学校につきものの怪談ですが、表に出ない怪談もあるのです。

わたしが転勤した学校での話です。
美術を教えているわたしは作家活動として自ら油絵も描いていました。
住まいは1LDKの借家のため、家で大きな作品を描くことができず、放課後、いつも学校の美術室に残って作品を描いていました。
今度の転勤先でも同じように美術室の一角で制作を続けていました。

ところが妙なことに気づきました。
作品の表面に小さい子供の手の跡が付いているのです。

油絵というのは乾きが非常に遅く、完全に乾くのに1週間かかることもあります。
わたしが知らないうちに誰かが触ったのかと、あまり気にもせず制作を続けました。
手の跡も絵の具で上から塗り重ね、消してしまいました。

しかし、次の日も子供の手が跡が付いていました。
1個どころではなく、作品の表面全体にびっしり付いていたのです。
100号という大きさの油絵ですので、単なるいたずらではないなと感じました。

その日は作品全体の手の跡を消しながら描いているうちに作品の山場にさしかかり、9時、10時、11時と、いつしか夜中になってしまっていました。
わたしの筆の音しか聞こえないはずの美術室に、いつごろからか猫の鳴き声とも赤ん坊の声とも言えない泣き声が聞こえるようになりました。

窓を開けても猫の姿はなく、赤ん坊も当然いるわけもありません。
気にせず制作を続けていると、どうやら美術室の中から聞こえるようなのです。
泣き声のする方向を絞っていくと、美術室の後ろにある工芸用の電気釜の中のようです。