>>81

眠りについてどれぐらいしたでしょうか。ふと目が醒めたんです。夜中に。
時計を見ると午前三時半。物音ひとつしない薄暗い電球の下、一人きり。
さすがに僕は恐怖心には勝てず、ぶら下った電気の線を引きます。

カチカチ

あっさりと電気はついて、明るい部屋が映し出されました。

「あ……!」

僕は背筋が凍りつくかと思いました。
クローゼットが開いているんです。閉めたはずなのに。
電灯に照らされたクローゼットの中に、あの錆びたドアがぼんやりと浮かんでいます。
恐くて恐くて、僕はあわててクローゼットを閉めようと扉にとびつきました。
その時です。

カリカリ……カリカリ……カリカリカリカリ

扉の内側からドアを引っかく音が聞こえてきたんです。
爪で大根おろしのギザギザした所を引っかくような、そんな痛々しい音でした。

(何かが、ドアの向こうにいる……)

引っかく音はだんだん激しくなっていき、ベリっと何かがはがれる音が聞こえました。

「お、お父さん! お母さん!」

あまりの恐怖にクローゼットの扉から手を離せないでいる僕はその場で叫びます。

けど、どれだけ待ってもどれだけ叫んでも……誰もこないんです。
まるで扉に声が吸い込まれているみたいに。