綿貫さんのおばあちゃんの話。

綿貫さんのおばあちゃんは、死ぬ何ヶ月か前からしきりに

(いぬがくる、いぬがくるよぉ)と言っていた。そして死に際壮絶な亡くなり方をした。

おばあちゃんが死ぬ2日前、綿貫さんは見てしまった。

おばあちゃんは治らない病気でせめて最後は病院じゃなく家で死にたいとのことから、家に死ぬ何ヶ月かの間いた。

畳の部屋、布団に寝るおばあちゃん。そのおばあちゃんの様子をうかがおうと襖を何センチか開けた瞬間、そのままの格好で固まってしまった。

おばあちゃんの布団に何かが跨るようにして乗っている。それは大きな黒い影のようなもので、おばあちゃんの口元から煙のような何かをすぅーっと吸い込んでいた。

助けようとするも、体が言うことを利かない。おばあちゃんはされるがまま何かを吸われている。

綿貫さんは悪いとは思ったがあまりに怖すぎて、襖を閉めて逃げて知らないふりをしてしまった。

その翌々日、おばあちゃんはまるで断末魔のように、今までよりはっきりと狂ったように、天をあおぐかのように

(いぬがぁ、いぬがぁ)と二言三言叫んで息絶えた。

いぬというのは自分が見たあの影かもしれないが、いぬが動物の犬なのかというとそうじゃなく、あの影はどう考えてもこの世の存在ではないものだったという。

最後に綿貫さんは、助けられないにしろ助けられたにしろ、まるで臆病になり助けようともしなかった自分がとても悔やまれると言っていた。