74 無名さん
「....風香ちゃんの作品、この前コンクールに出したって先生が言ってたよ」
「....え?わ、私前のコンクールに作品出したっきり新しい完成品出してないですけど」
「風香ちゃん、心当たりはある?途中まで描いてたけど断念して捨てた....とか」
「あぁ....それなら一週間ほど前に....って....」
「....それみたいね」

私はキャンバスに筆を滑らせ、腕を下ろした。
どうやら失敗作が無断で出されたらしい。

「風香ちゃんの作品は自分では失敗作でも、私達には大作だから。先生方にも悪気がある訳じゃないよ?」
「ですけどっ、何で無断なんかで」
「風香ちゃん!」

びくり、肩が揺れる。部長が珍しく声をあげた。

「....どんなに努力しても出してもらえない子もいるんだから。それを考えて発言してね」
「....す、すみません」

気を落とせば、部長は気が済んだのか自分の作品の元へ戻っていく。

(....私には同情も、してくれないのか)