先月の話だけど、長いし怖くなかったらごめん。

俺は大学卒業してから神奈川県の厚木で一人暮らししている。
厚木といっても駅から離れた田舎の方だから山がすぐ近くにあるんだ。

それまで暮らしていた千葉には山なんて身近に無かったから山の景色が好きでさ。
仕事の帰りに夕焼けに照らされて赤く染まった山を眺めながら歩くのがちょっとした楽しみだった。

その日も仕事が終わっていつも通り山を眺めながら歩いていたんだ。
でも何かがおかしい。理由はすぐにわかった。

よーく見てみると、山のてっぺんに何かがニョキって生えてるのよ。
黒い棒みたいなもの。昨日までは絶対にそんなものなかった。

最初は新しく立てた電波塔かなんかだ思ったんだけど、他の電波塔よりも4、5倍は高いし、何より細すぎる。
遠目に見ても杉の木くらいの細さしかない。そんなに細くて長いものが何の支えもなく突っ立っているのは異様な光景だった。

「え?!あんなものあったっけ?」
と思ってじっと見てたら、だんだんその黒い棒?が左右にゆらゆら揺れ出した。

あっけにとられて見ているとそのうちに段々と揺れが激しくなって、最終的にはグニャングニャンに踊り出した。
ほら、水の中のボウフラとかがよく動いてるような…あんな感じ。

その時点で相当怖かったんだけど、今度はどこからともなく変な音が聞こえてきた。

「びぇぇぇ〜〜んん… びぇぇぇ〜〜ん…」

みたいな。琵琶の音と赤ん坊の泣き声をミックスしたような音。
(今思うとあれ音じゃなくて声だったのかな?)

その時になって本能的に「ヤバイ!!」って思った。
なんだかよくわからないけどアレを見続けていたらヤバイと思った。

すぐに耳を塞いでアレを見ないように道路の地面だけを見て早足で帰った。
伝わるかわからないけど、この時はものすごく怖かった。