暫く歩いていると、目の前に明かりが開けた。

このタワーの中には私しかいないのだろうか。
この膨大なまでに広がったタワーの世界をただ彷徨い続けている。

無機質な冷たい鉄の壁が、私をタワーからは出してくれない。
どんなに壊そうとしても、鈍い音がただ虚しく辺りに響くだけ。

私は、このタワーの階段を上がり、上部へ向かっているらしい。
いや、正確にはこのタワーから脱出しようとしているのか。

そもそも、何で私はこの中にいるのか。記憶がない。
そして、今、下った方が出口に近いのか、それとも、上がったほうが出口に近づくのか、それすらもわからない。

私の精神が崩壊していくのが早いか、出口を見つけるのが早いのか、
私はただ出口を求めて歩いていた。

「誰か、いませんか?」私の声が寂しく響く。
「ダレカ、イルノカァ?」前方から男の声が聞こえてきた。

「何処ですか? 何処に居るのですか?」
「ドコニイル? ドコニイルンダァ?」男の声が返ってきた。

私は声のする方へ足を速めた。
私は安堵した。私以外にもこのタワーの中に人がいる。

「す、すいませーん。聞こえますか!」私の声に男の声が続く。
「ス、スイマセェン。キコエルノカ!」先ほどから違和感を感じる……。深く考えてはいけない。

「私は、ここにいます!」
「オレハ、ココニイルヨ!」駄目。声のするほうへ向かっては駄目。

私は踵を返し、元来た道へ引き返した。

カッカッカッカッ……。私の足音が響きわたる。
カッカッカッカッ……。私の足音だけではない。私の後ろからも音がする。

「いやー! 来ないで、来ないで!」
「イヤ〜! コナイデェ、コナイデェ!」