチャ…。
部屋のドアが開いて、ナースさんが中から出て来た。
「ぷ!!」
「シッ! 大きな声を出さないで」
「ぷ…」
洗面器を持ったナースさんに叱られた。しゅん。
「さっきまでひどい咳に苦しんで、今、やっと眠ったところなんだから」
ナースさんは、空いている手でさっさとドアを閉めてしまった。
「ぷ…」
知ってるもん。ずっと、ドアの前で、マルコが咳してるの、聞いてたもん。
目の前にいるのは、マルコのことが好きなナースさん。
みんなにはやさしいけど、わたしにはちょっと…(じゃないかも)いじわるなナースさん。
「マルコさん、ただでさえ病気で苦しいのに、部屋の前でうろうろされたら、迷惑だと思わない?」
ナースさんの口調が、かなりいらついてる。
「ぷう…」
それは…、わかるけど…。
「さみしいんだか何だか知らないけど…。あなたはそうやって、いつも自分のことばかりね。仮にもマルコさんの恋人なら、すこしは彼のために静かにしていようとか、思わないの?」
「……ぷ…」
わかる…、…けど……。
マルコが熱を出してから数日間、ずっとマルコに逢えなくて。
さみしくて。ちょっとだけ顔が見たくて。
「あなた、体が弱いんでしょう? マルコさんの病気があなたにうつったら、どうするつもり? 丈夫なマルコさんでさえ、高熱が出る病原菌なのよ?」
「…」
「あ、もしかして、病気になって、みんなに心配してもらいたいのかしら? それなら言っておくけど、マルコさんの分でさえ、薬がギリギリなんだから、あなたの分なんてないわよ」
……そんな…。
みんなに心配かけたいなんて…、思ってないのに…。
ぽとん。
「泣いて同情を引きたいの? ……ほんっとに、甘えるのも、いい加減にしてほしいわね」
「…ぷ…」
ぽとん…。ぽとん…。
「まったく…。廊下汚して…。あとでちゃんと掃除しなさいよ!?」
「……ぷぅぅ…」
ぽとぽとぽと…。

ぷはおなら?ぽとんぽとん。ぽとぽと。はうんち?
そりゃあ汚さないでって怒られちゃうよ