>>69


おかしかった。
だってあの車椅子が通り過ぎた方向は病室から見て左、俺が向かっていたのは病室から見て右。
音が聞こえたのは俺が向かっている方向からだった……。

たしかにそこの病院の作りからすればおかしいことじゃない。
ナースステーションを中心に「#」のような廊下作りになっていたから、ナースステーションを回って反対側の廊下から来ればありえる。
だけど距離にすると結構あった。走ったりしなければさすがに追いつけない。
いや……前に来てるんだから追いつくだけじゃ無理なんだ、追い越さないといけない。それも足音をたてないで車椅子も音をたてないでだ。

俺は恐くなってさっき通ってきた道を戻った。
でも音は変わらずに

キィ……キィ……

ってついてくるんだ。
どうしてついてくるのか分からなかった。
恐くて恐くてどうしようもなくって、気づいたらトイレの個室に隠れてた。

でも音は止まらなかった。
トイレのところにも車椅子が入ってきて、少しずつこっちに近づいて来るんだ。
俺はトイレに入って一番奥のところに隠れてたんだ。

キィ……キィ……

音は俺の隠れている個室の前で止まった。