>>68

そんな音がするはずはないんだ。
だって皆寝てて、さっき通った時だってそんな音はしなかった。
でももしかしたら誰かが起きてるのかもしれない、そうも思った。

だけど俺も子供だった。
皆寝てるのに俺は起きてる。寝てなくちゃいけないのに見つかったら怒られる! そう思ってしまってつい近くの病室に隠れたんだ。

病室の入り口がどうなってるか知ってるか?
場所によって少し違うと思うが大抵は扉なんてないんだ。
俺の入院したところでは消灯前にカーテンを引いて中を見えなくするだけだった。
俺は怒られると思って隠れた。
でも誰だろ? って気になってカーテンの下の隙間を覗いて見てたんだ。

そしたらゆっくりと車椅子が「キィ、キィ」って音をたてながら隠れてる病室の前を通ったんだ。
車椅子を押してる人がいて、履いている靴で看護婦さんが押してるんだって俺にもわかった。
だけど何故か俺は病室から出れなかった。

怒られるからじゃない、すごく恐かった。だから出れなかったんだ。
でもこれで話が終わるわけじゃない。

車椅子と看護婦さんが病室の前を通り過ぎるのを俺は待った。
「キィ、キィ」っていう音がしなくなるまで隠れ続けた。
そうして音が聞こえなくなるのを確認して、俺は自分の病室に戻った。
足音を立てないように静かに静かに歩きながら、あと二つ三つ先に自分の病室があるというところで、また「キィ、キィ」と音が聞こえてきた。