65 無名さん
迷い人の旅から第6話「錬金術師の苦悩」(P,2)


「確かに異世界なんて急に言われても信じられないけどさ、もう少し躊躇うとか考えるとかできねぇのかよ。」

「そうですよ。もっとサクラに、時間を与えてはくれませんか?」


目を伏せたサクラを見て、落ち込んだとでも思ったのだろうか。

エドワードとアルフォンスは、二人同時に彼女を庇った。

これにサクラは驚いた。

異世界なんて不確かなものを信じられないのは、エルリック兄弟も同意見のはずなのに…。

表情には出さないが、彼女の目に、二人の言動は意外に映っていた。


「…やけに庇うじゃないか。」

「当然だろ。…仲間なんだから。」

「………。」


エドワードの視線が床に向かれる。

最後の言葉はぶっきら棒で、誰に言っているのか分からない言い方だった。

しかし、サクラはそれを少し嬉しく思っていた。

たった数日しか旅を共にしていないのに、エドワードは彼女を仲間と認識してくれている。

それだけでいいのに説得のフォローまで…。

サクラは心の中で少年に感謝しつつ、その場でピンと姿勢を正した。


「マスタング大佐。あたしは逃げも隠れもしませんが、今の発言を覆すつもりもありません。どうか、そこはご容赦ください。」

「…頭を上げなさい。誰もまだ『信じない』とは言ってないだろう。」


頭を下げていると、上からそんな声が降ってきた。


「はぁ!?でもさっき…」

「私は『にわかには信じられん』と言ったのだ。今ここで、彼女を黒と即決することもないだろう。」

「寛大な措置、ありがとうございます。」

「それに、君のような美人が私に嘘を吐くとは思えん。取り敢えずこの件は保留にしておこう。」


反論しようと椅子から立ち上がったエドワードが、チッと密かに舌打ちをしていた。

嘘を吐くか吐かないかの基準が美人だという根拠が理解できん…。

が、認めてくれる可能性は残された。

それに安堵を覚えつつ、彼女は広げた地図を片付け始めた。


美人て得だなww