20年近く前のこと、春先に行った社員旅行の記念写真にその序章は姿を現しました。
私の頭の上部から左頬にかけて、影のように黒い霧のような物が私に重なって頭部の一部が消えていたのです。

この写真を見るまでは意識してませんでしたが、そういえば数日前から頭が重くスッキリしない状態が続いていたのでした。
それがその一枚だけでなく、同僚達と撮った写真のほとんどで同じように黒い霧が私の顔の周りにあって、不自然に顔の一部を覆っていたのです。
出来上がった写真を見て気味悪がる同僚にワザと明るく「撮った人にチップをケチッたからなぁ」などとおどけていましたが、私にはその存在に憶えがありました。
そう、実のところ心の中では「またか……」だったのです。

旅行から帰って、まだ写真が出来上がる前のことです。
仕事の途中で休憩しようと喫茶店へ入った私のテーブルに、店員がコップを2つ置きました。
はぁ? と思い「私一人ですが」と言うと、店員はハッとして「お連れと二人では?」と怪訝な顔つきで何度も首をかしげてコップを下げて行った、ということがありました。

旅行へ行く前も、当時住んでいたアパートの部屋の玄関横にあるガラス戸を何度も行ったり来たりする人影や気配を何度も感じて、薄気味悪い思いをしてました。
なぜなら、私の部屋は2階の突き当たりなので用事がある人しか部屋の前に来ないはず。しかも通り抜け出来ません。
その上その人影は横にスーッと動くのです。まるで浮いて移動しているかのように。
歩いている自然な動きなら、歩行に合わせて頭が少し上下に動くはずでは。

そんな中で何日か後、今度は写真の中にある黒い霧のような物が私の顔を覆って……正直ウンザリでしたが、写真という媒体に「具現化」していることに興味を持ちました。