>>63

そこには誰もいない。
だから残るは個室の中だけ。

仕方なく俺は個室を一つずつノックしていった。

「いないのか?」

と小さな声で確認するように聞きながら。
小さかったのは恐かったからだ。大きな声は出なかった。

そうして個室をノックしていくと、一つの個室の前でノックが返ってきた。
だからちょっと安心して、

「早く出てこいよ」

って俺は言ったんだ。
そうしたら、

「出てもいいの?」

とか答えた。
でもそれはトイレに行った奴の声じゃなくて、それで俺はびびって動けなくなって、声も出せなくなって……それでも個室からは、

「出てもいいの?」

って二度目の声がしたんだ。
俺は恐くてトイレから逃げ出した。駆け足でだ。

先生達に怒られるかもしれないとか、そんなことも忘れて走って部屋に戻った。
だけど部屋の前に来て違和感を覚えた。

だって、目の前にある部屋は俺のいた部屋じゃなかったんだ。
俺の部屋は203号室って書いてある部屋なのに、目の前にある部屋には306号室って書いてあったんだ。

でも俺は階段を上った記憶もなくて、角を曲がった記憶もない。だから306号室の前にはいないはずなんだ。
けれど、確かにそこには306号室と書かれた部屋があった。部屋に入る気にはなれなかった。