今日ここで、私が9年前から苦しみ続けている後悔と恐怖の記憶を、この話を見た人にほんの少しづつ持っていってもらえればいいなと思い、ここにこうして書かせてもらいます。
実際に何かが憑くわけではありませんが、そう記述する事で、私自身の記憶の影がほんの少しだけ明るくなるので……。

9年前の体験。
それは、私が某保険会社に入社して3年目に突入した矢先の出来事でした。
私は係長になり4人の部下が居て、その中の3人(I君T君Yさん)とは週に2回は欠かさず飲みに行くほどの仲でした。
残りの1人はこの物語には関係無いので省略させてもらいます。

その日も私達4人は行き付けの居酒屋で食べた後、割り勘で支払いを済ませ、帰る途中でした。
いきなりI君が、りんご1個がちょうど入るくらいの大きさの、見るからにぼろぼろな木箱を取り出して見せました。

それは変な仕掛けのある箱で、以前流行ったルービックキューブのように、色(木目)がきちんと合うように揃えると開くという箱でした。
I君が言うには、この箱は父からもらった物で、随分昔の物らしいです。なんでも戦争前からあったそうです。

「父は開けられないし、どうせ戦後の焼け跡で拾った物だからと、僕に譲ってくれました」

と言っていました。
その箱を、彼は2世代隔てた今でも未だに開けられずにいるという事でした。

僕はその箱を見た時から、なんとなく言いようの無い悪寒を感じていました。
僕は霊感がある方なのでしょうか。時々、上半身と下半身の釣り合いが取れていない人とか、足の足りない(もしくは無い)小動物等を見かけることがあるのです。
なので僕は、T君とYさんが代わりばんこにその木箱の節目をずらしたり引っ張ってみたりしているのを見ていて、なぜか冷や冷やしていました。
開け放ってしまう事を、僕の霊感が恐れていたんだと思います。