61 無名さん
ひとなんか殺したくなかったとお前は言った。全てが終わったあと、でもそうするしかなかったんだよ、と、子供みたいに泣きじゃくってすがり付いてきた。
お前はいつも、笑顔らしい笑顔さえみせてくれない。出会ったころからずっとそうだったから、ただお前はそういうやつなのだと、あたり前のように受けとめていた。怪物的で、狂気的で、仮面のような無表情。シリアルキラーというのは皆、こんな目をするのだろう。でもほんの少しだけ、目のみえない罪人みたいなお前を閉じこめている殻の内側を、さらけ出してくれればと願った。そう、他のやつには見せないような。
その熱くて大粒の涙は俺がはじめて垣間見た、お前の人間らしさの欠片だった。