>>75

真夜中。稲川氏のラジオ番組は終了しました。
南氏の事があったからでしょう。あのディレクターが一人で帰るのは恐いからと稲川氏を待っていました。
稲川氏はそのディレクターとタクシーで帰宅する事になりました。

帰宅中、後ろの席に座る彼は高速道路で不思議なモノを見てしまうです。
それは奇妙な標識……いや、標識にその時は見えたのですが。

「高速道路に標識??」

再び前方に同じモノが現れました。
……それが標識では無い事に直に気付き恐怖しました。

着物を着た女の子が高速道路の壁の上に立っていたのです。
小さな女の子が。
稲川氏がソレが子供であると気付くと同時に、その女の子は「ぶぁ〜」と膨らみ、物凄い勢いで車の中を突き抜けて行きました。
稲川氏は突然の出来事に声ひとつあげる事ができませんでした。
しかし不思議な事にそれを見たのは、いや気付いたのは彼だけだったのです。

そして次の日の朝、彼の奥さんが不思議な事を言いだしました。

「昨日泊られた方はどうしたの?」

昨夜タクシーから降りたのはもちろん彼だけです。
当然部屋に入ったのも彼ひとりです。
彼女は、彼の後を付いて入ってきた人の足音を絶対聞いたと言い張るのでした。
そしてソレが一晩中歩き回って五月蝿かったと……。

次の日、一緒に帰ったデレクターが首をかしげながら彼にこんな事を聞いてきました。

「そんなわけないんだけど……誰かと一緒に降りたっけ?」