万事屋の事務所でジャンプを片手に椅子に座っていた銀時は珍しく鳴ったインターホンの音に落としていた視線を気怠げにあげた。

「なんだァ、珍しくインターホンが鳴るとか…。」

面倒な依頼だったら断ろう、と髪を掻きながら銀時は椅子から立ち上がると玄関へと足を向ける。

「はいはーい、どちらさん？」

鍵はかけてはいないが律儀に待っているだろう依頼人に玄関を開ければそこには一人の女が立っていた。

「お久しぶりですね、銀。」

視線が交わるや、女は微笑んだ。だが、銀時は女の顔を見るや硬直した。

そこに立っていたのは、十年近く昔に袂を別れ行方が分からなくなっていた同志の一人であった。

「………紗江……？」

死んだと風の噂で聞いていたこともあってか、銀時は確かめるようにその女の名を声にした。すると女は「はい、そうですよ？」と首を縦に動かした。

「生きて…たのか……？」

「えっ、もしかして死んだと思っていたんですか？」

銀時の言葉に紗江は瞬きを数度すると苦笑いを浮かべた。

「そりゃあ十年も連絡取れなかったから分からなくもないですけれど…。」

「いっ…いやいやいや、だってお前……、」

「何ですか？」

玄関の引き戸を開けた体勢のままだった銀時は、髪を掻いた。

「………何で、生きてたのに連絡してこなかったワケ？」

言いたいことは山のようにあるが、銀時は聞きたいことをまずは問いかけた。

「連絡ができるような状況じゃなかったんです。ようやく落ち着いたので江戸に戻ってきたのですが…噂でこのかぶき町に『夜叉(おに)』がいると聞いて捜していたんですよ？下のお登勢さんという方に聞いたら二階に住んでると言われたので来てみたのですが…良かったです。」

くすくすと笑いながら答えた紗江の笑い方は昔よりもずっと綺麗になっていた。

銀時自身も十年近くフラフラしながら生活していた。それなりに年は重ねたが見た目はさほど変わらず成長したと思う。だが、紗江は昔の面影はほとんど無いに等しい。女は年を重ねるにつれて綺麗になる、とはよく言ったものだ。銀時はぼんやりと紗江を見下ろしながらそんなことを考えた。


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