64 無名さん
「"彼女"が見える理由が、もう1つあるわ。"彼女"は負の感情の塊…だから負の感情を大量に抱えてる人には見えるのよ」

負の感情。怒り、悲しみ、後悔。俺は目を見開いた。いや、俺だけじゃない。皆、目を見開いた。心当たりがあったからだ。それはまだ暑い夏の日。俺たちは、全国大会で青学と戦い、そして負けた。俺は不二に負けた。あともう少し、あと少しだった。不意に視界が暗くなり、背後からボールの跳ねる音がした。慌てて振り替えるも、そこには何もない。そう、何もない。当たり前だ。あの試合はもうずいぶんと前に終わったのだから。そういえば、あれからずっとラケットを握っていない。

「そっちの方が、心当たりあるんじゃない? 元男子テニス部さん」

来海沢がそう言ったと同時に、丸井が走り出した。そして来海沢の胸ぐらを掴んだ。いきなりの衝撃に、来海沢は後ろの柵に頭を打った。けれど一瞬目を瞑っただけで、なんでもないように丸井を見上げた。丸井の瞳がみるみる怒りに染まる。

「丸井、やめんか!」

真田が止めに入る。だがそれ以外、誰も止めようとはしない。俺たちは怒っているんだ。来海沢の言葉に。馬鹿にされたような気がしたんだ。俺たちの努力を。幸村が冷えきった氷のような声で言った。

「いいよ、丸井。殴りなよ」

真田が驚いて振り返る。この違いはなんなんだろうか。幸村が負けて、真田が勝ったからなのかもしれない。勝ったやつはまだいいよな。負けた俺なんて、あれからずっと生きた心地がしない。体温が冷えきっていくのを感じた。そして無感情のまま、丸井が来海沢を殴る瞬間を見つめた。一発殴った丸井は満足したように、来海沢から離れた。殴られた来海沢は腫れた左頬を、左手で抑えた。でも彼女の瞳には、俺たちへの怒りなど映っていなかった。ただ起きた出来事を受け入れる。彼女の瞳は無関心だった。


何なのBBAブン太嫌いなの?