66 無名さん
男は愛犬を連れて長旅に出ていた。
しかし砂漠の真ん中で心臓発作に襲われ、男はそのまま死んでしまった。
再び目覚めたのは暗闇。そばで愛犬が見つめていた。

男はちゃんと覚えていた。
自分が死んだこと、そして死んだ自分に何日も寄り添ったまま、愛犬が息を引き取ったこと。

犬と一緒に暗闇を歩き出すと、まばゆく輝く光のアーチが現れた。
奥には金銀でできた巨大な城。

門番に尋ねた。
「すみません、ここは何なんですか?このアーチはいったい?」
「ここは天国です」

「おお、ここが天国!感激だ!!僕は天国に導かれたのか。ところでのどが乾いてしょうがないんですが、水を1杯いただけますか」
「どうぞ。城の中によく冷えたミネラルウォーターがあります。ごちそうも食べたいだけどうぞ」

「さすが天国!ありがとうございます」

犬を連れて入ろうとすると、
「ちょっと待った!ペットはここより中には入れません!!」
「え・・・」
しばらく考えたが、結局男は水をあきらめて犬とともに城を後にした。

再び暗闇を歩いていると、今度は古ぼけてガタガタの木製の門が見えた。
そばで本を読んでる人がいる。

「すみません、水を1杯いただけますか?」
「中に手押しポンプがあるよ」

「それであのう・・・。犬を連れて入ってもいいでしょうか?」
「いいよ」

「ありがとう!」

男は水をくみ上げて、犬と一緒に心ゆくまで水を飲んだ。
それから門に引き返した。

「水をどうもありがとう。ところでここは何なんですか?」
「天国だよ」

「天国?!でもこの近くの光のアーチの城が天国だと・・・」
「ああ、あれは地獄だよ」

「地獄が勝手に天国を名乗ってるんですか?怒らなくてもいいんですか?」
「うん、親友を置いていく人間を選別できるからいいんだよ」