55 無名さん
彼女はハリーに背を向けて立っていた。
繊細で長い白銀が真っ直ぐに漆黒のローブに流れている様は、まるで澄んだ夜空に浮かぶ天の川。ロウソクの灯りできらきらと煌めき、その毛先はゆるりとした巻き毛。ローブの裾からのぞく足首は細く華奢で、少女らしい軽やかな身体つきなのが予想できる。
立っているそれだけで、少女は存在感を放っていた。
ほんの一瞬ちらりとよそ見をして垣間見える、良くできた西洋人形のような端正な横顔。黒目がちな大きな目は澄んだ檸檬色だ。長い睫毛は髪と同じ白銀色で、物憂げな瞳を縁どる。コーラルピンクのつやつやした薄い唇。乳白色のシミひとつない肌――ふと我に返り、ハリーは自分がどうしようもなく少女に見とれていることに気付いた。胸が早鐘を打ち、彼女の挙動のひとつひとつに食いいる様な視線を送る。こんなことは初めてだ。なんとかして彼女に声を掛けたい。名前を聞きたい……。