折原氏の出張先での体験。

出張先はN県。用事を済ませ、宿泊先に戻ったあと買い物をしようと宿泊先から出て、いろいろ探検するつもりで慣れない道を曲がったりしながら進むと、家々の並ぶような比較的開けた道に出た。

見ると提灯がかかった家があった。提灯には「御霊燈」とある。家の前にはたくさんの喪服を着た方々が立っていた。

その前を通ると、家の前に立っていた人の中のひとりの女性に声をかけられた。

「すみません、ご焼香をしてもらえませんか?」

その言葉に折原氏は「故人と関係ない他人である私がご焼香するのは失礼にあたりますので出来ません」

そう言って行こうとすると袖をつかまれた。

引き離そうとするがいつの間にかたくさんの人に囲まれて、まるで引きずられるかのように無理やり家の中に入らされた。

いくつか角を曲がると暗い部屋に明かりがいくつか灯されていて、そこに棺があって故人の写真が立てられていた。

「ご焼香をしろ」ということなのか。仕方なしにご焼香を済ませ手を合わせた時、後ろに並んでいた何人かの喪服の人たちが顔をおさえながら

「うぅぅっ」という具合に泣き出してしまった。

しかし、そのうちその泣き声が笑いを押し殺しているのだと気づいた。

次第に「クックッ」という笑い声に変わってゆく。

そしてしきりに何かをつぶやいている。耳を澄ますとかすかに

「ざまあみろ」という声が聞こえた。

怖くなり顔をおさえながら笑っている人たちを押しのける形で駆け足で廊下に出て、玄関に向かった。

靴を履き、(パッ)と戸を開くと、もうあたりは暗くなっていた。

ホテルに戻り、後日出張先のA氏と昼食をとっているとあの御葬式の話をした。(あとで考えてみるとなぜあの時A氏にあんな話しをしたのかはわからない。ただ誰かに話したくなったのだとは思う)

「これこれこういう場所でさ、ご焼香してくれって言われて仕方なしにしたんだけどおかしな連中だったんですが」

そう言ってあの場所を言うと