60 無名さん
改悪蘭ねーちゃん一話

『やっと休みが来る…』


夕暮れ時、橙色の光が 辺り一体を染め上げ 黒い影は長く伸びる

仕事帰りで岐路についていた 苗字名前はふと すれ違った3人家族を 足を止め振り返る

父親と母親の間で 手を繋いでる笑顔の女の子がいる

『(…幸せそうな家族だな)』

その幸せそうな家族の後姿に 名前は自身と、両親を 思い浮かべようとしてみるが、 生憎、そんな記憶がないために 上手く想像することが出来なかった。

その代わり、というわけじゃないけれど 親の声が蘇って来る

お母さんね、名前ちゃんが いないと生きていけないみたい

俺の子じゃないから
産まなきゃよかった
名前はいい子だなさすが 俺の子だ

お母さんやお父さんが今まだだって お前に間違った事を言った事があったか?

だってお前は長女だろう


そこで意識を戻す

『あぁ最悪だ 早く帰ってゆっくりしよう』


名前は小さくなった親子の後姿 から視線を逸らし 歩みを進める


しばらくすると、水滴が 頬に滴る。なんだろうか?と 上を見上げれば、先ほどまでの 橙の景色が、鈍色に様変わりをしていた


まるで私の心の中みたい もう晴れる事のない厚いもので 覆われている感じ、そんな感じを 私はもうずっと引きずっている


『(あーぁ…降って来た 傘持ってないのに、)』