63 無名さん
彼女が轟へと食べさせた際に、付着してしまった茶色いソース。小さな幼子のようにしてくっ付けている彼にギャップを感じて可愛いとなったが、これは取ってあげた方がいいだろう。ナゲットをむぐむぐと咀嚼する轟に手を伸ばした羽依であったが、それよりも彼方が動く方が僅かに早かった。


「ソース、ついてんぞ」


ごっくん。飲み込んだナゲット。羽依が拭おうとした様に、彼もまた付着したソースを拭い取ろうとしたらしい。ふにっと彼女の柔らかな唇に触れた轟は、親指についたそれをぺろりと舐めとった。


「ありがとう。轟くんも、ソースついてるよ」
「え、マジか」


じゃあ頼む。と身体ごと羽依の方を向いた轟。横並びカウンターに座っていた彼はごく自然に目を閉じたが、なんだかキス待ちの様に見えてしまう。今やったのもそうであるが、一連の動作はまるで少女漫画みたい。顔がイケメンなだけに、世の女性方がされれば登場するヒロインの如く赤面する場面だったろう。

彼がしてくれたみたいにソースを指で拭った羽依はほんの数秒考えた後…同じ様にしてぺろりと舐めとったのだった。

おえっ